世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
104 / 632

昨日の今日でこれをやる馬鹿

しおりを挟む
「おおお!!」


 感嘆の声を上げるとともに、目を輝かせるベフメ伯爵。執務室のテーブルには、俺が『空間庫』から取り出したガラス食器セットが置かれている。


「これを何セット用意出来ましたの?」


「六十五セットです。申し訳ありません。流石に百セットは無理でした」


 と俺は頭を下げる。何故百セット入手したのに、六十五セットと嘘を吐くのかって? わざとだよ。ここで百セット耳を揃えて用意したら、相手に、もっと用意出来るんじゃないかな? と思われて、更に無茶振りされるのが目に見えている。


「そう。十分よ。五十セット以上は予備だから」


 俺は心の底からホッとした。


「手に取ってみてもよろしいかしら?」


 俺はその言葉に首を縦に振って返す。


 ベフメ伯爵が最初に手に取ったのはワイングラスだった。カップの下に細い柄が付いている、お馴染みの形だが、こちらの世界では一般的ではないらしく、不思議そうにそれを見詰めていた。


「これは、学生さんの国独自のものなのかしら?」


「どうですかねえ。うちの国、と言うより、その周辺国も含めた、地方ちきゅう全体で使われているものですね」


「そうなのですか?」


「カップも色々種類がありまして。それはぶどう酒を注ぐ一般的なやつです。それ以外にも麦酒を注ぐ、横に取っ手の付いているやつとか、蒸留酒を注ぐ、柄も取っ手も付いてないやつなんかもありますね」


「へえ。欲しいわね」


「うげっ」


 思わず本音が口からまろび出て、慌てて口を塞ぐ。が、当然遅過ぎてベフメ伯爵にくすりと笑われてしまった。


「無理みたいね」


「流石に今回は先方に無理言いましたから、個人で楽しむように、一個か二個でしたらどうにかなりますけど」


 と口にして俺は、失敗したな。と心の中で嘆息した。


「では何種類か二個ずつ、用意して貰えるかしら?」


 ですよねえ、そうなりますよねえ。


「分かりました」


 俺は頭を下げて執務室を退出したのだった。



「ハルアキ、私はこの世界でハルアキに、ずいぶん良くしてあげていると思っていたのだけど」


 心機一転リットーさんの訓練に向かおうと思っていると、廊下をミデンが駆け寄ってきた。


「どうしたミデン?」


 とついて行った先がバヨネッタさんの部屋だったのだ。そして外の雨を見ながら憂いを帯びた声で話しだした。


「そりゃあバヨネッタさんには、いつもいつも助けられていますよ。窮地を救われ、物を教えられ、この世界でやって行けているのは、バヨネッタさんのお陰です」


 バヨネッタさんの真意が分からず、俺は慌てて取り繕った。


「ベフメ伯爵に、ガラスの食器を贈ったそうね」


「え? 贈ったと言うより、商談ですよ。売ったんです」


「私、ハルアキに何か物を贈って貰った事ないんだけど?」


 ああ、言われてみればそうかも知れない。初めて出逢った時に、ダマスカス鋼のナイフを贈ったくらいだ。そりゃあバヨネッタさんが拗ねるのも分かる。手塩にかけてやっているのだ。見返りだって欲しくなるだろう。


 しかしバヨネッタさんに贈り物かあ。俺から見てバヨネッタさんは金銀財宝に囲まれている人だ。どんな物を贈れば喜んでくれるのか分からない。


「何が欲しいんですか?」


「そうねえ、宝が欲しい。と言ったところで、ハルアキに用意出来ないだろう事は分かっているわ」


 何かすみません。


「ガラス食器が用意出来ると言う事は、他の食器類も用意出来るのかしら?」


「他の食器と言うと、陶磁器ですか? 銀食器ですか? 流石に金食器は無理ありますけど」


 あれ程憂いた顔をしていたのに、ニコニコ満面の笑みになるバヨネッタさん。


「色々あるみたいね?」


 はあ、どうしたものかな。



 そして翌日。バヨネッタさんは件の食器業務店にいた。


「おおおお!! 凄いわね! 見た事もない食器がこんなに並んでいるわ!」


 いつになくバヨネッタさんのテンションが高い。それだけ連日の雨でストレスが溜まっていたのだろう。転移門で店に着くなり、アンリさんとミデンを連れて店中を物色しまくっている。


「子供みたいですね」


 俺が横のオルさんに話し掛けると、オルさんもそわそわしていた。


「ああ。俺の事は気にせず、オルさんも店内色々見てきてください」


「そうかい? 悪いねハルアキくん。じゃあちょっと行ってくるよ!」


 とオルさんもバヨネッタさんの後に続いて行ってしまった。はあ。


「すみません。ご迷惑をお掛けして」


 俺は七町さんと店主さんに頭を下げる。


「いえいえ、このくらいお安いご用ですよ。こちらも渡りに船でしたので、そのように頭を下げないでください」


 七町さんと、その後ろにいる同じく政府関係者なのだろうスーツの男女が、俺の方へ頭を下げていた。


「そう言って貰えるとこちらも気が楽です」


 それから店主に向き直る。


「ご店主も、わざわざこの為に臨時休業にして貰って、すみませんでした」


 店主にこの食器業務店を臨時休業にして貰った事で、転移門を店内に開く事が可能となり、今回、バヨネッタさんたちをこちらへ呼ぶ事が出来たのだ。


「いやいや、相応の金は貰っているので、気にしないでください」


 と店主からも頭を下げられてしまった。日本人、頭低過ぎじゃない?


「あのう、それで工藤くん。そちらの要求を叶えましたので、こちらの要求も……」


 と下手に出てくる七町さんに、俺は「そうでした」と応えて、『空間庫』から二本の小瓶を取り出す。すると政府関係者から「おお!」と声が上がった。


「ご入用なのはポーションで良かったんですよね」


「はい」


「まあ、俺から言うのもあれですが、何に使うのか、詮索するつもりはありませんけど、これが悪い事に使われたのなら、今後、こう言った取引がなくなると思っといてください」


 俺はそう釘を刺して二本の小瓶を七町さんに手渡した。


「はい」


 と七町さんも政府関係者たちも、真剣な眼差しをこちらへ返してくれたので、悪い使い方でないと信じておこう。


「ハルアキ! 私ここの商品全部欲しいわ!」


 テンション上がりまくりのバヨネッタさんが、とんでもない事を口走る。


「全部はやめてください!」


 俺は急いでバヨネッタさんの所へ駆け寄っていった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

処理中です...