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◈◈忌み子の少年◈◈
副団長よりも父、父よりも母
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「『ステータス』」
シャルルが唱えると、目の前にヴォンと透き通った板のようなものが出てきた。思わず伸ばしたシャルルの手がそれをすり抜け、驚いたシャルルはビクッと手を震わせて引っ込めた。
「どうやら上手くいったみたいですね。それでは、年齢のところを見てください。……字が読めなくても大丈夫なのでしょうか?」
「ん、大丈夫みたい。え…と、8かな」
「え、8歳!?お前、8歳なの!?」
「ふむ、だいたい予想通りですね」
「おい、お前何でそんなに落ち着いてんだよ!!8歳なのにこんな小っせぇんだぞ!?」
「おや、言ってませんでしたか?シャルルは物心つく前から虐待を受けてたみたいなんですよ。ご飯が食べられないのは当たり前、毎日のように殴られ蹴られ、窓も扉も無いところにずっと住んでいたようなんです。おかげで、シャルルは自分の心を守る為に小さい頃から感情を封じ込め、今も感情が無い状態なんです」
「な!?虐待だと!?それに感情が無いなんて……ただの人形じゃねぇか!!だからこんなに、やせ細っているのか。そりゃあ、胃に優しい消化のしやすい栄養たっぷりの飯が必要だな。
……よし!!ここにいる間は俺が腕を奮ってやるよ!!少しでも肉付きを良くして、年齢通りの見た目に近くなるようにしてやる!!」
「よろしくお願いします」
「おっと、そうだった。はいよ。今夜の飯だ。すっかり忘れてた」
皿をヒョイとシャルルに渡した。中はまだ温かいままで、湯気が立っていた。
シャルルがルディウスと戻ると、団長の横に腰をかけた。椅子はシャルルが座ることを想定したのか、少し固めの分厚いクッションが置かれていた。
「お?シャルルは野菜スープか。うまそうじゃねぇか」
「ん」
シャルルはそのままスプーンを持ち上げ食べようとすると、ルディウスが慌てて止めた。
「朝ご飯のときはあまり人もいませんでしたし、ちゃんとしたご飯を食べるのははじめてでしょうから何も言いませんでしたが、ご飯を食べるときにはお祈りを捧げるんです」
「おいのり……」
「食べる前には
“始まりを司りし母神、光命神エリューシェアよ、万物を育み慈しんでくれたことに感謝を”
と言い、食べた後には
“終わりを司りし父神、闇刻神ツァルシールよ、万物を愛しみ導いてくれたことに感謝を”
と言うんですよ」
「まあ、人や地域によって違うけど、内容は似たりよったりだ」
「えっと……始まりをつかさどりし、ははがみ?…こうめいしん、えりゅーしぇあ、よ……ばんぶつ、をはぐくみ、いつくしんでくれたことに?かんしゃを」
「はい、よくできました。もう食べていいですよ」
許可が出るとシャルルはスプーンを取り、口にスープを運んだ。が、熱かったのか口を離して、フゥッフゥッと息を吹きかけ始めた。それを見たヴァンフリートや他の騎士達は、思わず吹き出した。
「ほら、そんなに急がなくても誰も取ったりなんかしませんよ。火傷しますからゆっくりとちゃんと冷ましてから食べてください」
ルディウスは熱そうにするシャルルを、いそいそと甲斐甲斐しくお世話する。
「……なんか、ルディウス副団長、母ちゃんみたいっすね」
「「「「ブフォッ!!!!」」」」
それを見た一人の騎士が思わずそう言う。またもや吹き出すヴァンフリートと騎士達。
「ハハッ!!た、確かに……!!」
「ちげぇねぇ!!ックク……!!」
「父ちゃんってよりも、母ちゃんだよな!!ブフっ!!」
ツボにはまったのか、笑いはいくら経っても収まらない。幸いなことにルディウスはシャルルの世話をするのに忙しく、騎士達の様子に気づいていない。もっとも、シャルルは気づいているが。
しばらくしてシャルルがスープを食べ終わり、ルディウスもシャルルの世話が終わり満足そうに頷いた。その時、ようやく騎士達が目に入り、その様子に首を傾げる。
「どうしたんですか、皆揃って。何か面白いことでも?」
「ちょ、ちょっと、待て……ヒィッ」
「?シャルル、皆がどうして笑っているか知ってますか?」
笑い転げて話にならないヴァンフリートに代わって、ルディウスはシャルルに聞くことにした。その様子にピタリと動きが止まる騎士達。シャルルが見ていたことを知っていたのだ。話そうとするシャルルに、騎士達は顔色を、ある者は真っ青にして、ある者は土気色にして、ある者は真っ白にして、顔をぶんぶんと横に振る。もちろん、ヴァンフリートもだ。シャルルがいるのは、ルディウスを挟んで騎士達の向こう側のため、ルディウスの背中側にいる騎士達の様子にルディウスは気づいていない。
「……よくわからないけど、なんか急に笑いだした」
なんとなく話してはダメだどいうことが分かったシャルルは、知らないフリをすることにした。しかし、嘘をつくこと自体がはじめてのシャルルは目を泳がせ、顔をキョロキョロとせわしなく動かし、スプーンを持ったままの手をカチャカチャと震わせ、足は椅子の脚を蹴るというなんともとても挙動不審な動きをする。
「そうですか……いったいどうしたんでしょうかね?」
だが、そんな怪しい雰囲気満載のシャルルには気づかず、ルディウスはさらに首を傾げた。その様子に、ホッと息をつくヴァンフリート達騎士一同。
「それでは、今日はもう寝ましょうか。さっき起きたばかりなので眠くないかも知れませんが、寝なきゃ体は育ちませんので」
「ん、わかった」
「団長、私達はもう寝ますので後のことよろしくお願いします」
「あ、ああ。分かった。ゆっくり休むんだぞ」
「はい。お休みなさい」
「おやすみ」
ルディウスは来たときと同じくシャルルの手を引き、帰って行った。
ルディウスが去った後には、ホッとまた息をついている騎士達の姿が見えたという。
シャルルが唱えると、目の前にヴォンと透き通った板のようなものが出てきた。思わず伸ばしたシャルルの手がそれをすり抜け、驚いたシャルルはビクッと手を震わせて引っ込めた。
「どうやら上手くいったみたいですね。それでは、年齢のところを見てください。……字が読めなくても大丈夫なのでしょうか?」
「ん、大丈夫みたい。え…と、8かな」
「え、8歳!?お前、8歳なの!?」
「ふむ、だいたい予想通りですね」
「おい、お前何でそんなに落ち着いてんだよ!!8歳なのにこんな小っせぇんだぞ!?」
「おや、言ってませんでしたか?シャルルは物心つく前から虐待を受けてたみたいなんですよ。ご飯が食べられないのは当たり前、毎日のように殴られ蹴られ、窓も扉も無いところにずっと住んでいたようなんです。おかげで、シャルルは自分の心を守る為に小さい頃から感情を封じ込め、今も感情が無い状態なんです」
「な!?虐待だと!?それに感情が無いなんて……ただの人形じゃねぇか!!だからこんなに、やせ細っているのか。そりゃあ、胃に優しい消化のしやすい栄養たっぷりの飯が必要だな。
……よし!!ここにいる間は俺が腕を奮ってやるよ!!少しでも肉付きを良くして、年齢通りの見た目に近くなるようにしてやる!!」
「よろしくお願いします」
「おっと、そうだった。はいよ。今夜の飯だ。すっかり忘れてた」
皿をヒョイとシャルルに渡した。中はまだ温かいままで、湯気が立っていた。
シャルルがルディウスと戻ると、団長の横に腰をかけた。椅子はシャルルが座ることを想定したのか、少し固めの分厚いクッションが置かれていた。
「お?シャルルは野菜スープか。うまそうじゃねぇか」
「ん」
シャルルはそのままスプーンを持ち上げ食べようとすると、ルディウスが慌てて止めた。
「朝ご飯のときはあまり人もいませんでしたし、ちゃんとしたご飯を食べるのははじめてでしょうから何も言いませんでしたが、ご飯を食べるときにはお祈りを捧げるんです」
「おいのり……」
「食べる前には
“始まりを司りし母神、光命神エリューシェアよ、万物を育み慈しんでくれたことに感謝を”
と言い、食べた後には
“終わりを司りし父神、闇刻神ツァルシールよ、万物を愛しみ導いてくれたことに感謝を”
と言うんですよ」
「まあ、人や地域によって違うけど、内容は似たりよったりだ」
「えっと……始まりをつかさどりし、ははがみ?…こうめいしん、えりゅーしぇあ、よ……ばんぶつ、をはぐくみ、いつくしんでくれたことに?かんしゃを」
「はい、よくできました。もう食べていいですよ」
許可が出るとシャルルはスプーンを取り、口にスープを運んだ。が、熱かったのか口を離して、フゥッフゥッと息を吹きかけ始めた。それを見たヴァンフリートや他の騎士達は、思わず吹き出した。
「ほら、そんなに急がなくても誰も取ったりなんかしませんよ。火傷しますからゆっくりとちゃんと冷ましてから食べてください」
ルディウスは熱そうにするシャルルを、いそいそと甲斐甲斐しくお世話する。
「……なんか、ルディウス副団長、母ちゃんみたいっすね」
「「「「ブフォッ!!!!」」」」
それを見た一人の騎士が思わずそう言う。またもや吹き出すヴァンフリートと騎士達。
「ハハッ!!た、確かに……!!」
「ちげぇねぇ!!ックク……!!」
「父ちゃんってよりも、母ちゃんだよな!!ブフっ!!」
ツボにはまったのか、笑いはいくら経っても収まらない。幸いなことにルディウスはシャルルの世話をするのに忙しく、騎士達の様子に気づいていない。もっとも、シャルルは気づいているが。
しばらくしてシャルルがスープを食べ終わり、ルディウスもシャルルの世話が終わり満足そうに頷いた。その時、ようやく騎士達が目に入り、その様子に首を傾げる。
「どうしたんですか、皆揃って。何か面白いことでも?」
「ちょ、ちょっと、待て……ヒィッ」
「?シャルル、皆がどうして笑っているか知ってますか?」
笑い転げて話にならないヴァンフリートに代わって、ルディウスはシャルルに聞くことにした。その様子にピタリと動きが止まる騎士達。シャルルが見ていたことを知っていたのだ。話そうとするシャルルに、騎士達は顔色を、ある者は真っ青にして、ある者は土気色にして、ある者は真っ白にして、顔をぶんぶんと横に振る。もちろん、ヴァンフリートもだ。シャルルがいるのは、ルディウスを挟んで騎士達の向こう側のため、ルディウスの背中側にいる騎士達の様子にルディウスは気づいていない。
「……よくわからないけど、なんか急に笑いだした」
なんとなく話してはダメだどいうことが分かったシャルルは、知らないフリをすることにした。しかし、嘘をつくこと自体がはじめてのシャルルは目を泳がせ、顔をキョロキョロとせわしなく動かし、スプーンを持ったままの手をカチャカチャと震わせ、足は椅子の脚を蹴るというなんともとても挙動不審な動きをする。
「そうですか……いったいどうしたんでしょうかね?」
だが、そんな怪しい雰囲気満載のシャルルには気づかず、ルディウスはさらに首を傾げた。その様子に、ホッと息をつくヴァンフリート達騎士一同。
「それでは、今日はもう寝ましょうか。さっき起きたばかりなので眠くないかも知れませんが、寝なきゃ体は育ちませんので」
「ん、わかった」
「団長、私達はもう寝ますので後のことよろしくお願いします」
「あ、ああ。分かった。ゆっくり休むんだぞ」
「はい。お休みなさい」
「おやすみ」
ルディウスは来たときと同じくシャルルの手を引き、帰って行った。
ルディウスが去った後には、ホッとまた息をついている騎士達の姿が見えたという。
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