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12.エーベルとの再会

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 その茶会の招待主は、ライリー様とオリビア嬢のお母様、亡きアクストン公爵夫人の古い友人でもあったゲルナー侯爵夫人だった。数ヶ月に一度程度の間隔で、こうしてオリビア嬢を気遣って声をかけてくださっているらしい。何度か参加しているためオリビア嬢も顔見知りのご令嬢が何人かいるようで、行きたくてたまらないらしい。

(そりゃそうよね……。いくら豪奢で素敵なお屋敷とはいえ、ずっと閉じこもっていたら外に出たくもなるってものよ)

 必死に頼み込むオリビア嬢と、苦虫を噛み潰したようなライリー様の顔を盗み見ながら、私も心の中でOKが出ることを祈っていた。

「今回はすぐにお暇するから!」
「……本当だろうな」
「本当よ! それに、ロゼッタも一緒なのよ。ロゼッタがちゃんと私を連れて帰るわよ」

 オリビア嬢の言葉に、ライリー様がチラッとこちらを見るような素振りをした。

「……次の診察の結果次第だ」
「っ! あ、ありがとうお兄様!」

 成長と共にだんだんと体調が安定してきたというオリビア嬢は、最近の診察でもお医者様から「いい調子ですね」と褒められることが多いらしい。晴れやかな顔をしたオリビア嬢の頭の中では、もうすでにお茶会用のドレス候補が次々浮かんでいることだろう。





 それから二週間後、オリビア嬢は爽やかな水色のドレスに身を包み、丁寧にお化粧を施してゲルナー侯爵宅に赴いた。髪は可愛らしくハーフアップに結って何ヶ所か細い三つ編みを垂らしてある。凝ったヘアスタイルにオリビア嬢は大喜びしてくれた。我ながら彼女の可憐な愛らしさを存分に引き立てることができたと思っている。

(あとは帰宅時間ね……。絶対に長居しないようにしなくては……)

 今朝、ライリー様から直接念を押された。

「必ず二時間以内に帰らせてくれ。くれぐれも長居は無用だ。分かったな」

 厳しすぎる気はするけれど、以前お茶会で無理して長居したことから体調を崩したという過去があるならば、ライリー様の心配も理解できる。大切な妹君に万が一のことがあったらと思うと過保護にもなるだろう。

(今はとにかく実績を積むことが大事よね。無事に帰宅することが何度か続けば、そのうちオリビア嬢の外出時間も徐々に延ばしてもらえるでしょう)

 私はそう考えながら、ゲルナー侯爵家の門をくぐるオリビア嬢の後ろに続いた。



 中庭にはすでに何人ものご婦人方やご令嬢が来ていて、設置された長テーブルの周りに座って談笑していた。

「あら! 来てくださったのね、オリビアさん」
「ご無沙汰しております、ゲルナー侯爵夫人。本日はお招きくださってありがとうございます」

 主催者とオリビア嬢がにこやかに挨拶を交わしている間、私は少し離れたところに静かに立ち待機していた。しばらく会話をしてから、さ、どうぞ座ってちょうだいねと夫人に言われたオリビア嬢がテーブルの奥の方に動き出す。同じ年頃のご令嬢方が集まっている辺りだ。私は侍女らしく黙って後ろをついていく。

「まぁ、お久しぶりねオリビアさん」
「体調はいかが?」

 何人かの顔見知りと思われるお嬢さん方が彼女に声をかけてくれる。そちらの方に視線を送って、私は固まった。

「…………っ、」
「……あら……、あなた……」

 なんと、その中の一人はあのエーベル・クルエット伯爵令嬢だったのだ。向こうもすぐに私に気が付き、目を丸くしている。
 まさかこんな席でまた私に謝罪なんかしながらわぁわぁと泣いたりしないでしょうね……、と私が警戒していると、

「ロゼッタさんじゃないの! ロゼッタ・ハーグローヴ子爵令嬢。何ヶ月ぶりかしら、卒業以来だわ。お久しぶりねぇ。……あなた、……え? 何をしているの? こんなところで……」
「お知り合いでしたの? 彼女は今、私の侍女をしてくれていますの。とても頼りになるし、気も合うし……、私彼女のことが大好きなんですのよ。ふふ」

 クルエット伯爵令嬢の言葉に何も知らないオリビア嬢が嬉しそうに微笑んで言った。
 へぇ……、と答えたクルエット伯爵令嬢は、泣くどころかニンマリと嫌な感じに口角を上げた。

「まぁ……そうでしたのー。オリビア嬢の、アクストン公爵家の侍女に……、まーぁ……そう……、うふふふ」
「……。ええ。そうなんです。お久しぶりです、クルエット伯爵令嬢」

 何よ。何が言いたいのよ。

 今日のクルエット伯爵令嬢には、学園で見せていたあのか弱げな雰囲気はない。オリビア嬢を交えてご令嬢方と話に花を咲かせながらも、時折チラチラと私の方を振り返ってはクスッと笑っている。

(何? 感じ悪いわねぇ……。男性がいない場だと、この人こんなにも変わるの?)

 大方結婚できずに働き出した私のことが面白くてたまらないのだろう。ありありと顔に出ている。というか、わざと出しているというべきか。

 自分はどうなのよ。クルエット伯爵令嬢が結婚したという話は聞かない。
 結局あの二人とはどうなったのだろう。
 何でこの人、私の働いている姿を見てこんなに嬉しそうにしているのかしら。



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