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地下五階(前編)
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「あん!? なんで俺たちがお前らの言う事を聞かなきゃならないんだよ!」
バヂヂヂヂヂヂッ!
俺は問答無用でそいつに電撃を食らわせた。痺れて気絶する男の元に、仲間が駆け寄ってくる。
「なんて事しやがる!」
「言ったはずだ。これは領主命令なんだよ。とっとと吸血神殿から出て行け」
はあ。これで何度目のやり取りだろう。
地下二階までは良かった。リットーさんが声を掛けると、皆が素直に従ってくれたからだ。
地下三階からが厄介だった。誰も言う事を聞かないのだ。リットーさんのネームバリューが効かない訳ではない。今、地下三階以降にいるやつらは、一ヶ月以上吸血神殿に潜っているのがザラらしく、リットーさんがベフメルにやって来ていたのを知らないのだ。
だからリットーさんを見ても、良く似た偽者だと決め付けて、逆にこっちの言う事を聞いてくれなかった。ベフメ家のメダルを見せても同じだった。最初にリットーさんに呼び掛けて貰ったのが、完全に裏目に出ていた。
こうなってくると衝突は必至である。命令を聞かせたい俺たちと、そんなの聞く義理がないと突っぱねる冒険者パーティ。地下三階レベルであれば、先手必勝でボコって終わりである。俺たちに敵わなかった冒険者パーティは、ボロボロのままでは吸血神殿の魔物たちに太刀打ち出来ない。と地上に引き上げていった。
地下四階は更に面倒になった。追いかけっこである。地下四階レベルになると、彼我の差を感じ取れる人間がパーティに一人はいる場合が多いらしく、リットーさんのいる俺たちとは戦っても勝てないと踏んで、地下四階エリアを逃げ回るのだ。
こちらとしても即席パーティの為、バラバラに散って連携が取れるものでもないので、一塊になって冒険者パーティを追い掛けるのだが、逃げるだけならまだしも、『隠蔽』や『隠形』、『偽装』などのスキルを駆使して、巧みに逃げ回り、更には地下四階を徘徊する魔物たちまでこちらに差し向けて逃げ回るのだ。その才能、何か他に活かしようがないのかな?
「だあ、疲れたあ」
最下層の地下五階にやって来た時点で、既に丸一日が経っていた。
「どうします?」
俺はフラフラになりながら二人に今後の方針を尋ねる。この地下五階にいるのは二組の冒険者パーティだけのようだが、魔物のレベルが高いのが、『野生の勘』なんかなくても、地下五階の空気で分かる。
「とりあえず休憩にしよう! 二人ともフラフラだ! それでは冒険者たちの説得もままならないだろう!」
それに対して俺もジェイリスくんも首肯する。正直リットーさんの方から言ってくれて助かった。流石に不眠不休のまま地下五階を動き回るのは辛い。だからって格下の俺やジェイリスくんから休憩を口にするのは憚られたからだ。
俺が『聖結界』を張って三人で仮眠を取る事にした。
ピピピッ、ピピピッ
三時間の仮眠の後、スマホのアラームで目を覚ます。どうやら俺が最後だったようで、二人は既に準備運動を始めていた。
「呑気なものだな」
「あはははは」
ジェイリスくんの嫌味を笑って受け流す。俺も準備運動をして軽く食事を済ませると、『聖結界』を解いた。一気に空気が変わる。地下特有のじめりとした空気に、血生臭さが加わった感じだ。
俺とリットーさんは無言で顔を見合わせると、二組のうち、近い方へ歩を進めた。
その冒険者パーティは戦闘開始直後だった。大部屋でその四人が戦っていたのは、オークと言う名の豚だった。豚と言ってもあまりにデカい。体育館程ある大部屋の四分の一を専有する大きさは、小さな山と形容していいくらいだろう。
口には上に向かって太い牙が生え、巨体とは思えない猛スピードで突進を繰り返してくる。単純だが強力な攻撃だった。
冒険者パーティも相応のレベルなのだろう。突進を左右に避け、前衛の二人が剣や槍で足にダメージを与えると、後衛の魔法使い二人による強烈な炎魔法と風魔法が融合し、火炎竜巻が巻き起こる。
火炎の熱さで皮膚が焼けるようになりながら事態を見守る。良い匂いがするが、気にしては駄目だ。
「ブオオオオオオ!!」
火炎竜巻の中から大豚の咆哮が轟いた。その直後に大豚が火炎竜巻の壁を突き破ってくる。まさかこの火炎竜巻が破られるとは思っていなかったのだろう。パーティは一瞬動きが止まり、後手に回ってしまった。その間隙に大豚の牙が二人の魔法使いに迫る。
「はっ!」
俺はとっさに魔法使い二人の前に出ると、『聖結界』を展開し、大豚の突進を受け止めた。
「今のうちに倒してください!」
俺の声にハッとした冒険者パーティは、俺の『聖結界』に突進を繰り返す大豚の腹に剣で斬りつけ、足を槍で突き刺し、もう一度火炎竜巻をお見舞いした。
しかしこれでも倒し切れない大豚。それでも弱らせる事には成功していた。もう一押しと剣使いと槍使いが、その分厚い喉に刃を突き刺しトドメを刺す。
「ブオオオオオオ!!」
大豚は断末魔の叫びとともに横倒れになると、首から血を流しながら動かなくなった。
「よっしゃあ!!」
槍使いの男が大豚を倒した事で全力で喜んでいる。
「ありがとう。助かったわ」
そんな中で俺に声を掛けてきたのは、剣使いの女性だ。手を差し伸べて握手を求めてきたので、素直に握手し返す。女性だが剣使い、握力が強い。
「本当に死ぬかと思いました」
とその場にへたれ込む魔法使いの一人は、俺くらいの年の少年だ。
「まさか大部屋の魔物がこんなに強いとは思わなかったな」
もう一人は杖を支えになんとか立ったままだ。その口振りから、どうやら彼らは地下五階の大部屋の魔物に、今日初めて挑んでいたようだ。
「それで、君らは一体?」
剣使いの女性に誰何され、俺はベフメ家のメダルを見せる。
「成程、水路建設ですか。分かりました。大部屋の魔物も倒せた事ですし、我々はこのまま地上に向かいます」
俺が『聖結界』で魔法使いを守ったのが奏功したのだろうか。彼女らは友好的だった。今まで地下四階を主戦場にしていたそうで、地下五階の魔物の強さに苦戦していたのもあったかも知れない。
彼女らは素早く大豚を回収すると、その一部を俺に渡して、地獄の大穴から地上に戻っていったのだった。
さて、残るはもう一組だ。
バヂヂヂヂヂヂッ!
俺は問答無用でそいつに電撃を食らわせた。痺れて気絶する男の元に、仲間が駆け寄ってくる。
「なんて事しやがる!」
「言ったはずだ。これは領主命令なんだよ。とっとと吸血神殿から出て行け」
はあ。これで何度目のやり取りだろう。
地下二階までは良かった。リットーさんが声を掛けると、皆が素直に従ってくれたからだ。
地下三階からが厄介だった。誰も言う事を聞かないのだ。リットーさんのネームバリューが効かない訳ではない。今、地下三階以降にいるやつらは、一ヶ月以上吸血神殿に潜っているのがザラらしく、リットーさんがベフメルにやって来ていたのを知らないのだ。
だからリットーさんを見ても、良く似た偽者だと決め付けて、逆にこっちの言う事を聞いてくれなかった。ベフメ家のメダルを見せても同じだった。最初にリットーさんに呼び掛けて貰ったのが、完全に裏目に出ていた。
こうなってくると衝突は必至である。命令を聞かせたい俺たちと、そんなの聞く義理がないと突っぱねる冒険者パーティ。地下三階レベルであれば、先手必勝でボコって終わりである。俺たちに敵わなかった冒険者パーティは、ボロボロのままでは吸血神殿の魔物たちに太刀打ち出来ない。と地上に引き上げていった。
地下四階は更に面倒になった。追いかけっこである。地下四階レベルになると、彼我の差を感じ取れる人間がパーティに一人はいる場合が多いらしく、リットーさんのいる俺たちとは戦っても勝てないと踏んで、地下四階エリアを逃げ回るのだ。
こちらとしても即席パーティの為、バラバラに散って連携が取れるものでもないので、一塊になって冒険者パーティを追い掛けるのだが、逃げるだけならまだしも、『隠蔽』や『隠形』、『偽装』などのスキルを駆使して、巧みに逃げ回り、更には地下四階を徘徊する魔物たちまでこちらに差し向けて逃げ回るのだ。その才能、何か他に活かしようがないのかな?
「だあ、疲れたあ」
最下層の地下五階にやって来た時点で、既に丸一日が経っていた。
「どうします?」
俺はフラフラになりながら二人に今後の方針を尋ねる。この地下五階にいるのは二組の冒険者パーティだけのようだが、魔物のレベルが高いのが、『野生の勘』なんかなくても、地下五階の空気で分かる。
「とりあえず休憩にしよう! 二人ともフラフラだ! それでは冒険者たちの説得もままならないだろう!」
それに対して俺もジェイリスくんも首肯する。正直リットーさんの方から言ってくれて助かった。流石に不眠不休のまま地下五階を動き回るのは辛い。だからって格下の俺やジェイリスくんから休憩を口にするのは憚られたからだ。
俺が『聖結界』を張って三人で仮眠を取る事にした。
ピピピッ、ピピピッ
三時間の仮眠の後、スマホのアラームで目を覚ます。どうやら俺が最後だったようで、二人は既に準備運動を始めていた。
「呑気なものだな」
「あはははは」
ジェイリスくんの嫌味を笑って受け流す。俺も準備運動をして軽く食事を済ませると、『聖結界』を解いた。一気に空気が変わる。地下特有のじめりとした空気に、血生臭さが加わった感じだ。
俺とリットーさんは無言で顔を見合わせると、二組のうち、近い方へ歩を進めた。
その冒険者パーティは戦闘開始直後だった。大部屋でその四人が戦っていたのは、オークと言う名の豚だった。豚と言ってもあまりにデカい。体育館程ある大部屋の四分の一を専有する大きさは、小さな山と形容していいくらいだろう。
口には上に向かって太い牙が生え、巨体とは思えない猛スピードで突進を繰り返してくる。単純だが強力な攻撃だった。
冒険者パーティも相応のレベルなのだろう。突進を左右に避け、前衛の二人が剣や槍で足にダメージを与えると、後衛の魔法使い二人による強烈な炎魔法と風魔法が融合し、火炎竜巻が巻き起こる。
火炎の熱さで皮膚が焼けるようになりながら事態を見守る。良い匂いがするが、気にしては駄目だ。
「ブオオオオオオ!!」
火炎竜巻の中から大豚の咆哮が轟いた。その直後に大豚が火炎竜巻の壁を突き破ってくる。まさかこの火炎竜巻が破られるとは思っていなかったのだろう。パーティは一瞬動きが止まり、後手に回ってしまった。その間隙に大豚の牙が二人の魔法使いに迫る。
「はっ!」
俺はとっさに魔法使い二人の前に出ると、『聖結界』を展開し、大豚の突進を受け止めた。
「今のうちに倒してください!」
俺の声にハッとした冒険者パーティは、俺の『聖結界』に突進を繰り返す大豚の腹に剣で斬りつけ、足を槍で突き刺し、もう一度火炎竜巻をお見舞いした。
しかしこれでも倒し切れない大豚。それでも弱らせる事には成功していた。もう一押しと剣使いと槍使いが、その分厚い喉に刃を突き刺しトドメを刺す。
「ブオオオオオオ!!」
大豚は断末魔の叫びとともに横倒れになると、首から血を流しながら動かなくなった。
「よっしゃあ!!」
槍使いの男が大豚を倒した事で全力で喜んでいる。
「ありがとう。助かったわ」
そんな中で俺に声を掛けてきたのは、剣使いの女性だ。手を差し伸べて握手を求めてきたので、素直に握手し返す。女性だが剣使い、握力が強い。
「本当に死ぬかと思いました」
とその場にへたれ込む魔法使いの一人は、俺くらいの年の少年だ。
「まさか大部屋の魔物がこんなに強いとは思わなかったな」
もう一人は杖を支えになんとか立ったままだ。その口振りから、どうやら彼らは地下五階の大部屋の魔物に、今日初めて挑んでいたようだ。
「それで、君らは一体?」
剣使いの女性に誰何され、俺はベフメ家のメダルを見せる。
「成程、水路建設ですか。分かりました。大部屋の魔物も倒せた事ですし、我々はこのまま地上に向かいます」
俺が『聖結界』で魔法使いを守ったのが奏功したのだろうか。彼女らは友好的だった。今まで地下四階を主戦場にしていたそうで、地下五階の魔物の強さに苦戦していたのもあったかも知れない。
彼女らは素早く大豚を回収すると、その一部を俺に渡して、地獄の大穴から地上に戻っていったのだった。
さて、残るはもう一組だ。
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