95 / 632
地下五階(後編)
しおりを挟む
「ハルアキ!」
地獄の大穴まで戻ってきたところで、リットーさんに呼び止められた。
「はい?」
「どうやらハルアキは、ダンジョンや冒険者のルールには詳しくないようなので教えておくが、あの場では助けに行くものではない!」
「はい?」
あの場、と言うのはさっきの大部屋での事だろうか?
「助けに行くなって、見殺しにしろ、って事ですか?」
「そうなるな!」
そんな事出来るはずがない。あの魔法使い二人は、俺が助けに行かなければ死んでいたかも知れないんだ。
「パーティの経験値の問題だ。一人入るだけで貰える経験値が違ってくるからな」
と言うジェイリスくん。どうやら彼もリットーさんと同意見らしい。
「そんな経験値なんかの為に彼女らは命懸けになっていると?」
「…………」
「…………」
返事がない。どうやら本当のようだ。恐るべしレベルのある社会。
「それじゃあ、助けたい、と思ったら、どうすれば良いんですか?」
「そのパーティに助太刀して良いか尋ねる」
とジェイリスくん。んな悠長な。だけどこれがダンジョンや冒険者たちのマナーであるらしい。ええ、面倒臭いなあ。
そんな事を考えながら、次の冒険者パーティがいる大部屋に入った。既に戦端は開かれており、大部屋は敵味方入り乱れての乱戦となっていた。
五体のグレイ(ゴブリン)たちの目が赤く明滅し、念動力で冒険者パーティを攻撃している。地下一階のグレイはただの小人だったが、地下五階までくると、念動力を使ってくるようだ。知っているゴブリンの戦い方じゃない。
対して十人の冒険者たちはそれをレジストすると、素早く距離を詰めて、各々の武器や魔法で攻撃していく。その様に迷いはなく、このような状況にも慣れた対処のようだ。
しかしそれはグレイたちも同様で、念動力でもって冒険者たちの攻撃を相殺していた。各所で一対二に別れての戦闘が行われている。
「これは、助けに入らない方が良いんですよね?」
「そうだな!」
「今乱入したら、確実に恨まれるだろうな」
面倒臭いなあ。こっちはこっちで早く仕事を終わらせたいのに。だがまあ、このパーティは先のパーティとは違って、地下五階の戦いに慣れているようで、安心して見ていられた。倒すのに時間は要するようだが、大丈夫だろう。
「ベフメ家からの御達し?」
案の定安定した戦いで終始戦闘を有利に進めた冒険者パーティが、ほぼ無傷でグレイを倒し終えたところで、俺たちが声を掛ける。しかし怪訝な視線である。
「地上でその説明は嫌と言う程聞いている。だが二年近くここの吸血神殿で活動しているが、本当にベフメ家の人間が話を持ってきたのは初めてだ」
とリーダーらしき男性が言う。それは怪訝な表情にもなるな。
「二週間前に地上に出た時には、そんな話聞かなかったわよ?」
と双剣使いの女性。俺たちがベフメルに到着したのが一週間前だからな。そう考えると水路建設に入るまでの期間が短いな。
「急遽決まったんですよ。もうすぐ雨季ですから、それまでに水路を完成させろって。ベフメ家の無茶振りは皆さんも知っているでしょう?」
俺のこの言葉に、冒険者たちは顔を見合わせる。どうやらベフメ家の無茶振りってだけで、話が通じるらしい。
「じゃあ行ってくる」
結果、この冒険者パーティは話し合って、一人が地上に話を聞きに行く事で決着した。それで本当なら全員で地上に引き返す事になる。
「さあ、俺たちは狩りの続きだ!」
と地下五階に残った冒険者パーティは、地獄の大穴周辺で魔物狩りを続行するらしい。その為に残った訳だし。
俺たちはと言えば、俺が『聖結界』を張って、その中で休憩だ。
「皆良くやるよなあ。そんなに戦うのが好きかね?」
冒険者たちを眺めながら独り言つ俺を見て、ジェイリスくんが嘆息する。
「かーっはっはっはっ!! ハルアキは外国人だから不思議かも知れないな!」
と笑うリットーさん。俺とジェイリスくんは顔を見合わせ首を傾げた。
「彼が外国人だからですか?」
とジェイリスくんがリットーさんに尋ねる。
「ああ、そうだ! オルドランドでは、何であれ戦って勝ち取る事が美徳とされ、推奨されているだろう?」
首肯するジェイリスくん。そうなの!?
「だが、それを美徳としない国もあるのだ! 和と協調を美徳とし、争い事を極力避けようとする国がな!」
「本当ですか!?」
驚いて俺をマジマジと見てくるジェイリスくん。
「本当だけど、それってそんなに驚く事なの?」
と言う俺の反応にジェイリスくんは更に驚いていた。こっちの方が驚きだが、戦って勝ち取るのが良しとされているのなら、前ベフメ伯爵がカージッド子爵に戦争を吹っ掛けたのも、ジェイリスくんが俺に決闘を申し入れてきたのもなんだか頷ける。要するにオルドランドと言う国は、自分が正しいと思うなら、勝って証明せよ。ってな具合のお国柄なのだろう。
「そんな国があるんだな」
しみじみと口にするジェイリスくん。
「そんな国があるんだよ」
しみじみと応える俺。そんなのほほんとした時間が『聖結界』の中で流れていた外では、
「ぎゃあああ!?」
悲鳴が起こっていた。
何事か!? と視線を冒険者パーティの方へ移すと、冒険者たちが見えない何かに斬り裂かれていた。
地獄の大穴まで戻ってきたところで、リットーさんに呼び止められた。
「はい?」
「どうやらハルアキは、ダンジョンや冒険者のルールには詳しくないようなので教えておくが、あの場では助けに行くものではない!」
「はい?」
あの場、と言うのはさっきの大部屋での事だろうか?
「助けに行くなって、見殺しにしろ、って事ですか?」
「そうなるな!」
そんな事出来るはずがない。あの魔法使い二人は、俺が助けに行かなければ死んでいたかも知れないんだ。
「パーティの経験値の問題だ。一人入るだけで貰える経験値が違ってくるからな」
と言うジェイリスくん。どうやら彼もリットーさんと同意見らしい。
「そんな経験値なんかの為に彼女らは命懸けになっていると?」
「…………」
「…………」
返事がない。どうやら本当のようだ。恐るべしレベルのある社会。
「それじゃあ、助けたい、と思ったら、どうすれば良いんですか?」
「そのパーティに助太刀して良いか尋ねる」
とジェイリスくん。んな悠長な。だけどこれがダンジョンや冒険者たちのマナーであるらしい。ええ、面倒臭いなあ。
そんな事を考えながら、次の冒険者パーティがいる大部屋に入った。既に戦端は開かれており、大部屋は敵味方入り乱れての乱戦となっていた。
五体のグレイ(ゴブリン)たちの目が赤く明滅し、念動力で冒険者パーティを攻撃している。地下一階のグレイはただの小人だったが、地下五階までくると、念動力を使ってくるようだ。知っているゴブリンの戦い方じゃない。
対して十人の冒険者たちはそれをレジストすると、素早く距離を詰めて、各々の武器や魔法で攻撃していく。その様に迷いはなく、このような状況にも慣れた対処のようだ。
しかしそれはグレイたちも同様で、念動力でもって冒険者たちの攻撃を相殺していた。各所で一対二に別れての戦闘が行われている。
「これは、助けに入らない方が良いんですよね?」
「そうだな!」
「今乱入したら、確実に恨まれるだろうな」
面倒臭いなあ。こっちはこっちで早く仕事を終わらせたいのに。だがまあ、このパーティは先のパーティとは違って、地下五階の戦いに慣れているようで、安心して見ていられた。倒すのに時間は要するようだが、大丈夫だろう。
「ベフメ家からの御達し?」
案の定安定した戦いで終始戦闘を有利に進めた冒険者パーティが、ほぼ無傷でグレイを倒し終えたところで、俺たちが声を掛ける。しかし怪訝な視線である。
「地上でその説明は嫌と言う程聞いている。だが二年近くここの吸血神殿で活動しているが、本当にベフメ家の人間が話を持ってきたのは初めてだ」
とリーダーらしき男性が言う。それは怪訝な表情にもなるな。
「二週間前に地上に出た時には、そんな話聞かなかったわよ?」
と双剣使いの女性。俺たちがベフメルに到着したのが一週間前だからな。そう考えると水路建設に入るまでの期間が短いな。
「急遽決まったんですよ。もうすぐ雨季ですから、それまでに水路を完成させろって。ベフメ家の無茶振りは皆さんも知っているでしょう?」
俺のこの言葉に、冒険者たちは顔を見合わせる。どうやらベフメ家の無茶振りってだけで、話が通じるらしい。
「じゃあ行ってくる」
結果、この冒険者パーティは話し合って、一人が地上に話を聞きに行く事で決着した。それで本当なら全員で地上に引き返す事になる。
「さあ、俺たちは狩りの続きだ!」
と地下五階に残った冒険者パーティは、地獄の大穴周辺で魔物狩りを続行するらしい。その為に残った訳だし。
俺たちはと言えば、俺が『聖結界』を張って、その中で休憩だ。
「皆良くやるよなあ。そんなに戦うのが好きかね?」
冒険者たちを眺めながら独り言つ俺を見て、ジェイリスくんが嘆息する。
「かーっはっはっはっ!! ハルアキは外国人だから不思議かも知れないな!」
と笑うリットーさん。俺とジェイリスくんは顔を見合わせ首を傾げた。
「彼が外国人だからですか?」
とジェイリスくんがリットーさんに尋ねる。
「ああ、そうだ! オルドランドでは、何であれ戦って勝ち取る事が美徳とされ、推奨されているだろう?」
首肯するジェイリスくん。そうなの!?
「だが、それを美徳としない国もあるのだ! 和と協調を美徳とし、争い事を極力避けようとする国がな!」
「本当ですか!?」
驚いて俺をマジマジと見てくるジェイリスくん。
「本当だけど、それってそんなに驚く事なの?」
と言う俺の反応にジェイリスくんは更に驚いていた。こっちの方が驚きだが、戦って勝ち取るのが良しとされているのなら、前ベフメ伯爵がカージッド子爵に戦争を吹っ掛けたのも、ジェイリスくんが俺に決闘を申し入れてきたのもなんだか頷ける。要するにオルドランドと言う国は、自分が正しいと思うなら、勝って証明せよ。ってな具合のお国柄なのだろう。
「そんな国があるんだな」
しみじみと口にするジェイリスくん。
「そんな国があるんだよ」
しみじみと応える俺。そんなのほほんとした時間が『聖結界』の中で流れていた外では、
「ぎゃあああ!?」
悲鳴が起こっていた。
何事か!? と視線を冒険者パーティの方へ移すと、冒険者たちが見えない何かに斬り裂かれていた。
1
お気に入りに追加
313
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す
佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。
誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。
また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。
僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。
不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。
他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる