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王立魔法学園編

17 労働環境について

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「え、えっと……直すヒール

 リリーちゃんは聖魔法を的を修復するのに使用したのだが……。

「ねえ、見ていらっしゃる?」

「ええ、もちろん。殿下の魔術、とても素敵だわ」

 やはり絵面として地味すぎるのか、全然目立っていなかった。

 それよりもクラスメイトは第三王子のヒルベルトの魔術を見るのに夢中だったのだ。

 シャルロットのせいでヒエラルキーがおかしなことになっているが、ヒルベルトは本来であれば二番目に魔術に富んでいる。

 そしてこの国の王子ともなれば注目が集まるのは当然だった。

「僕の魔術なんてまだまだ、これからも精進あるのみさ」

 と言って、前髪を押さえながら余裕を見せつけていた。

 風も吹いていないのに、何を押さえつけているのかはよく分からなかったけど。

 とにかくヒルベルトが優秀であることは間違いない。

 しかし、それのせいでリリーちゃんが目立っていないという事実は非常に困るものだった。

「……うぅ」

 一人でしょんぼりしている未来の聖女。

「が、頑張れリリーちゃん……」

 わたしには心で応援することしか出来なかった。


        ◇◇◇


「どうしたものかなぁ……」

 実技練習も終わり、放課後になっていた。

 未だリリーちゃんは攻略対象のヒルベルトともレオとも仲良くなっていない。

 さすがに本格的に焦り始めてきた。

「お、お嬢様ぁ~……」

「あーはいはい、どうしたの」

 教室で待っているとシャルロットがげっそりして帰ってきた。

 生徒指導室でみっちり怒られたのだろう。

「申し訳ありません、私の至らぬ行為のせいで従者が指導を受ける等と……ヴァンリエッタ家の名に泥を塗るような行為です……」

「うん、シャルロット忘れすぎだけど、わたしだいぶ評判悪いからね? 従者がどうのこうのなんて話題にならないから安心して」

 従者のちょっとした問題行動なんて今さら話題にもならないはずだ。

「それよりも、レオ相手に貴女やりすぎ。もっとわきまえなさい」

「申し訳ありません。お嬢様を相手に手を上げようとしている輩がいると分かった途端、頭に血が上ってしまいまして……」

 ……う、ううん。

 わたしのためを思って怒ってくれたのだと言われると、こちらもこれ以上言う事が出来なくなる。

 しかし、シャルロットもたちが悪い。

 せめてレオと対等にやり合う実力を持っていなければ、話はもっと簡単だっただろうに……。

 まあ、過ぎたことをいつまで言っても仕方ないか。

「あなたはだいぶ疲れてそうね、そんなにこっぴどく怒られたの?」

「……そうですね、教員の方はずっと何か仰っていました」

「あれ、ずいぶん歯切れが悪いわね? そんな大した内容じゃなかったの?」

「いえ、鬼のような形相で言葉をまくし立て、レオ殿も何度か頭を下げていたのでそれなりにお叱りを受けていたのだとは思いますが」

 ……ん?

 レオも頭を下げるくらいなんだから、結構こっぴどく言われたことは想像できる。

 気になるのは、当事者であるはずのシャルロットが他人行儀すぎることだ。

「シャルロットはその時どうしていたの?」

「私は考え事をしていましたので教員の言葉は全然頭に入らず……」

 すごいな。

 レオはプライドが高く、人に頭を下げるような性格ではない。

 そんな彼でさえ謝罪の態度を見せたのに、この子は上の空だったのか。

「シャルロットには、そんな考え込むような悩み事でもあったの?」

「勿論です、今頃お嬢様お一人で何をされているのかを考えると不安で不安で……」

 ……ん?

 いやいや、そうじゃないでしょ。

「わたしの事を考えていたから、先生の話が聞けなかったの?」

「はい、私がいない間にお嬢様の身に何かあったらと思うと、他の事には一切手をつけられず集中出来ませんでした」

 さも当然かのように語っているが、ずっと変なことを言っているよ君は。

「いやいや、それよりも悪いことしたんだから反省しなさいよ」

 主の為とは言え、生徒としてのルールを守ることも同じくらい大切だ。

 悪役令嬢がそんなセリフを言う立場にあるのか? という問題提起は今はやめておこう。

「はい、大変反省しております。次また機会があった際は、他人様ひとさまの目につかぬ所で処分致します」

「ちがう、そうじゃない。クラスメイトと争わないの」

「承知いたしました。争いにすらならないほどの圧倒的大差を見せつけろ、そういう事ですね?」

「なんでもっと怖い方向に舵を切るの?」

 平和的解決って言葉を知らないのかな……?

 とは言えわたしが原因でもあるので、責めれるような立場でもない。

 次またシャルロットが暴走しそうになった時は、わたしが止めれば済む話だしね。

 今は彼女なりの貢献を労わってあげよう。

「でも、長時間のお説教を受けたのは疲れたでしょう」

 ご苦労様、と続けて言いかけたところで……。

「あ、いえ、私はお嬢様の側にいられない時間が苦痛だっただけです」

「……ん?」

「先程も申し上げましたが、教員の方の話は頭に入っていませんでしたので特に問題はありません。それよりも、お嬢様との時間を奪われている事実に辟易してしまったのです」

 いやいや、分かんない分かんない。

 そこは先生の話を聞いて疲れてる所でしょ。

 どうしてわたしと一緒にいられないことが疲労の原因になるのかな?

「この身は主であるお嬢様だけの物、その時間を他人に奪われているという苦痛が耐え難かったのです」

 嗚呼っ!

 と、うずくまるシャルロット。

 そうか、そんなに大変だったのか。

 従者としてのプロ意識もこじらせてしまうと、こんな事になるのか。

 何事もやり過ぎってよくないね。

「シャルロット、その……たまには休んでもいいのよ? 従者としてのお仕事」

 雇用主としてはブラックな環境で働かせたくはないからね。

 何でもクリーンな環境じゃないと長続きしないし。

「まさか、お嬢様と過ごす時間こそ至高なのです。それを自ら放棄することなど有り得ません」

「いや、でも、その……たまにはリフレッシュを……」

「今こうしてお嬢様の御側に仕えていることが、何よりもリフレッシュになっております」

 そんな澄んだ瞳で、仕事がリフレッシュだなんて……。

 これが仕事中毒ワーカーホリックというやつか……。

「そ、そっか……無理しないでね……」

 わたしはシャルロットがとっても心配になった。

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