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カッコウ
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どこかでカッコウが鳴いている。きっと近くの森林公園だ。はあ。何故こんなにもカッコウの鳴き声は物悲しいのだろう。
カッコウは別名、閑古鳥と呼ばれているそうだ。つまり閑古鳥が鳴いている訳で、それは店舗経営をしている者からしたら、物悲しく感じるのも仕方ないと言うものだ。
私はカフェを経営している。いわゆるチェーン店ではなく、個人経営のカフェだ。
カフェ、喫茶店と聞いて何を思い浮かべるだろうか。そう、静かな空間だ。長く大事に使われ、落ち着いた色に変化した木製のテーブルや柱で構成された落ち着ける空間。客はまばらで年齢層もバラバラで、でも潰れずに街の一角にたたずむ憩いの空間。それがカフェだ。
だと思っていた時期が私にもありました。閑古鳥が鳴くカフェなんて、潰れるに決まっているじゃないですか。だって客いないし。
はあ。調子に乗って森林公園の近くになんてカフェを開かなければ良かった。ここだと静かで、お客さんも落ち着けると思ったんですよ。結果は街からも離れてしまって、ここまで通うのが億劫だから、お客さんは来ません。大失敗です。
誰だよー、こんな辺ぴな場所でカフェ開こうとか思った奴。私だよー。
森林公園の近くだからお客さんは来ないくせに、虫は寄ってくるので困っています。私、虫苦手なのに。
せっかくカフェ経営のスクールに通ってまで、カフェを開いたのになあ。先生、私がここでカフェ開きますって言ったら、苦笑いしていたもんなあ。
カララン。
「うわあっ!?」
「な、何!?」
お客さんが来た事を知らせるドアベルがいきなり鳴ったものだから、私は驚いて声を上げてしまった。
「え? え? え?」
いけない! 私が奇声を上げたせいでお客さんが狼狽えている。ここはどうにか挽回せねば!
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
若いビジネスマンらしき男性客に向かって、私は何事も無かったかのように笑顔を取り繕い、店内へと男性客を促す。
「あ、……はい」
あう。第一印象最悪かも。でも、もしかしたら常連客になってくれるかも知れない。ここから挽回しないと。そう思いながら私は素知らぬ顔で男性客の動向を観察する。ほう。誰もいないカフェで、カウンター席に座るか。中々強気なお客さんのようだ。私なら隅のボックス席でひっそりするが。
「コーヒー、ブレンドで」
しかも当然のようにブレンドコーヒーを注文してくるとは、この男性客、カフェ慣れしている! ブレンドコーヒーはそのカフェの顔。その味でカフェの傾向が分かり、カフェオーナーの好みが分かる。
最近のカフェはコーヒーマシンを使う。うちにも全自動コーヒーマシンが一台あるが、こんな辺ぴな場所に、満員の客が来る訳ないので、私は開店してから今まで、手動でコーヒーを淹れて、自分で楽しんできていた。
私はペーパードリップ派である。コーヒーミルも手動で、ゴリゴリとコーヒー豆を挽くのだが、私の好みとして、酸味とスッキリした風味があるモカに、ブルーマウンテンで優雅な香りを足したコーヒー豆をブレンドして挽く。それをサーバーの上にドリッパー、そこにペーパーフィルターと敷き、そこへメジャースプーンでコーヒー粉をすりきり一杯分加えると、ドリップポットやコーヒーケトルと呼ばれる先細りのケトルで、熱湯を三回に分けて注いでいくのだ。
ふふん。私の自慢のコーヒーを食らえ! と出したコーヒーを、眉間にシワを寄せて飲む男性客。無反応。
「何か、軽食ありますか」
「え? はい」
まあ、昼時だしね。私はその場でチャチャッとカレーピラフとタンドリー風チキン、マッシュポテトのワンプレートを作って出した。
「おお」
何故こっちに反応する。スマホで写真まで撮って。反応するならコーヒーの方だろう? その後も食事の方に色々質問してくる男性客。私が辟易した所で男性客は満足したのだろう。支払いを終えて帰っていったのだった。変な客だった。
しかしもっと驚く事が起きたのは、翌日の事だ。ポツポツと私のカフェにお客さんがやって来たではないか。なんて嬉しいの! と喜んでいたのも初日だけだった。
翌日には更に増え、三日で満員になった。そして全員がカレーピラフとタンドリー風チキン、マッシュポテトのワンプレートを頼むのだ。どうなっているの? とカウンター席のお客さんに尋ねると、何でも有名なインフルエンサーが私の店をSNSに載せたそうで、このお客さんたちはそれを観てこんな辺ぴなカフェまで来ていたのだそうだ。明らかにあの男性客だ。そう言えば最後の方でSNSに載せて良いかどうか、聞かれていた気もする。
はあ。客が来てくれるのは嬉しいが、その目的なのがコーヒーでなくカフェ飯とは。せっかく手動でコーヒーを淹れられるようになったのに、開店から閉店まで客がいるせいで、結局コーヒーマシンに頼っている。それに対して客が何も言ってこないのもなんか癪だった。
どうせこんな客は一過性のもので、そのインフルエンサーが次の店を紹介すれば、そっちに移るのだろう。そう思っていたのだが、案外定着したお客さんがいたのは、私にとって嬉しい誤算だったが、ただし、その目的がカフェ飯であり、全種類のカフェ飯を制覇したお客さんたちから、新メニューを催促されているのは悲しい誤算だった。
うちはカフェですよ。メインはコーヒーでカフェ飯はサイドメニューなんですよ。
カッコウは別名、閑古鳥と呼ばれているそうだ。つまり閑古鳥が鳴いている訳で、それは店舗経営をしている者からしたら、物悲しく感じるのも仕方ないと言うものだ。
私はカフェを経営している。いわゆるチェーン店ではなく、個人経営のカフェだ。
カフェ、喫茶店と聞いて何を思い浮かべるだろうか。そう、静かな空間だ。長く大事に使われ、落ち着いた色に変化した木製のテーブルや柱で構成された落ち着ける空間。客はまばらで年齢層もバラバラで、でも潰れずに街の一角にたたずむ憩いの空間。それがカフェだ。
だと思っていた時期が私にもありました。閑古鳥が鳴くカフェなんて、潰れるに決まっているじゃないですか。だって客いないし。
はあ。調子に乗って森林公園の近くになんてカフェを開かなければ良かった。ここだと静かで、お客さんも落ち着けると思ったんですよ。結果は街からも離れてしまって、ここまで通うのが億劫だから、お客さんは来ません。大失敗です。
誰だよー、こんな辺ぴな場所でカフェ開こうとか思った奴。私だよー。
森林公園の近くだからお客さんは来ないくせに、虫は寄ってくるので困っています。私、虫苦手なのに。
せっかくカフェ経営のスクールに通ってまで、カフェを開いたのになあ。先生、私がここでカフェ開きますって言ったら、苦笑いしていたもんなあ。
カララン。
「うわあっ!?」
「な、何!?」
お客さんが来た事を知らせるドアベルがいきなり鳴ったものだから、私は驚いて声を上げてしまった。
「え? え? え?」
いけない! 私が奇声を上げたせいでお客さんが狼狽えている。ここはどうにか挽回せねば!
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
若いビジネスマンらしき男性客に向かって、私は何事も無かったかのように笑顔を取り繕い、店内へと男性客を促す。
「あ、……はい」
あう。第一印象最悪かも。でも、もしかしたら常連客になってくれるかも知れない。ここから挽回しないと。そう思いながら私は素知らぬ顔で男性客の動向を観察する。ほう。誰もいないカフェで、カウンター席に座るか。中々強気なお客さんのようだ。私なら隅のボックス席でひっそりするが。
「コーヒー、ブレンドで」
しかも当然のようにブレンドコーヒーを注文してくるとは、この男性客、カフェ慣れしている! ブレンドコーヒーはそのカフェの顔。その味でカフェの傾向が分かり、カフェオーナーの好みが分かる。
最近のカフェはコーヒーマシンを使う。うちにも全自動コーヒーマシンが一台あるが、こんな辺ぴな場所に、満員の客が来る訳ないので、私は開店してから今まで、手動でコーヒーを淹れて、自分で楽しんできていた。
私はペーパードリップ派である。コーヒーミルも手動で、ゴリゴリとコーヒー豆を挽くのだが、私の好みとして、酸味とスッキリした風味があるモカに、ブルーマウンテンで優雅な香りを足したコーヒー豆をブレンドして挽く。それをサーバーの上にドリッパー、そこにペーパーフィルターと敷き、そこへメジャースプーンでコーヒー粉をすりきり一杯分加えると、ドリップポットやコーヒーケトルと呼ばれる先細りのケトルで、熱湯を三回に分けて注いでいくのだ。
ふふん。私の自慢のコーヒーを食らえ! と出したコーヒーを、眉間にシワを寄せて飲む男性客。無反応。
「何か、軽食ありますか」
「え? はい」
まあ、昼時だしね。私はその場でチャチャッとカレーピラフとタンドリー風チキン、マッシュポテトのワンプレートを作って出した。
「おお」
何故こっちに反応する。スマホで写真まで撮って。反応するならコーヒーの方だろう? その後も食事の方に色々質問してくる男性客。私が辟易した所で男性客は満足したのだろう。支払いを終えて帰っていったのだった。変な客だった。
しかしもっと驚く事が起きたのは、翌日の事だ。ポツポツと私のカフェにお客さんがやって来たではないか。なんて嬉しいの! と喜んでいたのも初日だけだった。
翌日には更に増え、三日で満員になった。そして全員がカレーピラフとタンドリー風チキン、マッシュポテトのワンプレートを頼むのだ。どうなっているの? とカウンター席のお客さんに尋ねると、何でも有名なインフルエンサーが私の店をSNSに載せたそうで、このお客さんたちはそれを観てこんな辺ぴなカフェまで来ていたのだそうだ。明らかにあの男性客だ。そう言えば最後の方でSNSに載せて良いかどうか、聞かれていた気もする。
はあ。客が来てくれるのは嬉しいが、その目的なのがコーヒーでなくカフェ飯とは。せっかく手動でコーヒーを淹れられるようになったのに、開店から閉店まで客がいるせいで、結局コーヒーマシンに頼っている。それに対して客が何も言ってこないのもなんか癪だった。
どうせこんな客は一過性のもので、そのインフルエンサーが次の店を紹介すれば、そっちに移るのだろう。そう思っていたのだが、案外定着したお客さんがいたのは、私にとって嬉しい誤算だったが、ただし、その目的がカフェ飯であり、全種類のカフェ飯を制覇したお客さんたちから、新メニューを催促されているのは悲しい誤算だった。
うちはカフェですよ。メインはコーヒーでカフェ飯はサイドメニューなんですよ。
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