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疲れて眠りについてしばらくすると、何やら人の声がザワザワ聞こえる。
デパ地下じゃあるまいし、なんなのかしら。
無視して意識を手放そうとするが、一度目が覚めかかるとこれが難しい。
薄目をあけるとカーテンから漏れる光で、もう朝なのだとわかった。

「朝っぱらからにぎやかだとこと」

私はそう一人呟き、微睡んでいた。
しかし、パタパタ足音が聞こえてきて起きなければならないのだと悟った。
ドアがバタンと開き現れたのはルドヴィカお母さんとローディ。

「シシィ!! まだ寝てるの? よく寝てられるわね、バートイシュル中、いえ、国中が大騒ぎだというのに」

「朝から何を騒いでるのかしら、朝は寝るものよママ」

「バカなこと言わないで、みんなあなたと皇帝の婚約をお祝いしてくれてるのよ」

きっと昨日のプロポーズは使用人から話が漏れて広がったのだろう。

「あらあら、ありがたいこと、で着替えて皆様の前でお辞儀やら手を振ればいいのかしら?」

「そうしてもらいたいけど、それなら起こしたりしないわ、ローディ早く着替えさせて」

「あら?何事なのよママ?」

「皇帝陛下からデートのお誘いよ」

「デート? あの人にそんな暇があるとは思わなかったわ……ローディ、コルセットが締まりすぎだわ」

「お嬢様これぐらいは我慢なさってください」

「冷や汗がでるわ、デートだなんて」

「とにかく、早く用意しないといけないわ」

結局、ライラック色のドレスと帽子と日傘の組み合わせに決まり、むしろ二人に任せてたら永久に終わらないから私が無理矢理決めて、皇帝陛下がいらっしゃるのを待つことにした。

「お嬢様が皇后になるなんて、なんて素晴らしいのでしょう」

「ローディ、素晴らしくなんかないわよ、動物園のパンダになるようなものよ」

「パ、パンダですか?」

しまった、パンダはまだ有名じゃないわよね。
うっかりしてしまったわ。

「気にしないで、珍獣みたいにみんなから見られて騒がれるだけよ」

「でも、素敵なドレスや宝石をたくさん身につけられますよ」

「それが好きならいいでしょうね、薔薇の香りにするわ」

「まさにバイエルンの薔薇ですわね」

「やっぱりスミレにするわ、紫色だから、その方がマッチしそう」

「かしこまりました」

ローディはスミレの香水を軽く吹きかけてくれて、私はその気品ある香りに心を落ち着かせることにした。
するとタイミングよく皇帝陛下の到着が告げられて、私はホテルの玄関に向かい、気品溢れるお辞儀でお迎えした。

「シシィ、今日も咲いたばかりのスミレのように美しい」

よくそんな歯の浮くようなセリフがはけること。

「皇帝陛下におかれましてはご機嫌いかがでしょうか、この度は行幸にお供させていただく栄誉に感謝いたします」

「シシィ、そんな堅苦しい挨拶は抜きだ、さぁ、馬車に乗っていこう」

「はい、陛下」

私はあれよあれよという間に馬車に乗って目的地に連れていかれる。
どこかもしらない場所へ。
道中、私はたくさんの人が手を振るので優しく微笑んで手を振りかえすことに専念した。



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