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ギルドに違いはありますか?

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「冒険者ギルド?」


 オルさん家の応接室で、バヨネッタさんは、眉間にシワを寄せて軽蔑するような視線を向けてきた。


「駄目ですか?」


 バヨネッタさんだけでなく、オルさん、アンリさんにまで首を横に振られてしまった。



 異世界の俺は根無し草だ。つまり身分がない。これだと国境どころか領境を越えるのも難儀するらしい。まあ、日本だって身分を証明するものを持たない人間には厳しいからな。


 ではどうすればよいのか。普通、町民や村民などであれば、生まれると神殿やら教会に行って神の祝福を受け、そこで聖録と言うものに記帳し、控えとして名前の書かれた木板を貰うらしい。これが身分証になる訳だ。


 何か理由があってこの祝福や記帳がなされなかった場合、その人は棄民と呼ばれ世間から爪弾きにされる事もあるらしい。戦争や飢饉、疫病の後には、棄民が結構出るのだとか。


「まずは教会に行って祝福を受ける事ね」


 とバヨネッタさん。


「教会、ですか?」


「嫌そうね?」


「嫌と言うか、俺の国って、向こうの世界でもちょっと特殊で、あまり宗教に関心がないお国柄なんですよ」


「はあ? 何それ?」


 何それ? と言われても、「そうなんです」としか言えない。


「まあ、あまり気にする事ないよ。僕も信心深くないしね。身分証なくしたから、再発行に来ました。くらいでいいんだよ」


 とオルさん。


「うまくいけば、祝福でスキルを授かる可能性もあるからね」


「へえ! でもそれだと、身分証をなくしたって偽って、何回も祝福受ける人がいるんじゃないですか?」


「確かにね。でも身分証の再発行には結構なお金が掛かるし、神殿や教会の関係者の中にも、鑑定や看破のスキルを有する人間はいるからね。変にいくつもスキルを有していれば、疑われて衛士や官憲を呼ばれ、そのまま牢屋行きなんて人もいるよ」


「マジですか?」


「虚偽罪はどの国でも犯罪よ」


 とバヨネッタさん。


「いや、だったら身分証なくしたなんて嘘はいけないんじゃ?」


「そのくらい大丈夫よ」


 バヨネッタさんの言に、オルさんとアンリさんもうんうん頷いている。成程、いくら嘘吐くなと言ったところで、人間生きていれば嘘の一つも吐くものだ。要は欲張らなければ良い。と言う事か。


「その後ギルドに行きましょう。木札の身分証だけじゃ、国越えには心許ないわ」


「はい! 俺、冒険者ギルドがいいです!」


 ここで最初のバヨネッタさんに戻る。



「なんで冒険者ギルドなの?」


 何故? そう言えば何故だ? ああ、知っているのが冒険者ギルドだったからだ。


「いや、特に意味はないけど、冒険者ギルドって駄目なギルドなんですか?」


「駄目ではないけど、あそこは金もコネもない人間が、滑り止めで入るギルドだからね。商人ギルドや職人ギルドからしたら確実に格が落ちるね」


 オルさんの言に、バヨネッタさんもアンリさんも頷いている。


「そりゃあ、冒険者ギルドでも、上位の冒険者は凄いものだけど、下は酷いし、這い上がるのは難しいようだね」


「そうなんですか」


 まあ確かに、ラノベやマンガでも冒険者の上位ランカーと言うのは、なるのが大変と相場が決まっている。って言うか、どこだってそうじゃないのか?


「その、商人ギルドと職人ギルドってのは、ランク上げが簡単なんですか?」


 俺の問いに、オルさんが答えてくれた。


「簡単って言うか、商人ギルドは商人だけあって、ギルドに納めるお金によってランクが変わってくるし、職人ギルドなんかは、モロにコネが関係してくるね。店持ちの長男に生まれれば、それだけで人生勝ち組だよ」


 何ともシビアな世界だなあ。


「でも、そうなるとやっぱり、金もコネもない俺では、冒険者ギルドが妥当なのでは?」


 三人から呆れたように嘆息された。


「私は嫌よ。ランクの低い冒険者を連れ歩くなんて」


 とバヨネッタさん。連れ歩くのも嫌って、そんなに低ランク冒険者とは社会的地位が低いのか。


「まあ、そう言う訳だから、ハルアキくんには、商人ギルドに所属して貰うよ。お金は僕が持つから。それに職人だと国越えの時、商人より税を多く取られるしね」


 オルさんの薦めで、俺は商人ギルドに所属する事になりそうだ。


「商人……ですか」


「何か不安そうだね」


「もしかして、所属するのに、テストなんかあるのかなあって」


 冒険者ギルドより格が高いとなると、そう言うのもあるのではないだろうか?


「テスト? そんなのあったかな?」


 オルさんとバヨネッタさんが顔を見合わせる。


「あります」


 そこに答えを出したのはアンリさんだ。


「そうなのかい?」


 とオルさんがアンリさんに尋ねる。


「昔、商人ギルドに所属しようと思った事があるのですが、あそこは最低限読み書き計算が出来ないと所属出来ないのです。なにせ商人ですから」


 成程、それはそうだ。そして困った。


「俺、計算は出来ますけど、こっちの世界の読み書きとか出来ませんよ?」


「ああ」と頭を抱える三人。


 この日からオルさんの付きっきりで、地球で言うところの英語にあたる、オルドランド語の勉強が始まった。まあ、勉強と言っても、計算は出来るから、自分の名前と百個程の単語を覚えるだけだったけど。

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