51 / 639
チェックイン
しおりを挟む
昼を超えて山道をしばらく進んでいると、石柱が二本、道の両端にドーンと立っているのが見えてきた。あれには見覚えがある。ムシタの町を出る時にも見かけている。何でも魔物除けの石柱だそうで、あの石柱で人間の生活圏をぐるりと囲っているのだそうだ。
「おお~! 建物が見えてきた!」
石柱を超えて更にしばらく進むと、右手には山の斜面に作られた段々畑。それが左手のアロッパ海まで続いている場所に出た。その間に家々が点在し、ここが人間たちの生活圏である村だと教えてくれている。
早朝からラバを歩かせ、途中に二回の戦闘と二回の休憩を挟み、日が落ちる前にようやく村にたどり着いた。
「やっと着いたあ~」
村には中央に集会所になるような広場があり、そこは宿屋通りのようで、十軒程の宿屋が広場を挟んで建ち並んでいた。
アンリさんは広場に到着するや、その宿屋通りでもグレードの高そうなお宿の前まで直行すると、直ぐ様馬車を降りて宿の主人と交渉しに行った。旅慣れている。
「客室は十分空いているそうです」
交渉を終えて戻ってきたアンリさんに促され、俺たち三人は馬車を降りる。アンリさんはと言えば、馬車を宿の裏手へと置いてくる為に、馬車に乗ったまま宿の小間使いについて行ってしまった。
「ん~」
俺は馬車から降りると、馬車の振動で強張った身体を、伸ばすようにして解していく。
「何しているの? 行くわよ」
バヨネッタさんに促され、宿の玄関を潜る。ロビーはエントランスホールもあるような吹き抜けになっていて、全開にされた戸の向こうに、日暮れのアロッパ海が一望出来た。まあ、東を向いているので夕暮れは見れないが、きっと朝日は美しいのだろう。
「ハルアキ! さっさとチェックインしなさい!」
俺が暮れゆくシービューに見惚れていると、バヨネッタさんに叱られてしまった。
「え? 俺がチェックインするんですか?」
「そうよ。アンリがこの場にいないんだから、あなたしかいないでしょ」
まるでさも当然のように言われても。俺十六歳だよ? チェックインなんてした事ないよ。それをいきなり、しかも異世界でやる事になるとは。だがそんな事言っていられない。何故ならバヨネッタさんがイライラしているからだ。なので俺は素直に従って宿のフロントに進み出る。
「チェックインお願いします」
フロントには中肉中背の宿のご主人が穏やかな顔でこちらを見ていた。
「女性二名、男性二名。ともにツインのお部屋ですね」
とご主人。どうやらアンリさんがある程度の情報を宿に伝えてくれていたようだ。
「はい、それで」
「ではこちらの宿帳にお名前をご記入ください」
宿帳に名前? 俺の名前を書けば良いのか? 宿のご主人を見るがニコニコしているだけだ。と、スッとオルさんが俺の背後にやってきて、耳打ちしてくれた。
「バヨネッタ一行って書けば良いんだよ」
成程! 俺は『バヨネッタ』とまで書いて後ろを振り返る。
「一行のスペルが分かりません」
「あらら」
眉尻を下げるオルさんに、クスッと笑う宿のご主人。うう、情けないが、一行なんて文字、オルドランド語で書けないよ。困った俺の代わりに、オルさんが『一行』と書いてくれた。ほ~ん、そう言うスペルなのね。
「では前金でお一人様二千エラン頂きます」
おう、前金を払うタイプのお宿なのか。多分チェックアウトの時にも払うから、相当な額になりそうだな。などと考えている間に、オルさんが緑のカードで支払ってくれた。
「ご入金ありがとうございます。ではお部屋へご案内いたします」
カードでの入金を確認したご主人が、宿の使用人に、俺たちを部屋に連れて行くように指示を出す。
「全く、こんな事も一人で出来ないなんて、情けないわね」
部屋に着くまでの廊下で、バヨネッタさんに文句を言われてしまったが、返す言葉もない。
着いた部屋は意外とシンプルな造りだった。部屋はそれなりに広く、のびのび出来そうだが、調度品も凝った造りをしていないものばかりで、高級宿だが、最上級の部屋と言う訳でもなさそうだ。
まあ、俺は自分の部屋に帰るので関係ないが。いや、それなのに俺の分の宿代を払って貰うのだから、かなり迷惑をかけているか。申し訳ない。と心の中で謝っておく。
「じゃあ俺、帰りますね」
一回ベッドに横になった俺は、旅疲れで寝落ちしそうになるのをグッと堪えて起き上がると、窓から海を眺めていたオルさんに一言断りを入れる。
「ああ、もう帰るのかい? ならバヨネッタ様にも言ってから帰った方が良いよ」
「そうですね」
と返した俺は、部屋から出ると、すぐ横の部屋の扉をノックする。出てきたのはアンリさんだ。
「どうかしましたか?」
「いえ、家に帰ろうかと思いまして、ごあいさつに」
「ああ。バヨネッタ様。ハルアキくんが家にお帰りになるそうです」
事情を把握したアンリさんが、部屋でお茶を飲みながら寛いでいたバヨネッタさんに伝えてくれた。
「そう、分かったわ」
それを聞いたバヨネッタさんは素っ気ない態度だ。まあ、情けない姿見せちゃったしな。バヨネッタさんとはアイコンタクトで少しあいさつを交わし、自分の部屋に戻ると、もう一度オルさんにお別れのあいさつをして転移門から地球に戻った。日本は既に夜だった。
「おお~! 建物が見えてきた!」
石柱を超えて更にしばらく進むと、右手には山の斜面に作られた段々畑。それが左手のアロッパ海まで続いている場所に出た。その間に家々が点在し、ここが人間たちの生活圏である村だと教えてくれている。
早朝からラバを歩かせ、途中に二回の戦闘と二回の休憩を挟み、日が落ちる前にようやく村にたどり着いた。
「やっと着いたあ~」
村には中央に集会所になるような広場があり、そこは宿屋通りのようで、十軒程の宿屋が広場を挟んで建ち並んでいた。
アンリさんは広場に到着するや、その宿屋通りでもグレードの高そうなお宿の前まで直行すると、直ぐ様馬車を降りて宿の主人と交渉しに行った。旅慣れている。
「客室は十分空いているそうです」
交渉を終えて戻ってきたアンリさんに促され、俺たち三人は馬車を降りる。アンリさんはと言えば、馬車を宿の裏手へと置いてくる為に、馬車に乗ったまま宿の小間使いについて行ってしまった。
「ん~」
俺は馬車から降りると、馬車の振動で強張った身体を、伸ばすようにして解していく。
「何しているの? 行くわよ」
バヨネッタさんに促され、宿の玄関を潜る。ロビーはエントランスホールもあるような吹き抜けになっていて、全開にされた戸の向こうに、日暮れのアロッパ海が一望出来た。まあ、東を向いているので夕暮れは見れないが、きっと朝日は美しいのだろう。
「ハルアキ! さっさとチェックインしなさい!」
俺が暮れゆくシービューに見惚れていると、バヨネッタさんに叱られてしまった。
「え? 俺がチェックインするんですか?」
「そうよ。アンリがこの場にいないんだから、あなたしかいないでしょ」
まるでさも当然のように言われても。俺十六歳だよ? チェックインなんてした事ないよ。それをいきなり、しかも異世界でやる事になるとは。だがそんな事言っていられない。何故ならバヨネッタさんがイライラしているからだ。なので俺は素直に従って宿のフロントに進み出る。
「チェックインお願いします」
フロントには中肉中背の宿のご主人が穏やかな顔でこちらを見ていた。
「女性二名、男性二名。ともにツインのお部屋ですね」
とご主人。どうやらアンリさんがある程度の情報を宿に伝えてくれていたようだ。
「はい、それで」
「ではこちらの宿帳にお名前をご記入ください」
宿帳に名前? 俺の名前を書けば良いのか? 宿のご主人を見るがニコニコしているだけだ。と、スッとオルさんが俺の背後にやってきて、耳打ちしてくれた。
「バヨネッタ一行って書けば良いんだよ」
成程! 俺は『バヨネッタ』とまで書いて後ろを振り返る。
「一行のスペルが分かりません」
「あらら」
眉尻を下げるオルさんに、クスッと笑う宿のご主人。うう、情けないが、一行なんて文字、オルドランド語で書けないよ。困った俺の代わりに、オルさんが『一行』と書いてくれた。ほ~ん、そう言うスペルなのね。
「では前金でお一人様二千エラン頂きます」
おう、前金を払うタイプのお宿なのか。多分チェックアウトの時にも払うから、相当な額になりそうだな。などと考えている間に、オルさんが緑のカードで支払ってくれた。
「ご入金ありがとうございます。ではお部屋へご案内いたします」
カードでの入金を確認したご主人が、宿の使用人に、俺たちを部屋に連れて行くように指示を出す。
「全く、こんな事も一人で出来ないなんて、情けないわね」
部屋に着くまでの廊下で、バヨネッタさんに文句を言われてしまったが、返す言葉もない。
着いた部屋は意外とシンプルな造りだった。部屋はそれなりに広く、のびのび出来そうだが、調度品も凝った造りをしていないものばかりで、高級宿だが、最上級の部屋と言う訳でもなさそうだ。
まあ、俺は自分の部屋に帰るので関係ないが。いや、それなのに俺の分の宿代を払って貰うのだから、かなり迷惑をかけているか。申し訳ない。と心の中で謝っておく。
「じゃあ俺、帰りますね」
一回ベッドに横になった俺は、旅疲れで寝落ちしそうになるのをグッと堪えて起き上がると、窓から海を眺めていたオルさんに一言断りを入れる。
「ああ、もう帰るのかい? ならバヨネッタ様にも言ってから帰った方が良いよ」
「そうですね」
と返した俺は、部屋から出ると、すぐ横の部屋の扉をノックする。出てきたのはアンリさんだ。
「どうかしましたか?」
「いえ、家に帰ろうかと思いまして、ごあいさつに」
「ああ。バヨネッタ様。ハルアキくんが家にお帰りになるそうです」
事情を把握したアンリさんが、部屋でお茶を飲みながら寛いでいたバヨネッタさんに伝えてくれた。
「そう、分かったわ」
それを聞いたバヨネッタさんは素っ気ない態度だ。まあ、情けない姿見せちゃったしな。バヨネッタさんとはアイコンタクトで少しあいさつを交わし、自分の部屋に戻ると、もう一度オルさんにお別れのあいさつをして転移門から地球に戻った。日本は既に夜だった。
1
お気に入りに追加
327
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~
結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は
気が付くと真っ白い空間にいた
自称神という男性によると
部下によるミスが原因だった
元の世界に戻れないので
異世界に行って生きる事を決めました!
異世界に行って、自由気ままに、生きていきます
~☆~☆~☆~☆~☆
誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります!
また、感想を頂けると大喜びします
気が向いたら書き込んでやって下さい
~☆~☆~☆~☆~☆
カクヨム・小説家になろうでも公開しています
もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~>
もし、よろしければ読んであげて下さい
2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件
後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。
転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。
それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。
これから零はどうなってしまうのか........。
お気に入り・感想等よろしくお願いします!!
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
俺のスキルが無だった件
しょうわな人
ファンタジー
会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。
攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。
気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。
偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。
若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。
いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。
【お知らせ】
カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる