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79 みんなでキャンプをしましょう!
しおりを挟むわたしはリアさんの暴走を止めると、ジークヴァルトさんは去って行きました。
“魔法も魔術もそこまで使えるお前たちなら問題ない、力の使い方だけは間違えるなよ”
とのことでした。Aランク冒険者様にお墨付きを頂けたので安心ですね。
「ですが、ちょっと疲れました……」
主にお二人の仲裁が。
遠くで見ていたお三方が“お疲れさまー”、と迎え入れてくれます。
わたしはシャルに尋ねます。
「もう、皆はなんで傍観するだけで助けてくれなかったの?」
「いや、確かに魔獣の特性は知らなかったわ。でも正直、どれだけの数で襲われたってリアなら本当に全部焼けるでしょ?」
「それは……」
実はそうなんですよね。リアさんの底なし魔力量なら、多分できるのです。
ジークヴァルトさんはさすがにそこまでは読めなかったようですが……。
「まあね……。でも、わたしが放置されてたのは?」
「デーモンウルフに背後狙われた時も、あんたアレくらい避けれたでしょ?」
「な、なんと……そこまでバレてるとは……!」
そう、実はジークヴァルトさんが後をコソコソと尾行しているのは分かっていました。
そしてデーモンウルフに背後を襲われた時、ジークヴァルトさんが今しかないとばかりに飛び込んできたので、お任せしたわけなのですが……。
「あの男なんだかんだ言って、結局はわたしたちの身を心配して跡をつけてたわけでしょ?」
「多分そう、いい人だと思う」
「こっちもそれが分かってたからね、下手に手を出さないでおこうってなったの」
「皆さん、どこまでお見通しなんですかっ……!!」
そこまで筒抜けなんて驚きです。
「ていうか。こいつらのあんたに対する理解度を、あんたが一番分かってないのよ」
「……そうなの?」
シャルはげんなりした表情を見せます。
「いいわよね。鈍感って素晴らしいわね、ほんと」
「? わたし、こう見えてまわりの空気には敏感だよ?」
「……殴るわよ」
なんで?
◇◇◇
その後、森の中へ入って行くと多数のデーモンウルフが襲い掛かってきました。
最初は苦戦を強いられるかと身構えましたが、それに対する最適解をわたし達は見つけたのです。
わたしを中心にして、残りの四人がわたしを囲むように待機します。
「あ、シャル。北東45度から来るよ、右の胴体部狙って」
「はーい」
――ザンッ!
「ギャインッ!」
シャルの氷弾がデーモンウルフの胴体を貫きます。
「リアさん西270度から来ます、顔面を狙ってください」
「分かりましたわ!」
――ヴオオオオ!
「ブギャアアアア!!」
リアさんの炎で顔面から焼き尽くします。
「セシルさん、南西225度から3体ほど迫ってきてます。ちょっと量が多くて大変なので時間稼ぎをお願い出来ますか?」
「わかった」
――ゴゴゴゴ!!
セシルさんの大地の壁で地面から反り立つ壁を展開し、魔獣を迂回させるよう邪魔をしてもらいます。
「ミミアちゃん……ちょっと魔眼で疲れて来たので回復をお願いしても、いいですか?」
「任せてー!」
魔眼を使い過ぎると、魔力もそうですが筋肉が凝り固まってきて視界が悪化してきます。
ミミアちゃんの治癒で、その疲れを回復させてもらいます。
ふわっと優しい光と暖かさが目を癒してくれます。
「ありがとうございます。それでは、次なんですが――」
「……ふう。森も抜けたし、しばらくは魔獣も出て来ないかしら?」
「恐らく大丈夫だと思いますわ。出て来たとしてもアレほどの数にはならないでしょうから」
森の中は随分と魔獣の数が多くて大変でしたが、それでもわたしたちは全員無傷で通過することが出来ました。
「いやあ、それにしても中々の連携だよね?あれだけチグハグだったミミアたちとは思えない!」
「エメのおかげ」
「いえいえ、そんな。皆さんのおかげですよ」
作戦はかなりシンプルで、わたしは魔眼でひたすら周囲を警戒。
魔力の残滓を確認すると、その方角と魔獣の魔力の薄い部位を指摘。
魔力の循環が滞っている所は耐魔力も低下しているので、初級魔法でも的確に倒す事が出来ます。
この方法であれば最小限の魔力で魔獣を倒すことが出来るので、魔獣に気付かれるリスクを抑えて安全に進むことができるわけです。
「リアちゃんの炎魔法でひたすら倒すのも無理ではないと思うけど、キリがないっていうか。森一つ焼いちゃって環境破壊しちゃいそうだし」
「言い方に気を付けて頂かないと、貴女こそ燃やしましてよ?」
「うえー。なんかこわーい、エメちゃん助けて?」
ミミアちゃんがわたしに抱き着いて助けを求めてきます。
「えっと……喧嘩は良くないですよ?」
「こ、こらミミアさん。どうしてそこでエメさんに抱き着くのですっ……!」
「リアちゃんが狂暴で怖いから」
「言わせておけば……!」
まあまあ、と二人をなだめます。
日も暮れ、夜が近づいて来ていました。
今日はそろそろ休むことにした方がいいでしょう。
「みなさん、今日はこの辺にして野営の準備をして休みましょう」
「そうね、そうしましょう」
シャルは返事をしてくれます……が。
御三家令嬢がぽかん、としていました。
「ん?やえい?」
なにそれ?と首を傾げるミミアちゃん。
「野営です。寝床になる所を探して休むんです」
「……ここ外だよ?」
「え、ええ……野営ですから」
ミミアちゃんの表情がどんどん固まって行きます。
「お風呂は?」
「川があれば、体を流せるかもしれませんが……」
「あはは、ミミアちゃん冗談きついなー。川じゃ冷たすぎて肌に良くないよ?」
「いえ、冗談ではないのですが……」
「……」
あれ、ミミアちゃんがフリーズしてしまいました。
「そう言えば、先程から思っていたのですが……トイレはどうすればいいのでしょうか?」
今度はリアさんがもじもじしています。
「? 草の茂みとかですればいいんじゃないですか?」
「……今、なんと仰いました?」
「外でするんです。大丈夫です、ここは大自然です。全て土に還ります」
「そ、そんな動物のようなはしたない真似が出来ますか!?」
「えっ……でも他にどうしようもないですよ?ここは人の住んでいる区域ではないので文明機器はありません。わたしはさっき奥の茂みで済ませましたよ?」
「……」
あ、今度はリアさんがフリーズしちゃいました。
「エメ……ご飯は?」
「あ、はい。デーモンウルフを一体持ってきたので、それを食べましょう」
ドンッ、とわたしは死体になったデーモンウルフをその場に置きます。
「……えっと、どうやって?」
「お肉を焼くんです。魔獣を食べるのは初めてですが、基本的な遺伝子配列は獣の狼と変わらないので人が食べても問題はないそうです。独特の臭みがあるそうですが、そこはシャルの料理の腕があるので安心して下さい」
「え、いや……でも、これ、まだそのまま死体だけど」
「捌くんですよ?」
わたしはシャルに魔法で生成してもらった石のナイフをキラリとさせます。
「今日は、お腹空かないかも」
なぜかセシルさんは青ざめています。
「あっ!ダメですよ、セシルさん!そうやってご飯食べないのを許さないことを知ってますよね!?絶対に食べてもらいますよ!さあ、ほら見て下さい!こんな新鮮なお肉を頂けることは滅多にありませんよ!!」
「……」
って、どうしてセシルさんまでフリーズするんですか!?
わたしが皆さんの反応に困り果てていると……。
「あんたらね!こうなることはフェルスを向かうって時点で分かってたでしょ!?今さらお嬢様ぶった反応しないでくれる!?」
シャルが叱咤します。
なるほど、さては皆さんキャンプは初めてですね?
「ぶってる、とかじゃなくて……ミミア本当にお嬢様だし」
「トイレのない生活なんて想像すらしたことありませんでしたわ……」
「ぐ、グロテスクなのは、ダメ……」
おお、御三家令嬢さんたちにもこんな弱点があっただなんて。意外です。
「ふっふっふっ……なんせわたしとシャルは田舎生まれですからね。これくらい平気なんですよ!」
たまに両親の手伝いとかでお外でキャンプすることもありましたからね。
この方々よりわたしの方が得意なことがあるのが嬉しくて、ちょっとマウントとっちゃいます。
「エメちゃんとシャルちゃん、こんな生活してたの?」
「し、信じられない……!こんなの原始人ですわ……!」
「え、エメが最初ぼっちだったのは人里が初めてだったからなんだ……」
え、いや、ちょっと皆さん……。
「毎日こんな生活してるわけないでしょ!?田舎バカにしすぎ!!」
よ、良かった。先にシャルが修正してくれます。
「え、じゃあエメちゃんだけ、こんな生活を……?」
「通りで姉妹のお二人が対照的に育つわけですわ……」
「エメは魔獣に育てられて、魔眼を持ったの……?」
ちょっと皆さん!わたしのこと何だと思ってるんですか!?
しかも、ちょっと謎が解けたみたいな反応されているのショックなんですが!!
わたしはずっとシャルと一緒で、田舎ですけど文明のある普通の暮らしをしてましたから!!
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