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23.初デート(※sideアーネスト)
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エレナに感謝してもしきれない。さすがはエレナだ。やはりこういう時に頼りになるのはあいつを置いて他にはいない。
鏡の前で念入りに身支度を整えながら、私は心の中で何度もエレナに感謝の祈りを捧げた。
『奪うしかないわよ、アーネスト!!』
先日呼び出しを受けて急いでラザフォード侯爵家へ赴いた私に、開口一番彼女はそう言った。
『ダミアン・ウィルコックスは想像以上のクズ野郎だったわ。このままじゃあの子の人生はお先真っ暗よ。じっくり話を聞いてみた限り、たぶんクラウディアさんは心からウィルコックスを愛しているというよりも、夫婦だから愛しあって添い遂げなくてはいけないと自分に刷り込みをしているだけのような気がするわ。強迫観念のようなものよ。真面目だからそれ以外の選択肢なんてきっと考えられないのね。私しっかり言い聞かせておいたから。他の男性に目を向けてみて、よーく考えた方がいいって』
エレナのおかげでついにクラウディアが私の誘いに応じてくれたのだ。こうなったらもう押すしかない。自分のことを一途に愛している男から大切に守られることがいかに居心地の良いものか、それをクラウディアに教えてあげなくては。
あの男が全てではないのだと、君にはもっと幸せにしてくれる似合いの男がいるのだと、彼女にそれをアピールするんだ。
私は自分に気合いを入れると、彼女の屋敷を目指した。
「ごきげんよう、アーネスト様。わざわざお迎えに来てくださってありがとうございます!」
「……っ、」
か…………可愛すぎる…………!!
満面の笑みで私の前に現れたクラウディアは、淡い若草色のドレスにパールを基調としたアクセサリーをつけている。爽やかで愛らしく、彼女の魅力を充分に引き出している。
許されるならば今すぐにこの腕の中に抱きしめてしまいたいくらいだ。
「……当然のことだ、クラウディア嬢。今日はありがとう。とても綺麗だ」
「…あ……ありがとうございます……」
一言褒めただけで耳まで真っ赤に染める純粋な彼女が可愛くてたまらない。心の中で身悶えしながら、それをおくびにも出さずに私は言った。
「さぁ、行こうか」
「ええ」
想いを寄せる相手との二人きりの時間とあって私にしては珍しく緊張していたのだが、食事の席ではとても会話が弾んだ。王立学園での思い出話は尽きないし、クラウディアはよほど楽しいのか表情をくるくると変えながら私の話に相槌を打ち、ずっと私のことを見つめていた。これ以上ないほどの幸せな時間だった。
食事を終えると今日の記念にとあらかじめ店側に注文しておいた特別なデザートを出してもらい、その美しく繊細なデザインのケーキにクラウディアは口元を押さえて瞳を輝かせていた。
「……美味しい……。ふふ、舌が蕩けそうですわ」
頬に手を当てうっとりしながらそう言うクラウディアが可愛すぎてこっちが蕩けそうだった。
レストランを出てそのまま帰すのが惜しくて、少し二人で散歩をしようと提案してみた。彼女は「ええ!喜んで」と満面の笑みで答え、私の隣を静かについてくる。少し歩くとすぐに大きな公園に辿り着いた。その中央広場には巨大な噴水があり、周りに等間隔にいくつものベンチが置いてある。彼女が歩き疲れてしまわないようにと、私はさりげなくそのベンチに誘導して並んで座った。
「ここ、素敵ですねアーネスト様。街路樹も、噴水の周りの花々もとても素敵…」
「ああ。ここに来るのは初めてかい?」
「ええ。向こうの道を両親と馬車で通りがかったことは何度かあるのですが、ここに座ったのは初めてですわ」
この辺りでは恋人同士や婚約者と訪れる場所として、ここは定番なのだが。どうやらあの男はまともにデートにも連れて来たことがないようだ。
「……クラウディア嬢」
「はい?」
「……、」
言いたいことは山ほどあった。君が今幸せでないのなら、私が君を幸せにしたい。私の方があの男よりよほど良い夫になれるはずだ。想いの深さは誰にも負けない。私はずっと君のことだけが好きなのだから。
……だがさすがに今それを伝えるのは性急すぎる。焦っては駄目だ。打ち明けたい想いをぐっと飲み込んで、私は言った。
「…あまり遅くなってはいけないな。帰りはまた屋敷の前まで送っても大丈夫かい?」
「ええ、ありがとうございますアーネスト様。助かりますわ」
「…迎えに行った時も心配していたのだが、万が一彼に見られたら、私がきちんと説明するから安心してくれていい」
「大丈夫です。ダミアン様は気にも留めないと思いますわ。そもそもここ数日屋敷には帰ってきておりませんので」
「……。」
にっこり微笑んでそう言ったクラウディアが不憫でならない。何故こんな愛らしい女性に寂しい思いをさせられるのか。理解に苦しむ。同じ男とは思えない。
「…そうか。ならば、また食事に誘っても大丈夫だろうか。君と一緒に過ごす時間はとても楽しい」
「…ええ、私もですわ。嬉しいです」
ああ。もどかしい。今すぐにこの熱い想いを伝えられたらどんなにいいだろう。
「……こんなに楽しい一日を過ごしたのは本当に久しぶりでした。ありがとうございます、アーネスト様」
「喜んでもらえてよかった。…また、誘いの手紙を出すよ」
「ふふ。はい!楽しみにしています」
手を握り馬車から降りるのを手伝うと、私は彼女に小ぶりな花束を差し出した。紙袋に入れて馬車の隅に隠しておいたものだ。
「…今日のお礼に、これを」
「……っ!ア、アーネスト様……っ」
クラウディアは頬を染めて目を輝かせている。柔らかいピンクと白の花束は、彼女の雰囲気をイメージして準備したものだった。
「こ……こんな…………ありがとうございます……」
照れているのか、耳まで真っ赤になって俯いてしまったクラウディアは、それでも私から受け取った花束をしっかりとその胸に抱きしめてくれている。
「……こちらこそ、楽しい時間をありがとう、クラウディア嬢。また会おう、近いうちに」
鏡の前で念入りに身支度を整えながら、私は心の中で何度もエレナに感謝の祈りを捧げた。
『奪うしかないわよ、アーネスト!!』
先日呼び出しを受けて急いでラザフォード侯爵家へ赴いた私に、開口一番彼女はそう言った。
『ダミアン・ウィルコックスは想像以上のクズ野郎だったわ。このままじゃあの子の人生はお先真っ暗よ。じっくり話を聞いてみた限り、たぶんクラウディアさんは心からウィルコックスを愛しているというよりも、夫婦だから愛しあって添い遂げなくてはいけないと自分に刷り込みをしているだけのような気がするわ。強迫観念のようなものよ。真面目だからそれ以外の選択肢なんてきっと考えられないのね。私しっかり言い聞かせておいたから。他の男性に目を向けてみて、よーく考えた方がいいって』
エレナのおかげでついにクラウディアが私の誘いに応じてくれたのだ。こうなったらもう押すしかない。自分のことを一途に愛している男から大切に守られることがいかに居心地の良いものか、それをクラウディアに教えてあげなくては。
あの男が全てではないのだと、君にはもっと幸せにしてくれる似合いの男がいるのだと、彼女にそれをアピールするんだ。
私は自分に気合いを入れると、彼女の屋敷を目指した。
「ごきげんよう、アーネスト様。わざわざお迎えに来てくださってありがとうございます!」
「……っ、」
か…………可愛すぎる…………!!
満面の笑みで私の前に現れたクラウディアは、淡い若草色のドレスにパールを基調としたアクセサリーをつけている。爽やかで愛らしく、彼女の魅力を充分に引き出している。
許されるならば今すぐにこの腕の中に抱きしめてしまいたいくらいだ。
「……当然のことだ、クラウディア嬢。今日はありがとう。とても綺麗だ」
「…あ……ありがとうございます……」
一言褒めただけで耳まで真っ赤に染める純粋な彼女が可愛くてたまらない。心の中で身悶えしながら、それをおくびにも出さずに私は言った。
「さぁ、行こうか」
「ええ」
想いを寄せる相手との二人きりの時間とあって私にしては珍しく緊張していたのだが、食事の席ではとても会話が弾んだ。王立学園での思い出話は尽きないし、クラウディアはよほど楽しいのか表情をくるくると変えながら私の話に相槌を打ち、ずっと私のことを見つめていた。これ以上ないほどの幸せな時間だった。
食事を終えると今日の記念にとあらかじめ店側に注文しておいた特別なデザートを出してもらい、その美しく繊細なデザインのケーキにクラウディアは口元を押さえて瞳を輝かせていた。
「……美味しい……。ふふ、舌が蕩けそうですわ」
頬に手を当てうっとりしながらそう言うクラウディアが可愛すぎてこっちが蕩けそうだった。
レストランを出てそのまま帰すのが惜しくて、少し二人で散歩をしようと提案してみた。彼女は「ええ!喜んで」と満面の笑みで答え、私の隣を静かについてくる。少し歩くとすぐに大きな公園に辿り着いた。その中央広場には巨大な噴水があり、周りに等間隔にいくつものベンチが置いてある。彼女が歩き疲れてしまわないようにと、私はさりげなくそのベンチに誘導して並んで座った。
「ここ、素敵ですねアーネスト様。街路樹も、噴水の周りの花々もとても素敵…」
「ああ。ここに来るのは初めてかい?」
「ええ。向こうの道を両親と馬車で通りがかったことは何度かあるのですが、ここに座ったのは初めてですわ」
この辺りでは恋人同士や婚約者と訪れる場所として、ここは定番なのだが。どうやらあの男はまともにデートにも連れて来たことがないようだ。
「……クラウディア嬢」
「はい?」
「……、」
言いたいことは山ほどあった。君が今幸せでないのなら、私が君を幸せにしたい。私の方があの男よりよほど良い夫になれるはずだ。想いの深さは誰にも負けない。私はずっと君のことだけが好きなのだから。
……だがさすがに今それを伝えるのは性急すぎる。焦っては駄目だ。打ち明けたい想いをぐっと飲み込んで、私は言った。
「…あまり遅くなってはいけないな。帰りはまた屋敷の前まで送っても大丈夫かい?」
「ええ、ありがとうございますアーネスト様。助かりますわ」
「…迎えに行った時も心配していたのだが、万が一彼に見られたら、私がきちんと説明するから安心してくれていい」
「大丈夫です。ダミアン様は気にも留めないと思いますわ。そもそもここ数日屋敷には帰ってきておりませんので」
「……。」
にっこり微笑んでそう言ったクラウディアが不憫でならない。何故こんな愛らしい女性に寂しい思いをさせられるのか。理解に苦しむ。同じ男とは思えない。
「…そうか。ならば、また食事に誘っても大丈夫だろうか。君と一緒に過ごす時間はとても楽しい」
「…ええ、私もですわ。嬉しいです」
ああ。もどかしい。今すぐにこの熱い想いを伝えられたらどんなにいいだろう。
「……こんなに楽しい一日を過ごしたのは本当に久しぶりでした。ありがとうございます、アーネスト様」
「喜んでもらえてよかった。…また、誘いの手紙を出すよ」
「ふふ。はい!楽しみにしています」
手を握り馬車から降りるのを手伝うと、私は彼女に小ぶりな花束を差し出した。紙袋に入れて馬車の隅に隠しておいたものだ。
「…今日のお礼に、これを」
「……っ!ア、アーネスト様……っ」
クラウディアは頬を染めて目を輝かせている。柔らかいピンクと白の花束は、彼女の雰囲気をイメージして準備したものだった。
「こ……こんな…………ありがとうございます……」
照れているのか、耳まで真っ赤になって俯いてしまったクラウディアは、それでも私から受け取った花束をしっかりとその胸に抱きしめてくれている。
「……こちらこそ、楽しい時間をありがとう、クラウディア嬢。また会おう、近いうちに」
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