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財団
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ポーション自体が世界的に供給不足な中、ハイポーションの製造法を知りたいと思うのは当然の事だろう。ましてやオルドランドはジャガラガと本格的な戦争になる一歩手前だ。ハイポーションの入手が困難になったと分かれば、ジャガラガが攻め入ってくる可能性はある。ハイポーションの確保は急務である。
ちらりとオルさんの方を見れば、深く息を吐き出していた。
「情報源はリットーですか?」
「ああ。リットーが各地でそう触れ回っていると耳にしてね」
首肯するマスタック侯爵。リットーさん、オルさんがハイポーションの製造に成功したの自慢したい。って言ってたもんなあ。
「はあ。…………ハイポーションの製造法を教える事についてですが、答えとしては、お教え出来ません」
「何故かな? 秘匿する理由を知りたい。これが世に出回る事で、モーハルドやデウサリウス教徒から恨みを買うからかい?」
モーハルドは分かるが、何故ここでデウサリウス教徒が出てくるんだ?
「ハイポーションがモーハルドの教皇区でしか作られていない事から、ハイポーションは神がデウサリウス教徒にのみ授けてくださったもの。と言う極端な考え方をするデウサリウス教徒がいるのよ」
とバヨネッタさんが耳打ちで教えてくれた。成程、そんな神からの授かりものを一研究者が作り出したとなると、神への叛意と取られても不思議じゃない訳か。
「それも怖いですが、単純に一国に製造法を教えるのが嫌なんですよ。モーハルドはハイポーションの製造法を盾に、他国との交渉を優位に進めてきた事実があります。現在だって、魔王が復活した事で、他国にまで討伐軍を組織し、魔王討伐に加われ。さもなくばハイポーションはもう売らないと圧力を掛けているそうですし」
オルさんの方でもその情報入手していたんだな。
「我がオルドランドも同様の事をするんじゃないか? と考えているんだね?」
マスタック侯爵の発言に首肯するオルさん。
「みくびられたものだな」
「ではジャガラガにハイポーションを売れますか?」
「…………」
まあ、売らないわなあ。ジャガラガにハイポーションを売って、敵に回復されたら、自国がピンチになるんだから。これには黙らざるを得ない。
「しかし君が我が国にハイポーションを売らないと言う事は、我が国がジャガラガにハイポーションを売らないのと同様の仕打ちではないかね? ジャガラガはモーハルドからハイポーションを手に入れられるが、我々には入手手段がない。つまり君は、我々オルドランド軍に戦争に負け、多くの死者を出せば良い。と思っている訳だ」
それは暴論じゃなかろうか? オルさんはそんな冷酷な人間じゃない。人が死んで欲しいと思っている訳がない。
「そもそも、ジャガラガと緊張状態になったのも、そちらの辺境伯子息の駆け落ちが原因ですよね? ならば素直にジャガラガに譲歩して、相応の金銭や物品で事を収めるのが当然なのでは?」
おお。オルさんが負けずに言い返している。
「こちらだってそれが出来るのならそうしている。だが、あちらさんの望みがそのザクトハの首なのだ。まるで交渉を受け付けん」
う~ん。それは困ってしまうなあ。振り上げた拳を下ろせなくなっているのか、それとも婚約者をそれだけ深く愛していたのか。政治に愛憎が絡んでくるとか、事態が複雑で面倒臭いな。関わり合いたくない。
「とにかく、一国だけに売るつもりはありません」
「ではどうするのかね? どこかの商会に売るつもりかね? それだってモーハルドがその商会に圧力を掛けてこない保証はない」
なんかもう、モーハルドが悪の国家にしか思えてこなくて困る。いくらなんでもモーハルドにだって、善人や普通の人だっているだろう。政治的に強硬なだけだ。
「ゴルコス商会に製造法を渡そうと思っています」
とオルさん。これは好手であるらしく、マスタック侯爵も黙ってしまった。
「ゴルコス商会って凄いところなんですか?」
俺はバヨネッタさんに耳打ちして尋ねた。
「ゴルコス商会はオルの地元の商会で、世界的に魔石の売買をほぼ独占しているような商会よ」
「独占状態なんですか?」
それは凄い。魔石は小さくても高額だ。それを独占して売買しているとなると、売上額は相当なものだろう。しかしそんな事出来るのか?
「オルの母国サリューンは、この大陸の東の果てにあるのだけど、昔から良質の魔石がザクザク採れる国なのよ。その中でもオルの地元のゴルコスは質、大きさ、量、どれを取っても最良と言われているの。そんなんだから、昔から魔石売買はゴルコス商会が優位に進めてきていて、今や全世界的な大商会と言う訳よ」
へえ。そんなに良質の魔石が採れるなら、周辺国から攻め入れられないのだろうか? それとも凄い僻地で攻め入るのも大変? だったら国外に持ち出すのも、いや、『空間庫』があるか。いや、それ以前に魔石って魔物の体内で出来るんだった。大量にあるって事は、昔から大量に魔物が存在したって事か? なんで?
「もしかして、そのサリューンって国、魔王と関係ありますか?」
「流石に勘が鋭いわね。そうよ。フンババにテューポーンなどなど。サリューンは過去に何度も魔王が生まれた、呪われた土地と呼ばれている国なの。だから他の国もいつ新たな魔王が生まれるか分からないサリューンに攻め込めず、かと言って魔石は欲しい。そこで大活躍するのがゴルコス商会と言う訳よ」
成程なあ。オルさんも中々大変な国で生きてきたんだなあ。
「オルバーニュ財団か。確かにあそこならモーハルドだろうとどこだろうと、各国の圧力に屈さず、ハイポーションを世界に広げる事が出来るだろう」
とマスタック侯爵は納得しているようだが、
「オルバーニュ財団?」
また聞き慣れない単語が飛び出してきた。
「オルバーニュ財団はゴルコス商会の母体組織よ」
とバヨネッタさん。
「え? 財団が営利目的の商会を運営しているんですか?」
財団と言うと、非営利で公益的な組織のイメージだ。まあ、金儲けをする財団と言うイメージもあるが、あれは税金対策みたいだしなあ。
「ははっ。と言うか財団は、商会で出た利益で、バヨネッタ様のような優秀な人間の後援をしている組織って感じかな」
とオルさんが教えてくれた。成程、そう言う事か。納得。
「そしてオルバーニュ財団から後援を受けている証が、私が持つ金のカードと言う訳よ」
なんか色々繋がった。バヨネッタさんの行動がかなり自由なのも、魔石を多く所有しているのも、オルバーニュ財団が後援していたからなのか。そうか、オルバーニュ財団ねえ。……オルバーニュ? ……オル?
「え? もしかして、オルさんって……」
「そうよ。オルがそのオルバーニュ財団のトップ、オルバーニュその人よ」
ぬあはっ!? それって滅茶苦茶凄い立場の人なんじゃないか!? 単なる貴族の三男坊じゃないじゃん!
「ははっ。僕なんてただ祖父から椅子を継いだだけのお飾りさ。僕が死んだところで、財団の運営に支障はないよ。だからこうやってのんびり旅が出来ているんだし」
はあ。確かに財団のトップが使用人一人付けただけで世界を旅しているとか、考えられないよな。
「分かった。ハイポーションの自国生産については、今回は手を引こう」
とオルさんとの話し合いの結果、マスタック侯爵はハイポーションの自国生産について、諦めたようである。あくまで今回は、だけど。今後もオルドランド独自に、ハイポーションの研究は進めていくのだろう。
「それで、早速ゴルコス商会にハイポーションを発注したいのだが?」
マスタック侯爵は折れない精神の持ち主のようだ。
ちらりとオルさんの方を見れば、深く息を吐き出していた。
「情報源はリットーですか?」
「ああ。リットーが各地でそう触れ回っていると耳にしてね」
首肯するマスタック侯爵。リットーさん、オルさんがハイポーションの製造に成功したの自慢したい。って言ってたもんなあ。
「はあ。…………ハイポーションの製造法を教える事についてですが、答えとしては、お教え出来ません」
「何故かな? 秘匿する理由を知りたい。これが世に出回る事で、モーハルドやデウサリウス教徒から恨みを買うからかい?」
モーハルドは分かるが、何故ここでデウサリウス教徒が出てくるんだ?
「ハイポーションがモーハルドの教皇区でしか作られていない事から、ハイポーションは神がデウサリウス教徒にのみ授けてくださったもの。と言う極端な考え方をするデウサリウス教徒がいるのよ」
とバヨネッタさんが耳打ちで教えてくれた。成程、そんな神からの授かりものを一研究者が作り出したとなると、神への叛意と取られても不思議じゃない訳か。
「それも怖いですが、単純に一国に製造法を教えるのが嫌なんですよ。モーハルドはハイポーションの製造法を盾に、他国との交渉を優位に進めてきた事実があります。現在だって、魔王が復活した事で、他国にまで討伐軍を組織し、魔王討伐に加われ。さもなくばハイポーションはもう売らないと圧力を掛けているそうですし」
オルさんの方でもその情報入手していたんだな。
「我がオルドランドも同様の事をするんじゃないか? と考えているんだね?」
マスタック侯爵の発言に首肯するオルさん。
「みくびられたものだな」
「ではジャガラガにハイポーションを売れますか?」
「…………」
まあ、売らないわなあ。ジャガラガにハイポーションを売って、敵に回復されたら、自国がピンチになるんだから。これには黙らざるを得ない。
「しかし君が我が国にハイポーションを売らないと言う事は、我が国がジャガラガにハイポーションを売らないのと同様の仕打ちではないかね? ジャガラガはモーハルドからハイポーションを手に入れられるが、我々には入手手段がない。つまり君は、我々オルドランド軍に戦争に負け、多くの死者を出せば良い。と思っている訳だ」
それは暴論じゃなかろうか? オルさんはそんな冷酷な人間じゃない。人が死んで欲しいと思っている訳がない。
「そもそも、ジャガラガと緊張状態になったのも、そちらの辺境伯子息の駆け落ちが原因ですよね? ならば素直にジャガラガに譲歩して、相応の金銭や物品で事を収めるのが当然なのでは?」
おお。オルさんが負けずに言い返している。
「こちらだってそれが出来るのならそうしている。だが、あちらさんの望みがそのザクトハの首なのだ。まるで交渉を受け付けん」
う~ん。それは困ってしまうなあ。振り上げた拳を下ろせなくなっているのか、それとも婚約者をそれだけ深く愛していたのか。政治に愛憎が絡んでくるとか、事態が複雑で面倒臭いな。関わり合いたくない。
「とにかく、一国だけに売るつもりはありません」
「ではどうするのかね? どこかの商会に売るつもりかね? それだってモーハルドがその商会に圧力を掛けてこない保証はない」
なんかもう、モーハルドが悪の国家にしか思えてこなくて困る。いくらなんでもモーハルドにだって、善人や普通の人だっているだろう。政治的に強硬なだけだ。
「ゴルコス商会に製造法を渡そうと思っています」
とオルさん。これは好手であるらしく、マスタック侯爵も黙ってしまった。
「ゴルコス商会って凄いところなんですか?」
俺はバヨネッタさんに耳打ちして尋ねた。
「ゴルコス商会はオルの地元の商会で、世界的に魔石の売買をほぼ独占しているような商会よ」
「独占状態なんですか?」
それは凄い。魔石は小さくても高額だ。それを独占して売買しているとなると、売上額は相当なものだろう。しかしそんな事出来るのか?
「オルの母国サリューンは、この大陸の東の果てにあるのだけど、昔から良質の魔石がザクザク採れる国なのよ。その中でもオルの地元のゴルコスは質、大きさ、量、どれを取っても最良と言われているの。そんなんだから、昔から魔石売買はゴルコス商会が優位に進めてきていて、今や全世界的な大商会と言う訳よ」
へえ。そんなに良質の魔石が採れるなら、周辺国から攻め入れられないのだろうか? それとも凄い僻地で攻め入るのも大変? だったら国外に持ち出すのも、いや、『空間庫』があるか。いや、それ以前に魔石って魔物の体内で出来るんだった。大量にあるって事は、昔から大量に魔物が存在したって事か? なんで?
「もしかして、そのサリューンって国、魔王と関係ありますか?」
「流石に勘が鋭いわね。そうよ。フンババにテューポーンなどなど。サリューンは過去に何度も魔王が生まれた、呪われた土地と呼ばれている国なの。だから他の国もいつ新たな魔王が生まれるか分からないサリューンに攻め込めず、かと言って魔石は欲しい。そこで大活躍するのがゴルコス商会と言う訳よ」
成程なあ。オルさんも中々大変な国で生きてきたんだなあ。
「オルバーニュ財団か。確かにあそこならモーハルドだろうとどこだろうと、各国の圧力に屈さず、ハイポーションを世界に広げる事が出来るだろう」
とマスタック侯爵は納得しているようだが、
「オルバーニュ財団?」
また聞き慣れない単語が飛び出してきた。
「オルバーニュ財団はゴルコス商会の母体組織よ」
とバヨネッタさん。
「え? 財団が営利目的の商会を運営しているんですか?」
財団と言うと、非営利で公益的な組織のイメージだ。まあ、金儲けをする財団と言うイメージもあるが、あれは税金対策みたいだしなあ。
「ははっ。と言うか財団は、商会で出た利益で、バヨネッタ様のような優秀な人間の後援をしている組織って感じかな」
とオルさんが教えてくれた。成程、そう言う事か。納得。
「そしてオルバーニュ財団から後援を受けている証が、私が持つ金のカードと言う訳よ」
なんか色々繋がった。バヨネッタさんの行動がかなり自由なのも、魔石を多く所有しているのも、オルバーニュ財団が後援していたからなのか。そうか、オルバーニュ財団ねえ。……オルバーニュ? ……オル?
「え? もしかして、オルさんって……」
「そうよ。オルがそのオルバーニュ財団のトップ、オルバーニュその人よ」
ぬあはっ!? それって滅茶苦茶凄い立場の人なんじゃないか!? 単なる貴族の三男坊じゃないじゃん!
「ははっ。僕なんてただ祖父から椅子を継いだだけのお飾りさ。僕が死んだところで、財団の運営に支障はないよ。だからこうやってのんびり旅が出来ているんだし」
はあ。確かに財団のトップが使用人一人付けただけで世界を旅しているとか、考えられないよな。
「分かった。ハイポーションの自国生産については、今回は手を引こう」
とオルさんとの話し合いの結果、マスタック侯爵はハイポーションの自国生産について、諦めたようである。あくまで今回は、だけど。今後もオルドランド独自に、ハイポーションの研究は進めていくのだろう。
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