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王立魔法学園編

10 授業を受けます

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 原作のロゼは魔力“3”という過去最低の数値を叩き出す。

 しかも、なぜかその結果に逆ギレし水晶を壊し、その挙句――

わたくしがAクラス以外に配属されるなんて有り得ませんのっ』

 と、滅茶苦茶なことを言い始める。

 誰もがその行為に思う所はあるのだが、財力と公爵令嬢としての地位だけでAクラスにねじ込んでもらうという嫌われ行為をするのがロゼなのだ。

 勿論、そんな行為をするロゼに寄り付く人はおらず、教室の席では周りに誰も座らないのだが……。


        ◆◆◆


「ご安心下さいお嬢様、私がついております」

「……」

 そんな展開はなく、わたしはすんなりとAクラスに配属されていた。

 しかも、ちゃっかりシャルロットまでいる。

 原作だったら別クラスになってた気がするんだけど……。

「え、なんでシャルロットがいるの?」

「お嬢様の従者ですから当然で御座います」

「え、あ、そうじゃなくて……シャルロットってそんな数値良かったっけ?」

「はい、200でした」

「200!?」

 平均が50、主要キャラが100くらいで上位クラス。

 そこに倍の差をつけている奴がいた。

 マジかよ、自分の順番待ちで緊張していて全然見ていなかった。

「少しだけざわつきましたが、お嬢様の比ではありませんから。前座でしたよ、前座」

「いや、そういう問題じゃないんだけど……」

 なんか色々おかしい、本来であれば……。

【主要キャラの魔力が高い! すごい!】

【平民のリリーちゃんは聖魔法の使い手!? なにそれ!?】

 的なイベントのはずだったのに。

【黒髪の少女が200! 誰だあの子は!?】

【その主人である悪役令嬢は超常現象!? リリー、誰それ!?】

 的な感じになってしまっている。

 おかしいなぁ……こんな簡単なイベントすらこなせないのか……わたしは……。

「はぁ……前途多難だわ」

「お嬢様の隣には常に私がいます。辛ければいつでも愚痴をこぼしてくださいね?」

 ロゼは元々一人の予定だったからいいんだよ。

 むしろ、あんたがいる事の方がちょっとおかしいんだからね。

 ていうか、何でこの子は原作より強くなってるの……?

 頭を抱える事案が多すぎて、どこからツッコんでいいか分からない。






「やあ、ロゼ。ちょっといいかな」

「……」

 そんな時に、話しかけてくる人がいた。

 サラサラとした青髪、女子よりも白く透けそうな肌、目鼻立ちは整っており、所作にも気品を感じさせるイケメンだった。

「……わたくしに何か御用でしたか、ヒルベルト・アグニス殿下」

 彼はこのアグニス王国の第三王子。

 攻略対象の一人である。

「ははっ、ヒルベルトでいいよ。ここは学び舎で僕たちは共に学び高め合う仲、立場は関係ないさ。そうだろ?」

 爽やかスマイルを浮かべて、さらりと前髪をかき上げる。

 今、前髪を触る必要性はよく分からなかったが、清涼感はとにかくすごい。

 これが乙女ゲームの王子様か。

「……お戯れを。殿下を前にそんな礼を失することは出来ませんわ」

 そして、わたしは困惑中。

 なぜならここで彼がロゼに話しかけてくる展開をわたしは知らない。

 原作通りであれば主人公ヒロインであるリリーに話しかける場面のはずだ。

 リリーは平民ということで貴族のクラスメイトからは距離を置かれており、それを気にしたヒルベルトは彼女に話しかけるはずなのだ。

「……ほう」

「え、あの、なんでしょうか?」

 意外そうな目でわたしを見つめるヒルベルト。

「いや、噂では君が【自身が一番偉いと勘違いしている自堕落令嬢】と聞いていたのだけど……所詮は噂か。あてにならないね」

 うん?

 いえ、合ってますよ、合ってますよ殿下。

 わたしは自堕落令嬢なので、その認識を改めなくていいですよっ。

 ちなみにわたしの反応も間違っていない。

 原作のロゼは、ヒルベルトに恋する乙女だからだ。

 それが今後リリーとの火種になるのだが……。

 とにかくロゼがヒルベルトを前に謙虚になるのは原作通り。

 問題なのはヒルベルトの受け取り方だ。

 本来であれば――

【自分の前にだけ態度を豹変させ、王子の立場を利用しようと目論む者】

 としてロゼを認知し、苦笑いが止まらないはずなのだ。

 しかし、さっきから彼は爽やかスマイルを浮かべっぱなしである。

(ちょ、ちょっとシャルロット……)

 しかし、それをわたしの口から否定するのはおかしい。

 ここは従者である彼女に、それとなくロゼの悪行を伝えてもらおう。

 彼女の脇腹を小突くが、左右に首を振っていた。

 え、こういう時だけ拒否するのっ!?

 どうしたシャルロット。

(さすがに主人を前にして悪口を広める従者なんていませんよ……ましてや王子を相手に)

(それはそうかもしれないけど、そこを何とかやってよ)

(逆に違和感が生まれますから、また思わぬ誤解を生みかねませんよ?)

 ええ……。

 どうしたらいいんだ。

「それと、先日の魔力鑑定の事が知りたくてね。アレは本当に君の実力だったのかい?」

 ヒルベルトの眼光にわずかだが鋭さが宿る。

 そうか、本題はこれだったか。

 つまりさっきまでの会話は、仲をいい感じに取り持つアイドリングトーク。

 ヒルベルトはロゼの機嫌を伺ったに過ぎず、本音のところはまだ自堕落令嬢とでも思っているのだろう。

 ならば、ここは悪役令嬢らしい返答をするしかない。

「ええ、勿論ですわ。それ以外に何がありますの?」

 ヒルベルトはロゼの実力を疑い、不信感を抱いている。

 後でシャルロットには“魔道具を使った違反行為”と吹聴させてもらう。

 それでわたしの悪役ポジションはバッチリと再現できる。

「……そうか。それならいいんだ、邪魔をしたね。今後ともよろしく頼むよ」

「こちらこそ、よろしくお願い致しますわ」

 頭を下げる。

 ふぅ、最初はどうなることかと思ったが、何とかなりそうだな。

 一安心である。

「ヒルベルト殿下ですらも、お嬢様の実力を気にされているのですね」

 疑われているだけですけどね。

 シャルロットは信者すぎて分からないだろうから、あえて説明もしないけど。

 それよりも……。

「リリーちゃん、ずっと一人だなぁ……」

 問題はまだあった。

 ヒルベルトはわたしに話しかけた後、自分の席に戻ってしまった。

 リリーには見向きもしていない。

 本来であれば彼がリリーの隣に座るはずなのに。

 こればかりは原作イベントを改変してしまった影響だろう。

「リリー“ちゃん”……?」

 隣で首を傾げるシャルロット。

「え、ほら、あそこの平民の」

 すぐ前にいるので指さすが、シャルロットは腑に落ちていない。

 なにを訝しがっている。

「お嬢様がちゃん付け……?」

「え、あ、そこ?」

 知ってる子だと何となく呼ぶ時あるじゃん。

 しかもリリーは主人公なんだし、プレイヤーわたしとしては共有している時間は最も長いキャラなのだ。

「どうして関わりもない方を、愛称で呼ばれるのです?」

「な、なんとなく……?」

 なんだ、やけに突っかかるじゃないか。

「なんとなく、でございますか……」

「? うん」

 今日も今日とて不思議っ子のシャルロットだ。

 まあ、それは良しとして……。

「ちょっと話しかけてくるわ」

「えっ!?」

 すごい驚いているシャルロットだが、仕方がない。

 さすがに主人公ヒロインがぼっちでは困るのだ。



 
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