22 / 84
21.宰相の提案(※sideジェラルド)
しおりを挟む
アリアが王宮にやって来て初めての夕食。
長旅の疲れを労い、我が国の美食をふるまいながらこれからの二人の未来についてゆっくりと語り合おうと思っていたのだが、夕食の時間になる前に宰相のザーディンから内密に話がしたいと申し出があった。
「…一体何なのだ、ザーディン。アリアが俺を待っているはずだ。早く行ってやりたい。今日でなくては駄目なのか」
若干苛立ちながら、俺は人払いをした自室の中でザーディンの言葉を待った。
「は…、畏れながら陛下、アリア妃陛下がいらっしゃった今日だからこそ、ご提案しておきたい事項がございまして」
「…だからそれは何だ」
俺が急かすと、ザーディンは懐から何かの袋を取り出した。
「陛下、こちらを」
「……何だ?これは。何の薬だ」
「は、こちらは営みの際にお子ができるのを防ぐ効果のある…」
「っ?!…避妊薬か。何故」
袋の中には数十包もの薬が入っている。一体何のために…?
「今夜より当面の間お使いいただくのがよろしいかと存じます、陛下。アリア妃陛下を隣国カナルヴァーラより我が国の正妃として迎えることは、ご存知の通り多くの意見を生みました。今は表立って王家や陛下に対して批判的なことを言う者など一人とておりませぬが、腹の中ではどう思っているやら分からぬ者もおります」
「当然だ。だからこそ一刻も早くアリアが身篭るのがよかろう。世継ぎの母となれば、もはや誰もアリアを粗末に扱うような真似はするまい」
「ですが陛下、それが逆効果になる可能性もございます。反発する思いが残る者たちはこれから虎視眈々とアリア妃陛下の粗探しをするでしょう。妃陛下のラドレイヴンに対する愛国心や、王家への忠誠心、そして陛下の治世を支えていくだけの知力や精神力が備わっているのか。重鎮たちの妃陛下に対する強い信頼心を獲得してからお子を作られた方が、妃陛下やお子の安全が確保されるのではないかと。その方が、よからぬことを企てる愚か者も出てきますまい」
「……。」
そんなものだろうか。
詭弁のような気がする。
カナルヴァーラの王女を正妃として娶ったことが気に食わぬ者は、たとえアリアがコーデリアよりはるかに優秀で器の大きな賢女であったとしても何かと言いがかりをつけてはアリアを糾弾したり、攻撃するのではないだろうか。
それならばアリアの周辺の警備をより強固にする方がよほど有効な手段ではないか…?
そんな考えが浮かんだが、その後ザーディンが続けた言葉に、俺の心はグラリと動いた。
「それに…陛下。長年恋い焦がれた想い人がようやく陛下の元にやって来られたのですから。お二人だけの蜜月を少し長く過ごすお楽しみがあっても良いのではないでしょうか。妃陛下はまだ充分にお若く、お子はいつでも授かることができましょう。授かってしまえば、女性の体はデリケートですから…。妃陛下は日中は王妃教育や公務を覚えたりと、これからお忙しゅうございます。どうぞ思う存分、今はお二人だけの夜をお過ごしくださいませ。半年でも一年でも愛を育まれて、陛下が満足なさった頃からお子を考えればよろしいかと」
「……。…なるほどな」
たしかに、それはそうだ…。
すぐにでも子を成してアリアの正妃としての地位をより盤石なものにしてやるべきだという思いはあったが、あまりあっさりと身篭ってしまっては、夜の夫婦生活を存分に楽しむこともできなくなるわけだ。
何度も夢にまで見た、アリアと肌を合わせる夜を…。
「…この薬は何ヶ月分だ?」
「ここにはひとまず二月分ほど…。残りが少なくなる頃にはまた次をご用意いたします」
「間違いなく安全なものなのだな?万が一にもアリアの体に悪影響が出たり、子が授かれなくなるような可能性はないのだな」
「それはもう、当然でございます陛下。ご心配なさいますな。薬についてはこのザーディンが入念に調べ上げ、より信頼のおける専門医に内密に相談した上でご用意したものにございますので」
「…分かった。ならば使おう」
「避妊薬の使用についてはくれぐれも他言無用であることを妃陛下に念押しくださいますよう。どこから誰にどう話が広まるやもしれませんので」
「確かにな」
他国から嫁いできた正妃がその大きな役目の一つを放り出して国王との情事に夢中になっている、などと口さがないことを言ってアリアを攻撃する連中が出てくるだろう。
俺はその夜から早速アリアに薬を飲ませ、ついにこの手に得た可愛い女との時間を存分に満喫したのだった。
長旅の疲れを労い、我が国の美食をふるまいながらこれからの二人の未来についてゆっくりと語り合おうと思っていたのだが、夕食の時間になる前に宰相のザーディンから内密に話がしたいと申し出があった。
「…一体何なのだ、ザーディン。アリアが俺を待っているはずだ。早く行ってやりたい。今日でなくては駄目なのか」
若干苛立ちながら、俺は人払いをした自室の中でザーディンの言葉を待った。
「は…、畏れながら陛下、アリア妃陛下がいらっしゃった今日だからこそ、ご提案しておきたい事項がございまして」
「…だからそれは何だ」
俺が急かすと、ザーディンは懐から何かの袋を取り出した。
「陛下、こちらを」
「……何だ?これは。何の薬だ」
「は、こちらは営みの際にお子ができるのを防ぐ効果のある…」
「っ?!…避妊薬か。何故」
袋の中には数十包もの薬が入っている。一体何のために…?
「今夜より当面の間お使いいただくのがよろしいかと存じます、陛下。アリア妃陛下を隣国カナルヴァーラより我が国の正妃として迎えることは、ご存知の通り多くの意見を生みました。今は表立って王家や陛下に対して批判的なことを言う者など一人とておりませぬが、腹の中ではどう思っているやら分からぬ者もおります」
「当然だ。だからこそ一刻も早くアリアが身篭るのがよかろう。世継ぎの母となれば、もはや誰もアリアを粗末に扱うような真似はするまい」
「ですが陛下、それが逆効果になる可能性もございます。反発する思いが残る者たちはこれから虎視眈々とアリア妃陛下の粗探しをするでしょう。妃陛下のラドレイヴンに対する愛国心や、王家への忠誠心、そして陛下の治世を支えていくだけの知力や精神力が備わっているのか。重鎮たちの妃陛下に対する強い信頼心を獲得してからお子を作られた方が、妃陛下やお子の安全が確保されるのではないかと。その方が、よからぬことを企てる愚か者も出てきますまい」
「……。」
そんなものだろうか。
詭弁のような気がする。
カナルヴァーラの王女を正妃として娶ったことが気に食わぬ者は、たとえアリアがコーデリアよりはるかに優秀で器の大きな賢女であったとしても何かと言いがかりをつけてはアリアを糾弾したり、攻撃するのではないだろうか。
それならばアリアの周辺の警備をより強固にする方がよほど有効な手段ではないか…?
そんな考えが浮かんだが、その後ザーディンが続けた言葉に、俺の心はグラリと動いた。
「それに…陛下。長年恋い焦がれた想い人がようやく陛下の元にやって来られたのですから。お二人だけの蜜月を少し長く過ごすお楽しみがあっても良いのではないでしょうか。妃陛下はまだ充分にお若く、お子はいつでも授かることができましょう。授かってしまえば、女性の体はデリケートですから…。妃陛下は日中は王妃教育や公務を覚えたりと、これからお忙しゅうございます。どうぞ思う存分、今はお二人だけの夜をお過ごしくださいませ。半年でも一年でも愛を育まれて、陛下が満足なさった頃からお子を考えればよろしいかと」
「……。…なるほどな」
たしかに、それはそうだ…。
すぐにでも子を成してアリアの正妃としての地位をより盤石なものにしてやるべきだという思いはあったが、あまりあっさりと身篭ってしまっては、夜の夫婦生活を存分に楽しむこともできなくなるわけだ。
何度も夢にまで見た、アリアと肌を合わせる夜を…。
「…この薬は何ヶ月分だ?」
「ここにはひとまず二月分ほど…。残りが少なくなる頃にはまた次をご用意いたします」
「間違いなく安全なものなのだな?万が一にもアリアの体に悪影響が出たり、子が授かれなくなるような可能性はないのだな」
「それはもう、当然でございます陛下。ご心配なさいますな。薬についてはこのザーディンが入念に調べ上げ、より信頼のおける専門医に内密に相談した上でご用意したものにございますので」
「…分かった。ならば使おう」
「避妊薬の使用についてはくれぐれも他言無用であることを妃陛下に念押しくださいますよう。どこから誰にどう話が広まるやもしれませんので」
「確かにな」
他国から嫁いできた正妃がその大きな役目の一つを放り出して国王との情事に夢中になっている、などと口さがないことを言ってアリアを攻撃する連中が出てくるだろう。
俺はその夜から早速アリアに薬を飲ませ、ついにこの手に得た可愛い女との時間を存分に満喫したのだった。
49
お気に入りに追加
2,309
あなたにおすすめの小説
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます
神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。
【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。
だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。
「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」
マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。
(そう。そんなに彼女が良かったの)
長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。
何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。
(私は都合のいい道具なの?)
絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。
侍女達が話していたのはここだろうか?
店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。
コッペリアが正直に全て話すと、
「今のあんたにぴったりの物がある」
渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。
「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」
そこで老婆は言葉を切った。
「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」
コッペリアは深く頷いた。
薬を飲んだコッペリアは眠りについた。
そして――。
アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。
「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」
※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)
(2023.2.3)
ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000
※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)
愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす
リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」
夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。
後に夫から聞かされた衝撃の事実。
アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。
※シリアスです。
※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。
【完結】公女が死んだ、その後のこと
杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】
「お母様……」
冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。
古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。
「言いつけを、守ります」
最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。
こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。
そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。
「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」
「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」
「くっ……、な、ならば蘇生させ」
「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」
「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」
「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」
「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」
「まっ、待て!話を」
「嫌ぁ〜!」
「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」
「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」
「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」
「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
家出した伯爵令嬢【完結済】
弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。
番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています
6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております
【完結】お姉様の婚約者
七瀬菜々
恋愛
姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。
残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。
サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。
誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。
けれど私の心は晴れやかだった。
だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。
ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる