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始業式

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「よう!」


 四月。始業式当日。俺は二年生となり、今日は午前授業でもう帰宅。タカシと一緒に校門まで一緒に帰ろうかと思い、二人で廊下を歩いているところで声を掛けられた。


「は? うげっ!」


 タカシと二人で振り返ると、そこには見知った顔があった。


「祖父江兄……!」


 桂木翔真の部下で、忍者の末裔を自称する祖父江兄妹の兄、祖父江小太郎だ。


「なんでこんな所にいるんだよ? それもうちの制服着て」


「いや、制服着てるんだから分かるだろ? 転校してきたんだよ」


「転校?」


 タカシと二人で顔を見合わせ、怪訝な顔を祖父江兄へ向ける。何の為に? いや、分かっている。俺を、出来るならタカシも押さえておくつもりなのだろう。


「妹ちゃんはいないのか?」


 とタカシがいきなり欲望丸出しな質問を祖父江兄にぶつけた。


「あれ? 会わなかったか? 二人と同じ二年なんだが」


 首を傾げる祖父江兄。と言う事は兄は三年生か。


「会っていないなあ」と俺が答えていると、


「あ! お兄ちゃん! いた!」


 と女子の声がこちらへ向けられる。見遣ればそれは祖父江妹、祖父江百香だった。


「お兄ちゃん、対象二人ともあたしのクラスにいなかったんだけど……、って工藤春秋に前田隆!?」


 驚いている。素だろうか? なんだろう。前に会った時には、もっと頭の切れるイメージがあったんだけどなあ。見間違いだったかな。


「ええ!? 妹ちゃん違うクラスなんだ、残念」


 普通に自分に話し掛けてくるタカシに対して祖父江妹は、


「そうなんだよねえ。あたしも残念」


 と普通に返してきた。やっぱりプロだな。普通なら不躾に男子が話し掛けてきたら嫌だろうに。


 しかし祖父江兄妹をわざわざうちの学校に転校させてくるなんて、桂木も手段選んでこないなあ。


「俺、桂木さんの連絡先知っているから、何かあれば連絡するんだけど」


 俺がそうこぼすと、


「何かあれば、だろ? この二ヶ月くらい一切連絡取ってないみたいじゃないか」


 と祖父江兄。確かにね。でもそれは桂木も同じ事だ。もし俺から情報を聞き出したいなら、積極的に俺と連絡を取るべきだろう。


「どこまで俺の話を聞いているんだ?」


 俺は祖父江兄妹に尋ねるが、二人ともニヤニヤするばかりだ。はあ。俺たちは場所を空き教室に移した。



「こっちは進展があった。無人島からの脱出に成功して、今、カッツェル国のムシタと言う町にいる。多分、俺と桂木さんは同じ異世界に行っている」


「カッツェル国のムシタ? 聞いた事ないなあ」


 首を捻る祖父江兄。ああそうですか。


「こっちはモーハルドの事を聞き及んでいるよ。なんでもハイポーションの生産で有名みたいでな」


「確かにな。ハイポーションの噂はこっちでも良く耳にするよ。まあでも手に入れられるのは上流階級の人間に限るけど。そもそも普通のポーション自体手に入らないし」


 と祖父江兄は愚痴る。


「へえ、ハイポーションの生産国でもそんな感じなんだな。こっちもポーションが高騰してるよ」


 俺たちは顔を見合わせ同時に嘆息する。まあ、俺の方はヌーサンス島を押さえているから、ポーションに困る事はないだろうけど。桂木側はどうなんだろうか? 化かし合いの騙し合いって感じだな。


「まあ、とにかく、カッツェルからモーハルドは結構西にあるみたいでね。俺が協力者から得た情報では、普通に旅して三ヶ月って話だった。なので俺は今モーハルドに向けて旅の準備をしている最中だ。ただ俺は桂木さんと違って平日は学生やってるからな。そちらに合流するのは、半年以上先になると思っておいてくれ」


「了解。なんだよ報告する事結構あるんじゃないか」


 まあ確かにな。もしかしたらバヨネッタさんたちの事も相談した方が良いのかも知れないが、それは今回の話を聞いて、桂木がどうリアクションしてくるかにもよるか。


「へえ。なんかすっげえ事になってるな」


 完全に他人事のタカシは、呑気なものである。


「そういや、二人も異世界に、モーハルドに行ったりしているのか?」


「してるよー」


 と祖父江妹。そうなんだ。異世界と言うのは女子からしてもワクワクするものなのだろう。目が輝いている。


「今、あたしのレベルが八で、お兄ちゃんが十よ」


 …………そうか、普通はそんなものなのか。二十を超えている俺は、桂木から見て相当レベルが高かったんだな。でも祖父江兄妹には忍者としてのプレイヤースキルがあるから、俺よりレベルが低いからって油断は出来ないな。


「スキルは何か獲得出来たのか?」


「スキルを? 桂木さんじゃあるまいし、地球と異世界を往復する俺たちに、スキル獲得のチャンスなんて…………あるのか!?」


 え? 祖父江兄妹二人して驚いている。


「……祝福の儀ってのがあるんだけど」


「それは知っているスキル獲得の儀式だろ? でもそれは生まれたての赤ん坊が受ける儀式だ。……もしかして、俺たちでも受けられるのか!?」


「ああ、どうだろう? 国によるのかな? あれって身分証発行の行事だろ。身分証失くした人間に対して、金を払えば再発行してくれるって感じで、俺は祝福の義を受ける事が出来たけど。モーハルドはどうなんだろうな?」


 うわあ、二人して凄え難しそうな顔してるなあ。でも実際のところテレビで見た感じ、桂木たち異世界調査隊は、モーハルドで身バレしている。完全に地球から来ているのが分かっているのに、祝福の儀を受けさせて貰えるのだろうか?


「俺ら、これで帰るわ」


 祖父江兄妹はそう言い残すと教室を出て行ったのだった。


「その祝福の儀って、俺でも受けられるのか?」


 スキルに興味津々なのか、タカシが尋ねてきた。


「祝福の儀を受けるには、高額なお金が掛かります」


「チェッ、金掛かるのかよ。じゃあいいや」


 それで諦めるところを見るに、まあワンチャンあるならって感じだったんだろうなあ。



 その日、ムシタにやって来た俺は、旅に必要な物を買い揃える為に、オルさん、アンリさんと市場にやって来た。すると市場で一際大きな建物で、競りが行われていた。


「なんですかね?」


「ハイポーションみたいだね。モーハルドから商隊がやって来たんだろう。ムシタを起点にここから東へ、陸路や水路で各国へ運ばれて行くんだよ。」


 おお! タイムリー! ちょっと遠巻きに見ていると、大人がひと抱えする大きさの木箱単位で競りが行われているようだ。


「なんか、凄い値段ですね。卸しの段階で店頭で売られているポーションの五倍くらいになってるんですけど?」


「ああ、僕らが手に入れようと思ったら、ポーションの十倍は払わないといけないからね」


「十倍、ですか」


「だからって効果が十倍って訳じゃない。精々二.五倍ってところだ。嫌になるよ」


 成程。ハイポーションの研究がなされる訳だ。そりゃ上流階級しか手に入れられないわ。その上ポーションも高騰してきている。庶民は生きるの大変だなあ。ハイポーションをめぐる悲喜こもごもを目の当たりにしながら、俺はそんな事を思っていた。


「心配そうだね?」


「え? ええ、まあ」


「僕はそれ程危機感は感じていないよ」


 そうなのか? このままだと庶民は上流階級から足切りされてしまうんじゃなかろうか?


「僕らにはまだスキルがあるからね。事実最近は祝福の儀で、『回復』や『治癒』のスキルを授かる子供が増えているらしいよ」


 へえ、世の中良く出来てるんだなあ。遥か東南の大陸では魔王が誕生したって話だし、『回復』や『治癒』のスキル持ちは、今後どんどん増えていくのかもなあ。

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