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35.父の怒り(※sideダミアン)
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グレアム侯爵令息、と父の口からその名が出た時、俺はピタリと動きを止めた。
……なん、だと…………?
もう嫌な予感しかしない。
「グレアム侯爵令息、それからラザフォード侯爵令嬢と、クラウディア嬢だ。3人でやって来て、お前のこれまでの恥ずべき行動について全て説明してくれた」
「……………………。」
「その日記に書いてあるお前の言動の全ては真実であると。ラザフォード侯爵令嬢はクラウディア嬢の相談に何度も乗っていたそうだ。随分苦しんでいたのを見てきたと」
「……………………。」
「学生の頃からのお前の軽薄な行動、ラザフォード侯爵邸で行われた会でのお前の不埒な行動、自分は屋敷に次々と女を連れ込んでおきながら、クラウディア嬢が友人であるグレアム侯爵と外出するだけで目くじら立てて文句を言っていたこと。何もかも聞いた」
「…………ち…………父上…、違います……、あの男は…………グレアム侯爵令息は、ク、クラウディアに懸想しているのです……。だから……お、俺を貶めて、離婚させようと、目茶苦茶な…」
「そうか?ではお前と王立学園で共に学んでいた他の誰に真実を聞いても大丈夫だな?」
「……………………その……」
「ちなみにこの屋敷の侍女たちからも証言を得ている。クラウディア嬢はグレアム侯爵令息と時折日中にお出かけすることがあったが、それだけだと。怪しげな行動は一切なかったと。逆にお前の方はクラウディア嬢を泣かせてもおかまいなしに好き放題遊び回っていたということも聞いておる」
「…………っ!!」
じ……っ、……侍女たちまで……!裏切りやがって……!誰が主人だと思ってるんだ……!!
「…………ク……クラウディアは…………、今、どこに…」
とにかく、あいつと話して機嫌を取らなくては。このまま離婚など、分が悪すぎる。この父上がお咎めなしで俺を許してくれるはずもない。
「クラウディア嬢は実家にいる。昨日マクラウド伯爵夫妻とも話をしてきたところだ。一家で離婚の意志は固く、もう覆すことは不可能だ。……やってくれたな、貴様」
「………………っ!!」
父の俺を見る目は氷のように冷たく、とても実の息子に向ける目ではなかった。マクラウド伯爵家との関係を台無しにされた怒りと恨みがこもっている。俺は無意識に立ち上がった。
「…………だ、……大丈夫です、父上……。…クラウディアと、きちんと話を、してまいりますので……。あ…………あいつが、この俺と、離婚など、で、できるわけがない…」
そうだ。ともかく、きちんと顔を合わせて話そう。大丈夫だ、大丈夫…………。あいつは昔から俺一筋だったじゃないか…。俺がどんなにないがしろにしても、冷たくしても、いつも俺の愛情ばかりを期待して…………
「座れ、ダミアン。まだ重要な話が終わっていない。クラウディア嬢はお前のやるべき仕事を肩代わりし、ずっと書類に目を通してくれていたそうだな。その中で収支の悪化に気付きお前に改善方法を相談しようと何度も声をかけたそうだ。…だがお前は彼女が仕事の話をしようとしてくれるたびに突っぱねていたそうじゃないか。そのことは本人の口からも聞いたし、この日記にもずっと記されている」
「…………そ……」
し、仕事の話…………。
確かに、あいつは心底鬱陶しくなるほどに何度も何度も俺にそのことばかり話そうとしていた。面倒な話ばかり振ってくることに苛立ってずっと無視し続けてきたが。
父の俺を睨めつける目は、もはや殺意さえ感じられるほどだった。低く咆えるような声で父は言った。
「お前ごときを信用して我がウィルコックス領の3分の1もの領地を任せておいたことが心底悔やまれる。……まさか、お前がここまで無能だったとはな。早めに手を打っておけば、まだどうにかなっていたものを……」
「……っ!……ち、……父上…」
「…クラウディア嬢の日記を読んでも明白だが、お前はよほど自由が好きらしい。よかろう。お前をこのウィルコックス伯爵家から解き放ってやる。どこへでも行って自由に暮らすがいい。今日を限りにお前はもう私たちの息子ではない」
「っ!!ま…………まっ、…待ってくださいよ父上!!」
「ただし、マクラウド伯爵家へ支払う慰謝料はきちんとお前自身が稼げよ。うちはお前のせいですでに大損害を被っておる。これ以上出せばもう家が立ち行かなくなるからな」
「…………っ!!」
「後のことは知らん。この屋敷も返してもらう。さっさと荷物をまとめてここから立ち去れ。3日後にまだここに残っているようであれば強制的に出て行ってもらうからな」
父は少しの迷いも感じさせない口調で淡々とそう言うとすぐさま立ち上がり、居間を出て行き、そして帰っていった。
「……………………え…………?」
……嘘だろ…?え?3日……?3日後……?たった3日後には、俺はもうこの屋敷にさえいられないのか……?
何故だ……何故こうなる……?何であんなに簡単に言うんだ。冗談だろ?実の息子が可愛くないのか。あんな…………お、俺に、少しの未練もなさそうに…………。
「……よ、……よし……、とにかく、クラウディア……クラウディアに会わなければ…………」
俺は馬車を用意させると混乱する頭を抱えたままフラフラと屋敷を出た。
大丈夫だ、……大丈夫。
クラウディアは俺を見捨てたりしない。父に会いに行って全てを曝したのも……おそらくは、俺へのお仕置きのつもりなのだ。
よし、分かった。そこまで俺の裏切りを怒っているというのなら、今後はもう、態度を改めるとしよう。気にくわないが、この際こちらが下手に出て、あいつの許しを請うしかあるまい。
大丈夫だ……あいつは本気じゃない……。
あいつは常に俺のことだけを想っていた。何があっても、それが変わることはない。
……なん、だと…………?
もう嫌な予感しかしない。
「グレアム侯爵令息、それからラザフォード侯爵令嬢と、クラウディア嬢だ。3人でやって来て、お前のこれまでの恥ずべき行動について全て説明してくれた」
「……………………。」
「その日記に書いてあるお前の言動の全ては真実であると。ラザフォード侯爵令嬢はクラウディア嬢の相談に何度も乗っていたそうだ。随分苦しんでいたのを見てきたと」
「……………………。」
「学生の頃からのお前の軽薄な行動、ラザフォード侯爵邸で行われた会でのお前の不埒な行動、自分は屋敷に次々と女を連れ込んでおきながら、クラウディア嬢が友人であるグレアム侯爵と外出するだけで目くじら立てて文句を言っていたこと。何もかも聞いた」
「…………ち…………父上…、違います……、あの男は…………グレアム侯爵令息は、ク、クラウディアに懸想しているのです……。だから……お、俺を貶めて、離婚させようと、目茶苦茶な…」
「そうか?ではお前と王立学園で共に学んでいた他の誰に真実を聞いても大丈夫だな?」
「……………………その……」
「ちなみにこの屋敷の侍女たちからも証言を得ている。クラウディア嬢はグレアム侯爵令息と時折日中にお出かけすることがあったが、それだけだと。怪しげな行動は一切なかったと。逆にお前の方はクラウディア嬢を泣かせてもおかまいなしに好き放題遊び回っていたということも聞いておる」
「…………っ!!」
じ……っ、……侍女たちまで……!裏切りやがって……!誰が主人だと思ってるんだ……!!
「…………ク……クラウディアは…………、今、どこに…」
とにかく、あいつと話して機嫌を取らなくては。このまま離婚など、分が悪すぎる。この父上がお咎めなしで俺を許してくれるはずもない。
「クラウディア嬢は実家にいる。昨日マクラウド伯爵夫妻とも話をしてきたところだ。一家で離婚の意志は固く、もう覆すことは不可能だ。……やってくれたな、貴様」
「………………っ!!」
父の俺を見る目は氷のように冷たく、とても実の息子に向ける目ではなかった。マクラウド伯爵家との関係を台無しにされた怒りと恨みがこもっている。俺は無意識に立ち上がった。
「…………だ、……大丈夫です、父上……。…クラウディアと、きちんと話を、してまいりますので……。あ…………あいつが、この俺と、離婚など、で、できるわけがない…」
そうだ。ともかく、きちんと顔を合わせて話そう。大丈夫だ、大丈夫…………。あいつは昔から俺一筋だったじゃないか…。俺がどんなにないがしろにしても、冷たくしても、いつも俺の愛情ばかりを期待して…………
「座れ、ダミアン。まだ重要な話が終わっていない。クラウディア嬢はお前のやるべき仕事を肩代わりし、ずっと書類に目を通してくれていたそうだな。その中で収支の悪化に気付きお前に改善方法を相談しようと何度も声をかけたそうだ。…だがお前は彼女が仕事の話をしようとしてくれるたびに突っぱねていたそうじゃないか。そのことは本人の口からも聞いたし、この日記にもずっと記されている」
「…………そ……」
し、仕事の話…………。
確かに、あいつは心底鬱陶しくなるほどに何度も何度も俺にそのことばかり話そうとしていた。面倒な話ばかり振ってくることに苛立ってずっと無視し続けてきたが。
父の俺を睨めつける目は、もはや殺意さえ感じられるほどだった。低く咆えるような声で父は言った。
「お前ごときを信用して我がウィルコックス領の3分の1もの領地を任せておいたことが心底悔やまれる。……まさか、お前がここまで無能だったとはな。早めに手を打っておけば、まだどうにかなっていたものを……」
「……っ!……ち、……父上…」
「…クラウディア嬢の日記を読んでも明白だが、お前はよほど自由が好きらしい。よかろう。お前をこのウィルコックス伯爵家から解き放ってやる。どこへでも行って自由に暮らすがいい。今日を限りにお前はもう私たちの息子ではない」
「っ!!ま…………まっ、…待ってくださいよ父上!!」
「ただし、マクラウド伯爵家へ支払う慰謝料はきちんとお前自身が稼げよ。うちはお前のせいですでに大損害を被っておる。これ以上出せばもう家が立ち行かなくなるからな」
「…………っ!!」
「後のことは知らん。この屋敷も返してもらう。さっさと荷物をまとめてここから立ち去れ。3日後にまだここに残っているようであれば強制的に出て行ってもらうからな」
父は少しの迷いも感じさせない口調で淡々とそう言うとすぐさま立ち上がり、居間を出て行き、そして帰っていった。
「……………………え…………?」
……嘘だろ…?え?3日……?3日後……?たった3日後には、俺はもうこの屋敷にさえいられないのか……?
何故だ……何故こうなる……?何であんなに簡単に言うんだ。冗談だろ?実の息子が可愛くないのか。あんな…………お、俺に、少しの未練もなさそうに…………。
「……よ、……よし……、とにかく、クラウディア……クラウディアに会わなければ…………」
俺は馬車を用意させると混乱する頭を抱えたままフラフラと屋敷を出た。
大丈夫だ、……大丈夫。
クラウディアは俺を見捨てたりしない。父に会いに行って全てを曝したのも……おそらくは、俺へのお仕置きのつもりなのだ。
よし、分かった。そこまで俺の裏切りを怒っているというのなら、今後はもう、態度を改めるとしよう。気にくわないが、この際こちらが下手に出て、あいつの許しを請うしかあるまい。
大丈夫だ……あいつは本気じゃない……。
あいつは常に俺のことだけを想っていた。何があっても、それが変わることはない。
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