62 / 93
62 姉妹でケンカなんて良くないですね!
しおりを挟む朗報です。
なんとお仕事が見つかりました。
魔法学園の生徒は無理だと言われていましたが、何と雇ってくれるお店があったのです。
……だというのに、わたしは一抹の不安を拭いきれずにいました。
「むぅ……本当にあそこで良かったのでしょうか」
一縷の望みをかけて挑んだ最後のお店。
個人的には一番気が進まないお仕事ではあったのです。
採用してもらったのにこんな事を思うのは失礼なのは承知しています。
ですが実際のところ、雇ってくれないと分かったから、半ばヤケクソで飛び込んだ感もあったのです。
これでダメならすっぱり諦めて別の方法を考えようと、自分の中で割り切るために挑んだのですが、まさか採用されるだなんて……。
幸か不幸か、とにかく不安です。
足取りは重いまま、我が家に帰宅します。
「ただいまぁー」
胸に溜まった重たい空気も一緒に吐き出すように声に出します。
「遅い」
リビングにはテーブルに突っ伏しているシャルがいました。
恨めしそうな視線をだけをこちらに向けてきます。
「うわ、シャル。ずっと待ってたの?」
「何時に帰ってくるか聞いてなかったからね」
だとしてもこんな時間まで……。
「ごめんね。随分待たせちゃったね」
「別にそれはいいけど」
冷たい返事ですが、それと行動が相反している事が多いのがシャルです。
ここまで待ってくれていたのですから、お腹を空かせて苛立ってしまったのでしょう。
申し訳なさを感じつつ、せめて用意くらいは自分でしようとキッチンに足を運びます。
「……で、なにしてたわけ?」
ぴたり、と足が止まります。
どうやらお話しは続いていたようです。
「え、だから欲しい物があって……」
「それが何なのかって話、手に入ったわけ?」
「いや、手には入ってないけど……これから入るというか……」
むむ……シャルが随分問い詰めてきます。
なにか疑われているような気分です。
「あんた、わたしに隠し事なんて通用すると思ってるの?」
「い、いやだなぁ……隠し事なんてしてないよ?」
シャルの空気は張り詰めたまま。
まるでわたしが悪いことをしているかのような態度です。
「そう……じゃあこれなに?」
「あっ」
テーブルの上にぱらぱらと用紙が置かれます。
募集要項が書かれた見覚えのあるものでした。
「これ、あんたのでしょ?」
「ど……し、知らない」
“どうしてそれをシャルが持ってるの?”
と、喉から出かかった言葉を間一髪で止めます。
それを所有しているのを認めてしまうと、わたしがお仕事を始めるのをバラしてしまうようなものです。
「はあ?それで誤魔化せると思ってるわけ?」
「だって知らないもん」
「白状しなさい、あんた仕事してお金を稼ぐ気なんでしょ」
「しません」
シャルは明らかに好意的な態度ではありません。わたしが仕事を始めようものなら即座に辞めさせるオーラをビンビンに醸し出しています。
ですので、白状するわけにはいきません。
「バレバレなのよ。どうせまともな仕事なんて出来ないんだし、恥かく前にやめておきなさい」
「……むぅ」
――カッチーン
確かにわたしはドジですけど。
だからってまともな仕事が出来ないなんて、言い過ぎじゃないですか?
「お仕事はしないけど……でもやろうと思ったら出来るもん、わたしのこと甘く見過ぎ」
「ムリムリ、生活能力ゼロの干物女になにが出来るの?わたしはあんたの為を思って言ってんだから、大人しく言う事を聞きなさい」
……そもそもシャルがお小遣いをちょっと前借りさせてくれたら済んだ話なのに。でもちゃんと我慢してわたしなりに考えて行動したんです。
それを“あんたの為を思って”とか、誰から目線なんですか?
「わたしの為とかシャルが勝手に決めないで欲しいよね。自分のことくらい自分で出来るし、全部シャルの言う通りにすると思わないでよね」
――ブチッ
わたし以上に怒った音が聞こえてきました。
「あっそう!わたしはあんたを心配してあげて言ってるのに、そんなこと言うんだ!」
「頼んでない!シャルはわたしのママにでもなったつもり!?何でもお世話焼くみたいなの止めてよね!」
「あ、あんたねぇ……わたしがいなきゃ何も出来ないクセに……!!」
「はいはい、何でも出来るシャルロッテちゃんは偉いね!ラピスのわたしなんかより優秀で凄い子だね!これで満足!?」
お互いに睨み合います。
シャルは顔を真っ赤にして、憤怒の表情を浮かべています。
「いいのね?わたしにそんなこと言って、本当にいいのね?」
「ふーんだ。自分のことくらい自分で出来るもーんだ」
「あ、そ!じゃあ好きにしたらいいわよ!」
シャルは荒い足音を立てながらリビングを出て行きます。
――バアン!
勢いよく扉を閉める音、シャルの部屋に閉じこもったのでしょう。
「……怒ったシャル……こわい」
もはや自分でも何に怒っているのかよく分からなくなってきました。
シャルに対するもやもやと、明日から始まるお仕事のストレスで頭がおかしなことに。
わたしは現実から逃れるようにベッドに飛び込んで寝てしまうのでした。
◇◇◇
翌朝、グシャグシャになった髪を放置したままベッドから体を起こします。
「……なんで昨日はあんなことに」
眠りから目を覚ますと、昨日の怒りって嘘のようにどうでもよくなりますよね。
……シャルに昨日のこと謝ろうかな。
そんなことを思いながら階段を下ります。
「あ、シャル……おはよう」
リビングに顔を出すと、既に準備が終えたシャルが家を出るところでした。
わたしを視線の端で捉えていますが、ちゃんとは見てくれません。
……ああ、シャルまだ怒ってます。
「おはよう、もう行くから」
「あ、うん……行ってらっしゃい」
でもシャルも大人なので無視とかはしません、最低限の挨拶だけは返してくれます。
態度は氷のように冷たいですけど。
もうちょっと様子見かなぁ、朝ごはん食べて気を取り直し……。
ですがテーブルに座ろうとして、フリーズします。
「しゃ、シャル……?これはなに……?」
「なにって、何よ」
「朝ごはんは……?」
「わたしは済ませたけど」
「わたしの分は……?」
なんと、テーブルの上には何もありません。
いつもシャルが朝食を用意してくれているのに!
「文句あるわけ?」
「だ、だって朝ごはん。いつもパンとか、サラダとかスープとかあったのに……」
「“自分のことくらい自分で出来るもーんだ”……なんでしょ?嫌なら自分で作れば?」
「は、はわわ……」
ま、まさか朝の一発目からこんなにダメージを喰らうなんて……!
どうしよう!すごく謝りたいです!
「しゃ、シャル……?」
「なによ、もう行くんだけど」
「ご、ごめんなさい……謝るから……」
「へえ?何を謝る気になったの?」
「昨日のわたしの振る舞いを……」
ここでようやくシャルが目線を合わせてくれます。
「じゃあ認めるのね?あんたは仕事を始める気だって、なら速攻で辞めなさい」
ぐ、ぐぬぬ……!
それだけは、それだけは譲れないのです。
魔王に近づくため、かつシャルには迷惑をかけないために。
ここは黙ってやるしかないのです。
「……それは本当に知らない」
「……」
重たすぎる数秒の沈黙。
「しばらくご飯抜きね」
「そんなっ!?」
シャルの目はどんどん感情の色を失っていくのでした。
0
お気に入りに追加
154
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる