上 下
53 / 93

53 情報収集をしましょう!

しおりを挟む

「セシルさんおはようございます」

「おはよう……、エメ」

 挨拶から始まる学園の朝。

 なんと素敵なことでしょう。

 少しずつですが話せる人が増えてきて、とっても嬉しいのです。

「昨日のお菓子ありがとうございました。とっても美味しかったです」

「本当……?それなら良かった」

 口元を緩ませるセシルさん。

 セシルさんも最初の頃と比べると、随分と様々な表情を出してくれるようになってきました。

 お互いに心の距離が近づいてきている証拠です。

 すぐに授業の時間になり、ヘルマン先生が教壇に立ちます。

「皆、一ケ月後には進級試験が迫って来てるけど準備は出来ているかい?」

 ピリッ、と教室に緊張が走ります。

 一年間の総決算であり、二年生に上がれるかどうかを決定する大事な試験。

 ついこの間、中間試験が終わったような気もするのですが。時間の流れは早いものです。

 ヘルマン先生は、試験に向けて皆を鼓舞させるために仰ってくれているのでしょう。

 けれど、わたしはどこかそれを上の空で聞いてしまっています。

 ラピスのわたしが最も瀬戸際なのは重々承知です。頑張らないといけないと分かっています。 

 けれど、今のわたしは魔王とゲヘナの関係性に頭がいっぱいなのです。

 どうにかしてゲヘナについて知りたいのですが、情報源がありません。

 誰か知っている人がいればいいのですが……。

 昨日の夜、あのローブで全身を隠した男の人達を逃してしまったことが大いに悔やまれます。

「……また襲ってきませんかね」

 今度こそ身柄を拘束して情報を聞き出してやりたいのです。

「ッ!?」

 ――ガタン!

 隣のセシルさんの机が揺れます。

 音に驚いて隣を見るとセシルさんが口をパクパクさせていました。

「エメ、また襲われたいの!?」

「え、いや、あの……」

 あれ、またというのは何のことでしょうか……?

 ゲヘナの人に襲われた話は、セシルさんにはしていないはずですが……。

「シャルロッテとは何でもないんじゃなかったの?」

「ああ……」

 なるほど。昨日の話に繋げてしまったのですね。

 誤解をまねく発言をしてしまいました。

「いえ、シャルのことではありません。あれは本当に事故ですから」

「他の人に襲われたいの?」

「ああ……いやぁ……」

 我ながら変なことを口走ってしまいました。

 ですがセシルさんはセシルさんで、どうしてわたしの発言をそこまで気にするのかも不思議です……。

 本当なら説明したい所ですが、ゲヘナの話は他言無用ですしねぇ……。当事者のミミアちゃんと居合わせたシャルしか知らないことなのです。

「怪しい男の人に襲われたら好都合だと思っただけの話です!大したことじゃないので安心して下さい!」

「全然大丈夫じゃないと思う!」

 火に油を注いだだけでした。

 その後、疑心暗鬼に駆られるセシルさんをわたしは必死に説得するのでした。

        ◇◇◇

「え、ゲヘナについて知ってること?」

 休み時間。

 わたしは事情を知っているミミアちゃんに話を聞いてみることにしました。

「はい、何かあれば教えて頂きたいのですが」

「この前一緒にセリーヌ様に聞いたこと以外には、ミミアも特に知らないよ?」

「そうでしたか……」

 やはり手掛かりが掴めません。

「きっとセリーヌ様もあれ以上のことは分かってないだろうしね。知っていれば何かしらアクションを起こしているはずだもん」

「そうですよね」

 完全に八方塞がりです。

「エメちゃん、自分から厄介事に首を突っ込もうとしてない?せっかくゲオルグの一件が済んだのに」

 ミミアちゃんの疑いの視線を向けられます。

「いえ、用心するに越したことはないと思いまして」

「知りたくなる気持ちも分かるけどね。でもミミア……カステルの家はそういった情報には疎くて分からないの、ごめんね?」

「いえ、とんでもありません」

 こうなったら昨日の公園に張り込みでもしてみましょうか。

 犯人は現場に戻る、とも言いますし……。

「でも、そういうことならリアちゃんが詳しいかもしれないよ?」

「そうなのですか?」

「うん。御三家なんて言われ方はしているけど、一番潤沢な資金があるのはリアちゃんのお家だからね。そういった情報にも明るいって聞いた事あるよ」

「なるほど。いいことを教えてもらいました、ありがとうございますっ」

「でも、リアちゃん本人が知っているかどうか分からないし。知っていたとしても教えてくれるかは分からないけどね?」

 それでもヒントが増えただけでありたがいです。

 わたしはミミアちゃんに頭を下げると、今度はリアさんの元に足を運びます。

「リアさん、今お時間いいですか?」

「あらエメさん。どうかなさいました?」

 相変わらず優雅なリアさんは余裕な物腰で対応してくれます。

「単刀直入にお聞きしたいのですが、反魔法士組織のゲヘナについて知っている事は何かありませんか?」

「ええ、ありますよ」

 ええ……!?本当に知ってるんですか!?

「よかったら、わたしに教えて欲しいのですが……」

「それは出来ません」

「え……」

 リアさんに眼を真っすぐ見据えられて、しっかりとお断りされるのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

悪魔との100日ー淫獄の果てにー

blueblack
恋愛
―人体実験をしている製薬会社― とある会社を調べていた朝宮蛍は、証拠を掴もうと研究施設に侵入を試み、捕まり、悪魔と呼ばれる女性からのレズ拷問を受ける。 身も凍るような性調教に耐え続ける蛍を待ち受けるのは、どんな運命か。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

溺愛の始まりは魔眼でした。騎士団事務員の貧乏令嬢、片想いの騎士団長と婚約?!

恋愛
 男爵令嬢ミナは実家が貧乏で騎士団の事務員と騎士団寮の炊事洗濯を掛け持ちして働いていた。ミナは騎士団長オレンに片想いしている。バレないようにしつつ長年真面目に働きオレンの信頼も得、休憩のお茶まで一緒にするようになった。  ある日、謎の香料を口にしてミナは魔法が宿る眼、魔眼に目覚める。魔眼のスキルは、筋肉のステータスが見え、良い筋肉が目の前にあると相手の服が破けてしまうものだった。ミナは無類の筋肉好きで、筋肉が近くで見られる騎士団は彼女にとっては天職だ。魔眼のせいでクビにされるわけにはいかない。なのにオレンの服をびりびりに破いてしまい魔眼のスキルを話さなければいけない状況になった。  全てを話すと、オレンはミナと協力して魔眼を治そうと提案する。対処法で筋肉を見たり触ったりすることから始まった。ミナが長い間封印していた絵描きの趣味も魔眼対策で復活し、よりオレンとの時間が増えていく。片想いがバレないようにするも何故か魔眼がバレてからオレンが好意的で距離も近くなり甘やかされてばかりでミナは戸惑う。別の日には我慢しすぎて自分の服を魔眼で破り真っ裸になった所をオレンに見られ彼は責任を取るとまで言いだして?! ※結構ふざけたラブコメです。 恋愛が苦手な女性シリーズ、前作と同じ世界線で描かれた2作品目です(続きものではなく単品で読めます)。今回は無自覚系恋愛苦手女性。 ヒロインによる一人称視点。全56話、一話あたり概ね1000~2000字程度で公開。 前々作「訳あり女装夫は契約結婚した副業男装妻の推し」前作「身体強化魔法で拳交える外交令嬢の拗らせ恋愛~隣国の悪役令嬢を妻にと連れてきた王子に本来の婚約者がいないとでも?~」と同じ時代・世界です。 ※小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しています。※R15は保険です。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...