17 / 25
王立魔法学園編
17 労働環境について
しおりを挟む「え、えっと……直す」
リリーちゃんは聖魔法を的を修復するのに使用したのだが……。
「ねえ、見ていらっしゃる?」
「ええ、もちろん。殿下の魔術、とても素敵だわ」
やはり絵面として地味すぎるのか、全然目立っていなかった。
それよりもクラスメイトは第三王子のヒルベルトの魔術を見るのに夢中だったのだ。
シャルロットのせいでヒエラルキーがおかしなことになっているが、ヒルベルトは本来であれば二番目に魔術に富んでいる。
そしてこの国の王子ともなれば注目が集まるのは当然だった。
「僕の魔術なんてまだまだ、これからも精進あるのみさ」
と言って、前髪を押さえながら余裕を見せつけていた。
風も吹いていないのに、何を押さえつけているのかはよく分からなかったけど。
とにかくヒルベルトが優秀であることは間違いない。
しかし、それのせいでリリーちゃんが目立っていないという事実は非常に困るものだった。
「……うぅ」
一人でしょんぼりしている未来の聖女。
「が、頑張れリリーちゃん……」
わたしには心で応援することしか出来なかった。
◇◇◇
「どうしたものかなぁ……」
実技練習も終わり、放課後になっていた。
未だリリーちゃんは攻略対象のヒルベルトともレオとも仲良くなっていない。
さすがに本格的に焦り始めてきた。
「お、お嬢様ぁ~……」
「あーはいはい、どうしたの」
教室で待っているとシャルロットがげっそりして帰ってきた。
生徒指導室でみっちり怒られたのだろう。
「申し訳ありません、私の至らぬ行為のせいで従者が指導を受ける等と……ヴァンリエッタ家の名に泥を塗るような行為です……」
「うん、シャルロット忘れすぎだけど、わたしだいぶ評判悪いからね? 従者がどうのこうのなんて話題にならないから安心して」
従者のちょっとした問題行動なんて今さら話題にもならないはずだ。
「それよりも、レオ相手に貴女やりすぎ。もっとわきまえなさい」
「申し訳ありません。お嬢様を相手に手を上げようとしている輩がいると分かった途端、頭に血が上ってしまいまして……」
……う、ううん。
わたしのためを思って怒ってくれたのだと言われると、こちらもこれ以上言う事が出来なくなる。
しかし、シャルロットもたちが悪い。
せめてレオと対等にやり合う実力を持っていなければ、話はもっと簡単だっただろうに……。
まあ、過ぎたことをいつまで言っても仕方ないか。
「あなたはだいぶ疲れてそうね、そんなにこっぴどく怒られたの?」
「……そうですね、教員の方はずっと何か仰っていました」
「あれ、ずいぶん歯切れが悪いわね? そんな大した内容じゃなかったの?」
「いえ、鬼のような形相で言葉をまくし立て、レオ殿も何度か頭を下げていたのでそれなりにお叱りを受けていたのだとは思いますが」
……ん?
レオも頭を下げるくらいなんだから、結構こっぴどく言われたことは想像できる。
気になるのは、当事者であるはずのシャルロットが他人行儀すぎることだ。
「シャルロットはその時どうしていたの?」
「私は考え事をしていましたので教員の言葉は全然頭に入らず……」
すごいな。
レオはプライドが高く、人に頭を下げるような性格ではない。
そんな彼でさえ謝罪の態度を見せたのに、この子は上の空だったのか。
「シャルロットには、そんな考え込むような悩み事でもあったの?」
「勿論です、今頃お嬢様お一人で何をされているのかを考えると不安で不安で……」
……ん?
いやいや、そうじゃないでしょ。
「わたしの事を考えていたから、先生の話が聞けなかったの?」
「はい、私がいない間にお嬢様の身に何かあったらと思うと、他の事には一切手をつけられず集中出来ませんでした」
さも当然かのように語っているが、ずっと変なことを言っているよ君は。
「いやいや、それよりも悪いことしたんだから反省しなさいよ」
主の為とは言え、生徒としてのルールを守ることも同じくらい大切だ。
悪役令嬢がそんなセリフを言う立場にあるのか? という問題提起は今はやめておこう。
「はい、大変反省しております。次また機会があった際は、他人様の目につかぬ所で処分致します」
「ちがう、そうじゃない。クラスメイトと争わないの」
「承知いたしました。争いにすらならないほどの圧倒的大差を見せつけろ、そういう事ですね?」
「なんでもっと怖い方向に舵を切るの?」
平和的解決って言葉を知らないのかな……?
とは言えわたしが原因でもあるので、責めれるような立場でもない。
次またシャルロットが暴走しそうになった時は、わたしが止めれば済む話だしね。
今は彼女なりの貢献を労わってあげよう。
「でも、長時間のお説教を受けたのは疲れたでしょう」
ご苦労様、と続けて言いかけたところで……。
「あ、いえ、私はお嬢様の側にいられない時間が苦痛だっただけです」
「……ん?」
「先程も申し上げましたが、教員の方の話は頭に入っていませんでしたので特に問題はありません。それよりも、お嬢様との時間を奪われている事実に辟易してしまったのです」
いやいや、分かんない分かんない。
そこは先生の話を聞いて疲れてる所でしょ。
どうしてわたしと一緒にいられないことが疲労の原因になるのかな?
「この身は主であるお嬢様だけの物、その時間を他人に奪われているという苦痛が耐え難かったのです」
嗚呼っ!
と、うずくまるシャルロット。
そうか、そんなに大変だったのか。
従者としてのプロ意識も拗らせてしまうと、こんな事になるのか。
何事もやり過ぎってよくないね。
「シャルロット、その……たまには休んでもいいのよ? 従者としてのお仕事」
雇用主としてはブラックな環境で働かせたくはないからね。
何でもクリーンな環境じゃないと長続きしないし。
「まさか、お嬢様と過ごす時間こそ至高なのです。それを自ら放棄することなど有り得ません」
「いや、でも、その……たまにはリフレッシュを……」
「今こうしてお嬢様の御側に仕えていることが、何よりもリフレッシュになっております」
そんな澄んだ瞳で、仕事がリフレッシュだなんて……。
これが仕事中毒というやつか……。
「そ、そっか……無理しないでね……」
わたしはシャルロットがとっても心配になった。
259
お気に入りに追加
690
あなたにおすすめの小説
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです
斎藤樹
恋愛
事故で盲目となってしまったローナだったが、その時の衝撃によって自分の前世を思い出した。
思い出してみてわかったのは、自分が転生してしまったここが乙女ゲームの世界だということ。
さらに転生した人物は、"ラスボス令嬢"と呼ばれた性悪な登場人物、ローナ・リーヴェ。
彼女に待ち受けるのは、嫉妬に狂った末に起こる"断罪劇"。
そんなの絶対に嫌!
というかそもそも私は、ローナが性悪になる原因の王太子との婚約破棄なんかどうだっていい!
私が好きなのは、幼馴染の彼なのだから。
ということで、どうやら既にローナの事を悪く思ってない幼馴染と甘酸っぱい青春を始めようと思ったのだけどーー
あ、あれ?なんでまだ王子様との婚約が破棄されてないの?
ゲームじゃ兄との関係って最悪じゃなかったっけ?
この年下男子が出てくるのだいぶ先じゃなかった?
なんかやけにこの人、私に構ってくるような……というか。
なんか……幼馴染、ヤンデる…………?
「カクヨム」様にて同名義で投稿しております。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
ブラック・スワン ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~
碧
ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)
転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
モブ令嬢ですが、悪役令嬢の妹です。
霜月零
恋愛
私は、ある日思い出した。
ヒロインに、悪役令嬢たるお姉様が言った一言で。
「どうして、このお茶会に平民がまぎれているのかしら」
その瞬間、私はこの世界が、前世やってた乙女ゲームに酷似した世界だと気が付いた。
思い出した私がとった行動は、ヒロインをこの場から逃がさない事。
だってここで走り出されたら、婚約者のいる攻略対象とヒロインのフラグが立っちゃうんだもの!!!
略奪愛ダメ絶対。
そんなことをしたら国が滅ぶのよ。
バッドエンド回避の為に、クリスティーナ=ローエンガルデ。
悪役令嬢の妹だけど、前世の知識総動員で、破滅の運命回避して見せます。
※他サイト様にも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる