上 下
10 / 93

10 御三家令嬢という方がいるみたいです!

しおりを挟む

「それで、ミミアさんと何がありましたの?」

 リアさんは意外にも事の顛末を気にしてくれました。

 助けてもらったので打ち明けたいところですが、リアさんもギルバード君が好きだという可能性もあります。

 そうなると迂闊には話せません。

「詳しくは話せないんですけど。ざっくり言うと恋バナです」

「……恋愛の話であんな必死に逃げ出そうとすることがありますの?」

「リアさん、恋愛のいざこざは一番トラブルになりやすいんですよ」

 って、シャルから聞いたことがあります。

「つまり、エメさんはご友人から逃げ出したのですね?」

「へ?」

 リアさんは真っすぐな瞳でわたしに尋ねます。

「恋愛話ができるほど仲が良いミミアさんから逃たのでしょう?」

「リアさん……」

 ――ガシッ

 わたしはリアさんの両肩に手を置きます。

「え、なんですの!?」

「リアさん、そんな残酷なこと聞かないで下さいよ……」

「ど、どういうことですのっ!?」

「わたしにそんな素敵な方がいたら、こんなひとりぼっちでいるワケないじゃないですか!!」

 リアさんは目を瞬かせます。

「……え、あぁ……そうですのね」

「リアさんみたいに綺麗で強くて気品があったら、わたしも自信つくんですけどね……」

 とほほ。それはあり得ない話なのです。

「あっ、貴女、突然何を言い出しますの!?」

「リアさんこそ顔赤いですよ?どうしました?」

「きっ、気のせいですわっ!それより変なことを言って驚かさないで下さる!?」

「変なこと?言ってないですよ?」

「むっ、無自覚ですの……!?」

 珍しく動揺している様子のリアさん。

 なぜでしょうか。

「あっ!わたしなんかがリアさんのような可憐で格好いい女の子になれるわけないから、可笑しくて赤くなってるんですね?」

「貴女、まだ言いますの……!?それに、笑ってなんていませんの!」

 いえ、そう言って可笑しいのを我慢して顔を赤くしたんですよね。

 面と向かっては言えないので隠したい気持ちは分かります。

「くっ……結局、事情はよく分かりませんでしたが。ミミアさんとそんなお話をしているだなんて随分と余裕がありますのねっ!」

「余裕?なんのことですか?」

「貴女……、あの方の左胸が目に映っていませんの?」

 胸……?

「左どころか、ミミアさんのおっぱいは両方ご立派でしたよ?」

「おっ、おぱ……!?」

 あれ、リアさんが挙動不審です。

「貴女という人は!非常識なことを言わなければ気が済みませんの!?」

「ええっ!?リアさんから言ってきたんじゃないですか!!」

 突然怒られましたっ!

 身に覚えがありませんっ!

「私は左胸にあるブローチの話をしていましたのっ!胸囲の話などしておりませんっ!!」

「えっ!ブローチってことは……ミミアさんもステラ!?」

「そうですっ!どうして大きさは見ているのに、ブローチが目に入っていませんの!?意味が分かりませんわっ!」

「いえ、ステラが霞むくらい立派だったので……つい」

「いい加減その話はおよしなさいっ!はしたなくてよ!」

 ええ……!

 今、リアさんの方が話を広げてきましたよね!?

「私は“ステラの方と恋愛話をする余裕がありますのね”と、お伝えしたかったのです。ラピスなのですから、もっと他にやるべきことがあると思っていましたので」

 うっ、それは耳が痛いです。

 確かにそんなお遊びをしている余裕なんてわたしにはありません。

 ……あれ、でも元々は中庭で魔法の練習してただけですよ?

 なぜこんなことに。

        ◇◇◇

「……は?ミミアに狙われた?」

 帰宅してお料理中のシャルに報告すると、意外そうな表情で返事をされるのでした。

「うん、ギルバート君とのやり取りを見られたみたいで……」

「そう、やっぱり見ている奴がいたのね……」

 ふう、とシャルは息を吐くとおもむろにエプロンを脱ぎました。

「残念だけど、これであんたの居場所は無くなったわね。ツラいでしょ、今日くらい外食でいいわよ。何食べたい?」

 なんか同情されていますっ!

 最後の晩餐みたいになっちゃってます!!

「違うのっ、話はうやむやにしたままだから。確定にはなってないと思う!」

「え、なにそうなの?ミミアは結構な噂好きでしつこいって聞いたけど……、どうやって切り抜けたのよ」

「途中でリアさんが来てくれたから助けてもらっちゃった。えへへ」

 他力本願だったので笑って誤魔化そうとしちゃいました。

「は?リア……?あんた随分、ステラと絡むわね」

「言われてみると、そうだね……?」

 妹がステラだからか、そういう運が回ってきているのでしょうか。

「でも改めて考えるとビックリだよね。五人のステラの内、四人が同じクラスだなんてすごい偶然」

「偶然ではないはずよ。クラスは成績がある程度均等になるように振り分けられてるみたいだから」

「え、そうなの……?それなら四人も固まるのおかしくない?」

 二クラスしかないのに、そんな偏りは不自然です。

「それだけギルバードが抜きんでてるってこと。他のステラを集めてようやくあいつと一緒ってことなんでしょ」

「へえ、そんな凄いんだ……」

 あんなに優しくて大らかな人が実力まで異次元なんですね。

 それでいて王子様のようなフェイス……モテないはずがありません。

「ええ。“魔法御三家”を差し置いて、それだけの実力があるんだから。強敵よアイツは」

「……魔法御三家?」

 初めて聞く単語がシャルの口から出ました。

 その様子を見て、シャルはやれやれと頭を振ります。

「あんた、本当に何も知らないのね……いいわ説明してあげる」

 アルマン魔法学園でのステラは以下の五人。

 第一位 ギルバード・クリステンセン

 第二位 リア・バルシュミューデ

 第三位 セシル・アルベール

 第四位 ミミア・カステル

 第五位 シャルロッテ・フラヴィニー

 そして、この内の三人。

 『バルシュミューデ』『アルベール』『カステル』の三家はクラルヴァイン帝国の中でも抜きんでた名家とされている。

 この三家は魔法協会へ莫大な資金を援助しており、魔法協会の財源の大半を担っていると噂されている。

 魔族との戦争が熾烈を極める中、軍事力として最も有用とされている魔法士のバックになることが帝国の実権を握ると考えたのだ。

 その背景があり、この三家は“魔法御三家”と呼ばれるようになった。

 しかし、三家が資金を援助している状態では権力を独占することが出来ない。

 次第に御三家はより強大な実験を握るために“魔法士”を輩出することに力を入れ始める。

 優秀な魔法士を育成し、魔法協会内部から権力を握るという考えに至ったのだ。

 そして今期のアルマン魔法学園の門を叩いたのが『リア』『セシル』『ミミア』の三人だった。

「……で、今回の御三家は全員女の子だから“御三家令嬢”なんて言われ方もしているみたいね。しかも揃って優秀だから魔法士の中でも話題になっているみたいよ」

「ちょ、ちょっと待って……。なんか、いきなり大人な話多くない……?」

 さっきまで恋バナとか言ってたわたしにはついてけない……。

「バカね、これくらい常識よ。そしてこれを聞いた上なら、尚更ギルバードの異質さが分かるでしょ?」

「え?優秀な三人より凄いから、すごいってことだよね?」

「語彙力……。あのね、あんたが先生だとして魔法協会がバックについている生徒とついてない生徒、どっちの順位を上にする?」

「え、うーん……ごめんなさいだけど、魔法協会の子の方にしちゃうかも。なんか言われたら怖いもん……って、そうか」

「そういうこと。魔法協会と繋がっている御三家を差し置くなんて、よっぽどの差がないと起こり得ないわ」

「なるほどね、ようやくお姉ちゃんも分かったよ」

「やっと分かったか」

 シャルは肩をすくめました。

「うんっ!そんな凄い人たちの中でステラとして肩を並べているシャルは、同じくらい特別ってことだよねっ!」

「……ばっ、バカ!そういうことが言いたかったんじゃないから!全然わかってないじゃない!」

「我が妹ながら素敵すぎて惚れ惚れしちゃう!」

「はっ、話しを聞けーっ!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

悪魔との100日ー淫獄の果てにー

blueblack
恋愛
―人体実験をしている製薬会社― とある会社を調べていた朝宮蛍は、証拠を掴もうと研究施設に侵入を試み、捕まり、悪魔と呼ばれる女性からのレズ拷問を受ける。 身も凍るような性調教に耐え続ける蛍を待ち受けるのは、どんな運命か。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

溺愛の始まりは魔眼でした。騎士団事務員の貧乏令嬢、片想いの騎士団長と婚約?!

恋愛
 男爵令嬢ミナは実家が貧乏で騎士団の事務員と騎士団寮の炊事洗濯を掛け持ちして働いていた。ミナは騎士団長オレンに片想いしている。バレないようにしつつ長年真面目に働きオレンの信頼も得、休憩のお茶まで一緒にするようになった。  ある日、謎の香料を口にしてミナは魔法が宿る眼、魔眼に目覚める。魔眼のスキルは、筋肉のステータスが見え、良い筋肉が目の前にあると相手の服が破けてしまうものだった。ミナは無類の筋肉好きで、筋肉が近くで見られる騎士団は彼女にとっては天職だ。魔眼のせいでクビにされるわけにはいかない。なのにオレンの服をびりびりに破いてしまい魔眼のスキルを話さなければいけない状況になった。  全てを話すと、オレンはミナと協力して魔眼を治そうと提案する。対処法で筋肉を見たり触ったりすることから始まった。ミナが長い間封印していた絵描きの趣味も魔眼対策で復活し、よりオレンとの時間が増えていく。片想いがバレないようにするも何故か魔眼がバレてからオレンが好意的で距離も近くなり甘やかされてばかりでミナは戸惑う。別の日には我慢しすぎて自分の服を魔眼で破り真っ裸になった所をオレンに見られ彼は責任を取るとまで言いだして?! ※結構ふざけたラブコメです。 恋愛が苦手な女性シリーズ、前作と同じ世界線で描かれた2作品目です(続きものではなく単品で読めます)。今回は無自覚系恋愛苦手女性。 ヒロインによる一人称視点。全56話、一話あたり概ね1000~2000字程度で公開。 前々作「訳あり女装夫は契約結婚した副業男装妻の推し」前作「身体強化魔法で拳交える外交令嬢の拗らせ恋愛~隣国の悪役令嬢を妻にと連れてきた王子に本来の婚約者がいないとでも?~」と同じ時代・世界です。 ※小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しています。※R15は保険です。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

処理中です...