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24. 二人の令嬢

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 私がアリューシャ王女の教育係に定められた、その翌日のこと。
 私はセレオン殿下のお部屋で、ジーンさんから雇用契約に関する書類の説明を受け、サインをした。ついて来られたアリューシャ王女が、隣で目を輝かせて見守っている。

「ミラベル様のお部屋は王宮内の使用人たちの居住区域内に準備してあります。後ほど今のお部屋に侍女が迎えにいきますので」
「あ、はい。ありがとうございます、ジーンさん」
「これで君は正式に妹の教育係になってくれたわけだ。どうかよろしく頼むよ。そして、何か困ったことがあったらどんな些細なことでも、私に相談しておくれ」
「は、はいっ。お心遣い痛み入ります、殿下。こちらこそ、これからよろしくお願いいたします」

 様々な契約に関する手続きをテキパキと進めてくれたジーンさんと、優しい言葉をかけてくださったセレオン殿下にお礼を言って、これから来客があるという殿下のお部屋をアリューシャ王女と共に辞した。



「うふふっ。楽しみだわぁミラベルさんの新しいお部屋!ね、そっちに移る時、私もついて行ってもいーい?」
「それはもちろん構いませんが……大丈夫でございますか?本日の午後の予定は……」
「大丈夫よ!今日はもうティータイムの後まで誰も先生来ないもの。ふふん、ミラベルさんと一緒に過ごせるわ」
「まぁ。ふふ。それでしたらもちろんどうぞ。ですが、使用人の居住区などご覧になっても楽しいのですか?それに、王女殿下ともあろうお方がその辺りにいらっしゃったら、皆さんビックリされるのでは……」
「楽しいに決まってるわ!だってミラベルさんの住むお部屋なのよ?そりゃ見たいに決まってるわよ!それにね、私がどこをウロウロしてても、王宮の大抵の人たちは全く気にも留めないと思うわ。だから平気よ」
「……さようでございますか」

 そんなことあるかしら?だって、仮にも王女様よ、王女様。私が王宮勤めの使用人だったら、王女様に出くわしたら飛び上がって慌ててご挨拶すると思うけどなぁ。

 そんなことを考えながら廊下を歩いていた、その時だった。

 向かい側から、王太子殿下のお部屋の方に向かって二人の女性が歩いてくるのが見えた。……どちらもとても豪華で派手なドレスを身にまとい、凛としたその姿と表情からは圧倒的なオーラが漂っている。

(……どこかの高貴な身分のご令嬢なのは間違いないわね)

 私はアリューシャ王女の後ろを歩きながら、すれ違いざまのご挨拶の準備をした。ど、どうしよう。どなた?とか尋ねられたら。緊張するな……。この方たちがセレオン殿下の仰ってた“来客”よね……?

 クルクルとゴージャスに巻いた長い髪を靡かせながら、お二人がそばまでやって来る。その時、アリューシャ王女が先にそのお二人に声をかけた。

「ごきげんよう!」
「……。」
「……。」

(……え……?)

 一瞬、目の前で起こった出来事が信じられなかった。
 アリューシャ王女ははっきりと聞こえる声でお二人に挨拶をした。王女殿下の方から。このお二人に。
 それなのに、二人は完全に無視して王女殿下の前を通り過ぎていったのだ。返事をするどころか、視線さえ全くこちらに向けなかった。

(……いや、ちょっと待ってよ。どういうことなの?これ……)

 おかしい。
 そんなしきたりがあるなんて、一度も聞いたことがない。母からも、学園のマナーの授業でも、「王族からのご挨拶に返事をしてはならない。不敬にあたるから視線も向けてはならない」なんて、習ったことはない。
 私は思わずお付きの侍女たちを見た。目が合った侍女は、少し困ったような顔をして私から視線を逸らす。
 護衛たちに至っては全員淡々とした顔をしているだけだった。(ちなみにアリューシャ王女付きの護衛たちは、あの日の騒動をきっかけに全員入れ替えられている)

「行きましょう、ミラベルさん」
「っ!は……、はい」

 当のアリューシャ王女はまるで何事もなかったかのように、いつもの笑顔でこちらを見てそう言うと、スタスタと歩き出した。

(……一体何……?こんなの絶対に変だわ)

 どうしても納得いかない私は、自分の部屋に戻った後、ついにアリューシャ王女におそるおそる尋ねてみた。





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