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52.伝わらない思い
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「もちろんよく分かっておりますわ。このラドレイヴン王国の国王陛下、あなたに申し上げているのです。このままでは近隣の友好国との関係が悪化するどころか、我が国の危機も免れません。なぜそれが分からないのですか、ジェラルド様。…あなたは私と結婚式を挙げたあの日、仰っていました」
思い出すと感情が昂り、声が震えそうになる。だけどここで無様な姿を見せるわけにはいかない。
私は下腹にぐっと力を込めて言った。
「先代国王陛下までの王は、皆素晴らしい指導者であったと。ご自分もそうありたいと。私はそんなあなた様のお言葉を聞いて、生涯おそばで支えていくことを誓ったのです」
「……。」
ジェラルド様は黙って私を見ている。その瞳を見つめ返してみても、彼が今私の言葉を聞きながら何を思っているのかは推し量れなかった。
「ですが今のあなた様は、あの日の言葉などすっかり忘れてしまったかのように見えます。どうかジェラルド様、ご自分の行動を省みて、よくお考えになって下さい。今ならまだきっと間に合います」
私は心から彼に懇願した。目を覚ましてほしい。これまでの私に対する暴言や冷遇を許せる日が来るかは分からないけれど、でも、もし今この人が自分の愚かな行いに気付き、反省して、全てを改めてくれるのならば。
私もこの道ならぬエルドへの恋心を一生封印して、この人のそばでこの国のために生きていくと誓うから─────
だけどジェラルド様はしばらく私を見つめた後、その私の願いを踏みにじるように嘲笑った。
「……ふ、結婚の日のことなどわざわざ持ち出して俺の心を取り戻そうとしているつもりか。アリアよ、お前がそんなふうに惨めったらしくしがみついてくればくるほど、俺はお前が鬱陶しくなる」
「馬鹿なんじゃないの?あんた!あたしの目の前でジェリーを誘惑しようとするなんて!残念でした!ジェリーはもうあんたなんかとっくに眼中にないのよ!ほんとしつこいわねぇ。とっとと諦めなさいよ」
「…………。」
心がすうっと凍りつき、ボロボロに崩れていくようだった。何も通じない。何も受け入れられない。私の精一杯の思いは欠片ほども理解されないままに、ただの鬱陶しい戯言として打ち捨てられてしまった。
側妃はますますジェラルド様にがっしりとしがみつき、彼もまたその細い腰に腕をまわしてまんざらでもなさそうにニタリと笑っている。
「いちいち俺に指図せず、お前は黙って仕事だけしていろ。他にできることなど何もなかろう。俺の部屋に無遠慮に押し入ってこの俺に不平不満を訴えるなど、愚の骨頂だ。これ以上俺を怒らせるなら、離宮にお前を幽閉するぞ。…いや、いっそ離縁して国に突き返すか」
「……っ!」
あまりの言われように耳を疑う。この人は…、本気でこんなことを言っているのだろうか。
「…誰の代わりに日々私が働いているか、分かってもおられないのですか」
「くどい。ここには優秀な家臣たちが大勢いるんだ。異国の小娘ただ一人いなくなったところで困ることなど何一つない。まぁ、せいぜい俺の煩わしい業務が少々増えるくらいだろう。自分にそんなに価値があると思うなよ。替えなどいくらでもいる。そもそもお前自身が俺の元婚約者の“替え”だったのだからな」
「…………っ!あ……、あなたは……」
止まらない愚弄の言葉に冷静さを失いかけた私は、両の拳を握りしめ思わず彼らに一歩近付いた。
その時。
「…陛下。もうよろしいでしょう。妃陛下を離宮にお送りしてまいります」
部屋の片隅に控えていたカイル・アドラム公爵令息が静かにそう言葉を発すると、私の元へやって来た。その氷のようなグレーの瞳には何の感情も見えない。
「ああ、そうだな。よくよく言い聞かせておけ、カイル。その恩着せがましくねちっこい女がもう二度とこんな真似をすることのないようにな」
「そうよ!二度とその女をここの部屋に立ち入らせないで!あたしすっごく不愉快よ!早く出ていけ!!」
「…行きましょう、妃陛下」
「あ、あなた……!」
私を追い出そうとしているカイル様を睨み上げると、彼はただ静かに繰り返す。
「…さ、お早く」
「……。」
その目が何かを訴えているような気がして、私はなぜだかそれ以上反論することができなかった。
思い出すと感情が昂り、声が震えそうになる。だけどここで無様な姿を見せるわけにはいかない。
私は下腹にぐっと力を込めて言った。
「先代国王陛下までの王は、皆素晴らしい指導者であったと。ご自分もそうありたいと。私はそんなあなた様のお言葉を聞いて、生涯おそばで支えていくことを誓ったのです」
「……。」
ジェラルド様は黙って私を見ている。その瞳を見つめ返してみても、彼が今私の言葉を聞きながら何を思っているのかは推し量れなかった。
「ですが今のあなた様は、あの日の言葉などすっかり忘れてしまったかのように見えます。どうかジェラルド様、ご自分の行動を省みて、よくお考えになって下さい。今ならまだきっと間に合います」
私は心から彼に懇願した。目を覚ましてほしい。これまでの私に対する暴言や冷遇を許せる日が来るかは分からないけれど、でも、もし今この人が自分の愚かな行いに気付き、反省して、全てを改めてくれるのならば。
私もこの道ならぬエルドへの恋心を一生封印して、この人のそばでこの国のために生きていくと誓うから─────
だけどジェラルド様はしばらく私を見つめた後、その私の願いを踏みにじるように嘲笑った。
「……ふ、結婚の日のことなどわざわざ持ち出して俺の心を取り戻そうとしているつもりか。アリアよ、お前がそんなふうに惨めったらしくしがみついてくればくるほど、俺はお前が鬱陶しくなる」
「馬鹿なんじゃないの?あんた!あたしの目の前でジェリーを誘惑しようとするなんて!残念でした!ジェリーはもうあんたなんかとっくに眼中にないのよ!ほんとしつこいわねぇ。とっとと諦めなさいよ」
「…………。」
心がすうっと凍りつき、ボロボロに崩れていくようだった。何も通じない。何も受け入れられない。私の精一杯の思いは欠片ほども理解されないままに、ただの鬱陶しい戯言として打ち捨てられてしまった。
側妃はますますジェラルド様にがっしりとしがみつき、彼もまたその細い腰に腕をまわしてまんざらでもなさそうにニタリと笑っている。
「いちいち俺に指図せず、お前は黙って仕事だけしていろ。他にできることなど何もなかろう。俺の部屋に無遠慮に押し入ってこの俺に不平不満を訴えるなど、愚の骨頂だ。これ以上俺を怒らせるなら、離宮にお前を幽閉するぞ。…いや、いっそ離縁して国に突き返すか」
「……っ!」
あまりの言われように耳を疑う。この人は…、本気でこんなことを言っているのだろうか。
「…誰の代わりに日々私が働いているか、分かってもおられないのですか」
「くどい。ここには優秀な家臣たちが大勢いるんだ。異国の小娘ただ一人いなくなったところで困ることなど何一つない。まぁ、せいぜい俺の煩わしい業務が少々増えるくらいだろう。自分にそんなに価値があると思うなよ。替えなどいくらでもいる。そもそもお前自身が俺の元婚約者の“替え”だったのだからな」
「…………っ!あ……、あなたは……」
止まらない愚弄の言葉に冷静さを失いかけた私は、両の拳を握りしめ思わず彼らに一歩近付いた。
その時。
「…陛下。もうよろしいでしょう。妃陛下を離宮にお送りしてまいります」
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「ああ、そうだな。よくよく言い聞かせておけ、カイル。その恩着せがましくねちっこい女がもう二度とこんな真似をすることのないようにな」
「そうよ!二度とその女をここの部屋に立ち入らせないで!あたしすっごく不愉快よ!早く出ていけ!!」
「…行きましょう、妃陛下」
「あ、あなた……!」
私を追い出そうとしているカイル様を睨み上げると、彼はただ静かに繰り返す。
「…さ、お早く」
「……。」
その目が何かを訴えているような気がして、私はなぜだかそれ以上反論することができなかった。
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