世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
27 / 638

島の北へ

しおりを挟む
 新しいナイフを手に入れた。桂木翔真が選んでくれたナイフじゃない。その日俺は何を血迷ったのか、桂木翔真のお世話になるのが嫌で、刃はダマスカス鋼、グリップは貝殻を磨いて虹色に輝かせたもの。しかも折りたたみ式フォールディングナイフ。贈答用かな? と言う派手なものを買ってしまい、後日実用的なものを買い直した。


 その新しいナイフの切り初めって事で、鳥の解体に挑戦。晴れて俺は鳥の解体に成功したのだった。やっぱりナイフの切れ味が良いと、思った所をスッと切れる。


 血抜きをし、羽をむしり、肉を冷やす。肉は冷やしておかないと、雑菌が繁殖して不味くなるそうだ。


 今回内臓を先に抜く事にした。肛門に傷を付け、ゴム手袋を着けた右手で、でろんと全部の内臓を引きずり出す。グロいが健康な内臓はテラテラしていて美しくもある。まぁ、食べずに捨てちゃうんだけど。


 内臓の入っていた鳥の内側を水魔法で綺麗に洗い、肉をバラしていく。もも肉、むね肉、手羽にササミ。鳥の部位に詳しくない俺としては、これくらいだろうか? そういや骨からは鶏ガラが食えるんだよな。


 小型のBBQグリルの上に、鍋を置いて洗った鶏ガラをいくつか入れて野菜も加え、水で煮込む。味付けは塩胡椒だけ。


 鳥肉は串焼きにする。部位毎に串に刺していき、塩胡椒で味付けすると、鶏ガラスープの鍋を横にずらして、BBQグリルで焼いていく。


 まだ肉が余ったので、ミンチにして肉団子にして鍋の具にした。


 う~ん、味付けが塩胡椒しかないのが辛いな。


 今のうちに醤油を持ってこよう。俺はBBQセットをその場に残し、転移門で自室へ、台所から醤油、ついでに味噌、ソース、ケチャップ、マヨネーズをかっ払ってきた。


「フフン。これで美味いものが食えるぞ」


 BBQ会場に戻ってきてみると、串焼きの方はもう食べられそうになっていた。


 もも肉をばくりと食らいつく。…………肉が硬い。そう言えば聞いた事がある。闘鶏などで闘う事もある軍鶏しゃもは肉が硬いと。この鳥もそうなのだ。戦う鳥だから、どうしても肉質が筋肉質で硬くなってしまうんだ。


 初めて自分で解体した鳥。食えない事はないけど、硬い。味はまあ悪くないか。良く噛まないといけないけど。ちゃんと血抜きをしたから、血生臭さはないけど。食べてる餌のせいだろうか? 少し臭い。


 さて、鍋の方はどうだろう? 器にすくい、一口飲んでみる。う~ん、やっぱり独特の臭いがあるなあ。でも一緒に煮込んだ野菜がそれを消してくれている気がする。串焼きよりも食べやすいかも。


 肉団子を食べてみる。あ、これは美味しいかも知れない。結構パクパクいけるぞ。俺は鍋の方が好きかも知れない。


 ああ、でもこのままでは他の串焼き食べないと丸焦げになってしまう。調味料を使えば、食べられるようになるか?


 俺は持ってきた調味料を、ちょっとずつ串焼きにかけていく。う~ん、調味料の香り。良き。


 調味料がかかった。味は美味くなった。が、やはり肉が硬い。どうすりゃいいんだ? この鳥が珍しく硬いだけなのだろうか? 魚はそんな事なかったもんなあ。



 食事を食べ終わった俺は、残った食器類を魔法『浄化水』で綺麗にする。この魔法は、浄化魔法と水魔法をミックスさせたものだ。


 浄化と言うものは汚い物や場所を洗浄する魔法で、身体や服、食器や道具、武器についた汚れを綺麗に浄化する魔法である。


 まあ、ぶっちゃけこの浄化の魔法があれば、プラスして水魔法を使う必要はないのだが、中空に浮かぶ浄化水に食器やBBQグリルなどをぶち込んで、ゴシゴシ洗う。この洗って綺麗になっていくのが、なんだか心が洗われてスッキリするのだ。


「ふう~。綺麗になったな」


 食事の汚れで濁った浄化水から食器類を取り出す。水は浄化水に取り残されるので、食器類は取り出してすぐカラカラだ。


 食器類を全部取り出したら、魔法を解除する。汚水が地に落ち、染み込んでいった。



 さて、腹は膨れた。今日も島を探索しよう。前は島の東側に向かったから、今日は西から回って北まで行ってみよう。


 島の西には特筆するものがなかった。なんか林が続く。そう言えば林に注目した事はなかったな。


「この木はなんて木なんだ?」


 杉や檜のように真っ直ぐな木を指差し、アニンに尋ねる。


『シデルの木だな。建材にする木だ』


 ふ~ん。ぐるりと周りを見渡すと、このシデルの木がそこかしこに生えている。


「あんまり他の木をみないな」


『シデルは建材として真っ直ぐ育てる必要かあるからな。平地で育てていたんだ。果実のなるビヨやバッコロなんかは山でも見掛けるぞ』


 成程。ビヨやらバッコロなんて果実があるのか。食べてみたいな。


『今は時期じゃないがな』


 なんだよ。



 島の西を抜けて、北に来た瞬間、ゾワッとした。


 ドキドキと早鐘のようにうるさくなった俺の心臓を落ち着ける為に、何度も深呼吸する。直ぐに敵に見つからないようにしゃがみ、じっと動かない。


 と、北の奥の方に、巨大な影がうねっているのが見えた。何だあれ?


 大きさから、俺の腰程あるベナ草の二倍以上の高さがある。壁のようにも見えるが、うねっているのだ。生き物なのだろう。それが北を塞いでいた。見える範囲全てこの壁だ。これ以上こちらへ来るなと言う意思表示だろうか?


 そしてその巨体は何かを見つけたらしく、巨体とは思えない素早さで動き出した。


 ガバアッ!! と壁の先端が何かを食らい込み、飲み込むためにその頭を持ち上げた。蛇だった。大きな大きな蛇が同族の蛇を一度に何匹も飲み込んでいる。何だこの地獄。大きな蛇なんて言葉が可愛く思える。


 だってそうだろう? 高さは俺の身長以上。そしてその長さは恐らく十メートルとか二十メートルどころじゃない。百メートルはある。あれは規格外だ。


「逃げるぞ」


『当然だ』


 今回はアニンも戦えとは言わなかったな。目が合ってないしな。俺たちはこの大蛇に見つからないように草むらの中を、ゆっくりゆっくり下がっていく。


 だが大蛇は先程食べた蛇では物足りなかったのか、大きな頭をのそりと持ち上げ、周囲を窺っている。


 やばいなあ。


『何がだ?』


 蛇には熱を感知するピット器官って器官があるんだ。それは目に見えなくても、獲物の温度を感じ取る器官なんだよ。


『つまり、隠れていても駄目。と言う事か』


 俺は首肯する。


 俺は草むらから、出来るだけ音を出さないように大蛇から遠ざかっていくが、どうしても音が出てしまい、その度にドキドキする。


 そしてそのドキドキが頂点に達したところで、勘が「後ろ!」と叫ぶので、振り返ると、大蛇が大口開けていた。


「…………!」


 悲鳴を上げそうになるのを、口を両手で抑えて駆け出す俺。そんな俺に向かって、大蛇が大口開けて襲い掛かってきた。


 ドーンッ! 俺の横に大蛇が顔面ごとスライディングしてきた。


「ひっ!?」


 俺は避けた訳じゃない。元々大蛇の狙いが俺の横だったのだ。大蛇の口には、大きな蛇が咥えられていた。


 え? 何? 蛇が好物なの?


 だが今がチャンスだ。俺は全速力で北から逃げ出した。



「ぜぇ……、ぜぇ……、ぜぇ……」


 良かった。生きてる。俺は南の港跡で、大の字になって天を仰ぎ息を整えていた。


「何だあのバケモノ!?」


『確かにのう。我らは眼中になかったようだが。同族食いとは、また稀有な奴であった』


「同族食いってそんなに珍しい事なの?」


『同族を倒したところでレベルアップしないからな』


 そうなんだ。まあそうだよな。それだと殺人や戦争の絶えない世界になってしまう。でも大蛇にしろ大トカゲにしろ、奴らは同族食いをしていた。何かおかしくなっているのかも知れない。孤島だから食料不足か? でもカエルは大量発生していたしな。


 まあ、俺の考える事じゃないか。北は無視して、島脱出を本格的に始めるか。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

バイクごと異世界に転移したので美人店主と宅配弁当屋はじめました

福山陽士
ファンタジー
弁当屋でバイトをしていた大鳳正義《おおほうまさよし》は、突然宅配バイクごと異世界に転移してしまった。 現代日本とは何もかも違う世界に途方に暮れていた、その時。 「君、どうしたの?」 親切な女性、カルディナに助けてもらう。 カルディナは立地が悪すぎて今にも潰れそうになっている、定食屋の店主だった。 正義は助けてもらったお礼に「宅配をすればどう?」と提案。 カルディナの親友、魔法使いのララーベリントと共に店の再建に励むこととなったのだった。 『温かい料理を運ぶ』という概念がない世界で、みんなに美味しい料理を届けていく話。 ※のんびり進行です

最強剣士異世界で無双する

夢見叶
ファンタジー
剣道の全国大会で優勝した剣一。その大会の帰り道交通事故に遭い死んでしまった。目を覚ますとそこは白い部屋の中で1人の美しい少女がたっていた。その少女は自分を神と言い、剣一を別の世界に転生させてあげようと言うのだった。神からの提案にのり剣一は異世界に転生するのだった。 ノベルアッププラス小説大賞1次選考通過

【完結】婚活に疲れた救急医まだ見ぬ未来の嫁ちゃんを求めて異世界へ行く

川原源明
ファンタジー
 伊東誠明(いとうまさあき)35歳  都内の大学病院で救命救急センターで医師として働いていた。仕事は順風満帆だが、プライベートを満たすために始めた婚活も運命の女性を見つけることが出来ないまま5年の月日が流れた。  そんな時、久しぶりに命の恩人であり、医師としての師匠でもある秋津先生を見かけ「良い人を紹介してください」と伝えたが、良い答えは貰えなかった。  自分が居る救命救急センターの看護主任をしている萩原さんに相談してみてはと言われ、職場に戻った誠明はすぐに萩原さんに相談すると、仕事後によく当たるという占いに行くことになった。  終業後、萩原さんと共に占いの館を目指していると、萩原さんから不思議な事を聞いた。「何か深い悩みを抱えてない限りたどり着けないとい」という、不安な気持ちになりつつも、占いの館にたどり着いた。  占い師の老婆から、運命の相手は日本に居ないと告げられ、国際結婚!?とワクワクするような答えが返ってきた。色々旅支度をしたうえで、3日後再度占いの館に来るように指示された。  誠明は、どんな辺境の地に行っても困らないように、キャンプ道具などの道具から、食材、手術道具、薬等買える物をすべてそろえてた。  3日後占いの館を訪れると。占い師の老婆から思わぬことを言われた。国際結婚ではなく、異世界結婚だと判明し、行かなければ生涯独身が約束されると聞いて、迷わず行くという選択肢を取った。  異世界転移から始まる運命の嫁ちゃん探し、誠明は無事理想の嫁ちゃんを迎えることが出来るのか!?  異世界で、医師として活動しながら婚活する物語! 全90話+幕間予定 90話まで作成済み。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

処理中です...