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第5章 三姉妹の気持ち

27 呼び方一つで変わるもの

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「ねえ、明莉あかり。本当に大丈夫なの、何にもされてない?」

 それから教室に戻ろうと廊下に出ると、ひっきりなしに華凛かりんさんが心配をしてくれます。

「華凛さん大丈夫ですって。ほら、この通り」

 わたしは両手を大きく振って健在をアピールします。

「……でもさ、あいつらマジで何なんだろうね」

 あいつ、とは……陽キャ女子こと冴月理子さつきりこさんのことですね。

「なんでしょうねぇ……?わたしにもさっぱり」

 なんだったら新学期早々の告白させられた件についても謎ですし。

 なんだろう。

 よっぽど陰キャが嫌いなのでしょうか……?

 こわいこわい。

「明莉は何も言い返さなかったの?」

「えっとー……特には言いませんでしたね」

 ほとんど認める形になりました。

「悔しくないの?あんなこと言われて」

「うーん。客観的に見れば一理あるなぁとは思う部分はありますからね」

「なにそれ」

「わたしみたいなモブが三姉妹の皆さんと一緒にいたら、そりゃ反感も買いますって」

 その答えに、華凛さんは途端に顔をしかめます。

「前から思ってたけど明莉はちょっと卑屈すぎない?」

「そーですかねぇ?結構、当たってると思ってるんですけど……」

「……ま、いいけどさ」

 卑屈には自分を貶める意味があるでしょうけど、わたしは自分に正当な評価を下しているだけですからね。

「それより、華凛さんは凄かったですね」

「凄い……?あたしが?」

「はい。あんなに大勢が相手でも華凛さんを前にすると、皆たじろいでましたっ」

 わたしには問答無用で距離を詰めて来たのに、華凛さんが現れた途端に及び腰。

 雲泥の差でした。

「ああいう子たちって、立ち位置的なの気にするからじゃない?」

「陽キャと陰キャ派閥ですね?」

「そんな真っ二つに上手く分かれないでしょ……。ほら、あたしは生徒会長の千夜姉ちやねえの妹だから」

 ……なるほど。模範となるべき生徒会長が後ろ盾にあるから、という解釈ですね。

「下手なことで千夜ねえを敵にして、クラスの居場所を失いたくないんだよ」

「ちっちっち、華凛さん読みが甘いですね」

「え?」

 その考えも十分にあり得ますけども。

 でも、もっと単純明快な答えがあるのに、華凛さんは忘れてしまっているのです。

「華凛さん、そこの窓を見て下さい」

「え、なに……?」

 ちょうどよく窓が反射して、わたしたちの姿を映します。

「ほら、見えるでしょう?」

「グランドしか見えないんだけど……」

「その手前っ、ガラスに映る華凛さんですよっ」

「え、そりゃ見えるけどっ」

 まったく。

 自分の姿だからって無頓着すぎますね。

「どうですか、大きな瞳に整った鼻梁、輝くさらさらツインテール」

「えっ、なになに、なんなのいきなりっ」

 もう、全部言わないと分からなんて。

 どれだけ自分自身に無頓着なのでしょうっ。

「こんな綺麗で可愛い女の子が目の前に現れたら、そりゃ普通の女子は後退りしちゃいますよ」

 具体例を挙げるなら、このわたしです。

 一緒に住むようになって最近ようやく目を合わせることが出来るようになったくらいすから。

 まだクラスメイトになったばかりの冴月さんでは、華凛さんが眩しすぎて逃げたくなるのは当然です。

「ちょっ、綺麗で可愛いって……誰のことっ!」

 ……ん?

 どうしてそこまで聞こえてるのに、誰かだけ聞こえてないんですか?

「華凛さんですよ?」

「もうっ、やめてよねっ!」

 とか言いつつ華凛さんは両手を頬に添えてクネクネしている。

 あまりやめて欲しいようには見えないのですが……。

「……ん、こほん」

 急に咳払いして気持ちを鎮める華凛さん。

 もう気分が変わっちゃったのでしょうか。

「と、とにかく。冴月の理由はいいとしても、明莉は危ないことがあったらあたしを呼んでよ。すぐに駆けつけるから」

 そう言って念押ししてくれる華凛さん。

 こんなに心配してくれるなんて……きっと、家族として思ってくれているという証なのでしょう。

「ありがとうございます。その時は是非お願いしますね、お義姉ねえちゃん」

 あははっ、言ってしまいましたー。

 家族として心配してくれるのが嬉しかったので、勢いに任せてしまいました。

「お、おね、おねねねねっ……」

 すると、目を白黒させながら同じ単語の連呼を続ける華凛さん。

 ただならぬ様子です。

「そ、そか……一応あたしも義姉あねなんだ……」

 確かめるように反芻する華凛さん。
 
「あの、嫌だったらもう呼びませんから……」

「いや、いいのっ。いつでも言ってちょうだいっ!」

 鼻歌混じりで教室に戻る華凛さんは妙に上機嫌なのでした。

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