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10.同窓会のお誘い
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他の騎士の方々はこの辺りの巡回を続けるそうで、アーネスト様だけが私たちに付き添ってくださることになった。
「表通りの方をまわっていたら、一人の少年が私たちに声をかけてきたんだよ。向こうの路地で綺麗な女の人が男たちに囲まれていると」
「まぁ、そうだったのですね…。その子に感謝しなくては」
親切な坊やに心の中でお礼を言った。
「……それにしても、こんな場所に君と侍女だけをよこすなんて……」
アーネスト様は納得いかないといった感じの表情をしている。きっとダミアン様に対して不信感を抱いたのだろう。私は慌てて言った。
「い、いえ、たぶん夫はこの辺りのことをよく知らなかったから私に任せたのだと思います。私もこの近辺がこんな雰囲気の場所だと知らなかったし…。少しの用事だからと侍女一人だけを連れて来たのも私の勝手な判断ですわ」
私がダミアン様の印象を悪くすまいと言い訳している間、侍女のジョアンナは私たちの後ろから大人しくついてきている。
「……そう。そんなに庇うなんて、……大切に思っているんだね、ご主人のことを」
「えっ?……あ、……はぁ……まぁ、ええ…」
何となく恥ずかしくて頬が火照る。アーネスト様はそんな私の横顔をじっと見ていた。
「順調みたいだね。……彼との、ダミアン・ウィルコックス伯爵令息との結婚生活は」
「……そ、…そう、ですね……。……はい」
順調かと聞かれれば、少しも順調ではない。だけど再会したばかりのアーネスト様に私たち夫婦のこんな問題を聞かせるのはどうかと思い、口籠もりながらごまかした。
だってまさか、「それが夫は自由でいたいそうで。女性のご友人を何人も屋敷に連れ込んでいるし、そもそも私たち寝室も別なんですよ。今のところ白い結婚なんです。今日のおつかいだって少しでも夫に私のことをよく思ってもらいたくて引き受けたんですよ」なんて言うわけにもいかないもの。アーネスト様が反応に困るだけだ。
その後私はアーネスト様に付き添ってもらい、無事に目的の家を見つけ預かった書簡を届けることができた。領主の家の女が突然おつかいでやって来るとは思ってもいなかったようで相手の代官の方はペコペコしていた。
「おかげさまで助かりましたわ、アーネスト様。今日は本当にありがとうございました」
広い通りで待っていたうちの馬車まで送り届けてくださったアーネスト様に、私は最後に改めてお礼を言った。
短い時間だったけれど、数ヶ月ぶりに王立学園時代の友人と会えて楽しかった。帰ったらダミアン様に話してみよう。会話のきっかけになるかもしれない。
「……あ、ああ」
「では、これで失礼いたしますわ、アーネスト様。お仕事頑張ってくださいね。王国騎士団の騎士様だなんて、アーネスト様にピッタリの素敵なお仕事ですわ」
「…そうかい?…ありがとう、クラウディア嬢」
決してお世辞で言ったわけではなかった。アーネスト様は文武両道の素敵な方。誰でも簡単になれるわけではない王国騎士という職業に就けたのも彼ならば納得だ。騎士の制服もすごく似合っていて格好いい。
「では、さよなら」
私は最後の挨拶をして馬車に乗り込もうとした。
けれどその時。
「…クラウディア嬢!」
「っ!は、はい?」
アーネスト様が大きな声で私を呼び止めたので驚いて振り向く。するとアーネスト様は少し口籠もりながら言った。
「…その……っ、……あれだ、…………エレナ……!エレナを覚えているかい?」
「……え、ええ、もちろん。ラザフォード侯爵家のエレナ様ですわよね?アーネスト様の従姉妹に当たられる…」
「ああ、そうだ。……そのエレナが、同窓会をしたいと言っているんだ」
「…………同窓会……?」
え?もう?
「ああ。…おそらく来月辺りには招待状が届くと思うよ、君たちにも。…ぜひ、参加してやってくれないか。たくさん集まってくれた方が、エレナも喜ぶと思うから」
「は、はい。もちろんですわ。喜んで伺います。ありがとうございます、アーネスト様」
私はアーネスト様と別れ、今度こそ馬車に乗り込み帰路についたのだった。
(…同窓会かぁ……。……早いわね……)
王立学園を卒業したのはまだほんの数ヶ月前のことだ。それなのに、もう同窓会をするなんて…。
(…だけどまぁ、エレナ様ならしてもおかしくないわね。ふふ)
アーネスト様の従姉妹に当たられるエレナ・ラザフォード侯爵令嬢は、快活でとてもご友人の多い方だった。お茶会がお好きでよく仲の良いご令嬢方と茶会を開いていた。さほど親しかったわけでもない私も時々呼ばれたことがある。
お話したいことがたくさんできた一日になった。今夜こそはダミアン様とゆっくり過ごせますように…。
私は祈るような思いで馬車に揺られていた。
「表通りの方をまわっていたら、一人の少年が私たちに声をかけてきたんだよ。向こうの路地で綺麗な女の人が男たちに囲まれていると」
「まぁ、そうだったのですね…。その子に感謝しなくては」
親切な坊やに心の中でお礼を言った。
「……それにしても、こんな場所に君と侍女だけをよこすなんて……」
アーネスト様は納得いかないといった感じの表情をしている。きっとダミアン様に対して不信感を抱いたのだろう。私は慌てて言った。
「い、いえ、たぶん夫はこの辺りのことをよく知らなかったから私に任せたのだと思います。私もこの近辺がこんな雰囲気の場所だと知らなかったし…。少しの用事だからと侍女一人だけを連れて来たのも私の勝手な判断ですわ」
私がダミアン様の印象を悪くすまいと言い訳している間、侍女のジョアンナは私たちの後ろから大人しくついてきている。
「……そう。そんなに庇うなんて、……大切に思っているんだね、ご主人のことを」
「えっ?……あ、……はぁ……まぁ、ええ…」
何となく恥ずかしくて頬が火照る。アーネスト様はそんな私の横顔をじっと見ていた。
「順調みたいだね。……彼との、ダミアン・ウィルコックス伯爵令息との結婚生活は」
「……そ、…そう、ですね……。……はい」
順調かと聞かれれば、少しも順調ではない。だけど再会したばかりのアーネスト様に私たち夫婦のこんな問題を聞かせるのはどうかと思い、口籠もりながらごまかした。
だってまさか、「それが夫は自由でいたいそうで。女性のご友人を何人も屋敷に連れ込んでいるし、そもそも私たち寝室も別なんですよ。今のところ白い結婚なんです。今日のおつかいだって少しでも夫に私のことをよく思ってもらいたくて引き受けたんですよ」なんて言うわけにもいかないもの。アーネスト様が反応に困るだけだ。
その後私はアーネスト様に付き添ってもらい、無事に目的の家を見つけ預かった書簡を届けることができた。領主の家の女が突然おつかいでやって来るとは思ってもいなかったようで相手の代官の方はペコペコしていた。
「おかげさまで助かりましたわ、アーネスト様。今日は本当にありがとうございました」
広い通りで待っていたうちの馬車まで送り届けてくださったアーネスト様に、私は最後に改めてお礼を言った。
短い時間だったけれど、数ヶ月ぶりに王立学園時代の友人と会えて楽しかった。帰ったらダミアン様に話してみよう。会話のきっかけになるかもしれない。
「……あ、ああ」
「では、これで失礼いたしますわ、アーネスト様。お仕事頑張ってくださいね。王国騎士団の騎士様だなんて、アーネスト様にピッタリの素敵なお仕事ですわ」
「…そうかい?…ありがとう、クラウディア嬢」
決してお世辞で言ったわけではなかった。アーネスト様は文武両道の素敵な方。誰でも簡単になれるわけではない王国騎士という職業に就けたのも彼ならば納得だ。騎士の制服もすごく似合っていて格好いい。
「では、さよなら」
私は最後の挨拶をして馬車に乗り込もうとした。
けれどその時。
「…クラウディア嬢!」
「っ!は、はい?」
アーネスト様が大きな声で私を呼び止めたので驚いて振り向く。するとアーネスト様は少し口籠もりながら言った。
「…その……っ、……あれだ、…………エレナ……!エレナを覚えているかい?」
「……え、ええ、もちろん。ラザフォード侯爵家のエレナ様ですわよね?アーネスト様の従姉妹に当たられる…」
「ああ、そうだ。……そのエレナが、同窓会をしたいと言っているんだ」
「…………同窓会……?」
え?もう?
「ああ。…おそらく来月辺りには招待状が届くと思うよ、君たちにも。…ぜひ、参加してやってくれないか。たくさん集まってくれた方が、エレナも喜ぶと思うから」
「は、はい。もちろんですわ。喜んで伺います。ありがとうございます、アーネスト様」
私はアーネスト様と別れ、今度こそ馬車に乗り込み帰路についたのだった。
(…同窓会かぁ……。……早いわね……)
王立学園を卒業したのはまだほんの数ヶ月前のことだ。それなのに、もう同窓会をするなんて…。
(…だけどまぁ、エレナ様ならしてもおかしくないわね。ふふ)
アーネスト様の従姉妹に当たられるエレナ・ラザフォード侯爵令嬢は、快活でとてもご友人の多い方だった。お茶会がお好きでよく仲の良いご令嬢方と茶会を開いていた。さほど親しかったわけでもない私も時々呼ばれたことがある。
お話したいことがたくさんできた一日になった。今夜こそはダミアン様とゆっくり過ごせますように…。
私は祈るような思いで馬車に揺られていた。
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