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44. アルバート様からの告白
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ふいにアルバート様が私から目を逸らすと、手で顔を覆うようにして深く大きなため息をつく。
「……ああ。すまない、ティファナ。驚かせてしまった。……こんなこと、まだ言うつもりじゃなかったのに」
「ア……、アルバート、さま……?」
その悩ましげな姿を見ているうちに、私の全身が徐々に熱を帯びる。頭よりも先に、この体が彼の言葉の意味を理解かのように。
「……ティファナ」
アルバート様は私を見つめなおすと、ふいにその大きく温かい手で私の両手を包み込んだ。
「っ!」
「本当は、もっと状況が落ち着いてから、……君とラウル殿のことが片付いてから、折を見てゆっくりと伝えていこうと思っていたんだ。だけど、君があまりにも愛おしすぎて……、こうしてそばにいるだけで、抑えつけてきたこの想いが溢れてしまった。もう我慢できそうにない。……ティファナ、俺の気持ちは、ずっと変わらない。君のことを愛しているよ」
「……っ! ……ア……、」
あまりの衝撃に、一瞬頭が真っ白になった。
アルバート様が、わ、私のことを……?
心臓が口から飛び出しそうなほどに大きく脈打ち、今にも倒れてしまいそうだ。軽いめまいを覚え、頬も耳も、体中が汗ばむほどの熱を持つ。
真っ赤に染まったみっともないこの顔を彼に見られていることが恥ずかしくてたまらないのに……、視線一つさえ動かすことができない。頭も心もいっぱいいっぱいになり、なぜだかじわりと涙が浮かんで、視界が滲む。
そんな私を見て、アルバート様はふっ、と優しく微笑んだ。
「……混乱させてごめんね、ティファナ。……でもそんな風に狼狽えている姿さえ、俺の心をどうしようもなくかき乱すほどに可愛いんだよ。許されるなら、今すぐ君をこの胸に抱きしめてしまいたいくらいだ」
(~~~~~~っ!?)
ビクッと肩を揺らし目を見開くと、アルバート様はクスクスと笑った。そしてふと真剣な顔に戻り、私の瞳を覗き込む。
「今すぐ答えを求めるのは、あまりにも酷かな。……ティファナ、少し時間をかけて、考えてみてほしい。君は俺のことを、どう思っているのか」
「……っ、ど、……どう……?」
「うん。そして、もう少し深く考えて。たとえばこの俺が、君の夫になれば、……どう? 君は嫌? それとも、嬉しい?」
「っ!! ……お……、夫、ですか……っ?」
真っ赤に染まったままの私が鸚鵡返しにそう言うと、アルバート様は微笑みを浮かべて頷いた。
「ああ。そうだよ。ティファナがラウル殿と結婚して、ただ幸せに暮らしてくれているならそれでよかったんだ。俺の君に対するこの恋情は、命が尽きる時まで誰にも知られないよう、一人ひそかに抱えているつもりでいた」
(……アルバート様……)
そんなにまで、私のことを想ってくださっていたなんて。
私は少しも、気付かなかった。
「けれど、君は彼との結婚以来ずっと辛そうなままで、その上俺は奴のふしだらな一面まで知ってしまった。このままあんな男に、大切な君を任せておくことはできないと思うようになったんだ。……俺なら、こんな風にティファナを苦しめたりはしない。絶対に。だからこそ、叶うことなら俺がこの手で君を守り抜きたい。そう強く思ってる」
アルバート様はたしかな意志を携えた強い視線で私をとらえ、はっきりとそう言った。私はただ、戸惑うしかなかった。
もう頭がいっぱいで、何も冷静に考えられない……。
「……ティファナ?」
「っ! ……あ……、」
「驚くに決まってるよね、そりゃ。……ごめん。君を追いつめるつもりは一切ないんだ。ただ、君の今後の選択肢の一つとして、ゆっくり考えてみてくれないかな。俺との将来のことを」
「……は……はい……」
どうにかそう一言だけ答えた私は、ますます上がる体温にクラクラしてしまった。
(はい、じゃないわよ、はいじゃ。結婚してるのよ? 私は。ど、どうするつもりなのよ)
いくらあんな夫とはいえ。
ふいにアルバート様が、私の両手をそっと離す。
そして今度は私の肩に優しく手を添えると、気遣うように囁いた。
「大丈夫?」
「は、はい……」
「何か質問は?」
少しおどけたようにそう問いかけるアルバート様に、私は勇気を出して尋ねてみた。
「……その……、ア、アルバート様は、いつから、私のことを……」
そんな風に想ってくださっていたのですか?
最後までは言葉にできなかったけれど、私の問いかけを察したらしいアルバート様は答える。
「そうだなぁ。こんな風にティファナを一人の女性として愛しはじめたのがいつからだったのか、明確な答えを出すのは難しいな。でも、俺が王宮を出て国内を飛び回りはじめた頃には、もうすでに自覚はあったよ。このまま君の近くにいるのはマズいって」
「そ……、そうなのですね……」
「うん」
そんなに前から……。
私が「お兄様」と呼んでただ慕っていたあの頃から、アルバート様はすでにこの私に対して、そんな想いを向けてくださっていたの……?
何だか信じられない。
アルバート様の視線を受け止められずに、私は茹だったような真っ赤な顔を背け、俯く。
「他にも聞きたいことがある?」
「……その……、わ、私は、ラウル様の妻です」
「うん。知ってるよ。忌々しいことにね」
「ですから、もしも……、私が、アルバート様のお気持ちを……、」
どう伝えればいいか分からず、混乱する頭で必死に言葉を選んでいると、アルバート様が代弁してくれた。
「君が熟考の末俺の想いを受け止めてくれたとしても、ヘイワード公爵家との縁をどうするのかって話だろう? 公爵や君の父君の手前、簡単に離縁などできないと。そのことを言いたい?」
「は、はい」
「まぁたしかに、双方を完全に納得させるのは難しいだろうね。だけどどうせ今のままじゃ、あの男が暴走してすぐにでも離縁を申し出てくるかもしれないし、そもそもこのまま君が不幸な結婚生活のせいで苦しんでいるのを俺は見ていられない。そのことに比べれば、正直俺にとってヘイワード公爵家とオールディス侯爵家との関係など、些細なことなんだ」
「ア、アルバート様……」
あっさりとそんなことを言ってのけるアルバート様に、私はますます混乱してしまう。
するとアルバート様は私の頬をそっと撫で、安心させるように優しく言った。
「……ごめん。今日の俺は少し本音を漏らしすぎてしまった。ティファナ、もしも君が俺を受け入れてくれるのなら、オールディス侯爵家にとっては悪い話では絶対にないよ。そうだろう? 父君は王家との縁談ならきっと喜んで了承してくださるはずだ。大切な娘をないがしろにする旧友の息子よりも、君を生涯大事にすると誓う王弟の方が、喜んでもらえると思わないかい? しかもこの王弟は国王陛下との距離も近く、関係も良好。王太子殿下の教育まで引き受けている」
……たしかに。
たとえば、王家に反発する勢力の貴族家の息子と結婚したいなどと申し出れば父は激怒するかもしれないけれど、アルバート様なら嫌がる理由はひとつもないはず。……って、私は何を考えているのかしら。まずは自分の気持ちとしっかり向き合わなくちゃ。
それに、気になることはもう一つ。
「アルバート様は、隣国の王族の方とご結婚なさらなくてよろしいのですか? 元々はそのご予定でしたわよね。件の王女殿下とのお話がなくなったとしても、他の独身の王女殿下はいらっしゃいます」
私がそう尋ねると、アルバート様は何の迷いもなく答える。
「隣国の王家との縁を結ぶのは、必ずしも俺でなくてもいい。まぁ、王女の失態でこうなったのだから、あちら側は当分このリデール王国に頭が上がらないはずだし、今後のこちら側からの縁談の申し込みがよほど突拍子もないものでない限りは、文句も言ってこないだろう。……それに、もう俺自身にその気が全くなくなったのだから。ティファナ、君を得られる可能性が少しでもある今、他の女性を娶ることなど俺はもう微塵も考えられない」
「……アルバート様……」
優しい微笑みをわずかの間引っ込めて、アルバート様は真剣な眼差しで私に向かってそう言った。
そしてまたいつもの柔和な表情に戻ると、こう付け加える。
「王太子の婚約者候補の一人として、長年最高峰の教育を受けてきた君だ。王弟妃となるに相応しい人だと、陛下も認めると思うよ。……でもまずは、君自身の気持ちが何より大切だ。だから、もう一度俺の想いを伝えさせておくれ」
そう言うとアルバート様はふいに片膝をつき、私の手を取ると、その手のひらに自身の唇をそっと押し当てた。
「ティファナ、君を愛してる。どうか俺の元に」
「……っ、」
そう言って私を見上げる彼の瞳には、これまで一度も見たことがない熱と色気が漂っていて、思わず息を呑んだ。
触れられた手のひらが燃えるように熱くて、私はまためまいを覚えたのだった。
「……ああ。すまない、ティファナ。驚かせてしまった。……こんなこと、まだ言うつもりじゃなかったのに」
「ア……、アルバート、さま……?」
その悩ましげな姿を見ているうちに、私の全身が徐々に熱を帯びる。頭よりも先に、この体が彼の言葉の意味を理解かのように。
「……ティファナ」
アルバート様は私を見つめなおすと、ふいにその大きく温かい手で私の両手を包み込んだ。
「っ!」
「本当は、もっと状況が落ち着いてから、……君とラウル殿のことが片付いてから、折を見てゆっくりと伝えていこうと思っていたんだ。だけど、君があまりにも愛おしすぎて……、こうしてそばにいるだけで、抑えつけてきたこの想いが溢れてしまった。もう我慢できそうにない。……ティファナ、俺の気持ちは、ずっと変わらない。君のことを愛しているよ」
「……っ! ……ア……、」
あまりの衝撃に、一瞬頭が真っ白になった。
アルバート様が、わ、私のことを……?
心臓が口から飛び出しそうなほどに大きく脈打ち、今にも倒れてしまいそうだ。軽いめまいを覚え、頬も耳も、体中が汗ばむほどの熱を持つ。
真っ赤に染まったみっともないこの顔を彼に見られていることが恥ずかしくてたまらないのに……、視線一つさえ動かすことができない。頭も心もいっぱいいっぱいになり、なぜだかじわりと涙が浮かんで、視界が滲む。
そんな私を見て、アルバート様はふっ、と優しく微笑んだ。
「……混乱させてごめんね、ティファナ。……でもそんな風に狼狽えている姿さえ、俺の心をどうしようもなくかき乱すほどに可愛いんだよ。許されるなら、今すぐ君をこの胸に抱きしめてしまいたいくらいだ」
(~~~~~~っ!?)
ビクッと肩を揺らし目を見開くと、アルバート様はクスクスと笑った。そしてふと真剣な顔に戻り、私の瞳を覗き込む。
「今すぐ答えを求めるのは、あまりにも酷かな。……ティファナ、少し時間をかけて、考えてみてほしい。君は俺のことを、どう思っているのか」
「……っ、ど、……どう……?」
「うん。そして、もう少し深く考えて。たとえばこの俺が、君の夫になれば、……どう? 君は嫌? それとも、嬉しい?」
「っ!! ……お……、夫、ですか……っ?」
真っ赤に染まったままの私が鸚鵡返しにそう言うと、アルバート様は微笑みを浮かべて頷いた。
「ああ。そうだよ。ティファナがラウル殿と結婚して、ただ幸せに暮らしてくれているならそれでよかったんだ。俺の君に対するこの恋情は、命が尽きる時まで誰にも知られないよう、一人ひそかに抱えているつもりでいた」
(……アルバート様……)
そんなにまで、私のことを想ってくださっていたなんて。
私は少しも、気付かなかった。
「けれど、君は彼との結婚以来ずっと辛そうなままで、その上俺は奴のふしだらな一面まで知ってしまった。このままあんな男に、大切な君を任せておくことはできないと思うようになったんだ。……俺なら、こんな風にティファナを苦しめたりはしない。絶対に。だからこそ、叶うことなら俺がこの手で君を守り抜きたい。そう強く思ってる」
アルバート様はたしかな意志を携えた強い視線で私をとらえ、はっきりとそう言った。私はただ、戸惑うしかなかった。
もう頭がいっぱいで、何も冷静に考えられない……。
「……ティファナ?」
「っ! ……あ……、」
「驚くに決まってるよね、そりゃ。……ごめん。君を追いつめるつもりは一切ないんだ。ただ、君の今後の選択肢の一つとして、ゆっくり考えてみてくれないかな。俺との将来のことを」
「……は……はい……」
どうにかそう一言だけ答えた私は、ますます上がる体温にクラクラしてしまった。
(はい、じゃないわよ、はいじゃ。結婚してるのよ? 私は。ど、どうするつもりなのよ)
いくらあんな夫とはいえ。
ふいにアルバート様が、私の両手をそっと離す。
そして今度は私の肩に優しく手を添えると、気遣うように囁いた。
「大丈夫?」
「は、はい……」
「何か質問は?」
少しおどけたようにそう問いかけるアルバート様に、私は勇気を出して尋ねてみた。
「……その……、ア、アルバート様は、いつから、私のことを……」
そんな風に想ってくださっていたのですか?
最後までは言葉にできなかったけれど、私の問いかけを察したらしいアルバート様は答える。
「そうだなぁ。こんな風にティファナを一人の女性として愛しはじめたのがいつからだったのか、明確な答えを出すのは難しいな。でも、俺が王宮を出て国内を飛び回りはじめた頃には、もうすでに自覚はあったよ。このまま君の近くにいるのはマズいって」
「そ……、そうなのですね……」
「うん」
そんなに前から……。
私が「お兄様」と呼んでただ慕っていたあの頃から、アルバート様はすでにこの私に対して、そんな想いを向けてくださっていたの……?
何だか信じられない。
アルバート様の視線を受け止められずに、私は茹だったような真っ赤な顔を背け、俯く。
「他にも聞きたいことがある?」
「……その……、わ、私は、ラウル様の妻です」
「うん。知ってるよ。忌々しいことにね」
「ですから、もしも……、私が、アルバート様のお気持ちを……、」
どう伝えればいいか分からず、混乱する頭で必死に言葉を選んでいると、アルバート様が代弁してくれた。
「君が熟考の末俺の想いを受け止めてくれたとしても、ヘイワード公爵家との縁をどうするのかって話だろう? 公爵や君の父君の手前、簡単に離縁などできないと。そのことを言いたい?」
「は、はい」
「まぁたしかに、双方を完全に納得させるのは難しいだろうね。だけどどうせ今のままじゃ、あの男が暴走してすぐにでも離縁を申し出てくるかもしれないし、そもそもこのまま君が不幸な結婚生活のせいで苦しんでいるのを俺は見ていられない。そのことに比べれば、正直俺にとってヘイワード公爵家とオールディス侯爵家との関係など、些細なことなんだ」
「ア、アルバート様……」
あっさりとそんなことを言ってのけるアルバート様に、私はますます混乱してしまう。
するとアルバート様は私の頬をそっと撫で、安心させるように優しく言った。
「……ごめん。今日の俺は少し本音を漏らしすぎてしまった。ティファナ、もしも君が俺を受け入れてくれるのなら、オールディス侯爵家にとっては悪い話では絶対にないよ。そうだろう? 父君は王家との縁談ならきっと喜んで了承してくださるはずだ。大切な娘をないがしろにする旧友の息子よりも、君を生涯大事にすると誓う王弟の方が、喜んでもらえると思わないかい? しかもこの王弟は国王陛下との距離も近く、関係も良好。王太子殿下の教育まで引き受けている」
……たしかに。
たとえば、王家に反発する勢力の貴族家の息子と結婚したいなどと申し出れば父は激怒するかもしれないけれど、アルバート様なら嫌がる理由はひとつもないはず。……って、私は何を考えているのかしら。まずは自分の気持ちとしっかり向き合わなくちゃ。
それに、気になることはもう一つ。
「アルバート様は、隣国の王族の方とご結婚なさらなくてよろしいのですか? 元々はそのご予定でしたわよね。件の王女殿下とのお話がなくなったとしても、他の独身の王女殿下はいらっしゃいます」
私がそう尋ねると、アルバート様は何の迷いもなく答える。
「隣国の王家との縁を結ぶのは、必ずしも俺でなくてもいい。まぁ、王女の失態でこうなったのだから、あちら側は当分このリデール王国に頭が上がらないはずだし、今後のこちら側からの縁談の申し込みがよほど突拍子もないものでない限りは、文句も言ってこないだろう。……それに、もう俺自身にその気が全くなくなったのだから。ティファナ、君を得られる可能性が少しでもある今、他の女性を娶ることなど俺はもう微塵も考えられない」
「……アルバート様……」
優しい微笑みをわずかの間引っ込めて、アルバート様は真剣な眼差しで私に向かってそう言った。
そしてまたいつもの柔和な表情に戻ると、こう付け加える。
「王太子の婚約者候補の一人として、長年最高峰の教育を受けてきた君だ。王弟妃となるに相応しい人だと、陛下も認めると思うよ。……でもまずは、君自身の気持ちが何より大切だ。だから、もう一度俺の想いを伝えさせておくれ」
そう言うとアルバート様はふいに片膝をつき、私の手を取ると、その手のひらに自身の唇をそっと押し当てた。
「ティファナ、君を愛してる。どうか俺の元に」
「……っ、」
そう言って私を見上げる彼の瞳には、これまで一度も見たことがない熱と色気が漂っていて、思わず息を呑んだ。
触れられた手のひらが燃えるように熱くて、私はまためまいを覚えたのだった。
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