46 / 83
46.それぞれの反応
しおりを挟む
私はまず雇い主であるライリー様に、婚約の話がまとまりつつあることを報告した。彼の執務室で、やや緊張しながら伝える。
「……そうか。おめでとう。よかったじゃないか」
予想通りの反応に幾分ホッとし、またほんの少しがっかりもした。……なぜだろう。
「ありがとうございます。まだ正式に決まったわけではないですが、あくまでその方向で話が進んでいるといいますか……。先方とは話をしまして、仮に結婚することになったとしても、オリビアお嬢様がカートライト侯爵家に嫁ぐまではこのまま侍女として勤めることを認めてもらえました」
「そうか。こちらとしてもありがたい話だが、無理をすることはない。今後の両家の話し合いによってはそれが難しくなることもあるかもしれない。その時には自分の事情を優先してくれ。オリビアと君は、もう君が侍女を辞めたとしても今後良き友人として付き合っていけるのだろうし、それでも充分だよ」
ライリー様は手元の書類をテキパキと捌きながら穏やかな口調でそう言った。
「はい。ありがとうございます。ですが私の希望はあくまで侍女を続けることですので、極力我を通すつもりでおりますわ」
「ふ、それは助かるが……、我が家が原因で先方と揉めるようなことは止めてくれたまえ。心配になる」
ライリー様は普段と一切変わらぬ様子で私の報告を受け止めてくれた。
それを寂しく思うのは、私がおかしいからかしら……。
「……えっ……?!ロ、ロゼッタ……、ほ、本当に……?」
ライリー様とは逆に、オリビア嬢はこちらが驚くほどに動揺していた。心なしか顔色も悪い。心配になった私はどうにか彼女を落ち着かせようとした。
「ええ。……ですが、今も申し上げました通り、今すぐに、というわけではないのです。ただその方向で話が進んでいるといいますか……、私はオリビアお嬢様がご結婚するまではこのままアクストン公爵家で侍女を続ける意向を伝えておりますし、先方も理解してくれています。つまり、これまで通りの生活がもう数年は続くことになりますわ、きっと」
「…………。そ、……そん、な……」
「オリビアお嬢様……?ですから、どうか落ち着いてくださいませ。よろしいですか?これまで通り、ですよ?……お分かりいただけてます、よね……?」
一体どうしたのだろう。どうしてこんなにも動揺するのかしら。オリビア嬢は以前にも、私が結婚して幸せになることを望んでいるようなことを言ってくださっていた。まさか私が結婚することが嫌なわけでは、ないわよね……。
いつの間にか立ち上がり両手で口元を押さえながら、呆然とどこかを見つめている。
「…………。」
「い、いつかオリビアお嬢様がご結婚されて、私がこちらでの勤めを終えたとしても、私たちはもうずっとお友達ですわ。……ですよね?」
「…………。」
「……オリビアお嬢さま……?」
「……で、でも、あの……、お、おに……」
……おに?
何だろう、おにって。
しばらく動揺がひどかったオリビア嬢だが、ふいにハッとした顔をするとようやく私に笑顔を見せてくれた。……でもちょっと引きつっている。明らかに無理のある笑顔だ。
「ごっ、ごめんなさいねロゼッタ。違うの。ちょっと……、何ていうか、あまりにも突然で、心の準備がなかったものだから……すごく驚いてしまって」
(……?そこまで心の準備がいるようなことだったのかしら……。私が侍女でなくなる日が来ることを、そんなにも残念に思ってくださってるのね。……可愛い方)
「大丈夫ですよ、オリビアお嬢様。私たちの縁が途切れることはないのですから。互いに人妻になってもお手紙をやり取りしたり、二人きりでお茶会を楽しんだりしましょうよ」
「え、ええっ!もちろんよロゼッタ!あなたが幸せになることは、私本当に嬉しいのよ。それは心から本当。……信じてね」
「ふふ。ありがとうございます」
「ただ……、……期待していたものだから、……あなたは……、……と……」
「……?何ですか?オリビアお嬢様」
「っ!う、ううん。……いいの。あなたが幸せになってくれるのが一番だもの。私はあなたの選択を応援するわ」
(……?)
何か思うところのありそうなオリビア嬢の様子がすごく気にはなったけれど、私が結婚することには反対でないらしい。オリビア嬢がこれ以上の何も言わないのなら、私も詮索するのは止めておこう。
「ありがとうございます、オリビアお嬢様。今後とも末永くよろしくお願いいたしますね」
「ええ!こちらこそよ、ロゼッタ」
「……そうか。おめでとう。よかったじゃないか」
予想通りの反応に幾分ホッとし、またほんの少しがっかりもした。……なぜだろう。
「ありがとうございます。まだ正式に決まったわけではないですが、あくまでその方向で話が進んでいるといいますか……。先方とは話をしまして、仮に結婚することになったとしても、オリビアお嬢様がカートライト侯爵家に嫁ぐまではこのまま侍女として勤めることを認めてもらえました」
「そうか。こちらとしてもありがたい話だが、無理をすることはない。今後の両家の話し合いによってはそれが難しくなることもあるかもしれない。その時には自分の事情を優先してくれ。オリビアと君は、もう君が侍女を辞めたとしても今後良き友人として付き合っていけるのだろうし、それでも充分だよ」
ライリー様は手元の書類をテキパキと捌きながら穏やかな口調でそう言った。
「はい。ありがとうございます。ですが私の希望はあくまで侍女を続けることですので、極力我を通すつもりでおりますわ」
「ふ、それは助かるが……、我が家が原因で先方と揉めるようなことは止めてくれたまえ。心配になる」
ライリー様は普段と一切変わらぬ様子で私の報告を受け止めてくれた。
それを寂しく思うのは、私がおかしいからかしら……。
「……えっ……?!ロ、ロゼッタ……、ほ、本当に……?」
ライリー様とは逆に、オリビア嬢はこちらが驚くほどに動揺していた。心なしか顔色も悪い。心配になった私はどうにか彼女を落ち着かせようとした。
「ええ。……ですが、今も申し上げました通り、今すぐに、というわけではないのです。ただその方向で話が進んでいるといいますか……、私はオリビアお嬢様がご結婚するまではこのままアクストン公爵家で侍女を続ける意向を伝えておりますし、先方も理解してくれています。つまり、これまで通りの生活がもう数年は続くことになりますわ、きっと」
「…………。そ、……そん、な……」
「オリビアお嬢様……?ですから、どうか落ち着いてくださいませ。よろしいですか?これまで通り、ですよ?……お分かりいただけてます、よね……?」
一体どうしたのだろう。どうしてこんなにも動揺するのかしら。オリビア嬢は以前にも、私が結婚して幸せになることを望んでいるようなことを言ってくださっていた。まさか私が結婚することが嫌なわけでは、ないわよね……。
いつの間にか立ち上がり両手で口元を押さえながら、呆然とどこかを見つめている。
「…………。」
「い、いつかオリビアお嬢様がご結婚されて、私がこちらでの勤めを終えたとしても、私たちはもうずっとお友達ですわ。……ですよね?」
「…………。」
「……オリビアお嬢さま……?」
「……で、でも、あの……、お、おに……」
……おに?
何だろう、おにって。
しばらく動揺がひどかったオリビア嬢だが、ふいにハッとした顔をするとようやく私に笑顔を見せてくれた。……でもちょっと引きつっている。明らかに無理のある笑顔だ。
「ごっ、ごめんなさいねロゼッタ。違うの。ちょっと……、何ていうか、あまりにも突然で、心の準備がなかったものだから……すごく驚いてしまって」
(……?そこまで心の準備がいるようなことだったのかしら……。私が侍女でなくなる日が来ることを、そんなにも残念に思ってくださってるのね。……可愛い方)
「大丈夫ですよ、オリビアお嬢様。私たちの縁が途切れることはないのですから。互いに人妻になってもお手紙をやり取りしたり、二人きりでお茶会を楽しんだりしましょうよ」
「え、ええっ!もちろんよロゼッタ!あなたが幸せになることは、私本当に嬉しいのよ。それは心から本当。……信じてね」
「ふふ。ありがとうございます」
「ただ……、……期待していたものだから、……あなたは……、……と……」
「……?何ですか?オリビアお嬢様」
「っ!う、ううん。……いいの。あなたが幸せになってくれるのが一番だもの。私はあなたの選択を応援するわ」
(……?)
何か思うところのありそうなオリビア嬢の様子がすごく気にはなったけれど、私が結婚することには反対でないらしい。オリビア嬢がこれ以上の何も言わないのなら、私も詮索するのは止めておこう。
「ありがとうございます、オリビアお嬢様。今後とも末永くよろしくお願いいたしますね」
「ええ!こちらこそよ、ロゼッタ」
70
お気に入りに追加
4,724
あなたにおすすめの小説
妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。
【完結】今夜さよならをします
たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。
あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。
だったら婚約解消いたしましょう。
シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。
よくある婚約解消の話です。
そして新しい恋を見つける話。
なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!!
★すみません。
長編へと変更させていただきます。
書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。
いつも読んでいただきありがとうございます!
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
【完結済】自由に生きたいあなたの愛を期待するのはもうやめました
鳴宮野々花
恋愛
伯爵令嬢クラウディア・マクラウドは長年の婚約者であるダミアン・ウィルコックス伯爵令息のことを大切に想っていた。結婚したら彼と二人で愛のある家庭を築きたいと夢見ていた。
ところが新婚初夜、ダミアンは言った。
「俺たちはまるっきり愛のない政略結婚をしたわけだ。まぁ仕方ない。あとは割り切って互いに自由に生きようじゃないか。」
そう言って愛人らとともに自由に過ごしはじめたダミアン。激しくショックを受けるクラウディアだったが、それでもひたむきにダミアンに尽くし、少しずつでも自分に振り向いて欲しいと願っていた。
しかしそんなクラウディアの思いをことごとく裏切り、鼻で笑うダミアン。
心が折れそうなクラウディアはそんな時、王国騎士団の騎士となった友人アーネスト・グレアム侯爵令息と再会する。
初恋の相手であるクラウディアの不幸せそうな様子を見て、どうにかダミアンから奪ってでも自分の手で幸せにしたいと考えるアーネスト。
そんなアーネストと次第に親密になり自分から心が離れていくクラウディアの様子を見て、急に焦り始めたダミアンは─────
(※※夫が酷い男なので序盤の数話は暗い話ですが、アーネストが出てきてからはわりとラブコメ風です。)(※※この物語の世界は作者独自の設定です。)
【完結】聖女の妊娠で王子と婚約破棄することになりました。私の場所だった王子の隣は聖女様のものに変わるそうです。
五月ふう
恋愛
「聖女が妊娠したから、私とは婚約破棄?!冗談じゃないわよ!!」
私は10歳の時から王子アトラスの婚約者だった。立派な王妃になるために、今までずっと頑張ってきたのだ。今更婚約破棄なんて、認められるわけないのに。
「残念だがもう決まったことさ。」
アトラスはもう私を見てはいなかった。
「けど、あの聖女って、元々貴方の愛人でしょうー??!絶対におかしいわ!!」
私は絶対に認めない。なぜ私が城を追い出され、あの女が王妃になるの?
まさか"聖女"に王妃の座を奪われるなんて思わなかったわーー。
悪役令嬢が残した破滅の種
八代奏多
恋愛
妹を虐げていると噂されていた公爵令嬢のクラウディア。
そんな彼女が婚約破棄され国外追放になった。
その事実に彼女を疎ましく思っていた周囲の人々は喜んだ。
しかし、その日を境に色々なことが上手く回らなくなる。
断罪した者は次々にこう口にした。
「どうか戻ってきてください」
しかし、クラウディアは既に隣国に心地よい居場所を得ていて、戻る気は全く無かった。
何も知らずに私欲のまま断罪した者達が、破滅へと向かうお話し。
※小説家になろう様でも連載中です。
9/27 HOTランキング1位、日間小説ランキング3位に掲載されました。ありがとうございます。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~
Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。
「俺はお前を愛することはない!」
初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。
(この家も長くはもたないわね)
貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。
ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。
6話と7話の間が抜けてしまいました…
7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる