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25. 情けない王太子
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「あなた一体何をしにいらしたの?お菓子をいただくためにここに来たわけではないでしょう。本日ここにお集まりくださっている皆様は、あなたのために時間を作ってはるばる駆けつけてくださったのですよ。まずは遅刻の非礼を詫び、教えを請うことに対する感謝のご挨拶をきちんとなさい」
さすがは侯爵夫人。普段は物腰柔らかだが、こうしてひとたび毅然とした表情を見せると非常に威厳がある。
ところが当のエルシー嬢は、そんなウィンズレット侯爵夫人を見上げて怪訝そうな顔をすると、こう言った。
「……一体何のお話?私はアンドリュー様から、気晴らしに侯爵家のお茶会にでも参加してきたらどうだって言われたから来たのよ。毎日毎日勉強ばかりで、私が泣いてて可哀想だからって。それなのに何でわざわざここまで来てまたお説教されなきゃならないの?」
……………………はい?
この人、今何て言った?
(……話が……話が全然違うじゃありませんか、アンドリュー様……!!)
湧き上がる怒りにお腹の中がカーッと熱くなる。あの頼りない、気弱王太子……!手紙でああ言ってこちらに押し付けてしまえば、あとは何とかなるとでも思ったわけ……?自分ではこの婚約者に何も言えず、ただ気晴らしに行っておいでとこちらに寄越したの……?
(本っ当に、情けない人ね……)
昔からそうだった。肝心な時には黙りこくって、緊張したり自分に重圧がかかると途端に具合が悪くなる。そんなあの人を、いつも私がサポートしてきた。一生こうしてこの人を助けていくのだと、ずっとそう思っていたっけ。
(これじゃあこの二人はダメだわ。どちらかがもっとしっかりしなくては……)
いや、どちらかじゃ足りないんだけど。王太子夫妻となられるのだから、本当は二人とももっと責任感を持ってしっかりしなきゃダメなんだけど。
とにかく、今目の前にいるこの人の意識を変えさせなくては。
もう二度と関わりたくもなかった王太子とその婚約者だけど、これまでの人生で培ってきたこの責任感が、私を黙っていられなくさせた。
「……エルシー嬢」
皆が呆然とする中、私は彼女に向かって静かに口を開いた。エルシー嬢はちらりとこちらを見る。……敵意むき出しの顔で。
「あなたがアンドリュー王太子殿下からどのように伺ってきたのかは存じ上げませんが、先ほどウィンズレット侯爵夫人が仰った通りです。私たちは本日、エルシー嬢の淑女としての立ち居振る舞いに助言をし、将来の王太子妃としてよりふさわしい女性になっていただくお手伝いに来たのですわ」
なぜだか隣のマーゴット嬢がキラキラした目でこちらを見てくる。
「ですから、本日のお茶会はそのつもりでお臨みください。これを機に上流階級のマナーを身に着け、成長なされることを願っておりますわ」
やんわりと申し出たつもりだけど、エルシー嬢は冷めきった目でボソリと呟いた。
「……負け惜しみかしら」
「……。はい?」
「自分がアンドリュー様から捨てられたからって、そんなに私を敵対視して上から目線でお説教なさらないでくれる?もう私の方が立場は上なの。私を虐めたらアンドリュー様に告げ口するから」
「…………。」
帰っていい?
何で週末を潰してまで、全く気の進まない茶会にわざわざ出向いてきてやって、当の本人からはこの言われようなのよ?!あんまりじゃない?!
母の座っている方向から冷気が感じられる。たぶんそろそろ、では帰りましょうかメレディア、とか言い出すと思う。
「……お止めなさいエルシーさん。……メレディア様、本当にごめんなさい。責任を持ってきちんと教育しておきますから……」
ウィンズレット侯爵夫人がエルシー嬢に青筋を立てつつ、真っ白な顔で私に向かってそう謝罪をくれる。その目は血走り、声も震えている。夫人もきっと限界が近いのだろう。皆白けきった顔をするか、凍てつくような冷たい視線でエルシー嬢を見据えている。場の雰囲気は最悪だった。
しかしこうなってくるとますます責任感が湧いてくるのが私の真骨頂だ。結果として引き受ける形になった以上、ここで放り出して帰るわけにはいかない。せめてやれるだけのことはやろう。
「……決して“上から目線”のつもりはございませんが、その王太子殿下からエルシー嬢への助言を仰せつかっておりますので。まず、淑女というのはそのように人様の前で感情を露わにすることはいたしません。会話はあくまで、常ににこやかに。そして椅子に座ったら、背筋を伸ばして姿勢を正してくださいませ」
それにしてもこの人……。あの誕生日パーティーの日、アンドリュー様に身を寄せてヒィヒィ泣いていたか弱げな姿とはまるで別人のようね。
不貞腐れた顔で尊大な態度をとるエルシー嬢を見ながら、私はそんなことを考え呆れていた。
さすがは侯爵夫人。普段は物腰柔らかだが、こうしてひとたび毅然とした表情を見せると非常に威厳がある。
ところが当のエルシー嬢は、そんなウィンズレット侯爵夫人を見上げて怪訝そうな顔をすると、こう言った。
「……一体何のお話?私はアンドリュー様から、気晴らしに侯爵家のお茶会にでも参加してきたらどうだって言われたから来たのよ。毎日毎日勉強ばかりで、私が泣いてて可哀想だからって。それなのに何でわざわざここまで来てまたお説教されなきゃならないの?」
……………………はい?
この人、今何て言った?
(……話が……話が全然違うじゃありませんか、アンドリュー様……!!)
湧き上がる怒りにお腹の中がカーッと熱くなる。あの頼りない、気弱王太子……!手紙でああ言ってこちらに押し付けてしまえば、あとは何とかなるとでも思ったわけ……?自分ではこの婚約者に何も言えず、ただ気晴らしに行っておいでとこちらに寄越したの……?
(本っ当に、情けない人ね……)
昔からそうだった。肝心な時には黙りこくって、緊張したり自分に重圧がかかると途端に具合が悪くなる。そんなあの人を、いつも私がサポートしてきた。一生こうしてこの人を助けていくのだと、ずっとそう思っていたっけ。
(これじゃあこの二人はダメだわ。どちらかがもっとしっかりしなくては……)
いや、どちらかじゃ足りないんだけど。王太子夫妻となられるのだから、本当は二人とももっと責任感を持ってしっかりしなきゃダメなんだけど。
とにかく、今目の前にいるこの人の意識を変えさせなくては。
もう二度と関わりたくもなかった王太子とその婚約者だけど、これまでの人生で培ってきたこの責任感が、私を黙っていられなくさせた。
「……エルシー嬢」
皆が呆然とする中、私は彼女に向かって静かに口を開いた。エルシー嬢はちらりとこちらを見る。……敵意むき出しの顔で。
「あなたがアンドリュー王太子殿下からどのように伺ってきたのかは存じ上げませんが、先ほどウィンズレット侯爵夫人が仰った通りです。私たちは本日、エルシー嬢の淑女としての立ち居振る舞いに助言をし、将来の王太子妃としてよりふさわしい女性になっていただくお手伝いに来たのですわ」
なぜだか隣のマーゴット嬢がキラキラした目でこちらを見てくる。
「ですから、本日のお茶会はそのつもりでお臨みください。これを機に上流階級のマナーを身に着け、成長なされることを願っておりますわ」
やんわりと申し出たつもりだけど、エルシー嬢は冷めきった目でボソリと呟いた。
「……負け惜しみかしら」
「……。はい?」
「自分がアンドリュー様から捨てられたからって、そんなに私を敵対視して上から目線でお説教なさらないでくれる?もう私の方が立場は上なの。私を虐めたらアンドリュー様に告げ口するから」
「…………。」
帰っていい?
何で週末を潰してまで、全く気の進まない茶会にわざわざ出向いてきてやって、当の本人からはこの言われようなのよ?!あんまりじゃない?!
母の座っている方向から冷気が感じられる。たぶんそろそろ、では帰りましょうかメレディア、とか言い出すと思う。
「……お止めなさいエルシーさん。……メレディア様、本当にごめんなさい。責任を持ってきちんと教育しておきますから……」
ウィンズレット侯爵夫人がエルシー嬢に青筋を立てつつ、真っ白な顔で私に向かってそう謝罪をくれる。その目は血走り、声も震えている。夫人もきっと限界が近いのだろう。皆白けきった顔をするか、凍てつくような冷たい視線でエルシー嬢を見据えている。場の雰囲気は最悪だった。
しかしこうなってくるとますます責任感が湧いてくるのが私の真骨頂だ。結果として引き受ける形になった以上、ここで放り出して帰るわけにはいかない。せめてやれるだけのことはやろう。
「……決して“上から目線”のつもりはございませんが、その王太子殿下からエルシー嬢への助言を仰せつかっておりますので。まず、淑女というのはそのように人様の前で感情を露わにすることはいたしません。会話はあくまで、常ににこやかに。そして椅子に座ったら、背筋を伸ばして姿勢を正してくださいませ」
それにしてもこの人……。あの誕生日パーティーの日、アンドリュー様に身を寄せてヒィヒィ泣いていたか弱げな姿とはまるで別人のようね。
不貞腐れた顔で尊大な態度をとるエルシー嬢を見ながら、私はそんなことを考え呆れていた。
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