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ヤギ
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翌日。崖下のベースキャンプを引き払う。タープやローチェア、クーラーボックスなどのキャンプ道具を自室の押入れに片し、地下墓地に戻ってきた俺は、崖下からのトンネルの天井に、魔法陣を貼った。
「爆ぜろ」
俺がそう唱えると、ボンッと結構な爆発が起こり、トンネルが崩落した。
「うわあ、爆破魔法使うとあんなんになるのか」
『レベルが上がったからじゃないか?』
とアニン。成程、その可能性は高いな。まあ、何にせよ、トンネルで爆破魔法を使わなかった俺、グッジョブ。
その後、外に出た俺は、地下墓地から外に通じるトンネルも魔法陣で爆破、崩落させる。
『良かったのか?』
「何が?」
アニンが何を尋ねているのか分からない。
『装飾品類を持ち出せば、魔法の足しになるなり、道中の金に替える事も出来ただろうに』
「俺に墓場泥棒しろって言うのかよ」
確かに遺骨には、魔石で作られたらしいネックレスや腕輪などが着けられていたが、それを遺骨から強奪する勇気は俺にはない。何か呪われそうだし。
『まあ、ハルアキがそれで良いと言うのであれば、我は構わん』
気を使ってくれてありがとう。
「さて、これからどこに向かえば良いのやら」
周りに見えるのは鬱蒼とした林と、崖下から脱出した山ぐらいだ。人里どころか生活の痕跡は欠片も見付からない。
俺は今、つなぎに安全靴、腰には包丁、手には魔法陣付きの手袋、腕にはアニンの腕輪が着けられている。背負うリュックの中には水のペットボトル二本に携行食、タオルや雨具などが入っている。テントやら重くなるものは持ってきていない。すぐに家に帰れるしね。
崖下から外に出れはしたものの、いきなりマップが広がって右往左往って感じだ。こんな場合のセオリーと言うのも知らないしな。
『ならばこの山を登ると良い。ここら辺で一番高い場所だ。辺りが一望出来るぞ』
成程。まずは周辺確認か。それっぽいな。
と言う訳で、俺はアニンの指示に従い、俺が閉じ込められていた、この山を登る事にした。
今俺がいるのは山の西側で、南に登山道があるとの話なので、そちらへ向かう。
いざ歩くと、歩き辛い。腰までの草が生い茂っているので、それを掻き分けながら進まないといけないので、進むのに時間が掛かるのだ。流石に長く放置された場所である。
何とか半日掛かりで南の登山道まで来たが、そこまでで疲れ切ってしまった。しかもアニンが語る登山道は、ここまでと同じく草に道を塞がれている。
はあ。今日はここまででいいかなあ。
翌日。登山道だった場所を登る。登山道と言うには急だし、草に道を塞がれているので登り辛いったらない。う~ん、安全靴ではなく、本格的な登山靴にした方が良いだろうか? 周りをよく見ると俺の歩きを妨げているのは、同じ草のようだ。それが一面に生い茂っている。生命力あり過ぎじゃね?
草を掻き分け登山道をしばらく進むと、前方でガサガサッと葉が揺れる音がした。
魔物か? と俺はアニンを黒剣に変化させて戦闘に備える。
ガサガサと揺れる音は段々と近付いてきて、葉音を起こしている奴は、俺の五メートル程手前で止まった。そして顔を出す。
そいつは茶色の長毛に覆われ、頭には二本の角がある。見るからに、ヤギだ。結構大きい。
『ヤギだな』
ヤギだった。ヤギはここら辺に生い茂っている草をはみながら、俺をジーッと見詰めている。いや、俺も見詰めているから、おあいこだけど。
『ここを引き払う時に逃げ出した奴が、野生化したのだろう』
成程。危険なんだろうか?
『そんな事はない。ヤギだぞ?』
なら無視していいか。と剣の構えを解いたのがいけなかった。
ヤギは俺が気を抜いたのを見逃さず、いきなり俺に向かって突進してきたのだ。
「うおっ!? 危ねえ!?」
間一髪で避けたつもりだったが、頭の角が腕をかすめ、切れて血が垂れる。
「危険はないんじゃないのかよ!?」
『ふむ。我の認識は彼奴らが野生化する前のものだったからな。我が寝ている間、彼奴らも戦わずには生きてこれなかったのかも知れんな』
ああ、そうですか。俺は改めてアニンの黒剣を構えると、直ぐ様それをヤギに向かって振り下ろした。
黒剣から放たれる刃の波動。いくら攻撃的とは言え、ヤギだ。これでお終いだろう。と思っていたら、避けられた。
「マジか!? 避けるのかよ!?」
更に角を突き出し突進してくるヤギ。ヤギ凶暴。
俺はその突進を何とか躱すと、通り過ぎていくヤギ目掛け、振り向きざまに黒剣を横薙ぎに振るう。そこら辺の草が刃の波動でザッと一閃されるが、なんとヤギは高くジャンプしてそれを回避した。
マジか!? ヤギ手強いぞ。
ヤギはジャンプしてジャンプして、そのまま飛び跳ねながら頭突きをかましてきた。
それを横に回転して避ける俺。しかしヤギの攻撃は止まらず、ジャンプしながら頭突きしてくる。くっ、ジャンプのせいで攻撃のタイミングが取り辛い。
ジャンプ頭突きを回転しながら避け、避け、避け、合間に黒剣を振るうがこっちの攻撃も全て避けられる。
くう~。明らかに崖下のカエルなんかよりも眼前のヤギの方が格上だ。このヤギ、レベルが高いのかも知れない。
何度となく俺とヤギは交錯し、その都度ヤギの角で引っ掻かれ傷が増えていく。
「だあッ! もうッ! 面倒臭え!」
俺は黒剣を地面に刺すと、ジャンプ頭突きをしてくるヤギを素手で迎え撃つ。
鋭いその角を両手でガッチリ掴む。ヤギの突進力に、数歩後退させられる俺だが、なんとか堪え切ると、ヤギをその場で投げて地面に叩き付けた。
驚きで、「メェ~ッ!?」と声を上げるヤギ。俺は素早く黒剣を掴むと、ザクッと立ち上がろうとするヤギの首を刎ねたのだった。
「はあ~~~~」
すぐ側で血を流すヤギを横目に、ドシンと腰を降ろし嘆息する。まさかヤギに手こずるとはなあ。
身体を見ると中々傷だらけだ。傷が治っていない事から、レベルアップはしなかったようだ。
「どうしよ、この傷」
『その程度、ベナ草ですぐ治るだろう』
「ベナ草って?」
『薬草だ。そこら辺に生えているのを千切って傷口に塗り込んでも良いし、口から摂取しても自然治癒力が向上して回復してくれるぞ。村の人間たちは乾燥させて粉にし、水に溶かして使っていたな』
成程、薬草か。アニンの話を聞く限り、ポーションの原料って感じだな。
「で、そのベナ草? ってのはどこにあるんだ?」
『どこも何も、そこら中に生えているだろう』
そこら中って、もしかして、この生い茂っている雑草の事か?
『ベナ草は生命力が高いからな。放っておくと辺り一面ベナ草だらけになってしまうのだ』
それ、薬草って言うより害草って感じだな。まあ、良いか。
俺はその辺のベナ草の葉を一枚千切る。葉がヒダヒダになっている感じが、ヨモギっぽい。
噛んでみると、苦かった。まあ、良薬口に苦しだな。何枚かベナ草を千切ると、俺は傷口にこすりつけた。
腕の傷にこすりつけると、傷が速攻で塞がっていき、あっという間に痕も残らず回復してしまった。う~ん、凄い。流石は魔法のある世界の薬草だ。
俺は今後の冒険の事を考え、ベナ草を何本か茎ごと採取すると、リュックの中からポリ袋を出してそこに仕舞った。乾燥させてポーションにしてみるのも良いな。
傷が回復し、ペットボトルの水で喉を潤した俺は、横のヤギの腹を裂く。肉や毛皮の為じゃない。魔石回収の為だ。肉や毛皮も欲しいところだが、どうすれば良いのか分からん。
「あれ? 魔石が見当たらない」
心臓辺りにもないし、頭にも見当たらない。どこにあるのだろう?
『何を言っとるんだ? ヤギだぞ? 魔石なんてあるはずなかろう』
どうやら、魔石のない生き物もいるようだ。残念。
「爆ぜろ」
俺がそう唱えると、ボンッと結構な爆発が起こり、トンネルが崩落した。
「うわあ、爆破魔法使うとあんなんになるのか」
『レベルが上がったからじゃないか?』
とアニン。成程、その可能性は高いな。まあ、何にせよ、トンネルで爆破魔法を使わなかった俺、グッジョブ。
その後、外に出た俺は、地下墓地から外に通じるトンネルも魔法陣で爆破、崩落させる。
『良かったのか?』
「何が?」
アニンが何を尋ねているのか分からない。
『装飾品類を持ち出せば、魔法の足しになるなり、道中の金に替える事も出来ただろうに』
「俺に墓場泥棒しろって言うのかよ」
確かに遺骨には、魔石で作られたらしいネックレスや腕輪などが着けられていたが、それを遺骨から強奪する勇気は俺にはない。何か呪われそうだし。
『まあ、ハルアキがそれで良いと言うのであれば、我は構わん』
気を使ってくれてありがとう。
「さて、これからどこに向かえば良いのやら」
周りに見えるのは鬱蒼とした林と、崖下から脱出した山ぐらいだ。人里どころか生活の痕跡は欠片も見付からない。
俺は今、つなぎに安全靴、腰には包丁、手には魔法陣付きの手袋、腕にはアニンの腕輪が着けられている。背負うリュックの中には水のペットボトル二本に携行食、タオルや雨具などが入っている。テントやら重くなるものは持ってきていない。すぐに家に帰れるしね。
崖下から外に出れはしたものの、いきなりマップが広がって右往左往って感じだ。こんな場合のセオリーと言うのも知らないしな。
『ならばこの山を登ると良い。ここら辺で一番高い場所だ。辺りが一望出来るぞ』
成程。まずは周辺確認か。それっぽいな。
と言う訳で、俺はアニンの指示に従い、俺が閉じ込められていた、この山を登る事にした。
今俺がいるのは山の西側で、南に登山道があるとの話なので、そちらへ向かう。
いざ歩くと、歩き辛い。腰までの草が生い茂っているので、それを掻き分けながら進まないといけないので、進むのに時間が掛かるのだ。流石に長く放置された場所である。
何とか半日掛かりで南の登山道まで来たが、そこまでで疲れ切ってしまった。しかもアニンが語る登山道は、ここまでと同じく草に道を塞がれている。
はあ。今日はここまででいいかなあ。
翌日。登山道だった場所を登る。登山道と言うには急だし、草に道を塞がれているので登り辛いったらない。う~ん、安全靴ではなく、本格的な登山靴にした方が良いだろうか? 周りをよく見ると俺の歩きを妨げているのは、同じ草のようだ。それが一面に生い茂っている。生命力あり過ぎじゃね?
草を掻き分け登山道をしばらく進むと、前方でガサガサッと葉が揺れる音がした。
魔物か? と俺はアニンを黒剣に変化させて戦闘に備える。
ガサガサと揺れる音は段々と近付いてきて、葉音を起こしている奴は、俺の五メートル程手前で止まった。そして顔を出す。
そいつは茶色の長毛に覆われ、頭には二本の角がある。見るからに、ヤギだ。結構大きい。
『ヤギだな』
ヤギだった。ヤギはここら辺に生い茂っている草をはみながら、俺をジーッと見詰めている。いや、俺も見詰めているから、おあいこだけど。
『ここを引き払う時に逃げ出した奴が、野生化したのだろう』
成程。危険なんだろうか?
『そんな事はない。ヤギだぞ?』
なら無視していいか。と剣の構えを解いたのがいけなかった。
ヤギは俺が気を抜いたのを見逃さず、いきなり俺に向かって突進してきたのだ。
「うおっ!? 危ねえ!?」
間一髪で避けたつもりだったが、頭の角が腕をかすめ、切れて血が垂れる。
「危険はないんじゃないのかよ!?」
『ふむ。我の認識は彼奴らが野生化する前のものだったからな。我が寝ている間、彼奴らも戦わずには生きてこれなかったのかも知れんな』
ああ、そうですか。俺は改めてアニンの黒剣を構えると、直ぐ様それをヤギに向かって振り下ろした。
黒剣から放たれる刃の波動。いくら攻撃的とは言え、ヤギだ。これでお終いだろう。と思っていたら、避けられた。
「マジか!? 避けるのかよ!?」
更に角を突き出し突進してくるヤギ。ヤギ凶暴。
俺はその突進を何とか躱すと、通り過ぎていくヤギ目掛け、振り向きざまに黒剣を横薙ぎに振るう。そこら辺の草が刃の波動でザッと一閃されるが、なんとヤギは高くジャンプしてそれを回避した。
マジか!? ヤギ手強いぞ。
ヤギはジャンプしてジャンプして、そのまま飛び跳ねながら頭突きをかましてきた。
それを横に回転して避ける俺。しかしヤギの攻撃は止まらず、ジャンプしながら頭突きしてくる。くっ、ジャンプのせいで攻撃のタイミングが取り辛い。
ジャンプ頭突きを回転しながら避け、避け、避け、合間に黒剣を振るうがこっちの攻撃も全て避けられる。
くう~。明らかに崖下のカエルなんかよりも眼前のヤギの方が格上だ。このヤギ、レベルが高いのかも知れない。
何度となく俺とヤギは交錯し、その都度ヤギの角で引っ掻かれ傷が増えていく。
「だあッ! もうッ! 面倒臭え!」
俺は黒剣を地面に刺すと、ジャンプ頭突きをしてくるヤギを素手で迎え撃つ。
鋭いその角を両手でガッチリ掴む。ヤギの突進力に、数歩後退させられる俺だが、なんとか堪え切ると、ヤギをその場で投げて地面に叩き付けた。
驚きで、「メェ~ッ!?」と声を上げるヤギ。俺は素早く黒剣を掴むと、ザクッと立ち上がろうとするヤギの首を刎ねたのだった。
「はあ~~~~」
すぐ側で血を流すヤギを横目に、ドシンと腰を降ろし嘆息する。まさかヤギに手こずるとはなあ。
身体を見ると中々傷だらけだ。傷が治っていない事から、レベルアップはしなかったようだ。
「どうしよ、この傷」
『その程度、ベナ草ですぐ治るだろう』
「ベナ草って?」
『薬草だ。そこら辺に生えているのを千切って傷口に塗り込んでも良いし、口から摂取しても自然治癒力が向上して回復してくれるぞ。村の人間たちは乾燥させて粉にし、水に溶かして使っていたな』
成程、薬草か。アニンの話を聞く限り、ポーションの原料って感じだな。
「で、そのベナ草? ってのはどこにあるんだ?」
『どこも何も、そこら中に生えているだろう』
そこら中って、もしかして、この生い茂っている雑草の事か?
『ベナ草は生命力が高いからな。放っておくと辺り一面ベナ草だらけになってしまうのだ』
それ、薬草って言うより害草って感じだな。まあ、良いか。
俺はその辺のベナ草の葉を一枚千切る。葉がヒダヒダになっている感じが、ヨモギっぽい。
噛んでみると、苦かった。まあ、良薬口に苦しだな。何枚かベナ草を千切ると、俺は傷口にこすりつけた。
腕の傷にこすりつけると、傷が速攻で塞がっていき、あっという間に痕も残らず回復してしまった。う~ん、凄い。流石は魔法のある世界の薬草だ。
俺は今後の冒険の事を考え、ベナ草を何本か茎ごと採取すると、リュックの中からポリ袋を出してそこに仕舞った。乾燥させてポーションにしてみるのも良いな。
傷が回復し、ペットボトルの水で喉を潤した俺は、横のヤギの腹を裂く。肉や毛皮の為じゃない。魔石回収の為だ。肉や毛皮も欲しいところだが、どうすれば良いのか分からん。
「あれ? 魔石が見当たらない」
心臓辺りにもないし、頭にも見当たらない。どこにあるのだろう?
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