世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
14 / 625

硬い岩盤を抜けるとそこは……

しおりを挟む
 俺の前には壁がある。異世界の崖下を掘り進めた先にぶち当たった岩壁だ。俺は今日それをぶち破る。


 俺の手には大型文房具店で入手したA0サイズの巨大な紙。そこには一筆書きで、円の中に五芒星、その中に逆五芒星がデカデカと描かれている。


 A0サイズと言えば、A4サイズの十六倍の大きさだ。それだけ大きければ一筆書きでもっと細かな文様を描く事も可能だと思われるが、そうはいかない。


 何故なら、インクがそれ程長持ちしないからだ。つけペンに含ませられるインクの量が少ない為に、複雑な文様を一筆書きで描こうとすると、途中でかすれてしまうのだ。


 なので、描く大きさは大きく出来たが、魔法陣自体は凡庸なものになってしまった。ここら辺は今後要改良だな。


 だがまずは目の前の壁だ。こいつを突破させて貰う。


 俺は眼前の岩壁にA0の魔法陣を貼ると、その魔法陣に両手を添えて意識を岩壁に集中させる。


「岩壁よ! 砂となれ!」


 集中力が極限まで高まったところで、魔法陣を通して岩壁に命令する。


 するとどうだろう。魔法陣が淡く光りだしたかと思うと、あれほど硬く、ツルハシさえ通じなかった岩壁が、さらさらと砂になっていく。


「おおっ、やった!」


 俺は思わず歓喜の声を漏らしていた。しかし喜びもすぐに落胆に変わった。魔法陣の描かれたA0の紙までもが、砂となって消えてしまったからだ。


「マジか~……」


 まあ、これは予想出来ていた事だけどね。自室でノートに魔法陣を描いてみた結果、魔法発動後二つの現象が見られた。


 魔法陣は残るが、魔法が発動しなくなるか、魔法陣が描かれたノートの紙が、今回同様砂となって使い物にならなくなるかだ。


 前者は小さな魔法の時によく現れる現象で、後者は大きな魔法の時によく現れたが、必ずしもそうと決まっている訳じゃない。小さな魔法の時にも魔法陣が砂になる事があれば、大きな魔法でも魔法陣が残る事があった。


 前者であれば、再度魔法を行使する事が可能だが、後者の場合は当然それっきりだ。


 何度か描いて試した結果、これはインクの性能が不安定である為に起こる事が分かった。どうやらインクに魔石の粉が均一に混ざってない為に起こっている現象であるらしい。


 まあ、素人仕事だからなあ。


 なのでインク内の魔石粉の均一性を上げる為に、インクに入れる魔石粉の量を徐々に増やしていき、均一性を上げていったのだが、魔石粉の量を増やしていくと、インクの粘性や粉っぽさが上がっていき、つけペンでは描けなくなってしまうのだ。


 ならば筆で、と思うが、それだと均一に線を引く事が難しく、やはり粘性が高く粉っぽいインクでは線を引いてる途中でかすれてしまう。


 今回A0の紙に魔法陣を描いたインクは、ここ最近で一番のインクで描いたものだったのだが、やはり岩盤を壊しきるには至らなかったようだ。



 俺は砂になった岩盤をスコップと一輪車トンネルの外まで運び出す。結果、どうやら一メートル程掘り進められたようだ。


 また同じようにA0の魔法陣を貼って掘り進めるべきだろうか? まあ、普通はこれの繰り返しだろう。俺も魔法陣のストックをあと四枚持ち合わせており、トンネルの入口に置いてある。


 が、俺としては別案を試してみたい。それが、改良版ツルハシだ。


 改良版ツルハシは、持ち手に魔石インクで魔法陣を描いてツルハシ自体の強化を施したものだ。更に桂木翔真がしていたように、俺も手袋の手のひらに魔法陣を描かせて貰った。この魔法によるダブル強化で硬い岩盤を力任せに掘り進むのが別案だ。


 ここまでツルハシで掘り進めてきたのだ。やはりツルハシ掘削は捨て難い。


 俺は岩盤の前まで来ると、魔法陣の描かれた手袋をピチッと両手に填め、ツルハシを握る。


「よし! 強化!」


 そう口にしただけで、なんだか身体の奥底から力が湧いてくる気がする。ツルハシと手袋の魔法陣は、まだ砂になっていない。


「よっしゃあ!」


 俺は気合いを入れてツルハシを振り上げると、岩盤に思いっきり叩きつける。


 ギイインッ! と甲高い音がトンネル内にこだまする。そして手に跳ね返ってくる強烈な衝撃。それで岩盤はどうなったかと言うと、痺れる程の衝撃を返してきた部分が、ボコッと剥がれ落ちた。


「痛ってええ! でも掘り進められそうだ」


 俺は手をぷるぷる振りながら何とか岩盤を剥がす事に成功した部分を起点に、トンネルを掘り進めていく。


 しかしやっぱり硬い。少し掘り進めては休憩をとり、少し掘り進めては休憩をとる。トンネル掘削の進捗は大幅に遅れ、穴掘り作業は年を越したが、まだまだ先は見えてこなかった。


 と、俺は思っていたのだが……。



 二月の頭の事だった。ボコッと硬い岩盤が崩れ落ちる。とその先が空洞になっていた。まさか!? とうとう外に出たのか!? と必死になって人ひとり通れる程の穴を開けて、トンネルを突破する。


 崖下やトンネル内と同じように真っ暗闇の出口で、俺はガシャンと何かを踏んだ。なんだろう? とヘッドライトとともに頭を下に向ける。


 俺が踏んだのは、人骨だった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界で勇者をやって帰ってきましたが、隣の四姉妹の様子がおかしいんですけど?

レオナール D
ファンタジー
異世界に召喚されて魔王を倒す……そんなありふれた冒険を終えた主人公・八雲勇治は日本へと帰還した。 異世界に残って英雄として暮らし、お姫様と結婚したり、ハーレムを築くことだってできたというのに、あえて日本に帰ることを選択した。その理由は家族同然に付き合っている隣の四姉妹と再会するためである。 隣に住んでいる日下部家の四姉妹には子供の頃から世話になっており、恩返しがしたい、これからも見守ってあげたいと思っていたのだ。 だが……帰還した勇治に次々と襲いかかってくるのは四姉妹のハニートラップ? 奇跡としか思えないようなラッキースケベの連続だった。 おまけに、四姉妹は勇治と同じようにおかしな事情を抱えているようで……? はたして、勇治と四姉妹はこれからも平穏な日常を送ることができるのだろうか!? 

幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する

あおアンドあお
ファンタジー
俺には二人の幼馴染がいた。 俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて まるでない、凡愚で普通の人種だった。 そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。 だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が 勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。 自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の 関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に 衝撃な展開が舞い込んできた。 そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...