世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
40 / 625

海賊が現れた! らしい。

しおりを挟む
「海賊!?」


 熱があると言うのに、思わず大声で聞き返してしまった。頭がガンガンする。


「ああ。恐らく自走船であろうものが、この船の周りを取り囲んで、うろちょろしているよ」


「なんですか? その『恐らく』とか『あろう』とか」


 情報が曖昧過ぎる。


『恐らく『隠形』の魔法陣を船に施し、船自体が見えないのだろう』


 とアニンが久しぶりに口を開く。成程、引き波しか見えないからオルさんは『恐らく』とか『あろう』とか言っていたのか。流石は元海賊のアニン。見ていたかのように事情が分かっているな。


「しかし海賊ですか。この船には冒険者も結構な数いるのに、良く襲う気になりましたね」


「ああ、そうだね」


 何より、この船には、


 ドーンッ!!


 そこに甲板から爆発音が響く。


「どうしました?」


「海賊船の一隻が破壊されて沈んだよ」


 ああ、バヨネッタさんによる砲撃か。そう、何よりこの船にはバヨネッタさんが乗船しているのだ。海賊たちにはご愁傷さまと伝えたい。きっとバヨネッタさんはこの事態を予測して寝室から出て行ったのだろう。



 その後も、甲板から爆発音は鳴り響き、この船を取り囲んでいる海賊船はドンドン沈んでいっているそうだ。


 まあ、バヨネッタさんに任せておけば安心かな。と思っていたら、ドンドンドンッと船室の扉が何者かによって叩かれた。


 俺、オルさん、アンリさんは「何事か?」と顔を見合わせる。


「お客様! この船の船員をしている者です! 現在本船は海賊の襲撃を受けており、大変危険です!」


 船員? 海賊の襲撃なんて分かっているよ。


「そこで我々はお客様の安全を考慮し、食堂にて大型の結界を展開する事を決定しました! お客様! 直ちに食堂へとお集まりください!」


 ああ、船員たちもバヨネッタさん任せに、手をこまねいて見ていただけじゃないのか。


 アンリさんが「どうしましょう?」と目で俺とオルさんに訴えてくる。


「やめた方が良いです」


『やめた方が良い』


 俺とアニンの声が被った。


『我々はハルアキの『聖結界』で護られているんだ。今更、食堂に行く意味がない。病人がいては足手まといでもあるだろう』


 アニンの言に、オルさんも首肯する。それを聞いたアンリさんは、「では、お断りいたして参ります」と寝室から出ようとしたので、俺とアニンで慌てて止める。


 何故止めるのか、と首を傾げるアンリさんに、ちゃんと説明しなくては、と思っていたところに、バキンッと言う破壊音が船室の扉から聞こえてきた。やっぱりか。


「アンリさん、オルさんも、出来るだけ俺の側に寄っていてください」


 アンリさんも流石に異常事態だと感じ取ったのだろう。俺の指示に素直に従って、俺の側に来てくれた。寝室に『聖結界』を張っているとは言え、何があるか分からないからな。


 壊した扉から、ガヤガヤと何やら複数人の声が聞こえてくる。その話し方には、明らかに先程までの船員らしさはなく、もっと粗野な口調に変わっていた。


 やっぱり先程の船員はブラフだったか。そう思っていると、この寝室の扉も壊され、無理矢理開けられた。


「あれ? 何だよ。誰もいないと思っていたら、こんなところで隠れんぼかあ?」


 そう言って剣を片手にゲスな笑みを浮かべる顔は、見覚えがある。初日に甲板でぶつかった冒険者だ。


「なんだ? 誰かいんのか?」


 冒険者然とした男の言葉に反応して、船室を漁っていた男の仲間が寝室前に集まってきた。数は十人以上いる。手には武器の他にも、船室の調度品などが握られていた。


「何だよ、女いねえのかよ」


 と失礼な事を発する仲間の一人。いや、アンリさんがいるが?


「何なんですかあなたたちは?」


 そんな男たちに、アンリさんが果敢に尋ねる。その何がおかしいのか、男たちは顔を見合わせ互いに笑い合った。


「アンリさん、こいつら海賊の仲間だよ」


 俺の言葉に、「え!?」とアンリさんが驚き後退り、笑い合っていた男たちは真顔になる。


 恐らくはこの男たちが海賊たちと連絡を取り合って、この船を襲撃させたのだろう。先程の船員の真似にしても、素直に扉を開けていたら、どんな目に遭っていたか分からない。危機一髪だったな。


「へえ、何か事情通っぽいねえ君ぃ」


 男は睥睨へいげいするように、ベッドに横になる俺を見下していた。そんな男を仲間の一人が肘でつつく。


「分かっている。俺たちの事を知っている奴らは生かしちゃおけねえからな!」


 そう言って男は寝室に無粋に入ってこようとして弾き飛ばされた。『聖結界』に。驚愕する男と仲間たち。


「何してくれてんだ!」


 怒った仲間の一人が寝室に突入してこようとするが、男同様に『聖結界』に弾かれた。あ、こいつらあんまり頭良くないな。


 多分こいつらは下っ端で、海賊たちが本隊なんだ。そうでなければ、今、海賊船がバヨネッタさんによってバンバン撃ち落とされていっているのに、ここで呑気に火事場泥棒みたいな事はしていない。俺なら逃げている。こいつら、自分が捨て駒って自覚もないんだな。


「くそったれ!」


 男たちはそう言いながら、何が男たちを駆り立てるのか、次々と寝室に突撃をかましてくる。こんな奴らに付き合いたくはない。が、ブンマオ病で動けそうもない。


「凄いなハルアキくんの『聖結界』は」


 俺の横に身構えるオルさんがちょっと興奮している。手にはいつの間にか三十センチ程の魔法の杖を持っていた。いざと言う時、これで攻撃する為だろう。そうならなければ良いが、恐らくそうも言っていられない。


「オルさん、アンリさん、もうすぐ『聖結界』は破られます」


 二人は俺の言に驚いて、俺の顔を覗き込む。


「普段であれば大丈夫なんですか、現在進行形でブンマオ病の回復の為、『回復』のスキルを併用していますから。今、俺の魔力がガンガン減っていってるんです。覚悟を決めておいてください」


 二人のつばが鳴る音が聞こえた。


 そして男たちのその後の数度の突撃により、俺の『聖結界』は壊されてしまった。


「よっしゃあ! 結界は壊れたぞ!」


「雷よ!」


 壊れた事に喜ぶ男たちに、オルさんが魔法の雷で攻撃する。これによって一人が倒れた。


「てめえ! 良くもやってくれたなあ!」


 怒る男たちが、一斉にこちらに襲い掛かってきた。


「アニン!」


『ああ!』


 俺はアニンを巨大な盾にして、その一度目の攻撃を防いだが、そこまでが限界だった。アニンを盾の姿に維持する事も出来ず、破綻した盾の隙間から男たちが再び襲い掛かってくる。


 オルさんが応戦するが多勢に無勢だ。アンリさんが俺の服を掴んで震えている。ここまでか。と天を仰ぐ。


 ダァンッ!


 そこに炸裂音が鳴り響いた。直後、襲って来た男の一人が俺のベッドに突っ伏す。そして男が倒れた事で寝室の向こう覗けた。そこには、金と銀の二丁拳銃を持ったバヨネッタさんが立っていた。


 ダァンダァンダァンダァン…………!!


 バヨネッタさんの二丁拳銃が火を吹き、そして男たちが倒されていく。俺たちの苦戦が嘘のように、バヨネッタさんはあっという間に男たちを退治して見せたのだった。


「まったく。ハルアキ! 『聖結界』はどうしたの?」


「破られました」


「やぶ……!?」


 そんな馬鹿な、とバヨネッタさんの顔が語っている。そこをオルさんが補うように説明してくれるが、何を言っているのか聞き取れない。視界はそこで暗転し、俺は気絶したのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界で勇者をやって帰ってきましたが、隣の四姉妹の様子がおかしいんですけど?

レオナール D
ファンタジー
異世界に召喚されて魔王を倒す……そんなありふれた冒険を終えた主人公・八雲勇治は日本へと帰還した。 異世界に残って英雄として暮らし、お姫様と結婚したり、ハーレムを築くことだってできたというのに、あえて日本に帰ることを選択した。その理由は家族同然に付き合っている隣の四姉妹と再会するためである。 隣に住んでいる日下部家の四姉妹には子供の頃から世話になっており、恩返しがしたい、これからも見守ってあげたいと思っていたのだ。 だが……帰還した勇治に次々と襲いかかってくるのは四姉妹のハニートラップ? 奇跡としか思えないようなラッキースケベの連続だった。 おまけに、四姉妹は勇治と同じようにおかしな事情を抱えているようで……? はたして、勇治と四姉妹はこれからも平穏な日常を送ることができるのだろうか!? 

幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する

あおアンドあお
ファンタジー
俺には二人の幼馴染がいた。 俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて まるでない、凡愚で普通の人種だった。 そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。 だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が 勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。 自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の 関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に 衝撃な展開が舞い込んできた。 そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...