上 下
22 / 26
焔の馬。

かしみあ

しおりを挟む
村に戻ると数人の楽しそうに会話している声が聞こえた。

「カシーにミリア!生きてたのか!」

カスミが叫び少女2人に駆け寄る。

「おっ。2人ともお疲れ!よく生きてたな。」

見知った声、見知った顔。ここにいたのかよハルトは。

もはやため息しか出ない。

「ハルト、カスミおにーちゃんと知り合いなの?」

少女の1人がカスミとハルトを交互に見てハルトに質問する。

「ハルトが2人を見つけてくれたのか?」

 少女2人を抱きしめ、2人と少し話をしたあと、カスミはハルトに質問した。

「ん?あぁ。逃げたあとお前ら待ってる間やることなかったから、村に生き残り居ないかと探していたんだ。まぁこの子供2人しか生き残っているのはいなかったんだけどな。」

「そうか……。でも、探してくれてありがとう、ハルト。」

「まぁいいってことよ!」

 私らを置いて逃げたことは男としてどうなの?って思ったけど村の子達を探しててくれた事を知ってちょっと感心した。私は意外でもないかもしれないが、わりと単純なのだ。

 まぁでもハルトのさっきの自慢しているようなひと言が全てを台無しにしているわけなのだが……。

 めちゃくちゃ胸を張っているハルトと、素直に感謝をしているカスミのアンバランスな光景にかなりの違和感を感じる夕暮れであった。


「今夜はどうする?ここなら屋根のあるところで寝ることは出来るんだが……。いつレッドホードが解放されて動き出すか分からない。俺の意見はここから速やかに出て行くっていう感じだ。」

 焚き火を囲う私達5人。子供達2人は食べるものもなく、静かに火を焚いている所為か、泣きそう。ではないが、どことなく寂しそうな雰囲気を漂わせていた。そんな中これからの話をし始めたのはカスミだった。

「私はここで一泊してもいいと思うよ?正直今日は疲れたしこれ以上歩きたくないっていうのが一番なんだけど、言い訳をすると、もう夜も更けてきてるし、他の魔物とかに襲われる可能性を考えるとここで一泊するのも一緒かな?って思って。」

 私は自己中で面倒臭がり屋なので、動きたくないという本音を出しつつ少し言い訳で隠すようなセリフをいう。

「確かに腰も落ち着かせちゃったし今更動くとかだるいよね!それにここの風呂やシャワーは生きているのがまだあるみたいだから女性陣的にも今日はここで一泊した方がいいんじゃない?」

 どうしたハルト!?今の一言はなかなかに冴えてるぞ!そう思うのは私だけかな!?そんなことは無いはず!……無いはず。

「お風呂あるなら入ってきていい!?ここ2日ぐらいお風呂はいってなかったから髪とかベトベトで!」

私はちょっとテンション高めでハルトたちに詰め寄る。

「あ、あぁ。いいんじゃないか?多分襲ってくるやつもいないだろうし。俺らも見張ってるから。」

カスミが答える。

「まぁカスミがここを守るなら俺は食料でも探してみるさ。野菜はあったけど肉は無かったからな。その辺探してみる。」

 ハルトは気がきくセリフを言っているみたいに聞こえるが、おそらくその場にとどまっていたくないとか、探検したいとか、そういう少年みたいな思考なのだろう。そう考えるとなんだか微笑ましく思ってしまうのは、なんでも可愛いものに変換したいという私の欲求のためだろう。

「それじゃあ私達はシャワー浴びてくるね!行こー?カシー。ミリア。」

私は2人を見て手を繋ぐ。


 シャワーは確かに残っていたのだが、家は半壊していた。外からは丸見えで見る人はいないと分かっていても少し恥ずかしい。

浴槽も残ってはいたんだけどお湯を張るのが面倒なのでやめよう。

あーでもやっぱり浸かりたい!

私は水の札を取り出し、

お湯よ出ろ!

と念じる。

するとちょろちょろとお札から想像通りの温度のお湯が出てきた。

ちょっと時間かかりそうだなぁ。シャワーを浴びながら待つしかない。

 そう考えて私は外の景色を眺める。もう辺りは真っ暗だ。村は生き残った街灯やら提灯のようなものの灯りがあるので、村から少し離れた森までは見渡すことが出来た。戦いの跡が残る村は寂しく見える。空には月はなかった。代わりに星はいっぱいあるのだが、その光は悲しそうに、弱く淡い。今にも消えてしまいそうに見えて私自身、心細くなってしまう。

「お姉ちゃん……。」

 同じことを考えたのか、少女2人が私の手を握って泣き出しそうな顔を向ける。

「お風呂入ろっか。」

 私はそんな2人を抱きしめ、励ます言葉などは言わず、お風呂に入るように促す。

 彼女たちはおそらく目の前で親を失った。そんな彼女たちに私の言葉は安すぎる。

 彼女たちに必要なのはおそらく側にいてくれる誰かの存在。愛情や安心を与えられる存在なのだろう。

「気持ちいいね。」

3人で湯船に浸かり、私は2人に笑顔を向ける。

「うん。」

「あったかい。」

 湯船の暖かさに少し安心を覚えたのか、彼女たちの顔が綻ぶ。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

中身はクズモブなのに『ピュア』だけでゴリ押す第六王子のハーレムは完成する〜非戦闘スキルなのにバトルも無双〜

ahootaa
ファンタジー
完全なるモブキャラだった最高高志【サイコウタカシ】が、便所で1人メシ中に転生する。謎スキル「ピュア」に翻弄されながらも、自らの半生を振り返り、もっとも足りなかった物は純粋さだった。 それに気づいても行動を起こさないのが人間というモノ。転生してもうだつの上がらない生活を繰り返してしまう。 そんな中に現れた美女達にによって「ピュア」を使ってチヤホヤされるうちに気付かされる。 気づいたこととは? 初めはゆるーい日常をのんびり描くつもりでしたが、きっとそうはなりません。色恋あり、バトルありの展開を想定しています。 検索タグ:ハーレム、モブ、無能、クズ、王子、メイド、魔法少女、お嬢様、魔女、男主人公最強、コメディ、ギャグ、自虐、ネタ、成長、ダンジョン、勇者、魔王、領主、賢者、貴族、成り上がり、追放、異世界転生、チーレム、内政、冒険、生産、結婚、イチャイチャ、戦記 イラストはいつも通りbing社のAI先生に頼んでいます。転載は禁止されてますので、お願いします。

【完結】赤獅子の海賊〜クマ耳の小人種族となって異世界の海上に召喚されたら、鬼つよの海賊が拾ってくれたのでちやほやされながら使命果たします〜

るあか
ファンタジー
 日本からの召喚者ミオがクマ耳の小人種族となって相棒のクマのぬいぐるみと共に異世界ヴァシアスへ転移。  落ちた場所は海賊船。  自分は小さくなって頭に耳が生えてるし一緒に来たぬいぐるみは動くし喋るし……挙句に自分は変な魔力を持ってる、と。  海賊船レーヴェ号の乗組員は4名。  船長のクロノ、双子のケヴィン、チャド。  そして心も身体もおじさんのエルヴィス。  実はめっちゃ強い?彼らの過去は一体……。  ミオは4人で善良にクエストや魔物ハント活動をしていた愉快な海賊の一員となって、自分の召喚者としての使命と船長のルーツの謎に迫る。  仲間との絆を描く、剣と魔法の冒険ファンタジー。  ※逆ハー要素があります。皆の愛はミオに集中します。ちやほやされます。  ※たまに血の表現があります。ご注意ください。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

異世界八険伝

AW
ファンタジー
これは単なる異世界転移小説ではない!感涙を求める人へ贈るファンタジーだ! 突然、異世界召喚された僕は、12歳銀髪碧眼の美少女勇者に。13歳のお姫様、14歳の美少女メイド、11歳のエルフっ娘……可愛い仲間たち【挿絵あり】と一緒に世界を救う旅に出る!笑いあり、感動ありの王道冒険物語をどうぞお楽しみあれ!

傭兵ヴァルターと月影の君~俺が領主とか本気かよ?!~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 船旅を終えて港町オリネアに辿り着いた旅の傭兵ヴァルターは、幼いセイラン国の姫巫女アヤメと出会い、彼女によってキュステンブルク王国を救う騒動に巻き込まれて行く。  アヤメにはとんでもない秘密があり、それによってヴァルターは傭兵から領主へと転身する。  一見すると万夫不当で粗暴な男、だがその実、知略に富んだヴァルターの成り上がり物語。

処理中です...