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29.衝突
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(……?来客中かしら。私室に…?)
数ヶ月ぶりの、ジェラルド様の私室の前。以前は毎日のようにここに呼ばれたり、私の部屋に来られたりしていたっけ。今となってはまるで幻の日々だったよう。
その国王陛下の私室の前まで来ると、中から数人の女性の笑い声が聞こえてきた。それもやけに甲高く、品のない笑い声。はっきり言ってしまうと、まるで乱痴気騒ぎのような下品な声だった。
「ひ、妃陛下……っ!」
「通してちょうだい。陛下にお話があるの」
「あ、で、ですが、その…っ」
扉の前に待機していた護衛たちはあからさまに動揺していたけど、私は構うことなく扉を開けて中に入った。ここで追い返されては大切な公務の話が永遠にできない。
「……っ?!」
部屋に一歩入った私の挨拶の声は、喉元で凍りついた。目を疑うような光景が目の前にあったからだ。
そこにいたのはくつろいだ姿のジェラルド様と、側妃のマデリーン嬢。…だけではない。見たことのない女性たちが数人、ジェラルド様たちと一緒になってカードゲームに興じながらはしゃいでいたのだ。
部屋の隅にはあの側近、カイル・アドラム公爵令息が控えている。
「っ!アッ…、アリア…?」
「…これは一体、何の騒ぎですか…?ジェラルド様…」
ショックのあまり、私は思ったままの言葉を口走った。この人は一体何をしているのだろう…。正妃の私を放り出し、公務も丸投げしておきながら、自分は側妃のみならず、どこの誰かも分からぬ女性たちと下品に騒ぎながらゲームをしている…。
この国に嫁いできて、傷付くことは何度もあった。
ジェラルド様の浮気現場を初めて見た時。
彼の側近をはじめとする王宮の一部の人にあからさまに冷たい態度をとられた時。
ある日突然側妃を娶ったと報告された時。それからすぐに離宮に追いやられた時……
だけど、今ほど失望し、そして怒りを覚えたことはなかった。
この人は私をいいように利用して働かせ、国王としての責務の全てを放り出してこうして毎日遊び呆けていたんだ。
指先が震えてくるのを止められなかった。
「…何の騒ぎと言われてもな…。この者たちはマデリーンの友人だ。マデリーンは王宮に入って以来、環境の変化に対応できずひどく落ち込んでいた。だから元気づけてやるために彼女の旧友たちを招き、気分転換を…」
「そんなこと、何の言い訳にもなりませんジェラルド様。王家に嫁いできたのなら、環境が変わるのは当然のこと。私だって覚悟を持ってここへ参りましたわ」
ダメだ。怒りが抑えきれずに声まで震える。
だって、環境が変わって大変だったというなら私もそう。私なんか国を出て、この大国の王妃となって日々教育と公務だけの毎日だった。それでもこれが自分の果たすべき責任だと分かっていたから歯を食いしばって今日まで邁進してきたのに。
肝心のこの人は、私に何もかも押し付けて一体何なの…?!
これまで黙ってひたすら頑張ってきた分、溜め込んできたものが今にも爆発しそうだった。
だけど私が入ってきた瞬間明らかに動揺し気まずそうな顔をしていたジェラルド様は、コホンと咳払いすると突然表情を変えた。
「…それは当たり前だろう。お前はカナルヴァーラの王女として、我が国の正妃となり嫁いできたのだから。マデリーンは違う。側妃にはお前ほどの責任は伴わない。彼女にはいろいろと事情があるんだ。本来なら王家に嫁ぐことなど有り得ない人生で、…だが俺と恋に落ちた。何の覚悟もないまま環境が一気に様変わりしたんだ。心が不安定になっている今だからこそ、こうして支えてやりたいと…」
「それはあなた様が公務を怠る理由にはなりません」
馬鹿げた言い訳に心底嫌気が差し、私は思わずジェラルド様の言葉を遮った。面食らった彼の顔が一気に強張った。
「…口の聞き方を弁えろアリア。誰に向かってものを言っている」
「あなたです、国王陛下。今のあなた様の振る舞いは、君主として民たちの上に立つ者の行動とは到底思えませんわ。目を覚ましてください」
「な……っ!お前……っ、」
初めて、この人にはっきりと意見した。
ジェラルド様は目を見開き、青筋を立てる。隣国から貰った正妃は何があってもただ大人しく自分の言うことを聞き、感情を押し殺して働き続けるとでも思っていたのだろうか。
でも、私にだって心もあれば意見もある。
国王のこんな醜態を目の当たりにしてまで黙っていられるほど愚かな女じゃないつもりだ。
数ヶ月ぶりの、ジェラルド様の私室の前。以前は毎日のようにここに呼ばれたり、私の部屋に来られたりしていたっけ。今となってはまるで幻の日々だったよう。
その国王陛下の私室の前まで来ると、中から数人の女性の笑い声が聞こえてきた。それもやけに甲高く、品のない笑い声。はっきり言ってしまうと、まるで乱痴気騒ぎのような下品な声だった。
「ひ、妃陛下……っ!」
「通してちょうだい。陛下にお話があるの」
「あ、で、ですが、その…っ」
扉の前に待機していた護衛たちはあからさまに動揺していたけど、私は構うことなく扉を開けて中に入った。ここで追い返されては大切な公務の話が永遠にできない。
「……っ?!」
部屋に一歩入った私の挨拶の声は、喉元で凍りついた。目を疑うような光景が目の前にあったからだ。
そこにいたのはくつろいだ姿のジェラルド様と、側妃のマデリーン嬢。…だけではない。見たことのない女性たちが数人、ジェラルド様たちと一緒になってカードゲームに興じながらはしゃいでいたのだ。
部屋の隅にはあの側近、カイル・アドラム公爵令息が控えている。
「っ!アッ…、アリア…?」
「…これは一体、何の騒ぎですか…?ジェラルド様…」
ショックのあまり、私は思ったままの言葉を口走った。この人は一体何をしているのだろう…。正妃の私を放り出し、公務も丸投げしておきながら、自分は側妃のみならず、どこの誰かも分からぬ女性たちと下品に騒ぎながらゲームをしている…。
この国に嫁いできて、傷付くことは何度もあった。
ジェラルド様の浮気現場を初めて見た時。
彼の側近をはじめとする王宮の一部の人にあからさまに冷たい態度をとられた時。
ある日突然側妃を娶ったと報告された時。それからすぐに離宮に追いやられた時……
だけど、今ほど失望し、そして怒りを覚えたことはなかった。
この人は私をいいように利用して働かせ、国王としての責務の全てを放り出してこうして毎日遊び呆けていたんだ。
指先が震えてくるのを止められなかった。
「…何の騒ぎと言われてもな…。この者たちはマデリーンの友人だ。マデリーンは王宮に入って以来、環境の変化に対応できずひどく落ち込んでいた。だから元気づけてやるために彼女の旧友たちを招き、気分転換を…」
「そんなこと、何の言い訳にもなりませんジェラルド様。王家に嫁いできたのなら、環境が変わるのは当然のこと。私だって覚悟を持ってここへ参りましたわ」
ダメだ。怒りが抑えきれずに声まで震える。
だって、環境が変わって大変だったというなら私もそう。私なんか国を出て、この大国の王妃となって日々教育と公務だけの毎日だった。それでもこれが自分の果たすべき責任だと分かっていたから歯を食いしばって今日まで邁進してきたのに。
肝心のこの人は、私に何もかも押し付けて一体何なの…?!
これまで黙ってひたすら頑張ってきた分、溜め込んできたものが今にも爆発しそうだった。
だけど私が入ってきた瞬間明らかに動揺し気まずそうな顔をしていたジェラルド様は、コホンと咳払いすると突然表情を変えた。
「…それは当たり前だろう。お前はカナルヴァーラの王女として、我が国の正妃となり嫁いできたのだから。マデリーンは違う。側妃にはお前ほどの責任は伴わない。彼女にはいろいろと事情があるんだ。本来なら王家に嫁ぐことなど有り得ない人生で、…だが俺と恋に落ちた。何の覚悟もないまま環境が一気に様変わりしたんだ。心が不安定になっている今だからこそ、こうして支えてやりたいと…」
「それはあなた様が公務を怠る理由にはなりません」
馬鹿げた言い訳に心底嫌気が差し、私は思わずジェラルド様の言葉を遮った。面食らった彼の顔が一気に強張った。
「…口の聞き方を弁えろアリア。誰に向かってものを言っている」
「あなたです、国王陛下。今のあなた様の振る舞いは、君主として民たちの上に立つ者の行動とは到底思えませんわ。目を覚ましてください」
「な……っ!お前……っ、」
初めて、この人にはっきりと意見した。
ジェラルド様は目を見開き、青筋を立てる。隣国から貰った正妃は何があってもただ大人しく自分の言うことを聞き、感情を押し殺して働き続けるとでも思っていたのだろうか。
でも、私にだって心もあれば意見もある。
国王のこんな醜態を目の当たりにしてまで黙っていられるほど愚かな女じゃないつもりだ。
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