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13. ハリントン公爵との食事

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「いやぁ~、しかしすっごいなぁ。まさかここまで綺麗な子だったとは。ね? ロイド様。……うめぇな、このチキン」

 あれから私たちは食堂へと移動した。私が目覚めてからまだ食事が済んでいないことを知ったハリントン公爵が、「私たちもまだ夕食を済ませていない。話は食べながら聞こう」と言ってくださり、なんと畏れ多くも一緒に食事をさせていただくことになったのだ。いつの間にか、もう遅い夕食をとるような時間になっていたらしい。
 あの後私は様々な角度からカーティスさんにじっくりと見られ、思う存分観察された。

「ミシェルみたいな髪色、なかなかお目にかかることねぇよ。本当に驚いた。いくら物乞いとはいえ、まさかこの綺麗なピンク色があそこまで真っ黒になるなんてなぁ。……お、ここから見るとさっきとはまた違う感じだ。紫色に艶が出て見える。不思議だなぁ。ホント綺麗だ」

 パクパクと食事をしながらも、カーティスさんは私の髪が気になって仕方ないようだ。何度もこちらをチラチラ見ている。
 そう。私の髪はいわゆるピンクブロンドなのだ。といっても、ブロンドよりもピンクの色味の方が強く、パッと見た感じは桃色の髪。そして不思議な輝きを放っている。光の加減によって金や銀にキラキラと光ったり、虹色のような艶が出たり、あるいは今カーティスさんが言ったように紫がかった光を帯びたりする。
 母や周りの大人たちは皆、よく私のこの不思議な髪色を褒めてくれたものだった。とりわけ母は私の髪がとても好きで、毎朝いろいろな髪飾りをつけては丁寧に結ってくれていた。

「肌も真っ白だしさぁ。こうして汚れを落とした姿を見ると、まるっきり物乞いっぽさがないよな。どこぞの貴族のお嬢様に見えるぜ。だけど……せっかく綺麗な髪なのに、なんでそんな適当な切り方してるんだよ。……ハッ! まさかお前……、それ、誰かに切り落とされたんじゃねぇだろうな? 売れば金になりそうだし、もしかして町のごろつきに……!」
「カーティス。少し黙れ。彼女が食べられなくて困っているだろう」

 疑問が尽きないのか、根掘り葉掘り問いただそうとするカーティスさんを、ハリントン公爵が諌める。そして私に向かってこう言った。

「ひとまずは食べなさい。力も出ないだろう。また倒れてしまっても困るしな」
「あ、ありがとうございます」

 緊張しながらそう返事をし、目の前にたくさん並んだお皿に目を落とした。
 何種類かの焼き立てのパンに、ジャムやバター、チーズにビスケット、オムレツやサラダ、たくさんの具が入った澄んだコンソメスープに、スライスして出された大きなチキン……。公爵様がいる食卓だからか、とても豪華だ。
 見ているだけでお腹がキュウ……と音を立て、喉が鳴った。がっついて食べないよう慎重になりながら、私はスープを一口すくって口に運んだ。

(お……っ、美味しい……っ!!)

 あまりの美味しさに感動しながら、それでも私はスープやオムレツ、サクサクのパンなどをゆっくりと丁寧に食べていく。お腹がすきすぎて一気に口に頬張ってしまいたいくらいだけれど、ここでそんな食べ方をしたら本当に飢えた物乞いだと思われてしまう。
 一口一口味わいながら、私はチラリとテーブルの向こう側にいるハリントン公爵に目をやった。
 すると公爵は食事の手を止め、こちらをジッと見ているではないか。心臓が大きく音を立てた。……何か、おかしな食べ方をしてしまっていたかしら。
 そう思ってビクビクしていると、公爵が口を開く。

「……君は貴族の出身ではないのだな?」






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