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5.初めての笑顔
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おそるおそる、夫のご機嫌を伺いながらの新婚生活。
根掘り葉掘り聞いてはいけないと自制しつつ、私はどうにかしてダミアン様との距離を縮めようと苦心していた。
私はダミアン様のことを大切に想っています。少しずつでもいいから、心を通わせたいのです。
その自分の思いが伝わるように、できる限りダミアン様に尽くそうとした。ご帰宅を楽しみにしているのだと意思表示したくてお部屋に花を飾ってみたり、お戻りになったらお茶を運んで会話のきっかけを作ろうとしてみたり。
だけど私が何をしても、
「はは。そんなことしなくていいんだ。我々は建前の結婚をしただけなんだからな。君も窮屈だろう」
「食事なんか待っていてもらっても困るよ。俺は外で済ませてくることがほとんどさ。構わないでくれ」
と、軽く、時に冷たくあしらわれてしまうばかりだった。
だけどある時、ダミアン様の机に積まれている書類を目にして私は思わず言った。
「……こ、……こちらの書類は…、お仕事のものですわよね?私、お手伝いさせていただきたいのですが……」
嫌がられるかな、と怯えつつも、私は勇気を出した。もしも彼の仕事を手伝わせてもらえれば、会話をするきっかけも大いに増えるだろうと思った。結婚以来少しずつここに書類が溜まっていっているのも気になっていた。
すると今までほとんど私の顔さえ見なかったダミアン様が、驚いたような表情で私を見つめたのだ。真正面から目が合って思わずドキッとする。
「……いいのかい?手伝ってもらえたら、そりゃ俺は助かるけど」
「もっ、もちろんですわ。……だ…」
だって私は妻なのですから。
そう言いたかったけれど、嫌な顔をされるかもしれないと思うと口に出すことができなかった。私の返事を聞いたダミアン様は結婚以来初めて見るような素敵な笑顔で言った。
「ありがとうクラウディア。君は頼りになるな」
(…………っ!)
叫びたいほどの喜びが胸を震わせる。よかった。やっとダミアン様に喜んでもらえたわ!やっと笑ってもらえた……!
「まだ全然目を通していないんだが、おそらくほとんどは領地内の農園やら何やらの決済関係の書類だと思うよ。君の判断で出来そうなことはどんどん片付けてくれて構わないから。サインするだけのやつなんかも適当にやっておいてくれ」
「はい、分かりました」
「それからこの辺りに積んである方がたぶん急ぎなんだよな。あとこっちは……」
すぐそばまで来て書類を見ながら指示を出すダミアン様の言葉を真剣に聞きながらはい、はい、と返事をする。ようやく夫婦として心を通わせるきっかけができたのだ。ここで失敗するわけにはいかない。幸いにも話を聞いた限り難しいものはほとんどないように思えた。
「はい、だいたい分かりましたわ、ダミアン様。後は私がやれる限りやっておきますので」
「よかった!俺は良い妻を貰ったものだ。助かるよクラウディア」
「い……いえっ……」
結婚以来初めての、夫の温かい視線と優しい言葉。私は天にも昇りそうなほどに喜びを感じ、胸がときめいた。頬が熱を持ち、心臓が大きく高鳴る。
「じゃあ、悪いんだが俺は人と約束があるからちょっと出かけてくるよ。後は任せたよ」
「……っ!は……はいっ……」
そう言うとダミアン様はさりげなく私の頭をそっと撫でたのだ。そしてニコリと微笑むと、そのままお部屋を出て行った。
(よかった……やっと夫婦らしい会話ができたわ……!)
ほら。やっぱりこうやって少しずつ距離が縮まっていくものなんだわ。簡単に諦めてしまわなくてよかった。こうして彼を助けてさしあげていれば、きっともっと私に心を開いてくださるはず。居心地の良い家を作れば、もっと屋敷にいてくれる時間が増えるのかもしれない……。
希望に胸を弾ませながら、私は目の前の大量の書類を見てひそかに気合いを入れたのだった。
根掘り葉掘り聞いてはいけないと自制しつつ、私はどうにかしてダミアン様との距離を縮めようと苦心していた。
私はダミアン様のことを大切に想っています。少しずつでもいいから、心を通わせたいのです。
その自分の思いが伝わるように、できる限りダミアン様に尽くそうとした。ご帰宅を楽しみにしているのだと意思表示したくてお部屋に花を飾ってみたり、お戻りになったらお茶を運んで会話のきっかけを作ろうとしてみたり。
だけど私が何をしても、
「はは。そんなことしなくていいんだ。我々は建前の結婚をしただけなんだからな。君も窮屈だろう」
「食事なんか待っていてもらっても困るよ。俺は外で済ませてくることがほとんどさ。構わないでくれ」
と、軽く、時に冷たくあしらわれてしまうばかりだった。
だけどある時、ダミアン様の机に積まれている書類を目にして私は思わず言った。
「……こ、……こちらの書類は…、お仕事のものですわよね?私、お手伝いさせていただきたいのですが……」
嫌がられるかな、と怯えつつも、私は勇気を出した。もしも彼の仕事を手伝わせてもらえれば、会話をするきっかけも大いに増えるだろうと思った。結婚以来少しずつここに書類が溜まっていっているのも気になっていた。
すると今までほとんど私の顔さえ見なかったダミアン様が、驚いたような表情で私を見つめたのだ。真正面から目が合って思わずドキッとする。
「……いいのかい?手伝ってもらえたら、そりゃ俺は助かるけど」
「もっ、もちろんですわ。……だ…」
だって私は妻なのですから。
そう言いたかったけれど、嫌な顔をされるかもしれないと思うと口に出すことができなかった。私の返事を聞いたダミアン様は結婚以来初めて見るような素敵な笑顔で言った。
「ありがとうクラウディア。君は頼りになるな」
(…………っ!)
叫びたいほどの喜びが胸を震わせる。よかった。やっとダミアン様に喜んでもらえたわ!やっと笑ってもらえた……!
「まだ全然目を通していないんだが、おそらくほとんどは領地内の農園やら何やらの決済関係の書類だと思うよ。君の判断で出来そうなことはどんどん片付けてくれて構わないから。サインするだけのやつなんかも適当にやっておいてくれ」
「はい、分かりました」
「それからこの辺りに積んである方がたぶん急ぎなんだよな。あとこっちは……」
すぐそばまで来て書類を見ながら指示を出すダミアン様の言葉を真剣に聞きながらはい、はい、と返事をする。ようやく夫婦として心を通わせるきっかけができたのだ。ここで失敗するわけにはいかない。幸いにも話を聞いた限り難しいものはほとんどないように思えた。
「はい、だいたい分かりましたわ、ダミアン様。後は私がやれる限りやっておきますので」
「よかった!俺は良い妻を貰ったものだ。助かるよクラウディア」
「い……いえっ……」
結婚以来初めての、夫の温かい視線と優しい言葉。私は天にも昇りそうなほどに喜びを感じ、胸がときめいた。頬が熱を持ち、心臓が大きく高鳴る。
「じゃあ、悪いんだが俺は人と約束があるからちょっと出かけてくるよ。後は任せたよ」
「……っ!は……はいっ……」
そう言うとダミアン様はさりげなく私の頭をそっと撫でたのだ。そしてニコリと微笑むと、そのままお部屋を出て行った。
(よかった……やっと夫婦らしい会話ができたわ……!)
ほら。やっぱりこうやって少しずつ距離が縮まっていくものなんだわ。簡単に諦めてしまわなくてよかった。こうして彼を助けてさしあげていれば、きっともっと私に心を開いてくださるはず。居心地の良い家を作れば、もっと屋敷にいてくれる時間が増えるのかもしれない……。
希望に胸を弾ませながら、私は目の前の大量の書類を見てひそかに気合いを入れたのだった。
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