世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
55 / 632

力量を図る

しおりを挟む
「ただいま戻りました」


 転移門を通って村の宿屋に戻ってきた俺だったが、部屋にオルさんの姿は見受けられなかった。


 何処行ったのやら。俺としては明日には離れるこの村を見て回りたいのだが。誰にも行き先を告げずにブラブラと村を見回って良いものだろうか?


 とりあえずオルさんがいないので、隣りのバヨネッタさんとアンリさんの部屋をノックした。しかし誰も出てこない。三人で出掛けているのかな?


 ならいいや。と俺一人ロビーの方へ向かうと、何やら聞いた事のある話し声が耳に入ってきた。


「お願いします!」


 ロビーのソファでは、バヨネッタさん、オルさん、アンリさんと、アルーヴの冒険者たちが、テーブルを挟んで向き合っている。そしてアルーヴの冒険者たちが頭を下げていた。どう言う状況なの?


「嫌よ」


 どうやら頼み事があったようだが、バヨネッタさんに断られたらしく、アルーヴの冒険者たちはショックを受けていた。


「何かあったんですか?」


 俺はスススとバヨネッタさんの後ろに控えるオルさんに近付き、耳打ちした。


「ハルアキくんたちが助けた五人が、旅に同行させてくれないかって」


 同行? 目的が分からんな。そもそも彼らは一度ムシタの冒険者ギルドに、依頼完了の報告の為に帰っていったはずだ。なのに俺たちに同行するために戻ってきたのか?


「そこをどうにかならないでしょうか?」


「役に立ちます!」


「迷惑は掛けません!」


 必死に自分たちを売り込むアルーヴの冒険者たちだったが、バヨネッタさんはそっぽを向いて相手にしない。


「何でそんなに俺たちの旅に同行したいんですか?」


 見兼ねて俺が助け舟を出すと、オルさんに「黙っていなさい」と口を塞がれてしまった。


「もちろんこの間の魔熊の一件のお礼返しさ」


 とバヨネッタさんに助けられた男性アルーヴが語り出す。お礼返し?


「あの一件で俺たちは全滅するところだった。それを助けて貰っといて、何のお返しもしないんじゃ、アルーヴの名折れだ。俺たちにあんたらの旅を手伝わせてくれ」


 そう言ってもう一度頭を下げるアルーヴの冒険者たち。お礼ならポーション代を貰っている。それなのにまだ足りないなんて、アルーヴって義理堅いんだな。


「嫌よ」


 そんなアルーヴたちの願いをすげなく断るバヨネッタさんの胆力よ。


「そこをなんとかならないか?」


「邪魔よ」


「魔物の跋扈する自然界を旅するんだ、護衛や索敵とか色々あるだろ?」


「私とハルアキがいれば事足りるわ」


 本当に取り付く島がないなあ。バヨネッタさんはクーヨンの段階で冒険者とは旅したくないって明言していたからなあ。昔何かあったのかも知れないし、触れちゃいけないところなのだろう。


「なら、我々が、彼よりも役に立つと証明出来れば、旅に同行させて貰えるのですね?」


 と男性アルーヴがのたまう。ああ、いるよなこう言う強気な人って。大概こう言う人って、他人の話聞かないんだよなあ。


「はあ」と嘆息したバヨネッタさんは、一度俺の方を振り返ると、ジーッと俺を値踏みしてから、アルーヴの冒険者たちに向き直る。


「良いわ。あなたたち五人掛かりでハルアキにかすり傷でも負わせられれば、同行を許可しましょう」


「ほう。それはそれは、なんとも優しい試験ですね」


 アルーヴたちから殺気がだだ漏れている。それはそうだろう。冒険者としてそれなりにキャリアのあるだろう彼らが、俺みたいなガキ相手にかすり傷一つ付けられないと思われているんだから。うう、めっちゃ睨まれてる。



 試験の為の戦闘は、休耕中の畑ですることになった。ここなら多少派手に暴れても問題ないからだ。


 畑の中央で、俺とアルーヴの冒険者たちが向かい合う。


 五人の冒険者たちの内、右から、男剣、女弓、男双短剣、女魔法杖、男槍と言った感じだ。見事にバラバラだな。


「じゃあ良いかしら?」


 辺りに被害が出ないように、畑の周りに結界を張ってくれたバヨネッタさんに対して、俺は頷いて返す。アルーヴの冒険者たちも同様だ。


「では、始め!」


 戦闘開始の合図が出され、アルーヴ五人は俺を取り囲むように移動した。前方には弓と槍。左右に双短剣と魔法杖、後ろが剣だ。これが彼らのフォーメーションなのだろう。


 はあ。対人戦かあ、嫌だなあ。俺、殴り合いのケンカだってした事ないのに。などと言っていられない。向こうは俺に一撃与える為に本気なんだから。下手したら怪我じゃ済まなくなる。


 俺は気合を入れ直し、アニンを黒い棒に変化させる。すると俺が武器を取り出したところで、五人が襲い掛かってきた。


 まず槍が俺に突撃してきて、それを援護するように矢が飛んでくる。しかも普通の矢じゃない。矢じりが燃えている。火属性が付与されているのか!


 俺はそれを寸でで黒棒で叩き落とす。とその直後に槍使いの突き。これを身体を捻って躱すが、槍使いの槍先から水が突き出された。水属性の付与か。


 背筋がゾクッとしてとっさにしゃがむと、剣が空を斬る。背後に回っていた剣使いの攻撃だ。その切れ味の鋭さから、恐らく風魔法が付与されているのだろう。


 俺はしゃがんだまま黒棒を横に振るい、剣使いの足を刈って転ばせると、その場から離れる。その直後にさっきまで俺がいた場所に、魔法杖を持った魔法使いから頭サイズの岩が撃ち込まれてくる。


 俺はこのまま魔法使いに急接近しようとするが、槍使いと双短剣使いがカバーに入り、俺を攻撃してくる。双短剣の攻撃を受ける度に手が痺れる。電撃付与かよ。まだ『回復』でカバー出来るレベルだが。


 近距離の双短剣にその後ろから槍攻撃。更にその後ろから弓と魔法が飛んでくる。と、後ろからは復活した剣使いだ。


 双短剣、槍、弓、魔法、剣、と怒涛の攻撃で、反撃の隙間がない。しかも魔法攻撃だけでなく、武器による攻撃にも魔法が付与されているのだ。流石は体内に魔石を有する魔人種族だ。


 しかしそれでも五人は俺に一撃を与える事が出来ずにいた。俺が躱し、避け、受け止め、弾き、いなし、攻撃こそ出来ないが、相手の攻撃を食らう事もない。そんな膠着状態が続いた。


「くっ、ミューン!」


「分かったわ!」


 と戦線から魔法使いのお姉さんが外れた。どうやら威力の小さな魔法の連発ではなく、大威力の魔法を放つ為に魔力を溜めるつもりのようだ。


 俺は一人抜けた穴をカバーするように、攻撃の回転率を上げた四人の猛攻を捌きながら、相手の隙を窺う。いや、窺っているだけじゃ駄目だ。こちらから隙を作らないと。


 俺は双短剣、槍、剣の攻撃を黒棒でガシッと受け止めると、矢を放とうとしている弓使いに向かって、双短剣使いを蹴飛ばした。


 俺の行動で崩れる陣形。その間隙を縫うようにして、俺は剣使いの腹に黒棒で一撃入れると、黒棒を反転させて槍使いの槍を叩き落とし、顎に一撃与える。


「ぐっ」


 立ち上がろうとする双短剣使いと弓使いに向かって、「水よ!」と魔法の水を飛ばして、二人の顔に水を接着させた。これで息苦しくて行動も制限出来るだろう。


 あとは魔法使いのみ。と魔法使いを見遣れば、魔法使いの上空には赤く燃え上がる大岩が出来上がっていた。くっ、一足遅かったか!


「火岩球!」


 魔法使いの言葉とともに、魔法杖が振られ、燃える大岩がこちらに向かって飛んでくる。


 ドゥンッ!!


 爆ぜた燃える大岩の威力は相当なもので、直撃じゃないバヨネッタさんの結界をわずかに震わす程だった。


「や、やったかしら?」


 もうもうと煙が立ち込める中、立っているのは魔法使いのみ。かと思われたが、


「残念でした」


「え?」


 魔法使いの後ろに回り込んだ俺は、黒棒で魔法使いの首を締める。


「どうする? 残るはあんただけみたいだけど、まだやる?」


「ま、参ったわ」


 絞り出すような声で魔法使いが降参し、これで俺の勝ちが決まった。



「はあ~~~~」


 五人揃って長い溜息である。


「勝てないのは分かっていたが、まさか一撃も与えられないなんて」


 凄~く落ち込んでいるなあ。まあでも、今回は縁がなかったと思って諦めて欲しい。俺がそんな事思っていると、


「ちょっといいですか?」


 とオルさんが声を上げた。皆の視線がオルさんに向けられる。


「もしバヨネッタ様さえ許可をいただけるなら、この五人、僕が雇いましょう」


 どう言う事?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッチョな料理人が送る、異世界のんびり生活。 〜強面、筋骨隆々、とても強い。 でもとっても優しい男が異世界でのんびり暮らすお話〜

かむら
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞にて、ジョブ・スキル賞受賞しました!】  身長190センチ、筋骨隆々、彫りの深い強面という見た目をした男、舘野秀治(たてのしゅうじ)は、ある日、目を覚ますと、見知らぬ土地に降り立っていた。  そこは魔物や魔法が存在している異世界で、元の世界に帰る方法も分からず、行く当ても無い秀治は、偶然出会った者達に勧められ、ある冒険者ギルドで働くことになった。  これはそんな秀治と仲間達による、のんびりほのぼのとした異世界生活のお話。

月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳 yayoi × 月城尊 29歳 takeru 母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司 彼は、母が持っていた指輪を探しているという。 指輪を巡る秘密を探し、 私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。

趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。 公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。 そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。 ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。 そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。 自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。 そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー? 口は悪いが、見た目は母親似の美少女!? ハイスペックな少年が世界を変えていく! 異世界改革ファンタジー! 息抜きに始めた作品です。 みなさんも息抜きにどうぞ◎ 肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!

【BL】齢1200の龍王と精を吸わないオタ淫魔

三崎こはく
BL
人間と魔族が共存する国ドラキス王国。その国の頂に立つは、世にも珍しいドラゴンの血を引く王。そしてその王の一番の友人は…本と魔法に目がないオタク淫魔(男)! 友人関係の2人が、もどかしいくらいにゆっくりと距離を縮めていくお話。 【第1章 緋糸たぐる御伽姫】「俺は縁談など御免!」王様のワガママにより2週間限りの婚約者を演じることとなったオタ淫魔ゼータ。王様の傍でにこにこ笑っているだけの簡単なお仕事かと思いきや、どうも無視できない陰謀が渦巻いている様子…? 【第2章 無垢と笑えよサイコパス】 監禁有、流血有のドキドキ新婚旅行編 【第3章 埋もれるほどの花びらを君に】 ほのぼの短編 【第4章 十字架、銀弾、濡羽のはおり】 ゼータの貞操を狙う危険な男、登場 【第5章 荒城の夜半に龍が啼く】 悪意の渦巻く隣国の城へ 【第6章 安らかに眠れ、恐ろしくも美しい緋色の龍よ】 貴方の骸を探して旅に出る 【第7章 はないちもんめ】 あなたが欲しい 【第8章 終章】 短編詰め合わせ ※表紙イラストは岡保佐優様に描いていただきました♪

続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん
ファンタジー
⭐︎書籍化決定⭐︎  『拾ってたものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』  第2巻:2024年5月20日(月)に各書店に発送されます。  書籍化される[106話]まで引き下げレンタル版と差し替えさせて頂きます。  第1巻:2023年12月〜    改稿を入れて読みやすくなっております。  是非♪ ================== 1人ぼっちだった相沢庵は小さな子狼に気に入られ、共に異世界に送られた。 絶対神リュオンが求めたのは2人で自由に生きる事。 前作でダークエルフの脅威に触れた世界は各地で起こっている不可解な事に憂慮し始めた。 そんな中、異世界にて様々な出会いをし家族を得たイオリはリュオンの願い通り自由に生きていく。 まだ、読んでらっしゃらない方は先に『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』をご覧下さい。 前作に続き、のんびりと投稿してまいります。 気長なお付き合いを願います。 よろしくお願いします。 ※念の為R15にしています。 ※誤字脱字が存在する可能性か高いです。  苦笑いで許して下さい。

救国の巫女姫、誕生史

ぺきぺき
ファンタジー
霊や妖による事件が起こる国で、それらに立ち向かうため新設された部署・巫覡院(ふげきいん)。その立ち上げに抜擢されたのはまだ15歳の少女だった。 少女は期待以上の働きを見せ、どんどん怪奇事件を解決していくが、事件はなくなることなく起こり続ける。 さらにその少女自身にもなにやら秘密がいっぱいあるようで…。 新米巫覡がやがて救国の巫女姫と呼ばれるようになるまでの雑用係の少年との日常と事件録。 ーーーー 毎日更新・最終話まで執筆済み

異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】

ちっき
ファンタジー
異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

処理中です...