34 / 39
34.クラウディアの日記(※sideダミアン)
しおりを挟む
「父上……お待たせいたしました。どうされたのですか?わざわざ…」
ここまでいらっしゃるなんて、と言おうとしたが、父と目が合った途端に言葉が喉でつかえた。
……な、何だ……?凄まじい怒りを感じる。父のこめかみには青筋が浮き、歯ぎしりが聞こえてきそうなほど口元に力がこもっている。充血した目でまるで呪いでもかけるかのように俺を睨みつけている。
「……今日の相手はメラニー・ドノヴァン男爵令嬢か」
「…。…………っ?!へ……っ?!」
父の言葉が脳に届いた瞬間、俺は目を見開いて跳びはねた。な、……何故、メラニーの名を……?
途端に心臓が大きく脈打ちはじめ、じわりと嫌な汗が浮く。
「……な……っ、……何の、こと、でしょう、か……」
頭の中では無駄なことだと分かりつつも、俺は一応とぼけてみせた。メラニーのやつ……さっさと帰っただろうな……!
すると突然父がザッと立ち上がり、居間を出て行く。俺は慌てて父を止めた。
「ちっ!ちちうえっ!おっ、お待ちください…っ、ど、どこへ…」
声が裏返る。すぐに後を追ったが、時すでに遅し。父はそのまま玄関ホールへ向かうと、ちょうど扉に手をかけたところで固まって父を見つめるメラニーに声をかけた。
「息子が世話になっているようだな、メラニー・ドノヴァン男爵令嬢殿。お父上にはあなたから先に事情を説明しておいた方がいい。マクラウド伯爵家へ支払うことになる慰謝料は決して安くはない。心構えが必要だろう」
「………………っ、…………な…………何のことだか、……あ、あたくしには、さっぱり………………し、失礼いたしますわ!!」
メラニーは夢中で扉を開けると顔面蒼白のまま外へ飛び出していった。
父はゆっくりと俺を振り返る。……その顔はまさに鬼だった。
「……居間へ戻れ、ダミアン」
「…………っ、」
一体これから何を言われるのか。恐怖で胃が思いきり強く絞られたような感覚がした。
「先日、マクラウド伯爵からお前たちの婚姻に対しての離婚申立書が届いた。多額の慰謝料請求書とともにな」
「っ?!え……っ?!」
寝耳に水の言葉に俺は思わず叫んだ。な、何だと……?!何故だ?!クラウディアのやつ…………まさか、全てを両親に話してしまったのか……?!
離婚……?!離婚だと……?!
「お前、結婚した時にはすでにドノヴァン男爵令嬢をはじめ何人もの愛人がいたそうだな。クラウディア嬢の苦悩は全て彼女のこの日記に記してある。…貴様よりにもよって、隠し通すこともせずに彼女に不貞行為を曝け出したそうだな。…何が自由な結婚生活だ、この不届き者が」
(………………う…………嘘だろ…………)
父がテーブルの上に置いた赤い表紙の日記を手に取り、おそるおそる中を開いた。
そこには、この結婚生活の何もかもが赤裸々に記されていた。あいつの手によって。
“私は今日、ダミアン様の妻となった。幼い頃からずっとずっと楽しみにしていた今日のこの日。だけどダミアン様は違った。私たちのこの結婚はまるっきり愛のない政略結婚だと。互いに自由に生きようと仰った。辛くてたまらない。”
“ダミアン様が帰ってこない。もう3日になる。どこにいらっしゃるのだろう。何も聞いていないから、心配でたまらない。大丈夫だろうか。早くご無事な姿が見たい。”
“一体何をしたらダミアン様に喜んでもらえるのだろう。どう尽くしても、私の想いは彼に伝わらない。俺に構わず勝手にやれと言われると、寂しくて辛い。”
“お仕事をお手伝いさせて欲しいと言ってみたところ、初めてダミアン様が私に向かって微笑んでくださった。嬉しい。頑張らなくては。”
“ダミアン様が任されている領地の経営状況が良くない。何度もお伝えしなくてはと思っているのに、ダミアン様はお仕事の話を嫌がって聞いてくださらない。今日も伝えようとしたところ嫌な顔をしてすぐに出て行ってしまった。”
“ダミアン様が深夜になってメラニー・ドノヴァン男爵令嬢を伴って屋敷にお戻りになった。こんな時間から何をするのかと尋ねると、夜を共に過ごすのだと。俺の愛情など期待せずに好きに生きろと言われた。こんな結婚生活になってしまうなんて。涙が止まらない。辛い。悲しい。”
「…………………………っ、」
(ぜ………………全部、書いてやがる…………)
目まいがした。もうこれ以上目を通す気にはなれない。き、切り抜けなくては……。俺は必死で頭を回転させた。…いや、大丈夫だ、こんなもの。あいつの妄想だと言ってしまえばそれまでじゃないか?こんなものは書いた者勝ちだ。何の証拠にもならない。あいつは精神を病んでいるのだ。そうだ、そういう体でいこう。
「……ふ、……ふは、…父上、この日記とやらは、おそらく全てクラウディアが適当に書いた架空の物語のようです。こんな事実は一切ない。メラニー嬢とは確かに親しくはしておりますが、それはただの友人…」
「先日、うちにグレアム侯爵令息が来た」
「…………………………え」
ここまでいらっしゃるなんて、と言おうとしたが、父と目が合った途端に言葉が喉でつかえた。
……な、何だ……?凄まじい怒りを感じる。父のこめかみには青筋が浮き、歯ぎしりが聞こえてきそうなほど口元に力がこもっている。充血した目でまるで呪いでもかけるかのように俺を睨みつけている。
「……今日の相手はメラニー・ドノヴァン男爵令嬢か」
「…。…………っ?!へ……っ?!」
父の言葉が脳に届いた瞬間、俺は目を見開いて跳びはねた。な、……何故、メラニーの名を……?
途端に心臓が大きく脈打ちはじめ、じわりと嫌な汗が浮く。
「……な……っ、……何の、こと、でしょう、か……」
頭の中では無駄なことだと分かりつつも、俺は一応とぼけてみせた。メラニーのやつ……さっさと帰っただろうな……!
すると突然父がザッと立ち上がり、居間を出て行く。俺は慌てて父を止めた。
「ちっ!ちちうえっ!おっ、お待ちください…っ、ど、どこへ…」
声が裏返る。すぐに後を追ったが、時すでに遅し。父はそのまま玄関ホールへ向かうと、ちょうど扉に手をかけたところで固まって父を見つめるメラニーに声をかけた。
「息子が世話になっているようだな、メラニー・ドノヴァン男爵令嬢殿。お父上にはあなたから先に事情を説明しておいた方がいい。マクラウド伯爵家へ支払うことになる慰謝料は決して安くはない。心構えが必要だろう」
「………………っ、…………な…………何のことだか、……あ、あたくしには、さっぱり………………し、失礼いたしますわ!!」
メラニーは夢中で扉を開けると顔面蒼白のまま外へ飛び出していった。
父はゆっくりと俺を振り返る。……その顔はまさに鬼だった。
「……居間へ戻れ、ダミアン」
「…………っ、」
一体これから何を言われるのか。恐怖で胃が思いきり強く絞られたような感覚がした。
「先日、マクラウド伯爵からお前たちの婚姻に対しての離婚申立書が届いた。多額の慰謝料請求書とともにな」
「っ?!え……っ?!」
寝耳に水の言葉に俺は思わず叫んだ。な、何だと……?!何故だ?!クラウディアのやつ…………まさか、全てを両親に話してしまったのか……?!
離婚……?!離婚だと……?!
「お前、結婚した時にはすでにドノヴァン男爵令嬢をはじめ何人もの愛人がいたそうだな。クラウディア嬢の苦悩は全て彼女のこの日記に記してある。…貴様よりにもよって、隠し通すこともせずに彼女に不貞行為を曝け出したそうだな。…何が自由な結婚生活だ、この不届き者が」
(………………う…………嘘だろ…………)
父がテーブルの上に置いた赤い表紙の日記を手に取り、おそるおそる中を開いた。
そこには、この結婚生活の何もかもが赤裸々に記されていた。あいつの手によって。
“私は今日、ダミアン様の妻となった。幼い頃からずっとずっと楽しみにしていた今日のこの日。だけどダミアン様は違った。私たちのこの結婚はまるっきり愛のない政略結婚だと。互いに自由に生きようと仰った。辛くてたまらない。”
“ダミアン様が帰ってこない。もう3日になる。どこにいらっしゃるのだろう。何も聞いていないから、心配でたまらない。大丈夫だろうか。早くご無事な姿が見たい。”
“一体何をしたらダミアン様に喜んでもらえるのだろう。どう尽くしても、私の想いは彼に伝わらない。俺に構わず勝手にやれと言われると、寂しくて辛い。”
“お仕事をお手伝いさせて欲しいと言ってみたところ、初めてダミアン様が私に向かって微笑んでくださった。嬉しい。頑張らなくては。”
“ダミアン様が任されている領地の経営状況が良くない。何度もお伝えしなくてはと思っているのに、ダミアン様はお仕事の話を嫌がって聞いてくださらない。今日も伝えようとしたところ嫌な顔をしてすぐに出て行ってしまった。”
“ダミアン様が深夜になってメラニー・ドノヴァン男爵令嬢を伴って屋敷にお戻りになった。こんな時間から何をするのかと尋ねると、夜を共に過ごすのだと。俺の愛情など期待せずに好きに生きろと言われた。こんな結婚生活になってしまうなんて。涙が止まらない。辛い。悲しい。”
「…………………………っ、」
(ぜ………………全部、書いてやがる…………)
目まいがした。もうこれ以上目を通す気にはなれない。き、切り抜けなくては……。俺は必死で頭を回転させた。…いや、大丈夫だ、こんなもの。あいつの妄想だと言ってしまえばそれまでじゃないか?こんなものは書いた者勝ちだ。何の証拠にもならない。あいつは精神を病んでいるのだ。そうだ、そういう体でいこう。
「……ふ、……ふは、…父上、この日記とやらは、おそらく全てクラウディアが適当に書いた架空の物語のようです。こんな事実は一切ない。メラニー嬢とは確かに親しくはしておりますが、それはただの友人…」
「先日、うちにグレアム侯爵令息が来た」
「…………………………え」
155
お気に入りに追加
3,009
あなたにおすすめの小説
理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました
ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。
このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。
そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。
ーーーー
若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。
作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。
完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。
第一章 無計画な婚約破棄
第二章 無計画な白い結婚
第三章 無計画な告白
第四章 無計画なプロポーズ
第五章 無計画な真実の愛
エピローグ
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。
王子様、あなたの不貞を私は知っております
岡暁舟
恋愛
第一王子アンソニーの婚約者、正妻として名高い公爵令嬢のクレアは、アンソニーが自分のことをそこまで本気に愛していないことを知っている。彼が夢中になっているのは、同じ公爵令嬢だが、自分よりも大部下品なソーニャだった。
「私は知っております。王子様の不貞を……」
場合によっては離縁……様々な危険をはらんでいたが、クレアはなぜか余裕で?
本編終了しました。明日以降、続編を新たに書いていきます。
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
貴方に私は相応しくない【完結】
迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。
彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。
天使のような無邪気な笑みで愛を語り。
彼は私の心を踏みにじる。
私は貴方の都合の良い子にはなれません。
私は貴方に相応しい女にはなれません。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる