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第6章 体育祭

40 違和感の原因

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「はぁはぁはぁ……ま、まぁ……これだけやれば問題ないでしょ」

 冴月さつきさんとの二人三脚の練習は至って真剣に取り組みました。

 やはり千夜ちやさんの発言も影響しているのか、冴月さんはサボることもなく、常にわたしと息を合わせようと必死にやってくれました。

 そのおかげもあり、限界まで追い込むことが出来て、最初の頃より抜群に速度が向上しました。

「がっ、がはっ……うぐぅっ……ぶふっ……」

「……どんな息の切らし方してんのよ、恐ろしく可愛くないわね」

 わたしは運動センスがない上に運動習慣も全くないので、練習はかなりハードなものに感じました。

 おかげさまで汗は止まらないですし、動悸も激しく、息も絶え絶えです。

 多少の息切れで済んでいる冴月さんの方が信じられません。

 わたしは芝生の上に腰を下ろし、息を整えることに専念しました。

「あらあら、あかちゃん大丈夫ですかぁ?」

 すると、どこからともなく日和ひよりさんが声を掛けてくれました。

「あかちゃん……?」

「すごい汗ですねぇ。ほら、拭かないと垂れてきちゃいますよぉ?」

「わっ……す、すいません」

 疑問を感じてる冴月さんをよそに、日和さんは用意してくれていたハンドタオルでわたしの汗を拭いてくれるのでした。

 グラウンドの隅っこにいたのが功を奏したのか、周囲の人には見られずに済みましたけど……。

「え、なに、どゆこと?」

 隣の冴月さんがずっと目を点にさせている様子でした。

 ま、まあ……わたしもお世話されてるみたいで若干恥ずかしいです。

「頑張っている姿を見ていたら応援したくなっちゃいましたぁ」

 わたしの手にハンドタオルを残し、日和さんはお得意のふわっとした回答で冴月さんの疑問に答えます。

「あっ、そう……保護者か何かなの?」

「うふふ、それも素敵ですね」

 日和さんはいつもの誰も傷つけない笑顔を振りまきながら、その場を後にしていくのでした。

「……意味不明ね」

 ですが、ふわりと明言しない日和さんのスタイルは、ズバズバ言う冴月さんには疑問だけを残してしまったようです。

「ねえ、月森三姉妹ってあんたにあんな感じだったっけ?」

 当然、その疑問はわたしに向けられます。

「……いや、どうでしょう」

「絶対違うわよね、最初はもっとドライな感じだったじゃない」

 やっぱり他人から見ても、そう映るんですね。

 最近、月森さんたちとの関係性が深くなってきていることには自覚がありますし。

「一応確認するけど、あんたフラれたわよね?」

「ええ、まあ……」

 それはあなたのせいですけどね、とは堂々巡りなので今はあえて言いませんけど。

「何がどうなったらそんな関係になるんだか」

 意味が分からないと言った様子で肩をすくめる冴月さん。

 かと言って仲良くなったのはフラれた後の、義妹になってからだなんて言うには家庭環境の話にもなっちゃいますしねぇ……。

 説明が難しいところです。

「でも友達って感じでもないわよね?」

「……ええっと」

 す、鋭い……。

 まさか義妹になっただなんて勘づかれることはないでしょうけど……。

「月森って一人に対してあんなに特別扱いするようなヤツじゃなかったし」

「? そう、ですかね?」

「そうでしょ。アイツら人気だけは凄いから、一人に対して特別扱いすると他の目が厄介になるからって割と優劣つけないような人間関係を築いてたもの」

「なるほど……」

 わたしのように人間関係を疎かにしていた人間は、そこまで察する事が出来ていませんでした。

「それがどうしていきなりあんな態度に変わったんだか……。あんた、何か隠してんじゃないの?」

「いやいや……な、なにもないですよっ」

 鋭い、鋭い。

 冴月さんの勘が冴えわたっていて怖いです。

「じゃあ月森の一方的な好意?恋愛感情てきな?」

 ?

「……いやいや、それこそ有り得ないじゃないですか」

 び、ビックリしますねぇ。

 急に恋愛感情とか言わないで下さいよ。

 まあ、友情ではないとしたら、次にそういう感情を疑う気持ちも分かりますけどね。

 まさか家族に対する気持ちだとは思わないでしょうし。

「ふーん……ま、あんたが隠したいってならそれでもいいけど」

 ジト目を向けてくる冴月さんの視線が何だか痛いです。

 なぜかわたしが悪いことをしている気持ちになってしまいます。

「……というか、冴月さんもわたしの動向追い過ぎじゃありません?」

 なんか思ったんですけど、わたしの月森さんたちに対する推しへの感情とか。

 月森さんたちのわたしに対する対応の変化とか。

 そんなに関係性があるわけでもないのに、細々こまごまと機微を感じ過ぎじゃないですか?

「は……はあ!?ちょっと意味わかんないっ、自意識過剰なんじゃないのっ!?」

 すると、急に声をひっくり返して慌てふためく冴月さん。

 顔も何だか赤くなっているような……この反応って。

「冴月さんの方こそ、何か隠していませんか?」

「か、隠してないしっ!あんたのことなんか何も意識してないからっ!」

 ……まあ、そうですよね。

 わたしなんかのことを意識する人なんかいるわけないですし。

 と、なれば……。

 はっ!?

 わたしピーンときちゃいましたよ?

「さては冴月さん、実は月森さんたちのことを……!?」

 わたしが月森さんたちのことを好きだと思ったり。

 月森さんたちがわたしのことを好きだと思ったり。

 この人、女の子同士の恋愛を当たり前のように疑ってきますよね?

 これって自分がそうだからという、特大ブーメランじゃないんですか!?

「ちっがうわ!!アホッ!!」

「あっ……あほっ!?」

 いきなり憤怒の表情に変わった冴月さんは、吐き捨てるようにわたしをアホ呼ばわりしてきます。

「……さては照れ隠し、ですね?」

 うんうん、きっとそうに違いありません。

 全ては月森さんたちに対する好意から始まり、それを遠巻きで見ているわたしが鬱陶しいと思ったのが原因だったのでしょう。

 そう考えれば、違和感を生んでいた冴月さんの行動にも全て納得がいきます。

 学園のアイドル月森三姉妹は、女の子人気も凄いですからね。

「照れてないからっ!あんたのトンチンカンな回答にムカついてるだけだからっ!」

「ですから、それが明らかな照れ隠しにしか見え……」

「分かった分かった!これを相手してる月森たちの大変さがよく分かったっ!」

「……ええ」

 なんか急にヒドイ言われようです……。

 冴月さんは鼻を鳴らしていつもの陽キャメンバーの所へと帰って行ってしまうのでした。

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