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レベルアップと変化

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 シャワーを浴びる。いや、酷い格好だった。つなぎは全身血と泥に塗れ、至る所が破れてボロボロ。右脚部に関しては千切れてなくなっている始末だ。


 これはもう使い物にならないな。と処分する為ゴミ袋行きだ。つなぎを処分した後、泥塗れの身体をシャワーでさっぱりさせる。


 夜中にシャワーを浴びるなんて、なんだかいけない事をしているみたいな気になる。


 ひとっ風呂浴びて廊下に出ると、家族が両手を腰に当てて俺を睨んでいた。


「どこ行ってたの!?」


「え!? えっと~、タカシとカラオケ。いやあ、盛り上がり過ぎちゃって」


 その後、両親、妹にこんこんとお説教され続け、気付けば朝になっていた。でも本当の事は言えないだろ。デカいトカゲに殺されかけて、気絶していたなんて。


『そんなものか?』


「そんなもんだ」


 自室に戻った俺は、右腕に向かって話し掛けていた。俺の右腕には今、五百円玉程の大きさの真紅の魔石が嵌め込まれた黒い腕輪が付けられている。それが俺にテレパシーで話し掛けてくるのだ。



 トカゲとの戦闘の後、気付くと俺の身体は五体満足な状態に戻っていた。千切れた右足は元通り。打ち身擦り傷骨折までもすっかり無いものとなっていた。レベルアップによる回復だ。まさか俺も、千切れた足まで復活するとは思わなかった。


『気付いたか』


 そしてあの怨霊の声が頭に響く。


『怨霊ではないと言っているだろう』


 そうだ。怨霊じゃなかった。剣だった。俺は剣を探したが、どこにも見当たらない。見えるのは真っ二つになったトカゲと埋葬された人骨だけだ。ただ、剣が見付からない代わりのように、俺の右腕には真っ黒な腕輪が付いていた。


『剣の姿の方が話しやすいか?』


 腕輪はそう話し掛けてくると、刀身も柄も真っ黒で鍔に真紅の魔石が嵌め込まれた剣に変化した。


「あなたが、俺を助けてくれたのか?」


『うむ。まあ、気まぐれだがの』


 そう語る黒剣の魔石が、キラリと光った気がした。



『しかしまさか小僧が異世界人だったとはのう。長生きはしてみるものだ』


 腕輪に戻った黒剣を連れ、何はともあれ俺は直ぐ様転移門を開いて地球に戻ってきたのだ。時間は夜中、時計は天辺を過ぎていた。


 その後の流れはドロドロだった身体を綺麗にする為にシャワーを浴び、家族からの説教だ。


『まあ、家族も小僧を心配しての事だ。恨むでないぞ』


 そんな事は言われなくても分かっている。大事故にも巻き込まれた身だ。連絡もなく帰ってこなければ、家族も心配で気が気じゃなかっただろう。悪い事をした。しかし、


「その、小僧ってのやめて欲しいんだけど」


 俺は右腕の腕輪に向かって文句を言う。恐らく永い間あの地下墓地で眠っていた腕輪にしてみれば、俺は赤ん坊と変わらないのだろうが、小僧と言われていい気はしない。


「俺にも工藤春秋って名前があるんだよ。小僧って呼ぶくらいなら、ハルアキって呼んでくれ」


 俺は制服に着替えながら腕輪に名乗る。


『そうか。ハルアキと言うのだな。分かった。今後はそう呼ぼうハルアキ』


 なんだか胡散臭い。聞き分けのない子供をあやしているような口調だ。テレパシーで、しかも日本語で俺に話し掛けてくるんだ。俺の頭の中なんて読まれていて、名前ぐらい分かっていたんじゃなかろうか?


『さあ、どうだろうのう?』


 怪しい。


「んで? 俺はなんて呼べば良いんだい?」


『ふむ。こちらも自己紹介がまだだったな。我は化神族のアニンと申す』


「化神族?」


『うむ。ハルアキの世界で言うところの、シェイプシフターと言うやつだな」


 シェイプシフターって言うと、妖怪とかUMAの類だよな。姿を自在に変えるっていう。神と言ってもそっち系か。


『うむ。あの土地の守護神や地霊のようなものであった。あの土地も色々あってな。飢饉で土地を離れる事になったのだが、我も長年過ごした彼の地に思い入れがあったのでな。我は眠る民たちと残る事に決めたのだ』


 なんかしんみりする話を聞かされた。


「あ、うん。じゃあ良かったのか? 俺と一緒に土地を離れちゃったけど?」


『我もまさかこんな異界の地に連れ去られるとは思わんかった。ハッハッハッハッハッ』


 笑って済ませられる程度の事なのか?


『我も彼の地に永く留まり過ぎた。今の世の中を見て回るのも面白そうだ』


 まあ、そう言うならいいけど。


 着替えを済ませた俺は、その日も変わらず学校に向かったのだった。



「ここって、出口ないんだよね?」


 地下墓地の中央、アニンが突き立てられていた台座に立って周囲を見遣る。


 見えるのは骨骨骨、体育館程の空間を、地面から壁まで埋め尽くす人骨の数々だ。あとはトカゲの死骸とそれにむらがるスライムたち。


 あ、スライムが溶かすより先にトカゲの死骸から魔石を取り出さないと。


『まあ、墓所だからのう。出口なんぞありゃせんよ』


 トカゲから小指の先程度の魔石を取り出しながら、「だよねえ~」とアニンに首肯する。


 仕方ない、またトンネル掘るか。とそこら辺に放置されていたツルハシを手にしようとしたところでアニンから待ったが掛かる。


『ハルアキよ。お主の右腕にいるのを何だと思っておるのだ? 化神ぞ?』


 どう言う事? と思っていると、アニンはおもむろに真っ黒なツルハシへとその姿を変えてみせたのだ。


「おおッ! 剣だけじゃなくてツルハシにもなれるのか!」


『フッフッフッ、驚いたか? 我は化神。どのようなものにも化けられるのだ』


 嬉しい驚きである。


『さあ、ハルアキよ。我を存分に振るうがよい』


 言われるまでもない。俺はこの地下墓地に入ってきたトンネルとは反対側に回ると、アニンが変化した真っ黒のツルハシを振るう。


 サクッと岩壁に刺さるツルハシ。マジか!? この地下墓地はあの硬い岩盤に取り囲まれている。強化版のツルハシでも掘り進めるのは大変だと思っていたのに。更に嬉しい誤算だ。


『ふふっ、我は凄かろう』


「ああ! 凄えよアニン!」


 そう告げながら俺は岩壁を掘り進める。


『まあ、ハルアキがトカゲを倒してレベルアップしたのもあるがな』


 ああ、そっちもあったんだ。

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