世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
132 / 625

前準備

しおりを挟む
「どう? 元気にしてる?」


 転移扉を使って、バヨネッタさんが面会に来てくれた。


「看守にバレたら怒られますよ?」


 一応言っておくが、本当は会いにきてくれたのが嬉しい。


「その時はその時よ。しかし、神明決闘裁判を提案するとはね」


 神明決闘裁判とは、神の名の下に決闘を行い、勝った者が無罪を勝ち取ると言う、現代日本人からしたら意味分からない裁判なのだが、驚く事にこの決闘裁判、地球でもヨーロッパでは中世まで行われていたらしい。この世界においては、神の存在が確定している為に、神が正しき者を有罪にする訳がない。と至極一般的な裁判の一つとなっている。とジェイリスくんが教えてくれた。


「意外でしたか?」


 俺が尋ねても、曖昧な顔をされてしまった。


「ここに転移扉がある。このまま国外に逃げ出す事だって出来るわよ?」


「そうなんですけどねえ。それをすると、この国で出会った色んな人との関わりに、泥を塗る事になりそうで」


「そんなしがらみ、放り投げてしまえば良いのに」


 バヨネッタさんならそうするかも知れない。この人は自由だから、何にも縛られず、空を飛ぶように己の道を突き進むだろう。だが俺はバヨネッタさんにはなれそうにない。様々なしがらみに雁字搦めになりながら、俺は今後も泥道のような己の道を歩いて行くのだろう。


「分かったわ」


 何が分かったのか分からないが、俺を見て納得したバヨネッタさんは、黄金の首飾りを俺の手に握らせてくれた。


「何ですかこれ?」


「コレサレの首飾りよ」


 コレサレの首飾り? 恐らくは古代の秘宝なのだろうが、お宝大好きバヨネッタさんのお宝だろう。そんなものを預けられても困ってしまう。


「一度使うと壊れてしまうんだから、大事にしなさいよ?」


「壊れるんですか?」


 そんなものを渡されても尚更困る。


「どう言う物なんですか?」


「死にそうになれば分かるわ」


 死にそうになれば?


「それはつまり、今度の神明決闘裁判で、俺は死にそうな目に遭うって事ですか?」


「ドームのレベルは四十二だそうよ」


 四十二かあ。確かに、それだけレベル差があると、勝ち目はなさそうだなあ。


「全く、レベル差を考えれば、ドームがハルアキに殺されかけたなんて馬鹿な話、信じないはずでしょうに」


「そうなんですよねえ。何かそこら辺、裏でコソコソ進行しているみたいで、居心地が悪いと言うか、座り心地が悪いと言うか、良い気がしないですよねえ」


「そうねえ」


 眼前のバヨネッタさんが悪い顔をしている。


「ハルアキ、悪い顔してるわよ」


 あれえ? 俺が悪い顔しているのか?


「何か策があるのね? それで神明決闘裁判なんか持ち出した訳か」


「えへ。まあ、神明決闘裁判でバヨネッタさんにやってもらいたい事は決まっているんですけど、もう少し情報が欲しいんですよねえ」


「情報?」


「マスタック侯爵が、俺の助命を嘆願してくださったらしいのですが、それを棄却した人物がいるようなんです」


「ああ、それなら判明しているわ。ムチーノ侯爵よ」


「ムチーノ侯爵、ですか?」


「ええ。オルドランドの西に広大な土地を所有する、マスタック侯爵と同じく単独裁量権を有する人物。ドームはそのムチーノ侯爵の下に属する伯爵家よ」


 成程。


「で、そのムチーノ侯爵はデウサリウス教の熱心な信者なんですね?」


「分かっているわね。そうよ。モーハルドからノールッド大司教を誘致し、首都で勢力を拡大させているわ」


 自分の領地でなく、首都でか。


「そして大司教を誘致してから、首都で多神教の教徒が襲撃される事件が多発するようになったけど、何故か見過ごされている」


「本当に、どこまで分かっているのかしら?」


 バヨネッタさんが首肯してくれた。どうやら俺の予想は大方当たっているようだ。今回の首魁はこの二人に決まりだな。


「それで? 私は何をすれば良いのかしら?」


 そのにやりと笑う顔は、まるでいたずらっ子のようであった。



 神明決闘裁判は、オルドランド帝ジョンポチの名の下に、闘技場にて衆人環視で行われる事が決定した。俺がそうして欲しいと、バヨネッタさんに伝言を頼んだからだ。


「ほらよ」


 投獄から三日後、闘技場の控室にて、俺は役人らしき人物に手錠を外され、腕輪の姿のままだったアニンを返された。


「おお! アニン! 元気にしてたか?」


『それはこちらの台詞だ。しかし息災そうでなにより。痛めつけられてはいなかったようだな?』


「そうだな。そこら辺、ジョンポチ陛下が手を回してくださっていたのかもな」


『成程』


 たった三日ぶりだと言うのに、アニンと話が弾む。が、俺がベラベラとアニンと話していると、


「何を腕輪とブツクサ話しているんだ? 気持ち悪い。気でもれたか? いや、気が狂っていなければ、あんな事はしないか」


 と役人は一人納得していた。


「おい犯罪者! 逃げるんじゃないぞ? 逃げたところで地の果てまで追い掛けて、死よりも辛い苦痛を味合わせた後に殺してやる!」


 いやあ、役人とは思えない罵詈雑言だな。これで俺の無実が証明されたら、この役人はどうするつもりなのだろう? まあ、今俺が考える事じゃないか。


「逃げませんよ。この神明決闘裁判を要請したのは自分なんですから」


「はっ。あのドーム隊長に勝てるつもりでいるのか? あの人は次期将軍の呼び声高いお人なのだぞ」


 へえ。次期将軍ねえ。成程。悪事の片棒を担がせるには打って付けの人材だった訳か。


 などと役人と楽しい会話をしていたら、


「時間だ。出ろ」


 と他の役人が呼びにきたので、俺は暗い通路を通り、闘技場へと向かうのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界で勇者をやって帰ってきましたが、隣の四姉妹の様子がおかしいんですけど?

レオナール D
ファンタジー
異世界に召喚されて魔王を倒す……そんなありふれた冒険を終えた主人公・八雲勇治は日本へと帰還した。 異世界に残って英雄として暮らし、お姫様と結婚したり、ハーレムを築くことだってできたというのに、あえて日本に帰ることを選択した。その理由は家族同然に付き合っている隣の四姉妹と再会するためである。 隣に住んでいる日下部家の四姉妹には子供の頃から世話になっており、恩返しがしたい、これからも見守ってあげたいと思っていたのだ。 だが……帰還した勇治に次々と襲いかかってくるのは四姉妹のハニートラップ? 奇跡としか思えないようなラッキースケベの連続だった。 おまけに、四姉妹は勇治と同じようにおかしな事情を抱えているようで……? はたして、勇治と四姉妹はこれからも平穏な日常を送ることができるのだろうか!? 

幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する

あおアンドあお
ファンタジー
俺には二人の幼馴染がいた。 俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて まるでない、凡愚で普通の人種だった。 そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。 だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が 勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。 自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の 関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に 衝撃な展開が舞い込んできた。 そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

処理中です...