【完結済】結婚式の翌日、私はこの結婚が白い結婚であることを知りました。

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27.最終話(※ポーラside)

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 家族で逃げるようにして移り住んだ小さな国は、母国とは違い、貧しくて発展途上の国だった。大きな都も、最先端のオシャレな品物を売る店もない。
 ここならば、私たちのことを知る人間は誰もいない。
 地味で貧しい、惨めな田舎の暮らし。




 先日、父に憎々しげに言われた。

「アミカ・オルブライト伯爵令嬢が、再婚したそうだよ。お相手はバーンズ侯爵家のご令息だそうだ。……お前が貶めた女性は、以前よりもさらに裕福に幸せに暮らしているのだろうな。……我が家とは、大違いだ」
「…………。」

 何も返す言葉がなかった。いたたまれず、私は父の元を離れ玄関の外に出た。


 曇り空の下、腐りかけた古い木のベンチに座り、目の前のだだっ広い畑をぼんやりと見つめる。


 成り上がりたかった。貴族学園にいた裕福で幸せそうな高位貴族のご令嬢たちと同じように、私も美しいもので身を包み、高価な品物を持ち、素敵な暮らしがしたかった。落ちぶれた自分の家の貧しさを隠すのに必死だった。

 アミカと親しくなればなるほど、彼女の朗らかさや豊かさが妬ましくなった。苦労知らずのお嬢さんめ。この子だって私と同じように貧乏下位貴族の生まれなら、きっとこんなに穏やかで優しい子には育っていないはず。

 
 私はたまたま生まれた家に恵まれなかったんだ。
 だから仕方ない。
 マシな人生を生きるには、こうするしかないのよ。


 ミッチェルをベッドに誘いながら、私はそう思った。アミカだって立場が逆ならこれくらいしたはず。

 ミッチェルが簡単に靡いてきた時、最高に気分が高揚した。伯爵家に嫁いで、裕福な伯爵夫人として人生を謳歌してやる。苦しい見栄を張らずに、お金の心配をせずに、毎回高価なドレスを着てパーティーを楽しむ生活をするの。今まで恵まれなかった分、これから全部取り戻してやるわ。この男を手放さないんだから。絶対に。
 




 それなのに。


 策略は大失敗に終わった。私は今小さな国の古びた小さな屋敷で、着古した昔のドレスを着て毎日呆然と日々を過ごしている。父と母と3人で、かつての知り合いたちの誰にも見られずに済むように、ひっそりと息を潜めて。


 なんて惨めなんだろう。


 今頃アミカは幸せに暮らしているんだろう。
 マキシミリアーノ・バーンズ様なんて、学園で皆から慕われていた容姿端麗な侯爵令息を捕まえて。きっと愛されて、可愛がられて幸せなんだろう。

 引きずり下ろしてやろうと思っていたあの子は以前よりも一層幸せになり、のし上がってやろうと思っていた私は、さらに落ちぶれて貧しくなった。


 どうしてこうなってしまったんだろう。さっぱり分からない。
 きっと運が悪かっただけだ。


 どんよりと曇った空を見上げながら、私は何時間もそこに佇んでいた。




   ーーーーー end ーーーーー





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