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32.温室での再会
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「馬鹿なこと考えないで!!終わらせなくていいのよクラウディアさん!!」
「……は……、……え……?」
ダミアン様とのあの最悪のお出かけから数日後。花々が咲き乱れるラザフォード侯爵邸の温室で、私はエレナ様に詰め寄られていた。目の前に迫ったエレナ様の迫力ある顔に思わず後ずさりたくなる。
なかなかお会いする機会がなく久しぶりにお屋敷に招いていただいてエレナ様と会った途端、開口一番「で?どうなの最近」と尋ねてこられたのだ。元はと言えばエレナ様にお話を聞いてもらったことから始まったアーネスト様との逢瀬。最後までお伝えしておくべきかなと思い、私は自分の気持ちをエレナ様に打ち明けたのだった。
「アーネストに恋をしちゃったからダミアン・ウィルコックスに対して後ろめたいってことでしょ?そんなこと!気にしなくていいんだってば!向こうをご覧なさいよ、もっともーっとやりたい放題じゃないの!!あなたの秘めた恋なんて可愛いものよ。清い関係なんだからいいのよ、食事やお散歩ぐらい。どんどんなさいよ!」
「こ……っ、……恋……」
改めて言葉にされると顔から火が出る。
「言っとくけどね、あの男は病気よ、クラウディアさん。あなたの夫はおそらくあなたがどんなに誠実に尽くしても変わってくれることなんてないわ。まだまだ人生は長いのよ。あんな男のためだけに生きていくなんて、…あなたの心がどうにかなっちゃう」
「……エレナ様……」
真剣な表情で詰め寄ってきたかと思えば急に悲しげな顔になるエレナ様の様子を見ていると、本当に心配してくださっているんだな…と、ありがたいけれど申し訳なくもなる。
「いいじゃないの、たまに気晴らしぐらいしたって。心で想っているだけなら罪じゃないわ。……ね?あなたに見向きもしないで他の女とばかり過ごす男ために自分の心を浪費しないで。ね?」
「で、ですが……、たとえ夫が私に見向きもせずに他の女性とばかり過ごしていたとしても、私がダミアン様の妻であるという事実は変わりません…。後ろめたくて耐えがたいのです、…こんなにも……」
夫以外の男性を想ってしまうなんて。
「ダミアン・ウィルコックス以外の男を想ってしまうなんて、って思っているの?」
ビクッ。
エレナ様には超能力でもあるのだろうか。
「……そ……そうです……。どんなに不実な関係ではないと主張しても、きっと私とアーネスト様が一緒にいるのを見かけたらそうは信じてくれない人だって出てくるでしょうし…。その時に胸を張って、違います、ただの友人です、とは言えないんです、もう…」
「……。」
「…私の中で、アーネスト様はとっくにただの友人ではなくなってしまいました…。あんなに夫と愛のある家庭を築きたいと思っていたはずなのに、今の私の心には、アーネスト様しかいません…」
「……。」
「…こんなに好きになってしまって……これ以上お会いしていたら、私はもう……自分を抑える自身がありません……」
「光栄だよ、クラウディア」
……ん?
「……。………………?……っ、っ?!ひあっ!!」
幻聴かな?と思いながら後ろを振り返ると、何故だかそこにはアーネスト様が立っていた。私の真後ろに。思わず飛び上がった私は変な声を上げてしまった。
「アッ……!!ア、ア……!!」
「君が私と同じ気持ちでいてくれたなんて……このまま天にまで昇っていけそうだ。……嬉しいよ、とても」
私の前で跪いたアーネスト様は、私の手をそっと握り、噛みしめるようにそう言った。激しく混乱している私はまともに声も出せず、ただただ体中を火照らせて固まっていることしかできない。恥ずかしさで発火しそうなほど熱い。
「……さて、と。お邪魔なようだからお茶菓子でも持ってくるわね。もうここにあるけど、もう一個」
小さくそう言うとエレナ様はスーッと温室を出て行ってしまわれた。私とアーネスト様は二人きりになる。
「~~~~~~~~っ!」
「クラウディア」
涙目になり真っ赤な顔で震えている私に、アーネスト様はとても真剣な眼差しを向ける。
「こんな手段を使ったことを許してほしい。どうしても君に会いたかったんだ。だが我々の関係では一方的に屋敷に押しかけることも、私の想いの全てを手紙に綴ることも憚られた。結果として……エレナの手を借りることになった」
「…………っ、」
「クラウディア。私としても、君の心を追い詰めるような真似はもうしたくない。私は君を堂々と抱きしめ、君に愛を誓いたいんだ。だから……」
私の手を握るアーネスト様の指に力がこもる。
「……彼と離婚して、私と一緒になってほしい」
「……っ!!ア……アーネスト様……っ」
突然現れたアーネスト様から、まだ胸の鼓動も治まっていないうちにとんでもなく大胆なことを言われてしまい、私はますますパニックになった。
り、……離婚……?わ、私が……ダミアン様と……?
「…………そ……、……それ、は……」
「…嫌かい?クラウディア。彼と別れて、私と共に生きるのは」
「……っ、ま、まさか…………そんな……」
嫌なわけがない。アーネスト様からこんなことを言ってもらえるなんて。私の方こそ、天にも昇るほどの心地だ。
けれど……。
「……そんな、……大それたこと……、…とても考えられなくて……」
私は俯いて小さな声でおずおずと答える。だってまさか……私たちが離婚だなんて…、両親にはどう説明すればいいのだろう。ウィルコックス伯爵にだって、認めてもらえるとはとても思えない。
「クラウディア」
はっきりとした返事ができずに困り果てている私の手を、アーネスト様は優しく撫でながら言った。
「君の心は、私を選んでくれているんだね?」
「……っ、………………は…………はい……」
ああ、いいのだろうか、こんなことを言ってしまって……。
罪悪感とアーネスト様への恋心に挟まれて潰れてしまいそうな私に、彼はとても穏やかな声で囁いた。
「ありがとう。大丈夫だから。…私を信じて」
「……は……、……え……?」
ダミアン様とのあの最悪のお出かけから数日後。花々が咲き乱れるラザフォード侯爵邸の温室で、私はエレナ様に詰め寄られていた。目の前に迫ったエレナ様の迫力ある顔に思わず後ずさりたくなる。
なかなかお会いする機会がなく久しぶりにお屋敷に招いていただいてエレナ様と会った途端、開口一番「で?どうなの最近」と尋ねてこられたのだ。元はと言えばエレナ様にお話を聞いてもらったことから始まったアーネスト様との逢瀬。最後までお伝えしておくべきかなと思い、私は自分の気持ちをエレナ様に打ち明けたのだった。
「アーネストに恋をしちゃったからダミアン・ウィルコックスに対して後ろめたいってことでしょ?そんなこと!気にしなくていいんだってば!向こうをご覧なさいよ、もっともーっとやりたい放題じゃないの!!あなたの秘めた恋なんて可愛いものよ。清い関係なんだからいいのよ、食事やお散歩ぐらい。どんどんなさいよ!」
「こ……っ、……恋……」
改めて言葉にされると顔から火が出る。
「言っとくけどね、あの男は病気よ、クラウディアさん。あなたの夫はおそらくあなたがどんなに誠実に尽くしても変わってくれることなんてないわ。まだまだ人生は長いのよ。あんな男のためだけに生きていくなんて、…あなたの心がどうにかなっちゃう」
「……エレナ様……」
真剣な表情で詰め寄ってきたかと思えば急に悲しげな顔になるエレナ様の様子を見ていると、本当に心配してくださっているんだな…と、ありがたいけれど申し訳なくもなる。
「いいじゃないの、たまに気晴らしぐらいしたって。心で想っているだけなら罪じゃないわ。……ね?あなたに見向きもしないで他の女とばかり過ごす男ために自分の心を浪費しないで。ね?」
「で、ですが……、たとえ夫が私に見向きもせずに他の女性とばかり過ごしていたとしても、私がダミアン様の妻であるという事実は変わりません…。後ろめたくて耐えがたいのです、…こんなにも……」
夫以外の男性を想ってしまうなんて。
「ダミアン・ウィルコックス以外の男を想ってしまうなんて、って思っているの?」
ビクッ。
エレナ様には超能力でもあるのだろうか。
「……そ……そうです……。どんなに不実な関係ではないと主張しても、きっと私とアーネスト様が一緒にいるのを見かけたらそうは信じてくれない人だって出てくるでしょうし…。その時に胸を張って、違います、ただの友人です、とは言えないんです、もう…」
「……。」
「…私の中で、アーネスト様はとっくにただの友人ではなくなってしまいました…。あんなに夫と愛のある家庭を築きたいと思っていたはずなのに、今の私の心には、アーネスト様しかいません…」
「……。」
「…こんなに好きになってしまって……これ以上お会いしていたら、私はもう……自分を抑える自身がありません……」
「光栄だよ、クラウディア」
……ん?
「……。………………?……っ、っ?!ひあっ!!」
幻聴かな?と思いながら後ろを振り返ると、何故だかそこにはアーネスト様が立っていた。私の真後ろに。思わず飛び上がった私は変な声を上げてしまった。
「アッ……!!ア、ア……!!」
「君が私と同じ気持ちでいてくれたなんて……このまま天にまで昇っていけそうだ。……嬉しいよ、とても」
私の前で跪いたアーネスト様は、私の手をそっと握り、噛みしめるようにそう言った。激しく混乱している私はまともに声も出せず、ただただ体中を火照らせて固まっていることしかできない。恥ずかしさで発火しそうなほど熱い。
「……さて、と。お邪魔なようだからお茶菓子でも持ってくるわね。もうここにあるけど、もう一個」
小さくそう言うとエレナ様はスーッと温室を出て行ってしまわれた。私とアーネスト様は二人きりになる。
「~~~~~~~~っ!」
「クラウディア」
涙目になり真っ赤な顔で震えている私に、アーネスト様はとても真剣な眼差しを向ける。
「こんな手段を使ったことを許してほしい。どうしても君に会いたかったんだ。だが我々の関係では一方的に屋敷に押しかけることも、私の想いの全てを手紙に綴ることも憚られた。結果として……エレナの手を借りることになった」
「…………っ、」
「クラウディア。私としても、君の心を追い詰めるような真似はもうしたくない。私は君を堂々と抱きしめ、君に愛を誓いたいんだ。だから……」
私の手を握るアーネスト様の指に力がこもる。
「……彼と離婚して、私と一緒になってほしい」
「……っ!!ア……アーネスト様……っ」
突然現れたアーネスト様から、まだ胸の鼓動も治まっていないうちにとんでもなく大胆なことを言われてしまい、私はますますパニックになった。
り、……離婚……?わ、私が……ダミアン様と……?
「…………そ……、……それ、は……」
「…嫌かい?クラウディア。彼と別れて、私と共に生きるのは」
「……っ、ま、まさか…………そんな……」
嫌なわけがない。アーネスト様からこんなことを言ってもらえるなんて。私の方こそ、天にも昇るほどの心地だ。
けれど……。
「……そんな、……大それたこと……、…とても考えられなくて……」
私は俯いて小さな声でおずおずと答える。だってまさか……私たちが離婚だなんて…、両親にはどう説明すればいいのだろう。ウィルコックス伯爵にだって、認めてもらえるとはとても思えない。
「クラウディア」
はっきりとした返事ができずに困り果てている私の手を、アーネスト様は優しく撫でながら言った。
「君の心は、私を選んでくれているんだね?」
「……っ、………………は…………はい……」
ああ、いいのだろうか、こんなことを言ってしまって……。
罪悪感とアーネスト様への恋心に挟まれて潰れてしまいそうな私に、彼はとても穏やかな声で囁いた。
「ありがとう。大丈夫だから。…私を信じて」
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