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本編

39 思いの先に

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 結崎ゆいざきと別れて、帰路につく。
 どうしようかと、混乱だけが心を満たす。
 私はハルの事をどう思っているのだろう。
 この感情は恋愛からくるものなのか、その答えを見つけ出さなくてはならない。
 けれど未知の領域に触れる時、弱い自分が顔を出す。
 どうするべきか、私は決断出来ないでいた。

「おー、遅かったじゃん。何してたんだよ」

 家に帰ると、ハルはいつものようにソファに横たわっていた。
 顔だけ上げて少し非難めいた声を上げる。

「ちょっと結崎と話す事があったのよ」

「……ふぅん」

 どう思っているのか、何とも言えない曖昧な返事。
 私はどこかソワソワとした気持ちで落ち着きをなくして、何だか居たたまれずにキッチンの方へ避難する。
 その先へ向かったところで、特にやる事もないのだけれど。

「ちょーちょちょっ、無視すんなし」

「え、んなっ……!?」

 すると、私を追いかけてきたハルが後ろから抱き着いてきた。
 こ、これは……②距離が近くなる、スキンシップが増える!?
 いや、そんな事よりも急なハグに私はどうしたらいいか分からず硬直する。

「おいおい、なんだよ。女同士でそんな固まんなよ」

「え、えと……」

 そう、ただの女同士であればそこまで騒ぐ事ではない。
 私もいつもならもっと普通な対応が出来たかもしれない。
 でも、このハグに別の意味があったとすれば話は変わる。
 どう受け取っていいか分からない私は自然と体を固めてしまった。

「さては、なんかやましい事でもあるんだな……?」

「え、あの、そのっ」

 やましい気持ちは果たしてどちらにあるのか。
 私がハルの恋愛感情を探っている事が伝わってしまったのか。
 心の準備は出来ないまま、声が震えそうになる。

「二日連続で結崎と会うなんて何してたんだよ、怪しいなぁ」

「……」

 確かに結崎とプライベートの時間を過ごす事なんてなかった。
 それが二日連続ともなれば疑われてしまっても仕方がない。

「何話してたんだよ、聞かせろよ」

 と、とは言え、どう説明したものか……。
 ハルに隠し事をしたくないが、これはさすがに明言は出来ない。
 ここはお互いの関係性のためにもふんわりと曖昧にしておくのが正解なはずだ。

「最近、青崎先輩の様子がおかしいって結崎が言ってたの。先輩の体調が悪いと生徒会活動そのものに支障をきたすから、その相談……」

 嘘は言っていない。
 事の始まりはそこからで、ハルの恋愛について付随して出てきたのだから。

「……へえ、それならいいけど。あんま結崎とばっかり絡んでんなよな」

 ぎゅうっと、ハルの腕が強く絡みつく。
 こ、これって、その“嫉妬”とかじゃないわよね……?
 結崎もそんな事を言ってたから、もしかして……。

「嫉妬、しているの?」

 聞いた、思わず聞いてしまった……!
 これで全然見当違いなら私は赤っ恥だ。

「だったらどうする?」

 肯定ではないが、否定でもない。
 ハルの性格なら違う事はすぐに違うと否定してきそうなのに。
 いや、でも私をからかう時もあるし……。
 どちらなのだろう。

「なーんちゃって、ヒマだからダル絡みしてみただけぇ」

 するりとハルの腕が解ける。
 振り返ると、そこには悪戯っぽく笑うハルの姿。
 その瞬間を捉えていない私には、その表情がずっとそこにあったのかは分からない。
 ハルの答えはまだ闇の中。

「結崎に私とは友達ではないと言われたから、もうこんな機会もないでしょうね」

「あいつみおのこと拒否ってんの? 生意気じゃん」

「生意気かどうかは分からないけれど……」

 ――じゃあ、私とハルは友達? それとも姉妹? あるいは……。

 聞こうとして、喉から出掛かって、止まる。
 その先の答えがいかなるものであっても、今の私にはその返事を出来る自信がない。
 きっと、もうハルがどう思っているのかは関係ない領域に達しているんだ。

「あ、そうだ。今度からあたしも澪と一緒に学校行こうと思うんだけど、いい?」

 言葉を飲み込んでいる内に、ハルはソファに戻りながら話題を変える。

「い、いいけど……私、朝早い事も多いわよ」

「生徒会の仕事がある時だろ? 言ってくれたら合わせるよ」

「あ、うん。それでいいなら、いいけれど……」

 また、ハルの方から距離を縮めてくれる。
 この距離の縮まった先にあるのは余白のないお互いの存在。
 その終着地点が正しいのか分からなくて、私は立ち止まっているような気がする。

「何だよ歯切れ悪いな、あたしだって朝くらいその気になったら起きれるからな」

「……私が起こさなくても大丈夫なのね?」

「もう二度とすっぴんなんて見られたくないからな」

「ハルの素肌は綺麗だったのに、あと幼く見えて可愛らしかったわね」

 そんな日があった事も思い出す。
 この思い出が積み重なった先に、そこに成す形はどんなものになるだろう。
 それすらも私の意志で変えていけるのだろうか。

「うっせえよ、そう言われても嫌なもんは嫌なの」

 照れくさそうにそっぽを向くハル。
 そんな表情を見た私は微笑ましくなって、胸の奥があたたかいものに包まれる。
 この感情を言葉にする事が出来れば、それが答えになるのかもしれない。

「ハルって意外に照れ屋よね」

「澪がそういう所ばっかに触れすぎなんだよ」

 今はただ手探りで、私の心の形を探している。
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