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王立魔法学園編

12 変わった状況

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「ねえ、あの子。今、ヒルベルト様に話しかけてなかった?」

「見た見た、平民のくせに。同じ学園に通っているからって何を勘違いしてるのかしら」

 おや……?

 リリーちゃんに対する悪評が周囲からヒソヒソ声で聞こえてくる。

 本来であればヒルベルトの方からリリーに話し掛け、それにやっかむ令嬢たちがこんな風に嫌がらせをするのだけど。

『やれやれ、みんな君の聖なる魔法にご執心のようだね。……いや、それとも周りを嫉妬させてしまうその魅力こそ、君の魔法なのかな?』

 なんてことを言いながらリリーちゃんをフォローするため、本人もそこまで傷つかず、周囲も徐々に物申せなくなっていく。

 でも冷静に振り返るとヒルベルトが何を言っているのかさっぱり分からないけど……、深く考えるのはやめておこう。

 そんなことよりもリリーちゃんを気に掛けてくれる存在がいる事が重要なのだ。

 しかし、今回はリリーちゃんからヒルベルトの方に話しかけてしまった。

 それが良い方向には作用しなかったらしい。

「あ、あはは……やっぱりおかしいですよね。平民なのにこんな所にいるって」

 しょんぼりと肩身が狭そうに落ち込むリリーちゃん。

 ヒルベルト、フォローしてよ。 

 わたしは思わずヒルベルトに視線を送る。

「……ふっ」

 軽く前髪を流してウィンクされた。

 意味が分からない。

 どうやらヒルベルトにはリリーちゃんの状況が理解できていないらしい。

 彼女たちの悪口は陰湿だ、ヒルベルトを含めた男子陣には聞こえないようにしているのだろう。

 しかし、目の前には落ち込むリリーちゃん。

 それをさせたのは他ならぬわたし……。

 ざ、罪悪感が……。

「気にしないことね、みんな貴女の力を羨んでいるのよ」

「え……?」

 リリーちゃんのメンタルが病みすぎてしまうのは困る。

 彼女は誰とも結ばれないと、“闇落ちルート”まで存在する。

 それはそれで大変なことになるし、世界の救済も不可能になるため非常に困るのだ。

「先ほども言った通り、貴女の力は既に認められていますもの。親の名前だけで入学しているような凡庸な子からしてみれば眩しく映るのでしょう」

 その象徴こそロゼ・ヴァンリエッタなので、ブーメラン発言すぎるんだけど、悪役令嬢はそんな次元にはいないのだ。

「そ、そうなんでしょうか……」

「人は眩しさに目を細め、その光を消そうとするの。それは自分が光り輝けていない証拠ですのにね」

「は、はあ……」

 どこまでいっても貴族社会、育成機関と言えども血筋や特権を重んじる生き物。

 その縛りの外から現れたイレギュラーに過剰反応してしまうのは、当然だろう。

 それはともかく、ここまでフォローしたら闇落ちはしないよね? リリーちゃん?

「ロゼさんはすごいですね、そんな堂々としていて……」

「ん? え? そう?」

「はい……わたしはロゼさんのように強くはないので……」

「そ、そうかなぁ……」

 あ、あれ。

 逆にリリーちゃんにとってロゼが光り輝きすぎていたパターンか?

「どうしてそんなに自分のことを信じられるのか、わたしには分かりません」

 ええ……。

 どうしてかと問われると難しい質問だなぁ。

 わたしは国外追放希望なので何がどうなろうとも気にしないというメンタルの優位性はあると思うけど。

 それはわたしの話であって、悪役令嬢ロゼの話ではないし。

 ロゼらしい返答をするのであれば……。

「そんなの決まっているでしょう。わたくしはロゼ・ヴァンリエッタですのよ? 私が私である限り、その自信は揺らぎませんの」

 どうだ、この脳筋回答。

 真の貴族とは自身の存在そのものが答えなのだ。

 多分、きっと。

「す、すごいですね……」

 あれ。

 なんかリリーちゃんに引かれている気がする。

 やはりいずれは敵同士になる運命の二人、いくら原作知識があろうとも相容れることは難しいのかもしれない。

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