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61 面接って緊張しますよね!
しおりを挟むというわけで、翌日の放課後。
わたしは私服に着替えて、玄関に向かいます。
「ん?ちょっとあんたどこに行くのよ」
リビングからシャルがひょっこり顔を出して声を掛けてきます。
どうしてこういう時ばかりわたしの動きにピンポイントに勘づくのでしょう
「……なにって、お出掛けだよ」
「こんな時間から?何の用よ」
お仕事を探しに、なんて言ったらシャルに怒られそう……。
ラピスにそんなヒマがあるのか、とか言われそうです。
「ちょっと欲しい物があってね(お金ですけど)」
「……ふうん。あ、そ。あんまり遅くなるんじゃないわよ」
「う、うん。わかったよ」
おお……。
思っていたよりすんなり納得してくれましたね。
どことなく怪しまれているシャルの視線を感じながら、家を後にします。
◇◇◇
「おい……誰だよ、こんなお嬢ちゃんを面接に通した奴」
体格の良い男の人が、わたしを見て困惑しているようでした。
一件目は建設現場のお仕事です。
主には力仕事になるとのことで、体力に自信があるわたしだったのですが……。
面接官の方はそうは思っていない様子です。
「あ、あのー。何かマズかったですか?」
「まずいも何も……ここは男の職場、か弱い女の子が来るような場所じゃないんだよ。冷やかしならとっとと帰ってくれ」
「冷やかしじゃありません、本気なんですっ」
どうやらわたしの見た目で力仕事は無理だと判断されたみたいです。
「いや……悪いことは言わねえけどさ。仕事は選べよ、何だってこんな力仕事選ぶわけ?」
一番お賃金が良かったからです!
と言うわけにもいかず……。
「力には自信があるんです」
「……そんなひょろい体で?」
「はい、今のところ負けたことはありません」
「……バカにしてる?」
ああ、全然信じてもらえません……。
そこで視界の端にある物を見つけます。
「それ、何ですか?」
「あん?……見ての通り木材だよ。ちょっと収納が遅れて、そこに置いてあるだけ」
丸太のような木がいくつか積み重なって部屋の隅に置かれているのでした。
「その木材を運んだりもするんですか?」
「ああ、これに関しては男二人掛かりになるけどな」
「なるほどです……」
わたしは立ち上がり、その木材に近づきます。
「これを持てたら認めてくれますか?」
「話聞いてねえのかよ……。それは大の男二人が端を持ち合ってようやく運べる……んなぁっ!?」
両手で二本の木材を握って持ち上げます。
もちろん力強化ですが。
「どうですか?わたし一人で同時に二つも運べちゃいます」
「う、嘘だろ……!?どうやって持ち上げてるんだ……!?」
「力ですよ、力」
「そんな枝みたいな腕で力!?」
あれ、この方にはわたしがそんなに細く見えるんですかね。
……ちょっと嬉しいかもしれません。
学園には細い人ばっかりだから、こんな反応してくれる人いないので。
「いかがでしょうか。荷物運びくらいは出来ると思うのですが」
「あ、ああ……!まさかこんな所に逸材がいたとは……!!」
さっきまで気だるそうにしていた面接官の瞳が光っています。
どうやらアピールには成功したようです。
採用してくれる気になったのか、改めて履歴書に目を通してくれます。
「ええっと、エメ・フラヴィニー16歳。学生か……通っている学校は……」
帝都の中でも栄えあるアルマン魔法学園です。
読まれても全く恥ずかしくありません。
「どうですか?採用でしょうか?」
「ああ、悪い。不採用」
……なぜ?
◇◇◇
「……ごめんね。不採用」
かれこれ9件目の面接。
他にも色んな現場の職業や裏方のお仕事の面接に行きましたが、ことごとく断られてしまいました。
手応えが悪くない場所はいくつかあったのですが、なぜか採用には至りません。
「理由を聞かせてもらってもいいですか?わたしは魔法だけでなく仕事もできない無能オーラが出ちゃっているのでしょうか?」
だとしらお先真っ暗です。
この先、わたしはどうして生きて行けばいいのでしょうか?
「アルマン魔法学園の学生さんはね、基本的にどこも採用しないと思うよ?」
「え!?なぜですか!?」
「いや……だって皇帝の次に権力を握ってるのが魔法士で、君はそんな職業に就くエリートさんでしょ。一般市民からしたら扱いづらいよねぇ……?」
「いや、ですがわたしはただの学生で……!」
「それに君にとってもあまり良くないと思うよ。魔法士は魔族を打ち滅ぼす人類の希望であり、その象徴だ。そんな人がふつーに仕事なんてしてたらどう思う……?」
「勤勉な学生で、お利口さんです」
「いや、“小銭稼ぎなんかしてないで、魔法士として訓練し一匹でも多くの魔族を狩れ”……皆が皆、そう思ってるわけじゃないけれど、そういった雑音はたくさん入ってくると思うよ」
……なるほど。
兵器とも呼ばれる魔法士、その見習いがお仕事をしているのはサボっているように見られてしまうのですね。
その気持ちは分からなくはないですが……。
「まあ、エメちゃん……だっけ?見るからにいい子そうだし、採用してあげたい所だけどさ。これは君の将来のためであり、お互いのためだ。日雇いの仕事なんてしないで、学業に専念しな」
そうして、ここでも不採用を言い渡されるのでした。
◇◇◇
【シャルロッテ視点】
「おっそいなぁ……」
わたしはリビングのテーブルに座り、頬杖をつく。
未だ帰らぬ姉を思い、刻一刻と進んで行く時計の針を虚しくも眺め続けている。
料理は既に出来ていると言うのに、何をしているのだろう。
そこでふと、昨日のお小遣いの前借りをせがんできお姉ちゃんの姿を思い出す。
珍しい行動だった。それにさっきの妙にそわそわとした外出の様子。
目的は分からないけれど、とにかく昨日今日は様子がおかしい。
「さては何かあるな……?」
お姉ちゃんは隠し事をしながら勝手に行動することがある。
その為、わたしは常に目を光らせているのだ。
妹として、姉の怪しい行動は全て把握しておかなければならないからだ。
「そう、あくまで妹として!」
誰に向けるわけでもないが、力強く言い放つ。大事な事だから。
……とにかく、そうと分かれば情報収集だ。
お姉ちゃんが何をしているのか把握しなければならない。
「ま、だいたい部屋に行けば分かるんだけどね」
姉は警戒心が薄いし、詰めも甘い。
だいたい部屋を覗けば、彼女が何をしたいのかは把握できる。
二階に上がり、お姉ちゃんの部屋のドアノブを回す。
――ガチャガチャ
「って、鍵閉めてるし」
いつもは開けっ放しなのに。昨日の一件でまさか本当に鍵を閉めるようになるとは。
……まあ、関係ないんだけど。
わたしはポケットに忍ばせた鍵を手に取る。
それを鍵穴に通すと、カチンと開錠された音が響く。
――ガチャ
扉は開いた。
「ふふっ……こんなこともあろうかと合鍵を用意しておいて良かったわね」
もちろん合鍵はお姉ちゃんの部屋の物しか用意していない。
他の部屋はどうでもいいからだ。
「隠し事してる時は、机の二段目の引き出しの一番下のファイルにだいたい何か入ってるのよね」
お姉ちゃんの行動パターンは理解している。
緊急時にも迅速に対応できるよう、常に妹は理解してあげないといけないのだ。
全く世話のかかる姉を持つと苦労する。
「これは……?」
そこにあったのは募集要項の書かれた用紙の束だった。
一瞬にしてお姉ちゃんの行動の点と点が繋がった。
「……お姉ちゃん、働く気?」
まるで全身が沸騰するかのような体温の上昇を感じた。
待て待て、ふざけるな……!
どこの馬の骨とも知らない男共が、お姉ちゃんを顎で使うだと……!?
いや、そればかりかお姉ちゃんの働く姿を見て色目を使ってくる奴も現れるかもしれない……!
世間知らずで弱々しい態度を見せるあの子の姿は、帝都の下衆な男共には恰好の餌に映ることだろう。
あんなに可愛くていじらしい存在だ、そうなるに決まっている。
「辞めさせないと……!」
わたしは呼吸を乱しながら、姉の帰りを待つ。
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