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3.気まずい朝食
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屋敷の2階の一室をご自分の部屋に決めてしまったダミアン様は、新婚初夜からその部屋で一人で眠ってしまった。だから私もそうするしかなかった。私の私室として割り当てられた部屋に入り、一人でベッドの上に横になり天井を見つめた。寂しくて、虚しくてならない。こんな始まりになるなんて。
「…………。」
眠れそうもなかった。私は起き上がると机に向かい、一番上の引き出しを開けた。
そこには赤い表紙の真新しい日記帳があった。私は結婚したらこの日記帳にダミアン様との愛に満ちた幸せな結婚生活を毎日書き留めていくつもりでいたのだ。人生の記念になるし、いつか子どもが生まれたら見せてあげたい。そしていつか私が棺に入る日が来たら、一緒にこの日記も入れてもらおう……。そんな先のことまで考えていた。
「………………。はぁ…」
こんな結婚生活の始まりじゃ、子どもに見せるのはもう無理かもしれないけれど。
私はそれでも書き留めていこうと決めた。このまま諦めるつもりはなかったから。しょっちゅう会って遊んでいた子どもの頃と違って、成長してからは互いに離れて過ごす時間が多かった。新しいご友人にご趣味、勉強にご実家の領地のお仕事。ダミアン様にはダミアン様の世界が出来上がっていて、私のことを遠く感じてしまうのは当然なのかもしれない。
(……これもきっと思い出になるわ)
最初は苦しい始まりになってしまったかもしれない。けれど、途中からはきっと、少しずつ二人だけの幸せなラブストーリーに変わっていくはずだから。
(歳をとった時に読み返したら、きっと楽しいはずよね。苦しくて寂しい日々を乗り越えてきたのは、今の幸せを掴むためだったんだって、そう思える日がきっと来るわ)
自分に無理矢理言い聞かせるように心の中でそう思い、私は今日の出来事を書き綴った。
「っ!お……、おはようございます、ダミアン様」
「……?……ああ、……おはよう。どうしたんだい?」
早くに起きて身支度を整え準備していた私は、お部屋から降りてきたダミアン様に声をかけた。
「朝食を、ご一緒できればと思いまして……っ。メイドと一緒に準備してお待ちしていました」
「……えぇ?ああ、別にいいんだよ俺のことは。気にしないで別々に食べたらいいさ。互いのペースがあるだろう」
「……っ、」
ドキドキしながら勇気を振り絞って声をかけたものの、ダミアン様は露骨に面倒そうな顔をした。その表情に傷付き、涙が込み上げそうになる。
「……まぁ、初日だしな。これも儀式的な感じでいいか」
やれやれ、とでも言わんばかりにそう呟いたダミアン様の言葉に、また胸の奥深くがザクリと傷付いた気がしたけれど、かろうじて笑顔を保ったまま私はダミアン様に椅子を勧めた。
「……。」
「……。」
「……っ、……き、……昨日は楽しかったですわね。素敵な式でしたわ」
「……。……そうか?」
スープを口に運ぶダミアン様はこちらをチラリとも見ない。
「ええ、いい思い出になりましたわ」
「……。」
「………………あ、…スープは、私が作りましたの」
「…うん」
「お口に合いますか?…お料理が好きで、普段から時々厨房に行ってシェフたちに教えてもらっていたのです」
「……。へぇ。変わってるな」
「え、ええ」
「……。」
「……。」
話が少しも盛り上がらない。ダミアン様は食事を始めてから一度も私の方を見ようともしない。私が声をかけない限り話しかけてもこないし、気まずくてならなかった。料理がなかなか喉を通らない。だけどダミアン様は一向に気にしていなさそうだ。
「……。きっ、…今日は、どちらへ……?ぶどう園の方ですか?それとも…」
ダミアン様のご実家であるウィルコックス伯爵家の領土内はいくつかの大きな農園の経営をしていた。
「今日はメラニーと会うよ」
「……。……え?」
ダミアン様はパンをちぎりながらサラリとそう答えた。…メラニー……?どなたかしら。
「…………。」
眠れそうもなかった。私は起き上がると机に向かい、一番上の引き出しを開けた。
そこには赤い表紙の真新しい日記帳があった。私は結婚したらこの日記帳にダミアン様との愛に満ちた幸せな結婚生活を毎日書き留めていくつもりでいたのだ。人生の記念になるし、いつか子どもが生まれたら見せてあげたい。そしていつか私が棺に入る日が来たら、一緒にこの日記も入れてもらおう……。そんな先のことまで考えていた。
「………………。はぁ…」
こんな結婚生活の始まりじゃ、子どもに見せるのはもう無理かもしれないけれど。
私はそれでも書き留めていこうと決めた。このまま諦めるつもりはなかったから。しょっちゅう会って遊んでいた子どもの頃と違って、成長してからは互いに離れて過ごす時間が多かった。新しいご友人にご趣味、勉強にご実家の領地のお仕事。ダミアン様にはダミアン様の世界が出来上がっていて、私のことを遠く感じてしまうのは当然なのかもしれない。
(……これもきっと思い出になるわ)
最初は苦しい始まりになってしまったかもしれない。けれど、途中からはきっと、少しずつ二人だけの幸せなラブストーリーに変わっていくはずだから。
(歳をとった時に読み返したら、きっと楽しいはずよね。苦しくて寂しい日々を乗り越えてきたのは、今の幸せを掴むためだったんだって、そう思える日がきっと来るわ)
自分に無理矢理言い聞かせるように心の中でそう思い、私は今日の出来事を書き綴った。
「っ!お……、おはようございます、ダミアン様」
「……?……ああ、……おはよう。どうしたんだい?」
早くに起きて身支度を整え準備していた私は、お部屋から降りてきたダミアン様に声をかけた。
「朝食を、ご一緒できればと思いまして……っ。メイドと一緒に準備してお待ちしていました」
「……えぇ?ああ、別にいいんだよ俺のことは。気にしないで別々に食べたらいいさ。互いのペースがあるだろう」
「……っ、」
ドキドキしながら勇気を振り絞って声をかけたものの、ダミアン様は露骨に面倒そうな顔をした。その表情に傷付き、涙が込み上げそうになる。
「……まぁ、初日だしな。これも儀式的な感じでいいか」
やれやれ、とでも言わんばかりにそう呟いたダミアン様の言葉に、また胸の奥深くがザクリと傷付いた気がしたけれど、かろうじて笑顔を保ったまま私はダミアン様に椅子を勧めた。
「……。」
「……。」
「……っ、……き、……昨日は楽しかったですわね。素敵な式でしたわ」
「……。……そうか?」
スープを口に運ぶダミアン様はこちらをチラリとも見ない。
「ええ、いい思い出になりましたわ」
「……。」
「………………あ、…スープは、私が作りましたの」
「…うん」
「お口に合いますか?…お料理が好きで、普段から時々厨房に行ってシェフたちに教えてもらっていたのです」
「……。へぇ。変わってるな」
「え、ええ」
「……。」
「……。」
話が少しも盛り上がらない。ダミアン様は食事を始めてから一度も私の方を見ようともしない。私が声をかけない限り話しかけてもこないし、気まずくてならなかった。料理がなかなか喉を通らない。だけどダミアン様は一向に気にしていなさそうだ。
「……。きっ、…今日は、どちらへ……?ぶどう園の方ですか?それとも…」
ダミアン様のご実家であるウィルコックス伯爵家の領土内はいくつかの大きな農園の経営をしていた。
「今日はメラニーと会うよ」
「……。……え?」
ダミアン様はパンをちぎりながらサラリとそう答えた。…メラニー……?どなたかしら。
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