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二学期、始業式

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 二学期の始業式が終わり、クラスでの諸々の通達が終わったところで、俺とタカシがいつもの階段に行くと、祖父江兄妹が座って待っていた。


「会社?」


 祖父江兄が尋ねてくる。


「そ。貿易会社って感じになるのかな? こっちの品物を向こうの世界で売る会社。まあ、向こうからも輸入するかもだけど」


「個人事業主として?」


「いや、オフィスと倉庫持ちの貿易会社。結構幅広く商品を売買する事になるだろうから、地元のこことオルドランドの首都であるサリィの二ヶ所にね」


「成程」


 祖父江兄妹にさほど驚きはないようだ。俺がこういった手に出てくるのも、桂木からしたら織り込み済みだったのかも知れない。


「東京じゃなくて良いのか?」


「あはは。流石に東京は家賃が高いよ。倉庫を持つ意味でも、ここら辺が値段として妥当かな」


「そうか。でもそうなると、工藤も桂木さんのように、自分が転移能力者であると、世間にカミングアウトするのか?」


「いんや」


 俺は首を左右に振るう。


「じゃあ、どうやってその会社経営していくんだ? 工藤のスキルをカミングアウトしないと、社員は訳の分からん国との貿易やら、倉庫から一瞬で消える貿易品に怪しむだろう?」


「国から借りる」


「国から借りる?」


 首を傾げる祖父江兄妹。


「官民人事交流って言う制度があるんだよ。俺以外、社員は皆公務員さ」


「マジか? そんな制度があったとは……」


 腕を組んで唸る祖父江兄だが、


「多分桂木さんは国から派遣して貰えなかったと思うぞ」


 俺がそう言うと、「何故だ?」と反論してきた。


「状況が違うからな。桂木さんの頃に異世界と貿易すると言っても、誰も信じなかっただろう?」


「確かに。俺も初めて桂木さんをネットで見た時には、CG盛り盛りの詐欺師だと思っていたもんなあ」


 結構言うなあ祖父江兄。でも一般人ならそうなるか。俺はその頃既に異世界に行ってたから、なんでこいつ、こんな危ない橋渡ってるんだ? と警戒心のなさに驚いていたけど。あれは逆に世間に公表する事で、自分が消えたら何かがあった。と知らしめる意味があったんだろうなあ。


「ま、俺がこうやって会社が開けるのも、桂木さんのお陰って事で、ごっつぁんでーす」


「ごっつぁんでーす。ってお前なあ、なんかそれ、ズルくないか?」


 ズルくはない。機を見て実行しただけである。


「だがまあ気持ちは分かる。そっちも一枚噛むか?」


「そっちって、異世界調査隊もか?」


「ああ。実際のところ、国から派遣された社員しかいない会社なんて怪し過ぎるだろ? しかも社長は十代だしな」


「まあ、世間にバレれば怪しまれるわな。それで俺たちって事か?」


「ああ。オルドランド語が話せて、日本人に限るけど、四~五人程欲しいかな」


 沈黙する祖父江兄に、その兄と俺とを目だけ行ったり来たりさせている妹。そして兄が口を開く。


「目的は口封じか」


「そう言う事。これだけ譲歩するから、日本政府が裏でオルドランドと繋がろうとしているのを、黙っといて欲しいんだよねえ。地球の各国に加えて、モーハルドにも」


「確かにな。これだけ大事になってくると、他の国が黙っていないだろうな。ってもしかして、ここで俺たちに話したのも、口封じの一環か? これをバラしたらどうなるか分かっているな? って話かよ?」


「当たり」


 祖父江兄に舌打ちされてしまった。


「まあまあ、良いじゃないの。上手くすれば、念願のスキルが手に入るぜ? スキルの種類によっては、桂木さんのところに戻っても重宝されるだろうよ」


 この事は祖父江兄妹の思考を前向きにさせたらしく、二人とも顔を見合わせて頷き合う。


「その様子じゃ、モーハルドでスキル獲得は難しそうだな?」


「ああ…………まあな」


 溜めがあるな。


「厄介なのはデーイッシュ派か? コニン派か?」


 俺の言葉に二人して渋い顔をする。


「どちらも一筋縄じゃいかないって感じだよ。どちらの派閥にも更に派閥があってよう、デーイッシュ派のとある派閥は、俺たちにスキルを与えても良いとチラつかせてくるが、もう一つの派閥は絶対駄目だとよ。コニン派も同じようなものだな」


「ふ~ん。教皇様はどうなんだ?」


「どこと話しても、俺たちに教皇様に会えるだけの徳はないそうだ」


 なんだそりゃ? 良く分からんシステムだな。


「会えなくても、地球と異世界との外交の最前線なんだ。教皇様からこのようなお達しが下っている。みたいな通達がきていたりしないのか?」


 しかし首を左右に振るう祖父江兄妹。


「お達しがきていて今混乱状態なんだよ。どの派閥からも自分たちは教皇様から俺たちに指示を出している。って言ってきているからな」


 ありゃりゃ。


「う~ん。デーイッシュ派が教皇様の指示で動いているって言うのはおかしくないか?」


「ああ。俺たちもおかしいとは思っている。けど確かめる術がないんだよ。魔法やスキルと言う不可思議な技術で、俺たちは動きを制限されているって感じなんだ」


 異世界調査隊も疑心暗鬼に陥っているようだ。コニン派も二分しているとなると、乗る船を間違えると、沈没まっしぐらだな。


「そう言う意味じゃあ、俺の提案は渡りに船なんじゃないか?」


「悔しいが、確かにな。…………四~五人かあ」


「メインどころは連れてこないでよ。抜けたら周りが騒ぐような人に来られても迷惑だから」


「分かっているよ」



 翌日、まだ何もないオフィスに、祖父江兄妹を含んだ男女五人がやって来た。そしてタカシ、何故いる?


「なんか面白そうだからな」


 …………横の七町さんと目を合わせる。七町さんはげんなりしていた。恐らく俺もしているだろう。


「良いだろ? 俺だって気になるんだよ。あいつらの事」


 そう言う事か。まあ、そうだよな。友人だもんな。


「タカシはバイトだ。たとえ俺以外の誰かが異世界転移のスキルを手に入れたところで、タカシが異世界に行って良いかどうかの決定は俺がする。良いな?」


「ああ」


 こうして不安を抱えながらも、クドウ商会は船出したのである。

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