世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
146 / 638

宵の密談(おまけ)

しおりを挟む
「そういや、一条のせがれがあっちの世界にいるって噂、本当か?」


 仕事の話も終わり、イカの一夜干しで日本酒を飲み始める辻原議員。俺はいつまでこの別荘に拘束されるのだろうか?


「一条? シンヤの事ですか?」


 そう言えばシンヤの父は国会議員だった。一条議員、辻原派だったのか。最近はテレビで見ないなあ。シンヤが行方不明になった一年前は、マスコミに追いかけ回されて、テレビに出ずっぱりだったけど。


「噂を耳にしただけだが、一条のやつが何か情報はないか? と煩くてな」


 とイカを齧りながら日本酒をあおる辻原議員。シンヤに関しては、事故後に何一つ生存確認出来るものが見付からなかったからなあ。親としては心配するのは当然だろう。桂木と言う異世界に行った人間が出現した事も、一条家がシンヤの生存に希望を持つ一因かな。一条の家は家族総出で駅前でビラ配りまでして探してるし。


「恐らくその噂の発生源は俺ですね」


「そうなのか?」


「はい。俺も人伝ひとづて、現地の人から教えて貰った情報なんで、シンヤの家には伝えてないんですけど、シンヤに会ったと言う人は、俺のような東洋風の顔立ちの、目元にホクロのある少年だったと言う話です。海を越えた別の大陸にある国での話なので、俺もシンヤがいると言うその国にはたどり着けていませんけど」


「本当か?」


 身を乗り出し尋ねてくる辻原議員。


「ええ。シンヤと会った人は信用出来る人物だと、俺は思っています」


 俺の言葉に腕組みをする辻原議員。


「それで、その信用出来る人物の話では、一条のせがれは無事なんだな?」


「無事と言うか……」


「無事と言うか?」


「勇者をやっているそうです」


「…………」


「…………」


「勇者? ファミコンのあれか!?」


 ファミコンとはまた古い言葉を出してきたな。でも勇者と言う言葉は日本語であり、英語のheroとはまた違う意味合いを持っているからなあ。ファミコンから連綿と続く、日本人が想像する勇者像と言うのは確かにある。


「まあ、その勇者です」


「ぷっ、はっはっはっ。勇者か。あの小便タレが勇者とはな」


 余程面白いのか、美登利さんも笑っている。何が面白いのだ? 一条家は選挙区をうちの地元にする為に、シンヤが中学一年生の時に引っ越してきたから、それ以前は分からないのだ。もちろんその頃のシンヤは小便タレなんかじゃなかった。


「一条くんは主人のところで秘書をやっていた時期があってね、家族ぐるみでお付き合いがあるお家なの」


 と美登利さん。へえ、そうだったのか。


「シンヤちゃんも赤ん坊の頃から知っていてね、あの子、うちの人が抱き上げたら、オシッコ漏らした事があるのよ」


 成程、それで小便タレなのか。きっと辻原議員の事だから、シンヤが大きくなってからもイジってたんだろうなあ。シンヤとしては身に覚えのない事で、毎度からかわれていた訳だ。ちょっと同情。


「はっはっはっ。だがまあ、元気にやっているならそれで良いや。この事、一条にも話すぞ?」


「それは構いませんけど……」


「けど?」


「駅前でのビラ配りは続けさせた方が良いかも知れません。一年程度でいきなりやめたら、一条議員は薄情だと噂が立つかも知れませんから」


 俺の言葉に深く頷く辻原議員。


「ああ。そこら辺も言い含めて伝えておこう。しかしそう言うところまで気が回るとは、春秋、将来国会議員になるつもりはないか?」


「ありません」


「なんだ即答しやがって。連れねえなあ。俺のところに来い。立派な国会議員にしてやる」


 嫌過ぎる。辻原議員が言う「立派な国会議員」と言うやつも、胡散臭さが匂い立つ。絶対それ、国民第一の国会議員じゃないよね?


「あなた、春秋くんはまだ若いのですから、そんな風に国会議員になれと言われても、すぐには決められませんよ」


 と美登利さんが執り成してくれたので、この場は逃れられたが、なんか、今後も事ある毎に「国会議員になれ」って言ってきそうだなあこの人。


 その後も辻原議員が内政やら外交の秘密話を、酒の勢いなのかベラベラお話するのを聞きながら、これ、いつ終わるのかなあ。と俺は既に帰りたい気分でいっぱいだった。



「ごめんなさいね。この人の話、つまらなかったでしょう? はいこれ、お土産」


「おい? つまらなかったってなんだ? 面白かったよなあ? 春秋?」


 時間も遅くなってきたので、そろそろお開きにしましょう。と美登利さんが言ってくれなければ、これは朝までコースだったのではなかろうか? そして玄関先でのこの発言。流石は大物議員を支える奥さんは違うなあ。まあ、俺はこの状況で愛想笑いしか出来ないけど。


「では、また来てくださいね。少なくとも、『私は』春秋くんの味方ですから」


 車に乗り込む俺に、そう声を掛けてくる美登利さん。柔和な笑顔だったが、目は真剣だった。


「分かりました。また、何かの時にお邪魔させて貰います」


 俺がそう言って返事をしたところで、「それでは」と七町さんが車を出して別荘を後にしたのだった。


「ご苦労様でした」


「本当ですよ。これっきりにしたいけど、本番がこれからだと思うと、気分が暗くなりますよ」


「はは。そうですね。ですから相応の謝礼はさせて貰いますから」


 とSUVを運転しながら七町さんは口にする。謝礼ねえ。そりゃあ、こんな大仕事なんだ。それなりの謝礼は欲しいところだが、相手はケチな日本政府だ。期待は出来ないなあ。と思いながら俺は貰ったお土産の包みを開いた。おおう。菓子折りとともに、電子マネーに換金可能なギフトカードが束で入っていた。時代劇では小判、昔は札束、今はギフトカードか。時代は変わるもんだなあ。流石は大物議員を支える奥さんは違うなあ。


「七町さん」


「はい」


「謝礼と言うなら、一つお願いしたい事があるのですが」


「お願い事ですか?」



「ほ、ほ、本日はよろしくお願いします」


 カチカチに緊張しながら、ソファに座るディアンチュー嬢に向かって、直角でお辞儀をする七町さんがいた。


 どうせ俺では女性に対して女性用化粧品の良さを伝えるのは限界があるのだ。だから七町さんにオルドランドに来て貰った。


「めっちゃ緊張してますね」


 ぽそりと声を掛けると、ぎりぎりと顔をこちらに向けた七町さんは、その顔を真っ青にしていた。


「当たり前です。私は前世でこっちの世界にいた頃、平民だったんですから」


「大丈夫。俺だって平民です。それに日本でだって、辻原議員相手に平然としていたじゃないですか」


「日本で失敗して首を切られても、物理的に首は飛ばないじゃないですか」


 確かにそうだ。この世界は日本よりも死が近い。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

バイクごと異世界に転移したので美人店主と宅配弁当屋はじめました

福山陽士
ファンタジー
弁当屋でバイトをしていた大鳳正義《おおほうまさよし》は、突然宅配バイクごと異世界に転移してしまった。 現代日本とは何もかも違う世界に途方に暮れていた、その時。 「君、どうしたの?」 親切な女性、カルディナに助けてもらう。 カルディナは立地が悪すぎて今にも潰れそうになっている、定食屋の店主だった。 正義は助けてもらったお礼に「宅配をすればどう?」と提案。 カルディナの親友、魔法使いのララーベリントと共に店の再建に励むこととなったのだった。 『温かい料理を運ぶ』という概念がない世界で、みんなに美味しい料理を届けていく話。 ※のんびり進行です

【完結】婚活に疲れた救急医まだ見ぬ未来の嫁ちゃんを求めて異世界へ行く

川原源明
ファンタジー
 伊東誠明(いとうまさあき)35歳  都内の大学病院で救命救急センターで医師として働いていた。仕事は順風満帆だが、プライベートを満たすために始めた婚活も運命の女性を見つけることが出来ないまま5年の月日が流れた。  そんな時、久しぶりに命の恩人であり、医師としての師匠でもある秋津先生を見かけ「良い人を紹介してください」と伝えたが、良い答えは貰えなかった。  自分が居る救命救急センターの看護主任をしている萩原さんに相談してみてはと言われ、職場に戻った誠明はすぐに萩原さんに相談すると、仕事後によく当たるという占いに行くことになった。  終業後、萩原さんと共に占いの館を目指していると、萩原さんから不思議な事を聞いた。「何か深い悩みを抱えてない限りたどり着けないとい」という、不安な気持ちになりつつも、占いの館にたどり着いた。  占い師の老婆から、運命の相手は日本に居ないと告げられ、国際結婚!?とワクワクするような答えが返ってきた。色々旅支度をしたうえで、3日後再度占いの館に来るように指示された。  誠明は、どんな辺境の地に行っても困らないように、キャンプ道具などの道具から、食材、手術道具、薬等買える物をすべてそろえてた。  3日後占いの館を訪れると。占い師の老婆から思わぬことを言われた。国際結婚ではなく、異世界結婚だと判明し、行かなければ生涯独身が約束されると聞いて、迷わず行くという選択肢を取った。  異世界転移から始まる運命の嫁ちゃん探し、誠明は無事理想の嫁ちゃんを迎えることが出来るのか!?  異世界で、医師として活動しながら婚活する物語! 全90話+幕間予定 90話まで作成済み。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

最強剣士異世界で無双する

夢見叶
ファンタジー
剣道の全国大会で優勝した剣一。その大会の帰り道交通事故に遭い死んでしまった。目を覚ますとそこは白い部屋の中で1人の美しい少女がたっていた。その少女は自分を神と言い、剣一を別の世界に転生させてあげようと言うのだった。神からの提案にのり剣一は異世界に転生するのだった。 ノベルアッププラス小説大賞1次選考通過

処理中です...