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46.それぞれの反応

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 私はまず雇い主であるライリー様に、婚約の話がまとまりつつあることを報告した。彼の執務室で、やや緊張しながら伝える。

「……そうか。おめでとう。よかったじゃないか」

 予想通りの反応に幾分ホッとし、またほんの少しがっかりもした。……なぜだろう。

「ありがとうございます。まだ正式に決まったわけではないですが、あくまでその方向で話が進んでいるといいますか……。先方とは話をしまして、仮に結婚することになったとしても、オリビアお嬢様がカートライト侯爵家に嫁ぐまではこのまま侍女として勤めることを認めてもらえました」
「そうか。こちらとしてもありがたい話だが、無理をすることはない。今後の両家の話し合いによってはそれが難しくなることもあるかもしれない。その時には自分の事情を優先してくれ。オリビアと君は、もう君が侍女を辞めたとしても今後良き友人として付き合っていけるのだろうし、それでも充分だよ」

 ライリー様は手元の書類をテキパキと捌きながら穏やかな口調でそう言った。

「はい。ありがとうございます。ですが私の希望はあくまで侍女を続けることですので、極力我を通すつもりでおりますわ」
「ふ、それは助かるが……、我が家が原因で先方と揉めるようなことは止めてくれたまえ。心配になる」

 ライリー様は普段と一切変わらぬ様子で私の報告を受け止めてくれた。
 それを寂しく思うのは、私がおかしいからかしら……。






「……えっ……?!ロ、ロゼッタ……、ほ、本当に……?」

 ライリー様とは逆に、オリビア嬢はこちらが驚くほどに動揺していた。心なしか顔色も悪い。心配になった私はどうにか彼女を落ち着かせようとした。

「ええ。……ですが、今も申し上げました通り、今すぐに、というわけではないのです。ただその方向で話が進んでいるといいますか……、私はオリビアお嬢様がご結婚するまではこのままアクストン公爵家で侍女を続ける意向を伝えておりますし、先方も理解してくれています。つまり、これまで通りの生活がもう数年は続くことになりますわ、きっと」
「…………。そ、……そん、な……」
「オリビアお嬢様……?ですから、どうか落ち着いてくださいませ。よろしいですか?これまで通り、ですよ?……お分かりいただけてます、よね……?」

 一体どうしたのだろう。どうしてこんなにも動揺するのかしら。オリビア嬢は以前にも、私が結婚して幸せになることを望んでいるようなことを言ってくださっていた。まさか私が結婚することが嫌なわけでは、ないわよね……。
 いつの間にか立ち上がり両手で口元を押さえながら、呆然とどこかを見つめている。

「…………。」
「い、いつかオリビアお嬢様がご結婚されて、私がこちらでの勤めを終えたとしても、私たちはもうずっとお友達ですわ。……ですよね?」
「…………。」
「……オリビアお嬢さま……?」
「……で、でも、あの……、お、おに……」

 ……おに?

 何だろう、おにって。

 しばらく動揺がひどかったオリビア嬢だが、ふいにハッとした顔をするとようやく私に笑顔を見せてくれた。……でもちょっと引きつっている。明らかに無理のある笑顔だ。

「ごっ、ごめんなさいねロゼッタ。違うの。ちょっと……、何ていうか、あまりにも突然で、心の準備がなかったものだから……すごく驚いてしまって」

(……?そこまで心の準備がいるようなことだったのかしら……。私が侍女でなくなる日が来ることを、そんなにも残念に思ってくださってるのね。……可愛い方)

「大丈夫ですよ、オリビアお嬢様。私たちの縁が途切れることはないのですから。互いに人妻になってもお手紙をやり取りしたり、二人きりでお茶会を楽しんだりしましょうよ」
「え、ええっ!もちろんよロゼッタ!あなたが幸せになることは、私本当に嬉しいのよ。それは心から本当。……信じてね」
「ふふ。ありがとうございます」
「ただ……、……期待していたものだから、……あなたは……、……と……」
「……?何ですか?オリビアお嬢様」
「っ!う、ううん。……いいの。あなたが幸せになってくれるのが一番だもの。私はあなたの選択を応援するわ」

(……?)

 何か思うところのありそうなオリビア嬢の様子がすごく気にはなったけれど、私が結婚することには反対でないらしい。オリビア嬢がこれ以上の何も言わないのなら、私も詮索するのは止めておこう。

「ありがとうございます、オリビアお嬢様。今後とも末永くよろしくお願いいたしますね」
「ええ!こちらこそよ、ロゼッタ」




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