42 / 625
食堂にて
しおりを挟む
航海七日目。俺の体調が回復したので、皆で船の食堂で食事をする事に。
オルさんみたいな貴族クラスになると、わざわざ食堂で食事をしたりしない。アンリさんみたいな使用人や、俺みたいな従僕が、食堂のキッチンで作られた料理を、部屋まで運んでくるからだ。
それと言うのも食堂は人が集まる場であり、人が集まれば諍いが起こるのが世の必定だから。らしい。中々に治安が悪いぞ異世界。
今回は俺がせっかく船旅をしているのだから、船室に籠もるばかりでは滅入る。と愚痴ったので、食堂での食事が実現した形だ。
食堂は賑わっていた。やはり貴族やら豪商みたいな、上流階級っぽい格好の人たちの姿は見受けられなかったが、結構な数の人々が飲み食いをしている。
俺たちは空いている席に座ると、俺とアンリさんで食堂のカウンターまで食事を取りに行く。
食事は船賃に含まれており、内容は日替わりで決められている。それは貴族であろうが冒険者であろうが変わらない。それにプラスしてお金を払う事で、付け合わせが増えたりお酒が飲めたりするシステムだ。
今日の献立は全粒粉のパンに塩漬け肉、それに豆と葉野菜のスープだった。一日の献立は決まっているので、朝昼晩これだ。流石に飽きるので、俺はお金を支払い全員分の果物を追加した。イルミンと言うさくらんぼのような果物だ。
それを持って席まで戻ってくると、バヨネッタさんとオルさんが酔っ払いに絡まれていた。成程、治安が悪い。
「お高くとまってんじゃねえぞ、お貴族様がよう!」
定型文みたいな絡み方だ。冒険者然としたチンピラが六人、俺たちの席を囲うようにして不平不満を口にしている。そんなものは自分の土地の領主にでも言えば良いのに。とも思うが、言えば反逆罪にでも問われて死罪にでもなるのだろうか? この場で絡んでいるのは、酒のせい? それとも船旅で気が大きくなっているから?
などと色々思考を巡らせてボーッと突っ立っていたら、バヨネッタさんが俺とアンリさんの存在に気付いた。
ダァンッ!
いきなり金の拳銃を天井にぶっ放すバヨネッタさん。その銃声に、一瞬にして食堂は静かになり、衆目がこちらに向けられる。
「あれって、海賊退治で大暴れした魔女じゃないか?」
「え!? 今回の襲撃で、ほとんどの海賊を一人で倒したって言う?」
「死んだな、あの絡んだ奴ら」
口々にバヨネッタさんの先の活躍を囁き合う食堂の乗客たち。対照にそれを耳にして絡んできたチンピラたちは顔を真っ青にしていく。
「去りなさい。そして二度と私の視界に入らない事ね」
バヨネッタさんの言葉に、「し、失礼しました!!」とチンピラたちは謝罪し、そのまま食堂を出て行ったのだった。
「なんかすみません」
「何故ハルアキが謝るの?」
俺がテーブルに食事を置きながら謝ると、バヨネッタさんに怪訝な顔をされた。
「いや、俺が食堂で食事がしたいなんて言わなければこんな事には」
「確かにそうね。でも、本当に食堂で食事をしたくなければ、私は断っていたわ」
バヨネッタさんの言葉にオルさんやアンリさんが首肯する。まあ、そう思って貰っているなら、ありがたい。と思うべきか。
食事としてはパンはなんか硬いし、肉は当然しょっぱいし、スープはなんかちょっと酸っぱかった。スープの葉野菜が酢漬けで、味付けのメインになっているようだ。
なんと言うか、あまり美味しくない食事なのだが、これまでの七日間ずっとこんな感じなのでもう慣れている。ただ、家の味は恋しくなるが。
「しかし、海賊退治、バヨネッタさん大活躍だったみたいですね」
無言で食事もなんだから、先程乗客たちが囁いていた事をバヨネッタさんに振る。
「別にどうと言う事はないわ。あの海賊退治の本当の立役者はハルアキなんだし」
「俺が?」
意味が分からず首を傾げる。
「あなたの勘の良さを初見で知っていたから、私は何か起こると思ってこの船の船長たちに話に行ったのよ。そうしたら案の定と言うべきか、海賊が現れたの」
はあ、あの悪寒が誰かの役に立つ事もあるんだねえ。
「多分だけど、ハルアキの勘の良さはギフトね」
「ギフト……ですか?」
バヨネッタさんにそう言われ、思い浮かぶのは、全然違うと分かっていても、季節の贈り物とか、結婚の引き出物である。
「この世において、神の力の一端である『能力』を行使するには、およそ三種類の方法があるのよ」
と語りだすバヨネッタさん。へえ、三種類。
「一つが魔法陣や魔道具を駆使して行使される『魔法』。もう一つが神や天使の祝福によって行使が可能になる『スキル』。そして最後が本人が生まれ持ち神から授かった天恵『ギフト』よ」
成程、俺は生来『勘の良さ』なり『危機回避』だかのギフトを持って生まれてきたって訳か。
「いや俺、異世界人ですけど?」
俺はこの世界の住人じゃないから、魔法やスキルとは無縁だと思うんだが。
「そうね。ハルアキの世界ではあまり意味がなかったかも知れないわね。だってハルアキの世界ではレベルアップとかしないのでしょう?」
そうだ。レベルアップしなければ、『勘の良さ』や『危機回避』もほとんど意味をなさないだろう。俺が地球でそれに気付かず生活していたとしても不思議じゃない。
「でもそれなら、バヨネッタさんの『鑑定』で見抜けなかったんですか?」
俺にギフトがあると言うなら、バヨネッタさんなり、桂木翔真なりが気付いていないのはおかしい。
「ギフトは隠れステータスなのよ。『鑑定』では見抜けないわ」
そうなのか、でもそれなら納得だ。そしてもう一つ納得した事がある。あの多重事故だ。
あの天使が起こした多重事故は、死者重症者行方不明者を多数出した大事故だった。その中で俺は軽症。友人たち五人がとんでもない目に合っていたと言うのに。これももしかしたら俺のギフトのお陰だったのかも知れない。
まあ、ギフトのお陰で今まで生き残れてきたんだとしたら、俺にそんなギフトを贈ってくれた神様に感謝だな。
オルさんみたいな貴族クラスになると、わざわざ食堂で食事をしたりしない。アンリさんみたいな使用人や、俺みたいな従僕が、食堂のキッチンで作られた料理を、部屋まで運んでくるからだ。
それと言うのも食堂は人が集まる場であり、人が集まれば諍いが起こるのが世の必定だから。らしい。中々に治安が悪いぞ異世界。
今回は俺がせっかく船旅をしているのだから、船室に籠もるばかりでは滅入る。と愚痴ったので、食堂での食事が実現した形だ。
食堂は賑わっていた。やはり貴族やら豪商みたいな、上流階級っぽい格好の人たちの姿は見受けられなかったが、結構な数の人々が飲み食いをしている。
俺たちは空いている席に座ると、俺とアンリさんで食堂のカウンターまで食事を取りに行く。
食事は船賃に含まれており、内容は日替わりで決められている。それは貴族であろうが冒険者であろうが変わらない。それにプラスしてお金を払う事で、付け合わせが増えたりお酒が飲めたりするシステムだ。
今日の献立は全粒粉のパンに塩漬け肉、それに豆と葉野菜のスープだった。一日の献立は決まっているので、朝昼晩これだ。流石に飽きるので、俺はお金を支払い全員分の果物を追加した。イルミンと言うさくらんぼのような果物だ。
それを持って席まで戻ってくると、バヨネッタさんとオルさんが酔っ払いに絡まれていた。成程、治安が悪い。
「お高くとまってんじゃねえぞ、お貴族様がよう!」
定型文みたいな絡み方だ。冒険者然としたチンピラが六人、俺たちの席を囲うようにして不平不満を口にしている。そんなものは自分の土地の領主にでも言えば良いのに。とも思うが、言えば反逆罪にでも問われて死罪にでもなるのだろうか? この場で絡んでいるのは、酒のせい? それとも船旅で気が大きくなっているから?
などと色々思考を巡らせてボーッと突っ立っていたら、バヨネッタさんが俺とアンリさんの存在に気付いた。
ダァンッ!
いきなり金の拳銃を天井にぶっ放すバヨネッタさん。その銃声に、一瞬にして食堂は静かになり、衆目がこちらに向けられる。
「あれって、海賊退治で大暴れした魔女じゃないか?」
「え!? 今回の襲撃で、ほとんどの海賊を一人で倒したって言う?」
「死んだな、あの絡んだ奴ら」
口々にバヨネッタさんの先の活躍を囁き合う食堂の乗客たち。対照にそれを耳にして絡んできたチンピラたちは顔を真っ青にしていく。
「去りなさい。そして二度と私の視界に入らない事ね」
バヨネッタさんの言葉に、「し、失礼しました!!」とチンピラたちは謝罪し、そのまま食堂を出て行ったのだった。
「なんかすみません」
「何故ハルアキが謝るの?」
俺がテーブルに食事を置きながら謝ると、バヨネッタさんに怪訝な顔をされた。
「いや、俺が食堂で食事がしたいなんて言わなければこんな事には」
「確かにそうね。でも、本当に食堂で食事をしたくなければ、私は断っていたわ」
バヨネッタさんの言葉にオルさんやアンリさんが首肯する。まあ、そう思って貰っているなら、ありがたい。と思うべきか。
食事としてはパンはなんか硬いし、肉は当然しょっぱいし、スープはなんかちょっと酸っぱかった。スープの葉野菜が酢漬けで、味付けのメインになっているようだ。
なんと言うか、あまり美味しくない食事なのだが、これまでの七日間ずっとこんな感じなのでもう慣れている。ただ、家の味は恋しくなるが。
「しかし、海賊退治、バヨネッタさん大活躍だったみたいですね」
無言で食事もなんだから、先程乗客たちが囁いていた事をバヨネッタさんに振る。
「別にどうと言う事はないわ。あの海賊退治の本当の立役者はハルアキなんだし」
「俺が?」
意味が分からず首を傾げる。
「あなたの勘の良さを初見で知っていたから、私は何か起こると思ってこの船の船長たちに話に行ったのよ。そうしたら案の定と言うべきか、海賊が現れたの」
はあ、あの悪寒が誰かの役に立つ事もあるんだねえ。
「多分だけど、ハルアキの勘の良さはギフトね」
「ギフト……ですか?」
バヨネッタさんにそう言われ、思い浮かぶのは、全然違うと分かっていても、季節の贈り物とか、結婚の引き出物である。
「この世において、神の力の一端である『能力』を行使するには、およそ三種類の方法があるのよ」
と語りだすバヨネッタさん。へえ、三種類。
「一つが魔法陣や魔道具を駆使して行使される『魔法』。もう一つが神や天使の祝福によって行使が可能になる『スキル』。そして最後が本人が生まれ持ち神から授かった天恵『ギフト』よ」
成程、俺は生来『勘の良さ』なり『危機回避』だかのギフトを持って生まれてきたって訳か。
「いや俺、異世界人ですけど?」
俺はこの世界の住人じゃないから、魔法やスキルとは無縁だと思うんだが。
「そうね。ハルアキの世界ではあまり意味がなかったかも知れないわね。だってハルアキの世界ではレベルアップとかしないのでしょう?」
そうだ。レベルアップしなければ、『勘の良さ』や『危機回避』もほとんど意味をなさないだろう。俺が地球でそれに気付かず生活していたとしても不思議じゃない。
「でもそれなら、バヨネッタさんの『鑑定』で見抜けなかったんですか?」
俺にギフトがあると言うなら、バヨネッタさんなり、桂木翔真なりが気付いていないのはおかしい。
「ギフトは隠れステータスなのよ。『鑑定』では見抜けないわ」
そうなのか、でもそれなら納得だ。そしてもう一つ納得した事がある。あの多重事故だ。
あの天使が起こした多重事故は、死者重症者行方不明者を多数出した大事故だった。その中で俺は軽症。友人たち五人がとんでもない目に合っていたと言うのに。これももしかしたら俺のギフトのお陰だったのかも知れない。
まあ、ギフトのお陰で今まで生き残れてきたんだとしたら、俺にそんなギフトを贈ってくれた神様に感謝だな。
1
お気に入りに追加
309
あなたにおすすめの小説
2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件
後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。
転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。
それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。
これから零はどうなってしまうのか........。
お気に入り・感想等よろしくお願いします!!
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
異世界で勇者をやって帰ってきましたが、隣の四姉妹の様子がおかしいんですけど?
レオナール D
ファンタジー
異世界に召喚されて魔王を倒す……そんなありふれた冒険を終えた主人公・八雲勇治は日本へと帰還した。
異世界に残って英雄として暮らし、お姫様と結婚したり、ハーレムを築くことだってできたというのに、あえて日本に帰ることを選択した。その理由は家族同然に付き合っている隣の四姉妹と再会するためである。
隣に住んでいる日下部家の四姉妹には子供の頃から世話になっており、恩返しがしたい、これからも見守ってあげたいと思っていたのだ。
だが……帰還した勇治に次々と襲いかかってくるのは四姉妹のハニートラップ? 奇跡としか思えないようなラッキースケベの連続だった。
おまけに、四姉妹は勇治と同じようにおかしな事情を抱えているようで……? はたして、勇治と四姉妹はこれからも平穏な日常を送ることができるのだろうか!?
幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する
あおアンドあお
ファンタジー
俺には二人の幼馴染がいた。
俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて
まるでない、凡愚で普通の人種だった。
そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。
だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が
勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。
自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の
関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に
衝撃な展開が舞い込んできた。
そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる