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王立魔法学園編
13 模擬訓練
しおりを挟む授業が進み、模擬訓練が始まる。
広い草原は校舎の離れにあり、広大な土地を有している。
遮蔽物がなく、周囲に何もないため魔術や実践の戦闘訓練の際にはこの校庭の空きスペースを利用するそうだ。
「お嬢様、迷子にならないよう私の手をお取りください」
「とらないからね」
シャルロットは真面目な顔でおかしなことを言っている。
「学園内だからと言って油断してはなりません。こういう広い場所では、はぐれないように身を寄せ合うべきです」
「うん、百歩以上譲ってはぐれたとしても、ここから校舎見えてるからね? 絶対に戻れるから安心して?」
「そのような有事の際は、学園放送を使って全校生徒にお嬢様の救出を呼びかけます。その場から動かぬようお願い致します」
「絶対やめてね? 全校生徒にわたしの恥を晒さないでね?」
「いいえ、恥ずべきはお嬢様を迷子にさせた私にあります。そしてそのような管理体制の学園側にも落ち度があるでしょう。お嬢様が気を揉むべきことは何一つありません」
「……」
最近分かってきたんだけど、シャルロットってわたしの言葉に反応はしてくれてるけど、本当の意味では話し聞いてないよね。
彼女の中での“ロゼお嬢様像”が強固に構築されすぎてて、そこから動くことが全くない。
なんでこんなことになってるんだろ。
「はーい、皆さんそれでは二人一組になってくださーい」
先生からの指示が送られる。
模擬訓練のパートナーは任意で選んでいいらしい。
思っていたより自由度があるようだ。
「お嬢様! 是非、私と!」
ぐいっと体を寄せてくるシャルロット。
いや、まあそれは、いいんだけど……。
それより気になるのは、リリーちゃんだ。
わたしはキョロキョロと周りを見渡すと、一人でオロオロしているリリーちゃんがいた。
さて、ここではもう一人の恋愛対象と繋がるはずなんだけど。
どうなることか。
わたしはまた視線を変え、もう一人の恋愛対象を探すことに。
「オレと組む奴はいるか?」
自信満々なオーラで言い放ち、燃えるような赤髪の短髪に、野性味の溢れる表情、筋骨隆々な体躯の少年。
間違いない、攻略対象の一人だ。
しかし、彼はリリーちゃんには目もくれず別の男子とペアを組もうとしていた。
……そうなってしまうのか。
これは黙って見過ごすわけにはいかない。
「ごめん、ちょっと彼に声を掛けてくる」
「お嬢様が殿方に!? 何事ですかっ!?」
何事なのは過剰反応すぎるシャルロットの方だけど、そこはもう放っておこう。
わたしは早足で彼の元に歩み寄る。
「ちょっと、よろしいですか?」
「ん、ああ……?」
訝しがるような目で見られる。
「なんだ、悪名高いヴァンリエッタ家の自堕落令嬢か」
おっと、開口一番にそこまで辛辣な言葉を送られるとは思っていなかった。
ここはわたしもロゼらしく返事をしよう。
「そういう貴方は親の七光りのレオ・バルデスでお間違いないかしら?」
「ああ?」
目をギラつかせ、怒気を隠そうともしないのが攻略対象の一人、レオ・バルデスだ。
父親のカーマイン・バルデスはアグニス王国の第一騎士団長を務めており、レオはその次男である。
長男は品性に富み、文武両道であることから騎士団長を就任するものと思われていた。
そのためレオは偉大な父と兄の壁を越えられず、周囲の評価も覆せないことでコンプレックスを抱えている。
「親の威光で偉そうにしているのはお前の方だろ? 入学式でもどうせイカサマをしたくせによ、あんまり気安く話しかけるな」
うん、そして想像以上に怖いです。
原作ではぶっきらぼうな中に優しさが垣間見えるのだけど、わたし相手には一切それがない。
レオは非常にストイックな性格をしているため、自分にとことん甘いロゼとは相性が全く合わないのだろう。
しかし、わたしも引き下がるわけにはいかないので、ここは我慢する。
「今、ペアを探していたのかしら?」
「だったら何なんだよ……」
レオは面倒くさそうに頭を掻く。
よっぽどわたしと会話をしたくないらしい。
「あそこにペアを探している子がいましてよ」
わたしはキョロキョロと周囲を見回すリリーちゃんを指差す。
原作通りであればレオはヒルベルト同様、リリーちゃんの聖魔法に興味を持ち、一人困っている彼女に声を掛けるのだ。
「何でオレが女と組まなきゃならねえんだよ」
だから、原作通りにして下さい。
「……困っている女性を助けるのも、騎士の務めではなくて?」
「あいつが一般市民ならそうするかもな。でもあいつは魔術師を目指してんだろ、オレに助けられてどうすんだよ」
……まあ、言わんとすることは分からなくはないけど。
なんだろう、この頭でっかちな男は。
聖魔法のことを知らないにしても、もうちょっとレディには優しくしなさいよ。
「あんたモテないでしょ?」
「……ああっ!?」
レオはワイルド系だともてはやされていたけど、こうして見ると融通の利かないオレ様坊やじゃないか。
「か弱い女の子に優しくすることすら出来ない男が、この国を守れるとでも? あはは、とんだ思い上がりね」
「て、てめえ……っ」
髪の毛と同じくらい顔を赤く染めていくレオ。
ちょっと痛い所を突きすぎてしまっただろうか。
「言葉が過ぎるな、その世間知らずな口を黙らせてやる」
レオの体に魔力が走り始める。
恐らく“身体強化”だろう。
騎士を目指すものは前衛を務めるため、遠隔で発動する魔術より、身体強化の技能を高める者が多い。
レオもその例に漏れないだろう。
「いいわね、かかってきなさい」
わたしは尚もレオを挑発する。
レオがリリーちゃんの聖魔法に興味がないなら、彼の攻撃をあえてわたし自ら被弾しよう。
その傷をリリーちゃんの聖魔法で癒してもらい、レオに聖魔法の偉大さを見せつけ興味を持ってもらう。
痛いのは本当は嫌だけど、多少は我慢も必要だ。
「後悔しても知らねえからな」
――グンッ
と、レオが踏み込むと彼の足元にはクレーターが出来ていた。
強大な力が地面を通して伝わっている。
あれ、大丈夫かな?
あんなの喰らってわたし生きていけるかな?
「うがあっ!!」
しかし、吹き飛んでいたのはレオの方だった。
「……へ?」
なにやら巨大な土の塊をぶつけられていたようだが、誰がそんなことを……?
「お嬢様に手を出すとは、痴れ者が……恥を知りなさい」
隣で目が血走ってガンギマリしているシャルロットが立っていた。
……いや、待ってください。
「シャルロット、あんたがレオを吹き飛ばしたらダメなんだけど」
一応は将来の騎士団長様候補、そして攻略対象の一人。
そんな彼をモブのあなたが吹き飛ばすってどう考えてもおかしいからね。
「ああ、でしたら今から存在を抹消しましょう。ええ、そうしましょう」
うん、こうなったシャルロットは止められない。
そして原作と違う話の流れも止められない。
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